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【月刊】ナマケもんマガジン:第2号(2025年10月1日発行)10/10更新

巻頭言


月刊「ナマケもんマガジン」第2号をお届けします。

創刊号では「小さく・深く・しなやかに」というフレームワークを掲げました。今号の特集「ナマケもん戦略とは何か」では、そのフレームワークが単なるスローガンではなく、実際に“消耗しない”経営を設計するための思考装置であることを、入門から理論・思想・実務・ケーススタディへと連なる道筋で示します。勝つほどに疲弊する時代に、私たちは「勝ち残る」よりも「生き残る」ための構えを選び直す。この根本の転換を、読者のみなさんと共有したいと考えています。

連載コラム「究極の生存戦略」第2回では、移動の加速がもたらす矛盾を見つめ直しました。ナマケモノの“遅さ”は弱さではなく戦略である、という視点は、経営にも生活にも静かな示唆を与えます。

また、二つの連載『擬似敗戦』『静の秩序と動の情熱』は本号で区切りを迎えます。まとめ記事では、それぞれが照らした「制度の疲労」と「文化の力学」を振り返り、次の連載群『「危険な国」メキシコに生きる』『やさしい全体主義』『制度敗戦Ⅰ』へとバトンを渡します。

10月は新旧の連載が交差します。水曜の『ナマケもん戦略 入門書』、金曜の『やさしい全体主義』、火曜の『「危険な国」メキシコに生きる』。さらに月初のまとめ記事や、月曜枠の『勝ち残るより、生き残る就活』が続きます。


お知らせ

【週刊】 『ナマケもんマガジン』のPodcast、Youtubeでの配信が始まりました。

その週に配信された連載を振り返りながら、「ナマケもん戦略」の視点で語り合う新しい番組です。トークに加えて、オリジナル楽曲を紹介する音楽コーナーもあり、耳から「ちいさく深く、しなやかに」を感じていただけます 。記事では伝えきれない世界を「音」で体験ください。
配信は毎週日曜(メキシコ時間)となります。


特集:ナマケもん戦略とは何か

「勝ち残る」から「生き残る」へ

 私たちが「経営戦略」という言葉を聞いたとき、まず思い浮かべるのは「競争に勝つこと」ではないでしょうか。市場を制し、競合を退け、利益を拡大する。20世紀の経営学は、その物語を正義とし、MBAという教育体系を通じて世界に広まりました。規模を拡大し、効率を突き詰め、競争を勝ち抜くことが経営者の使命と信じられてきたのです。

 しかし21世紀の現実は、私たちに別の真実を突きつけています。拡大量は価格の下落を招き、効率化は柔軟性を奪い、競争は信頼を摩耗させる。勝つことが必ずしも続くことを保証しないどころか、「勝つほどに疲弊する」仕組みがあらわになってきました。いまや必要なのは「勝ち残る」ことではなく、「生き残る」ことなのです。

ナマケモノに学ぶ「消耗しない知性」

 ここで私たちが学び直すべき存在が、熱帯雨林に生きるナマケモノです。一日の大半を眠り、わずかな葉で暮らす彼らは、怠惰の象徴に見えながら、実は数千万年にわたり生き延びてきた「究極の合理性」を体現しています。動きを遅くし、目立たず、環境に寄り添う。エネルギーを浪費せず、捕食者からも目を逸らす。彼らの「遅さ」と「余白」は、決して弱さではなく、卓越した生存戦略なのです。

 この知恵を企業経営に引き寄せたのが「ナマケもん戦略」です。スローガンは明快です。「勝ち残るより、生き残る」

三つの軸:「小さく・深く・しなやかに」

 ナマケもん戦略は、三つの軸で経営を再定義します。

  • 小さく(Scale):拡大量を追うのではなく、消耗しない成長=Non-Exhaustive Growth を選ぶ。

  • 深く(Relationship):価格や条件に縛られる取引ではなく、物語と信頼資本によって選ばれる。

  • しなやかに(Flexibility):効率化で硬直するのではなく、余白や冗長性を資本に変え、不確実性に耐える。

 この三つは独立しているわけではなく、相互に支え合います。小ささは深さを生み、深さは柔軟性を育み、柔軟性は小ささを可能にする。つまり「小さく・深く・しなやかに」という三本柱がそろって初めて、企業は「消耗しない経営」を実現できるのです。

