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会議中に頭がぼーっとする。それ、エネルギー源の問題かもしれない。

午前10時の会議。

資料は読んだ。テーマも把握している。なのに、言葉がうまく出てこない。

隣の席の若い部下がすらすらと発言するのを聞きながら、「自分はなんでこんなに頭が重いんだろう」と思う。

「歳のせいだ」と片づけてしまう前に、少しだけ聞いてほしい話がある。

その「ぼーっと感」の正体

私はハーブファスティングの指導を10年以上続けてきた。250人以上のクライアントを見てきた中で、繰り返し気づいたことがある。

「頭が回らない」と悩んでいる人の多くは、脳に何を食べさせているかを考えたことがない。

体の筋肉には何を食べさせるか、肌には何を塗るか——そこには気を使う。でも脳のエネルギー源については、なんとなく「食事をとれば大丈夫」と思ったままの人がほとんどだ。

ここに、一つ大きな盲点がある。


脳には、2種類の燃料がある

まず基本的な仕組みの話をさせてほしい。

普段、脳はブドウ糖を燃料にして動いている。食事をするたびに血糖値が上がり、脳はそれを消費する。シンプルで効率的な仕組みだ。

ところが、これには弱点がある。

血糖値は食事のたびに上がり、数時間後には下がる。この「血糖値の乱高下」が、午後の眠気や集中力の波を生んでいる。食後の会議でぼーっとするのは、ある意味、当然のことだ。

一方で——食事を一定時間とらないでいると、体に別の変化が起きる。

糖が枯渇してくると、肝臓が体内の脂肪を分解して「ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)」という物質を作り始める。

このケトン体が、脳の第二の燃料として機能する。

そして、これが重要なのだが——ケトン体は、ブドウ糖よりも燃焼効率が高く、活性酸素を出しにくいクリーンな燃料だ、ということがわかっている。

車に例えるなら、レギュラーガソリンからハイオクに切り替わるようなイメージ。エンジンへの負担が減り、出力が安定する。


「脳の肥料」が増える

ケトン体の話には、続きがある。

ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)が増えると、脳の中で「BDNF(脳由来神経栄養因子)」という物質の遺伝子発現が活性化されることが研究で示されている。

BDNFは「脳の肥料」と呼ばれる物質だ。

神経細胞の成長・維持・修復に不可欠で、学習能力や記憶の定着に直接関わっている。そしてBDNFの低下が、加齢に伴う認知機能の落ち込みや、うつ状態と深く関係していることもわかってきた。

つまり、ファスティング→ケトン体増加→BDNF活性化という流れで、脳は物理的に「育ちやすい状態」になる。

「やる気が出ない」「覚えられない」「アイデアが出てこない」——これらの背景にBDNFの不足が関わっている可能性がある。


空腹ホルモンが、集中力を引き上げる

もう一つ、あまり知られていない仕組みがある。

空腹になると、胃から「グレリン」というホルモンが分泌される。

グレリンはよく「食欲を高めるホルモン」として紹介されるが、実は脳への作用も持っている。グレリンが分泌されると、集中力と記憶力が高まり、さらに先ほどのBDNFの分泌も促進される。

「お腹が空いてくると、なんか頭がクリアになる」という感覚を経験したことはないだろうか。

あれは気のせいでも精神論でもなく、グレリンという物質が実際に脳に働きかけている結果だ。

さらに、食事を抜く時間が延びてくると「β-エンドルフィン」という物質も増えてくる。集中力・記憶力を高め、気分を前向きにする作用を持つ物質だ。

ケトン体・BDNF・グレリン・β-エンドルフィン——空腹によって引き起こされるこれらの連鎖が、「断食中に頭が冴える」という体験の科学的な正体だ。


クライアントたちが語った変化

私がこれまで対応してきたクライアントの中で、特に印象に残っている言葉を紹介したい。

50代前半で企業の部門長を務めているある女性は、ファスティング後にこう言った。

「3日目の朝、急に頭の中がシンプルになった感じがして。会議で話しながら、自分でも驚くくらい整理された言葉が出てきたんです」

同じく50代の経営者の女性は、ファスティングを経験してからこう変わった。

「重要な意思決定をする日は、あえて食事を遅らせるようにしました。昼過ぎまで食べないと、判断がぶれない気がして。最初は信じられなかったけど、今は当たり前の習慣になっています」

