黒部宇奈月キャニオンルート開業前の宇奈月温泉エリアをデータで見ると面白いことが分かってきた【第15回】
宇奈月エリアがこの秋アツくなる!
10月1日、黒部峡谷鉄道が3年ぶりに全線(宇奈月温泉 - 欅平)で走ります。
そしてその翌日、10月2日には黒部宇奈月キャニオンルートが一般開放されます。
2024年1月の能登半島地震で鐘釣橋が傷んで以来、トロッコ電車は宇奈月から猫又までの折り返し運転が続いていました。3シーズンぶりに欅平まで線路がつながり、さらにその先、黒部ダムまで抜けられる、まさにゴールデンルートと呼ぶにふさわしい新しいルートが開通します。
宇奈月温泉エリアにとっては、かなり大きな節目だと思います。
今回はその節目を前に、今の宇奈月温泉エリアがどうなっているのかを、データで見ておきたいと思いました。
足が止まっていた3年間に、何が起きていたか

まず県が毎年出している観光客入込数から、宇奈月温泉と黒部峡谷鉄道の推移を並べてみました。
令和6年(2024年)は、黒部峡谷鉄道が253千人で前年比94.4%です。
地震で猫又までの折り返し運転になった年なので、減るのは当然という感じがします。
ところが宇奈月温泉のほうは324千人で、前年比104.9%。増えているのです!
コロナ前の令和元年と比べても、トロッコ電車は77%の回復にとどまっているのに対し、宇奈月温泉は89%まで回復しています。トロッコ電車の玄関口にある温泉地なのに、トロッコ電車が全線運行していない間も客足が落ちていない、という点が1つ気になる点ですね。
宇奈月温泉エリアに来た人を分解する
使ったデータ
※手法の話なので、興味がなければ飛ばしてください。
ここからは、いつもの富山県観光ウェブアンケート(11,977件)を使います。回答期間は2025年4月28日から2026年6月30日で、まさにトロッコ電車が折り返し運転をしていた期間の来訪者が対象になります。
このアンケートには「どこを訪れたか」という設問があるので、宇奈月温泉または黒部峡谷鉄道を選んだ人を、この記事では宇奈月温泉エリアに来た人として扱います。黒部峡谷鉄道は宇奈月駅が起点なので、温泉と鉄道を別々に見るより、ひとつのエリアとして見たほうが実態に近いと考えました。
細かい話:
アンケートは宿泊施設174か所・観光施設68か所のQRコードから回収しているので、宿の多いエリアほど回答が集まりやすい構造です。なのでこの後に出てくる割合は、正確な実数というより傾向として受け取ってもらうのがよいと思います。
宇奈月温泉エリア訪問者は3つのパターンがある

宇奈月温泉エリアに来た人は1,831人で、全体の15.3%でした。
この内訳を、先ほどの「温泉に泊まりに来た人」「トロッコ電車に乗りに来た人」「両方来た人」にわけてみました。。
温泉だけに行った人が947人で51.7%、両方に行った人が560人で30.6%、トロッコだけに乗った人が324人で17.7%。温泉とトロッコをセットで回る人は、3割しかいません。
トロッコ電車に乗った3人に2人は、宇奈月に泊まっていない?!
ここからが今回の本題です。トロッコ電車に来た人(884人)が、宇奈月とどう関わっているのかを見ていきます。

まず、訪問で見てみます。トロッコに来た人のうち、宇奈月温泉にも立ち寄った人は63.3%。逆に言うと、36.7%は温泉街を周遊していません。
宇奈月温泉に来たことがある方ならわかると思いますが、トロッコ電車の始発の宇奈月駅は、宇奈月温泉街を抜けた先にある駅です。
トロッコ電車に乗りに来て温泉街を散策しない、というのは、にわかには信じがたいと思ってしまいます。
次に、宿泊で見ます。同じ884人のうち、黒部市(宇奈月温泉のある市)に泊まった人は32.7%。つまり、67.3%は泊まらずに帰っていることになります。県外から来た人だけに絞っても64.4%が止まらずに帰っているという結果になるので、地元の日帰り客が押し下げているわけでもありません。
トロッコ電車に乗った3人に2人は、宇奈月に泊まっていない。
ここで、訪問と宿泊をわざわざ分けて見た理由も書いておきます。
この設問の「宇奈月温泉に行った」には、立ち寄りも含まれるからです。足湯に寄った、駅前を歩いた、というのも訪問に入ります。実際、温泉とトロッコ電車の両方に行った人でさえ、黒部市に泊まったのは45.9%と半数以下でした。
訪問した=泊まった、ではないという構図が明らかになったということになります。
なお、この宿泊の数字は市町村単位なので、黒部市には宇奈月温泉以外の宿も含まれます。(ただ、楽天トラベル等で確認した感じだと、客室のほとんどが宇奈月温泉に所在するお宿でした)
トロッコ電車に乗りに来る人は、初めて富山を訪れて王道を回っている!?
では、泊まらずに帰る人たちは、どんな旅をしているのでしょうか。