入門書から始まる理解のプロセス

 現在、水曜枠で連載中の『ナマケもん戦略 入門書』は、この思想を理解するための入口です。

 第1回では、科学的管理法やフォード主義が生んだ効率至上主義を問い直しました。人間を部品化した20世紀型の経営が、なぜ現代では疲弊の仕組みになってしまうのかを解き明かしています。

 第2回では、規模拡大が必ずしも幸福をもたらさないことを論じました。規模の経済が限界を迎えた時代において、企業は「最適点に留まる勇気」を持たねばならない――それが「消耗しない成長」への転換の第一歩です。

 そして今後の展開では、取引から物語へ、効率から柔軟性へと議論が移り、最終的には「ナマケもん戦略マトリクス」として全体像が提示されます。つまり、連載を追いかけること自体が、戦略を一歩ずつ理解する学びのプロセスなのです。

理論から思想、実務、ケーススタディへ

 『入門書』は理論を基盤にしていますが、ナマケもん戦略の全体像はそれだけでは終わりません。ナマケもんのNOTEでは次の三つの展開が予定されています。

  1. 理論

    1.  現代経営学や制度論との比較を通じて、戦略の思想的基盤を固めます。

    2.  今後連載を予定している関連著作としては『MBA的常識の限界』『制度敗戦』三部作(Ⅰ 日本的価値観、Ⅱ 保守と革新、Ⅲ 分配と承認)があり、これらは「成長神話」や「制度疲労」をどう超えるかを提示しています。

  2. 思想

    1.  ナマケモノの生態や社会学的視点を織り込み、「なぜ生き残りが重要なのか」を深めます。

    2.  ここでは本マガジンで連載中のコラム『究極の生存戦略―ナマケモノが問いかける進化の意味』や、連作『嘘の社会学』『死の社会学』『諦めの社会学』(連載未定)などが参照され、人間社会の進化観・不信構造・若者世代の制度不審を照らし出します。

  3. 実務・ケーススタディ

    1.  実際の企業事例や失敗事例を通じて、戦略を現場に落とし込みます。

    2.  具体的には『持続する小さな企業』三部作(Ⅰ 副業から専業へ、Ⅱ ストーリー戦略、Ⅲ C2Cエコノミー)や、『絶滅の巨人』シリーズ(スターバックス編、イオン編、日産編、楽天編)があり、「小さく・深く・しなやかに」を実務に適用する具体像を示しています。

 そして重要なのは、これらの著作群は単なる参考文献ではなく、ナマケもんのNOTEで順次連載として展開される予定だということです。読者は連載を追うことで、「入門→理論→思想→実務・ケース」という段階的で立体的な理解を得ることができます。

読者へのメッセージ

 ナマケもん戦略は単なる経営ノウハウではありません。それは「どう勝つか」ではなく「どう続くか」を問う思想であり、社会や制度とも深くつながっています。成長の物語が終焉を迎えた時代において、持続の物語を紡ぎ直すための知恵です。

 連載『ナマケもん戦略 入門書』は、その第一歩をわかりやすく案内する役割を担っています。そしてこの、ナマケもんNOTEにおいて、その思想を理論・思想・実務・ケースにまで展開し、読者一人ひとりが「生き残る経営」を自らの文脈に引き寄せられるよう連載を続けて行きます。

 ナマケモノは問いかけています「進化とは速さと拡大のことなのか」と。

 ナマケもん戦略はその問いに対する「ナマケもん」による答えであり、私

たちが未来を生き残るための羅針盤でありたいと考えております。

ナマケもん

連載コラム:

究極の生存戦略―ナマケモノが問いかける進化の意味

第2回 移動の逆説

 人類の歴史を振り返ると、進歩の象徴はつねに「移動の加速」であった。徒歩から馬車へ、帆船から蒸気船へ、鉄道から自動車、飛行機へ。時間を短縮し、空間を克服する技術は、人類の繁栄と進化の証とされてきた。21世紀にはインターネットと航空網が融合し、地球のどこへでも短時間で移動できる社会が成立している。しかし、この「移動の加速」こそが、現代人類に深刻な矛盾をもたらしている。

