見出し画像

■ ハワイ編 第9話「Mrs.パーマーの物語-はじまり - Mrs. Palmer: The Sun's First Light」

太陽の分身の中を彼女は真っ直ぐに進んでいた。
いつの間にかその分身は彼女と同化しているように見えた。
プールは柔らかな光に包まれ、太陽の光が生み出す
スペクトルのように彼方には虹が現れていた。

彼女がさっきまでいた白いデッキチェアのサングラスや
プールサイドの白いタイルの上の水滴にも
太陽の分身は姿を現していた。

Mrs.パーマーの姿は果たして現実だったのか、
輝くプールの中を進んでいるはずの彼女を僕は再び目で追った。

白い水着に包まれた彼女は確かにそこにいた。
そして、ゆっくりと優雅に動きを止めて、太陽の分身が輝く
銀色の手摺に摑まって、今、再び僕の前に姿を現した。

濡れた栗色の髪と滴る水滴、太陽を背にした彼女はまさに
女神のようだった。
長い脚をわずかに内側に揺らして、流麗に近づいてきた。
僕は息を呑んで、美しいその光景を見つめていた。

「タオルをくださる?」

Mrs.パーマーのその言葉で漸く僕は現実に還ったようだった。
僕は熱を帯びた白い大きなタオルを彼女に手渡した。
「どうしたの?」

彼女は僕の戸惑いを見透かしたように言った。
彼女は少しだけ首を傾けて、それから穏やかに笑った。
「見えたのね」

僕はゆっくりと頷いた。
彼女はデッキチェアに腰を下ろし、サングラスをかけ直した。
「人はね、見えたものを“本当”だと思うでしょう?」
「ええ」
「でも、それはただの入口なの」
そう言ってから、彼女はプールの向こう側のウェイターに向かって
手を挙げた。

「私はね、カナリア諸島にある小さな島で生まれたの‥
  そこは‥最初に"永遠を感じた場所”なの」

Mrs.パーマーは語り始めた。
南国の風が、静かに通り抜けていく。
プールの水面に揺れている太陽の分身は変わらずそこにあった。


太陽の分身の中を彼女は真っ直ぐに進んでいた


いいなと思ったら応援しよう!