トロッコだけに乗った人は、富山に初めて来た人が42.6%です。温泉だけの人(24.7%)より大幅に高く、全体(28.1%)よりも高いという結果でした。
そして立山黒部アルペンルートか黒部ダムにも行った人が63.6%と、かなりの高水準です。温泉だけの人は13.2%しかいないので、まったく別の動き方をしえ要ると言えます。
初めて来た人に限ると、この割合は71.0%まで上がります。
内訳を見ると、トロッコ電車だけを訪問した人は黒部ダムを56.8%の人が、立山黒部アルペンルートを42.9%の人が併せて周遊しています。(もちろん同じ旅程の中で、です)
つまり彼らにとって黒部峡谷鉄道は、宇奈月に来る目的というより、立山黒部を回る王道ルートの一部なのだと思います。
富山に初めて来た人が、外せない場所をひととおり回っている。その途中にトロッコ電車がある、という構図です。
考えてみれば、これは自然なことです。初めて来たなら、まず有名どころを押さえたい。トロッコは富山を代表するコンテンツなので、そこに入ってくる。責める話ではまったくなくて、むしろ集客力の証拠だと思います。
自由記述に出てくる言葉も、3つに分かれる
もう少し踏み込んで、満足した理由の自由記述を形態素解析にかけてみました。
文章を単語に分割して、名詞と形容詞を取り出し、1人につき1語として数えたときの出現率を比べています。

これが分かりやすくて、3つのタイプで出てくる言葉がきれいに分かれていました。
宇奈月温泉に宿泊しただけの人は、美味しい29.3%、温泉14.0%、食べ物8.8%。温泉と食の話をしています。宇奈月温泉とトロッコ電車両方に行った人は、温泉11.6%とトロッコ10.1%が並びます。
そしてトロッコ電車だけを訪問した人は、立山11.3%、景色10.9%、天気10.1%、ルート8.9%、アルペン8.5%となっています。
宇奈月や温泉という言葉はほとんど出てこず、代わりに立山黒部アルペンルート関連のワードがラインナップしています。言葉の面でも、この人たちは立山黒部の文脈にいるということだと思います。
エリアを支えているのは、温泉のリピーター
ここで最初の疑問に戻ります。
トロッコ電車が約3年間止まっていたのに、なぜ宇奈月温泉の客足は落ちなかったのか。
今回の解析を通して導ける仮説は、
エリアに来た人の半分(51.7%)が、そもそもトロッコ電車に乗っていない温泉客であり、しかもこの層は、リピーター率75.3%であるから。
だと考えます。県外率は67.7%で、裏を返せば3割は県内から来ていることになります。
近場から、何度も、温泉に宿泊するために来ている人たちがいる。
この土台があったから、鉄道が止まっても温泉客の客足は途絶えなかった。県の入込数で温泉だけが増えていた背景には1つこのような要因があるのではないか、と考えます。
キャニオンルートの開通は富山の魅力を1本につなげる非常に注目の出来事
ここまでを整理すると、いまの宇奈月温泉エリアには、性格の違う旅行者がわかりやすく混在していることになります。
温泉のリピーターが土台を支え、その一方で、初めて富山に来た人が王道ルートの一部としてトロッコ電車に乗り、その多くは泊まらずに次の目的地に向かっているという構図です。
そして10月2日、黒部宇奈月キャニオンルートが開きます。欅平から黒部ダムまで、これまで工事用として使われてきた道が観光ルートとなり、富山の2大観光地(立山黒部アルペンルート・宇奈月エリア)が1本につながるというのは、まさに悲願の達成というところでしょうか。
調べてみたところ、キャニオンルートは現状全てツアーとしての催行のみで、個人手配ではまだ通り抜けることはできないようですが、富山の2大観光地をひとえに楽しめ、かつかの有名な黒四ダムのロマンに触れることができるとなると、人気が出るなのは間違いないですね。
現状67.3%が泊まらずに帰っているという事実は、裏を返せばそれだけの伸びしろがそこにあるということでもあります。10月以降のデータがどう動くのか、楽しみにしています。
細かい話:
今回の割合はすべて、来訪者だけに答えてもらったアンケートから出しています。富山に来なかった人は含まれていません。回収も宿泊施設・観光施設のQR経由なので、宿の多いエリアほど拾われやすい構造です。人数の比そのものより、傾向として見てもらうのがよいと思います。
おわりに
宇奈月温泉エリアを調べてみて、一番意外だったのは、トロッコと温泉がこれほど別々に動いていたことでした。
同じ場所にあるのだから一体で回られていると、なんとなく思い込んでいました。
10月1日にトロッコが全線でつながり、念願のキャニオンルートが開通します。今後宇奈月エリアに再び注目が集まることは間違いないので、その動向にも注目していきたいですね!
宇奈月は個人的にも何度も訪れている、県内でも非常に愛着のある地域なので、ぜひとも今後も衰退することなく頑張っていただきたいものです。

今回もお付き合いいただき、ありがとうございました!