 ナマケモノの生活はその対極にある。彼らの一日の移動距離はわずか数十メートル。ほとんどの時間を同じ木の枝で過ごし、食べ、眠り、繁殖する。外敵に追われても走ることはできず、ただじっと身を隠し、森と一体化することで生き延びる。移動しないことは「不自由」ではなく「適応」なのだ。過剰な移動はリスクであり、環境に寄り添うことが最大の安全保障となっている。

 これを現代人類に引き寄せてみよう。格安航空券を利用すれば数時間で大陸をまたげ、オンライン会議システムは距離を無意味化する。だが移動の自由と加速は、同時に社会に新たな歪みをもたらした。

 まず、移民問題。人類史上かつてない規模で人の移動が起きている。労働力不足の国と人口増加の国、戦争や気候変動による難民の流入。移動手段の高速化は国境を超えやすくし、多文化共生の理想と同時に摩擦と排斥の現実を生んでいる。

 次に、感染症の拡大。新型コロナウイルスはその典型だ。飛行機による世界的移動は、数週間で病原体を地球規模に拡散させた。人類は移動の加速を止められず、結果としてパンデミックのリスクを内在化した社会に生きている。ナマケモノのように移動を最小限にとどめる生物にとって、感染は局所的にとどまる。ここでも「遅さ」が生存の合理性を持っている。

 さらに見逃せないのが、地域文化の衰退である。新幹線や高速道路、航空網の発展により、人々は都市へ都市へと流動する。地方に根ざした活動や文化は担い手を失い、商店街や伝統行事は空洞化する。観光地でさえも、短時間滞在の「消費対象」と化し、地域の時間感覚が切り刻まれていく。

 ここに「移動の逆説」がある。移動の加速は一見すると人類を豊かにしたかに見えるが、実際には境界を揺るがし、病を拡散させ、文化の基盤を浸食する。速さは必ずしも幸福を保証しない。むしろ「動かないこと」が、個人や社会の持続性を守る場合があるのだ。

 ナマケモノは、動かないことによって生態系との関係を維持し続けている。もし彼らが高速で移動する進化を選んでいたら、栄養の乏しい葉食というニッチな生態系に生き残ることはできなかっただろう。遅さは弱さではなく、戦略である。

 現代人類に必要なのは、この「移動の逆説」を正面から見据えることだ。速さがもたらす代償を認識し、移動を抑制する新しい価値を設計する。たとえばテレワークやリモート教育の普及は「移動しない合理性」を社会に取り入れる試みとも言える。地域に留まり、地縁的なつながりを再構築する動きもまた、ポスト資本主義社会に不可欠な要素となるだろう。

 「速さ=進化」という思い込みを相対化すること。ナマケモノの遅さは、その問いかけの象徴である。移動の加速を至上命題としてきた人類に対し、彼らは静かに語りかける。―動かないことこそ、生き延びる力である、と。

次回予告

第3回のテーマは「時間と労働」。西欧的な「余暇のための労働」と、日本的に労働そのものに意味を見いだす感覚を比較しつつ、現代社会が「何もしないこと」を許さない構造を明らかにします。


今月の連載記事紹介(9月まで公開分)

連載を終えて ① 『擬似敗戦』 

 本連載『擬似敗戦』を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。多くの方に読んでいただきましたことに、この場を借りて厚く御礼申し上げます。誠にありがとうございました。

 本作が描こうとしたのは、戦後日本が「敗戦」を繰り返す構造です。軍事的敗北ではなく、制度や経済のあり方が内側から疲弊し、自ら力を失っていく。その様を「擬似敗戦」と名づけ、昭和ロマン主義や駅直結再開発などの具体例を通じて浮かび上がらせました。成長神話を延命させるための政策や開発が、むしろ制度の空洞化を加速させるという逆説。その姿は、今日の私たちの暮らしにも直結しています。