共通しているのは、「頭がクリアになった」という感覚が、一時的なものではなく継続的な変化につながったということだ。


「プレゼン前に断食する」人たちがいる

海外では数年前から、こんな習慣が広がっている。

大事な商談の前日、試験の当日朝、重要なプレゼンの日——。

その場面の前に、あえて食事を抜く。

「しっかり食べてから臨む」という常識が、パフォーマンスを重視する人たちの間で静かに書き換えられてきた。

これは根性論でもストイックな健康法でもない。脳のエネルギー源を意図的にケトン体へシフトさせることで、集中力とアウトプットの質を上げるという、科学に基づいた戦略だ。


では、何時間で変わるのか

「実際にやるとしたら、どのくらい食事を控えればいいのか」という話をする。

ケトン体の産生が始まるタイミングには個人差があるが、研究で示されている目安は最後の食事から12〜16時間だ。

たとえば、こういうパターンで始められる。


  • 夜8時に食事を終える

  • 翌朝10時まで水やハーブティーだけで過ごす 

これで12〜14時間の空白ができる。脳のエネルギー源が少しずつ切り替わり始めるゾーンだ。

「それって、朝ごはんを抜くだけでは?」と思う方もいるかもしれない。

そうだ。最初はそれで十分だ。

毎朝の習慣として夜〜翌朝の空白を作るだけで、脳が「ケトン体モードで動く」感覚を徐々に体が覚えていく。特別な道具も高価なサプリも必要ない。


細胞レベルで「掃除」が始まる

さらに時間が延びると、もう一段の変化が起きる。

断食から18〜24時間を超えたあたりで、「オートファジー」という細胞の自己浄化機能が活性化し始める。

オートファジーは、劣化した細胞内のタンパク質や古くなった部品を分解して、再利用する仕組みだ。2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典博士の研究で一躍注目されるようになった。

脳の神経細胞でもオートファジーは働く。老廃物が除去されることで、神経の伝達効率が改善される。

「ファスティング後に、物事を考えるのがラクになった」「記憶の出し入れがスムーズになった気がする」という感想が多いのは、このオートファジーによる神経細胞の刷新が関わっている可能性がある。


ハーブファスティングとの関係

ただ食事を抜くだけのファスティングと、私たちが提唱するハーブファスティングの違いはここにある。

空腹の状態を作りながら、植物由来の成分で体を整えることで、無理なく・安全に・体を傷めずにケトン体モードへシフトできる。

単なる「食べない」ではなく、「体が正しいエネルギー源へ切り替わるプロセスをサポートする」という考え方だ。

ファスティング中の不快感(頭痛・倦怠感)の多くは、この切り替えがうまくいっていないときに起きる。準備と回復のプロセスを丁寧に踏むことで、脳の変化を最大限に引き出しながら、体への負荷を最小限にできる。


「歳のせい」で終わらせない

脳は、何歳になっても変われる臓器だ。

神経の可塑性——つまり「新しい回路を作る力」は、50代・60代になっても失われない。BDNFがその鍵を握っている。

「最近、頭の回転が遅くなった」と感じているとしたら、まず疑うべきは加齢ではなく、脳に何を与えているかだ。

毎食ブドウ糖を供給し続けることで血糖値を乱高下させているのか。それとも一定時間の空白を作ることで、脳に別の燃料と回復の時間を与えているのか。

この違いが、年齢を重ねるほどに、じわじわと大きな差になっていく。


最後に

今日から試せることがある。

夜の食事を少し早めて、翌朝の最初の一口を少し遅らせる。水かハーブティーを飲みながら、その時間の頭の状態を観察してみる。

「空腹のとき、頭がどんな状態になるか」——これを一度、意識して感じてみてほしい。

体はすでに、何かを教えてくれているはずだ。




最後まで読んでいただきありがとうございました。
ご縁に感謝いたします。


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