見出し画像

【読了】 #112 『これはただの夏』

『これはただの夏』

著:燃え殻


『これはただの夏』なんかじゃない。

でも同時に、『これはただの夏』なんだとも思った。

この本には大事件が起きない。世界が変わるわけでもないし、人生がひっくり返るわけでもない。誰かとご飯を食べて、少し話して、また次の日が来る。

そういう時間が淡々と続いていく。でも読んでいると、不思議なくらい胸が締め付けられる。


この3人の関係は、一体なんと呼べばいいんだろう。

主人公と優香。
主人公と明菜。
そして優香と明菜。

どの関係も、恋愛や友情や家族という言葉だけでは少し足りない。

好きだったと思う。大切だったとも思う。

でも、その瞬間に名前をつけてしまうと、この小説の魅力が少しこぼれ落ちてしまう気がした。人生には、そんな人がいる。

恋人ではなかった。親友でもなかった。家族でもなかった。

それでも、確かに自分の人生を少し変えた人。

『これはただの夏』は、そんな“名前のつかない関係性”を描いた物語だったように思う。


だからこそ結末も印象的だった。

この3人の関係に明確な答えは与えられない。誰かと誰かが結ばれるわけでもない。

でも読み終わったあと、不思議と物足りなさはなかった。
大切だった人との関係が、いつも綺麗な言葉で説明できるわけじゃないからだ。

きっと、この関係たちに名前がつかないのも同じ理由なんだと思う。
恋人や家族や友情という言葉は、関係を固定する。

でもこの3人の時間はもっと曖昧で、もっと儚い。

だからこそ美しかった。


たぶん僕は、この小説の中にある「終わりの予感」が好きだったんだと思う。

楽しい時間ほど、終わる気がする。
幸せな瞬間ほど、ずっと続かない気がする。

読んでいて、自分の夏も思い出した。

小学生の頃の夏休み。旅行の帰り道。
花火大会のあと。野球の合宿。

楽しかった記憶ほど、なぜか帰り道までセットで覚えている。
たぶん終わる瞬間を知っているからだ。


燃え殻の小説は、何か特別な出来事を思い出させるわけじゃない。
むしろ空気を思い出させる。

匂いとか。温度とか。沈黙とか。

この本を読んでいる間、ずっと昔のアルバムをめくっているような感覚だった。写真に写っている出来事ではなく、その日の湿度を思い出しているような。


読み終わったあと、「この前の夏、何をしたっけ」ではなく、「誰といたっけ」を考えていた。

たぶんこの本は、夏の物語じゃない。誰かと過ごした時間の物語なんだと思う。

そして結局、人はそういう時間でできている。

人生を変えた出来事よりも、ファミレスで話したことや帰り道の会話、もう会わなくなった人との何気ない時間の方が、案外深く心に残っている。


『これはただの夏』を読んで、少しだけ昔の自分に会いたくなった。そして今、一緒にいる人たちとの時間を、ちゃんと覚えていたいと思った。

夏が終わるみたいに、楽しい時間もいつか終わる。だから僕は、あの夏のことを忘れられないのだと思う。


#これはただの夏 #燃え殻
#読了#読書#読書記録#読書日記#読書部#読書メモ#読書感想文#本のある暮らし#読書好きな人と繋がりたい#本スタグラム#本紹介#おすすめ本
#本屋大賞

いいなと思ったら応援しよう!

おせとん |  幼馴染コンビの読書ログ よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!