 同時に本作は、「終わり」ではなく「始まり」でもあります。今後は『制度敗戦』三部作(Ⅰ 日本的価値観がひらく未来、Ⅱ 保守と革新を超えて、Ⅲ 分配と承認の統治論)へとシリーズとして連載を続けてゆく予定です。これらは『擬似敗戦』で提示した問題をさらに理論的・実証的に深掘りし、制度疲労を超えて新しい社会を構想する試みです。

 「敗戦」を繰り返すだけではなく、その先に「創生」をどう描くか。ナマケモんNOTEを通じて順次展開してまいります。引き続きお付き合いいただければ幸いです。


連載を終えて ②  『静の秩序と動の情熱』

 本連載『静の秩序と動の情熱』を最後までお読みいただき、心より御礼申し上げます。9月末をもって完結を迎えることができたのは、読者の皆さまのご関心とご支援によるものであり、この場を借りて感謝を申し上げます。誠にありがとうございました。

 本作が探究したのは、日本とメキシコを対比しながら浮かび上がる「静」と「動」という二つの文化的エネルギーでした。メキシコの公共空間を満たす賑やかさは、祝祭文化や開放的な風土に根ざした「動の情熱」であり、日本の公共空間を包む静けさは、稲作共同体や封建秩序に支えられた「静の秩序」でした。本連載では、文化生態学と和辻哲郎の風土論を手がかりに、環境・歴史・地政学がいかにして両国の「当たり前」を形づくってきたかを解き明かしました。

 同時に強調したのは、静と動のいずれかを優劣で測るのではなく、補完的に捉える視点です。静けさは秩序を守り、動は関係を温める。その双方を相対化することで初めて、異文化理解は相手を知ることと同時に自己を知る鏡となるのです。

 この議論は、今後のメキシコ関連シリーズへとつながっていきます。10月からは『「危険な国」メキシコに生きる』の連載が始まり、現代メキシコ社会を日常の視点から描き出します。さらにその先には、『嘘の社会学』や『死の社会学』といった連作を予定しており、不信や死生観といった切り口からメキシコ文化をより深く照射していきます。『静の秩序と動の情熱』での文化的対比は、その導入としての役割を果たし、次なる連載群への架け橋となるのです。

 最後に、これまで読んでくださった皆さまに重ねて感謝申し上げます。本作での気づきが、異文化を理解する窓であると同時に、ご自身の文化を相対化するきっかけとなれば幸いです。


連載中 『ブラックなホワイト社会』

 本連載『ブラックなホワイト社会―競争と成果が壊す、無条件の承認』は、現代日本における働き方や企業文化を切り口に、「承認」という人間的欲求がどのように歪められているかを描き出す試みです。9月末時点で第3章までが公開され、10月には完結を迎える予定です。

 本作が問題提起するのは、一見「ホワイト」に見える社会の裏側に潜む「ブラック」な構造です。制度としては労働時間が短縮され、福利厚生も整っている。しかし、成果主義や競争の圧力の下で、人々は「無条件に受け入れられる」場を失い、常に比較と評価にさらされ続けています。外形的には改善しているように見えても、内面ではむしろ孤立と不安が深まっている―ここに「ブラックなホワイト社会」の逆説があります。

 これまでの第1章から第3章では、その基盤を三段階で明らかにしてきました。第1章では「承認資本」という概念を導入し、成果や競争が人間関係を資本化してしまう過程を描きました。第2章では「成果主義の呪縛」を取り上げ、承認が評価にすり替わる現実を論じました。そして第3章では「見えないブラック企業」として、過労死や長時間労働といった極端な事例だけでなく、日常的な職場の「成果圧力」が人々をすり減らす姿を提示しました。

 今後の章では、この構造が教育や家庭、地域社会にまで浸透していることを示し、最終的には「無条件の承認」を取り戻す道筋を探っていきます。すなわち、成果や比較に依存せず、ただ存在するだけで認められる場をどう再構築するのか―これが本連載の核心です。

