【読了】 #101 『良い子でいたら幸せになれるんじゃなかったのかよ』
『良い子でいたら幸せになれるんじゃなかったのかよ』
著:白瀬 世奈
この本を読んでいて、ふと昔のことを思い出した。
小学生の頃の自分は、いわゆる“優等生”だった。
先生の言うことはちゃんと聞くし、空気も読むし、怒られないように振る舞う。
いわゆる“良い子”。
いや、正確に言うと、
“良い子でいようとしていた”んだと思う。
「良い子でいたら幸せになれる」
どこで刷り込まれたのかはわからない。
でも確かに、それを信じていた。
ちゃんとしていれば大丈夫。
人に迷惑をかけなければ大丈夫。
期待に応えていれば、ちゃんと報われる。
でもこの本は、その前提をひっくり返してくる。
しかも優しくじゃなくて、
静かに、逃げ道を塞ぐみたいに。
このZINEで描かれているのは、
「良い子だった人が壊れていく話」ではない。
むしろ、良い子でいることで“自分を使いすぎてしまった人の話”だと思った。
良い子って、簡単に言えば“外側に合わせる力”が強い人だ。
場の空気を読む。
相手の期待を察する。
自分の感情よりも、関係を優先する。
これって一見、すごく優秀な能力に見える。
実際、社会でも評価されるし、人間関係も円滑に進む。
でもその裏で、少しずつ削られていくものがある。
それが、「自分がどうしたいか」という感覚。
本の中でも描かれているように、
あるタイミングでそれがわからなくなる。
好きなことがわからない。
何を選べばいいのかわからない。
そもそも、自分が何を感じているのかすら曖昧になる。
ここが、この本の一番怖いところだと思う。
壊れるんじゃない。“空になる”。
しかも厄介なのは、
それが“ちゃんとしてきた結果”だということ。
間違ったことをしてきたわけじゃない。
むしろ、正しい選択を積み重ねてきた。
だからこそ、「じゃあ何がいけなかったのか?」
という問いに答えが出ない。
この本は、そこに対して答えを出さない。
むしろ、「答えが出ないままの状態」をそのまま差し出してくる。
よくある自己啓発的な文脈なら、
自分を大切にしよう
本音で生きよう
みたいな“次のステップ”を提示するはず。
でもこのZINEは違う。
その手前で止まる。
「まだそこに行けない状態」
「本音すらわからない状態」
そこに、ずっと留まり続ける。
だから読んでいて、不思議と楽になる。
何かを決めなくていい。
変わろうとしなくていい。
ただ、「こうなってしまった」という事実を、
ちゃんと受け取ることだけを求められる。
そしてもう一つ、この本が深いのは、
“良い子”という構造そのものに触れているところだと思う。
良い子って、ある意味で
“他人の期待を内面化した存在”なんだと思う。
最初は外から与えられた基準だったものが、
いつの間にか自分の中に入り込んで、
自分自身を縛るようになる。
だから苦しくてもやめられない。
むしろ、
「やめること=間違い」
みたいな感覚すらある。
この構造に気づいたとき、
初めて“ズレ”が自覚される。
でもその時にはもう、どうやって生きればいいのか、わからなくなっている。
この本は、その地点から書かれている。
だからリアルだし、だから多くの人に届く。
励まさない。
救わない。
正解も提示しない。
でもその代わりに、「ここにいてもいい」という感覚だけを残してくる。
読み終わったあと、前向きにはならない。
でも、少しだけ呼吸がしやすくなる。
それはきっと、この本が“どこかに連れていこうとしない”からだと思う。
ただ隣にいて、同じ場所に立ち続けてくれる。
この本は、人生を変える本じゃない。
でも、「自分がいないまま進んできた時間」に、初めて気づかせてくる本だった。
「良い子」でいることで守ってきたものと、同時に失ってきたものを、やっと自分で引き受けるタイミングが来たのかもしれない。
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