 『ブラックなホワイト社会』は、単に職場や働き方を批判するものではありません。それは現代資本主義に内在する承認の歪みを告発し、私たちが生きる社会そのものを映し出す鏡です。10月の完結までの展開を、ぜひ見届けていただければ幸いです。


10月の新連載

新連載 ①  『やさしい全体主義』

 10月から新たに始まる連載『やさしい全体主義 ― 正しさと配慮がつくる支配社会』は、現代社会の深層に潜む新しい支配の形を描き出す試みです。ここで扱われるのは、かつての権威主義や暴力的な統制とは異なる、むしろ「優しさ」や「正しさ」を媒介とした支配の構造です。

 現代社会では、自由や人権の尊重が表向きの前提とされています。しかし、その実態は「正しさ」の基準をめぐる同調圧力や、「配慮」を盾にした言論の抑制によって、人々が互いを監視し合う社会に変容しています。これは、強制ではなく合意や配慮の名のもとに行われるがゆえに、かえって逃れにくい新しい支配の形態―すなわち「やさしい全体主義」です。

 本連載が目指すのは、この構造を具体的に可視化することです。SNSでの炎上やキャンセルカルチャー、企業組織におけるハラスメント防止の名目による抑圧、さらには教育や公共空間での「過剰な配慮」などを題材にしながら、「善意」がどのように支配の装置へと変わるのかを検証します。

 同時に、この議論はこれまでの連載とも連続性を持ちます。『ブラックなホワイト社会』が競争と成果による承認の歪みを描いたとすれば、『やさしい全体主義』は「承認」のさらに外側―社会的関係そのものが「優しさ」と「正しさ」で縛られる状況を明らかにします。

 10月から始まる本連載は、単なる批判にとどまりません。むしろ「やさしい全体主義」を乗り越えるために、どのような新しい社会的関係のあり方が可能なのかを探ることを目的としています。優しさや配慮を否定するのではなく、それらを支配の装置に変えないための条件を考える―それが、この連載が提示する課題です。

 ぜひ、これからの連載にご期待ください。


新連載 ②  『「危険な国」メキシコに生きる』

 10月から新たにスタートする『「危険な国」メキシコに生きる。』は、治安や犯罪の話題にとどまらず、現代メキシコ社会の矛盾と日常を描く試みです。日本から見れば「危険な国」とのイメージが先行しがちなメキシコ。しかし、そこに生きる人々の視点に立つと、その「危険」は単なる治安の問題にとどまらず、社会制度、文化、経済の構造に深く根ざしていることが見えてきます。

 本連載では、メキシコで生活する中で日々直面するリアリティを軸に語ります。強盗や誘拐といった犯罪被害の恐れだけでなく、公共サービスの脆弱さ、政治腐敗、格差の拡大といった社会背景が、人々の「危険感覚」を形づくっています。そして同時に、人々がそれらにどう適応し、コミュニティを守り、日常を積み重ねているのかを描いていきます。

 このシリーズの特徴は、統計や報道だけでは掴めない「生きられた現実」を描き出すことにあります。市場の喧騒や住宅街の警戒、家族や近隣の助け合いなど、一見小さなエピソードの積み重ねが、「危険な国」を生き抜く知恵の体系を浮かび上がらせるでしょう。危険は恐怖であると同時に、社会を駆動する日常的な条件でもあるのです。

 また、この連載は今後のシリーズ群への架け橋でもあります。『静の秩序と動の情熱』が文化比較の視点を提示したとすれば、『「危険な国」メキシコに生きる。』は現代メキシコ社会の「現場」に焦点を当てます。その先には、『嘘の社会学』『死の社会学』といった連作が控えており、不信や死生観を通じてメキシコ社会をさらに深く照射していく予定です。

 「危険」という言葉を入り口に、メキシコ社会の複雑さと人間の強さを描き出す―その挑戦に、ぜひご期待ください。


新連載 ③  『制度敗戦Ⅰ ― 日本的価値観がひらく未来』

 10月末から新たに始まる『制度敗戦Ⅰ ― 日本的価値観がひらく未来』は、「制度敗戦」三部作の第1巻として、これからの連載群の基盤をなす重要なシリーズです。本作で描かれるのは、日本社会に深く根づいた価値観と制度の矛盾、そしてその先にひらける可能性です。

 「制度敗戦」という言葉が示すのは、戦後日本が直面してきた繰り返しの「見えない敗北」です。軍事的な敗北ではなく、制度や仕組みが内側から疲弊し、自ら力を失っていく構造。この連載では、その最初の入口として「日本的価値観」に焦点を当てます。勤勉、調和、集団主義といった美徳は、かつては日本社会を強靭にした力でした。しかしそれらが固定化し、制度に組み込まれることで、柔軟性を奪い、時代の変化に適応できなくなる。ここに「制度敗戦」の最初の姿が現れます。

 同時に本作は、価値観を単なる過去の遺産として切り捨てるのではなく、そこに未来をひらく可能性を見出そうとします。日本的価値観の中には、持続性や相互扶助といった形で、現代社会にこそ必要な資源が含まれているのです。問題はそれを「制度の殻」に閉じ込めるのではなく、新しい関係や仕組みの中でどう再生するかにあります。

 『制度敗戦Ⅰ』の連載は、これまでのシリーズとも強くつながっています。『擬似敗戦』で描かれた文化・制度の疲弊を受け止めつつ、その先にある「創生」の道筋を描く試みです。そして続編となる『制度敗戦Ⅱ ― 保守と革新を超えて』『制度敗戦Ⅲ ― 分配と承認の統治論』へと展開していく大きなプロジェクトの第一歩でもあります。

 10月末から始まるこの新連載は、「制度の終わり」を語るのではなく、「制度の再生」を語るものです。ぜひご期待ください。


今後のNOTE掲載予定

各連載は毎週・毎月の定期配信を基本としつつ、最新の情勢や読者ニーズに合わせて柔軟に展開していきます。

<定期配信>

  • 毎日

    1. メキシコ政治経済NEWS

    2. 本日のトランプさん

  • 毎週

    1. 週刊メキシコ犯罪NEWS(毎週木曜日)

    2. 週刊『ナマケもんマガジン Podcast』(毎週日曜日)

  • 毎月

    1. 『ナマケもんマガジン』(毎月1日)

    2. 『メキシコ政治経済NEWSまとめ』(毎月第1日曜日/前月分総括)

    3. 『週刊メキシコ犯罪ニュースまとめ』(毎月第1月曜日/前月分総括)

2025年10月

<個別配信>

10月01日(水) 【月刊】『ナマケもんマガジン』 第2号「特集:ナマケもん戦略とは何か」
10月01日(水)『ナマケもん戦略』入門書 第2章「フォード主義と大量生産モデルの再検討」
10月02日(木) 【週刊】『メキシコ犯罪NEWS』 第10回「犯罪ニュース1週間のまとめ」
10月03日(金) 『やさしい全体主義』 第1章「やさしい全体主義とは何か」
10月04日(土) 『ブラックなホワイト社会』 第4章「グローバル資本主義と倫理的装飾」
10月05日(日) 【週刊】ナマケもんマガジンPodcast 第3回「音楽コーナー『Black and White』のテーマ」
10月05日(日) 【月刊】『メキシコ政治経済NEWSまとめ』 第2回「政治経済ニュース9月分のまとめ」
10月06日(月) 『勝ち残るより、生き残る就活 第4回「早期離職は敗北か、生存戦略か」
10月06日(月) 【月刊】『メキシコ犯罪NEWSまとめ』 第2回「犯罪ニュース9月分のまとめ」
10月07日(火) 『静の秩序と動の情熱』 終章「静と動の共鳴」
10月08日(水) 『ナマケもん戦略』入門書 第3章「人間関係論とホーソン実験の再評価」
10月09日(木) 【週刊】『メキシコ犯罪NEWS』 第11回「犯罪ニュース1週間のまとめ」
10月10日(金) 『やさしい全体主義』 第2章「制度化される善意」
10月11日(土) 『ブラックなホワイト社会』 第5章「制度以前の倫理を取り戻す」
10月12日(日) 【週刊】ナマケもんマガジンPodcast 第4回「未定」
10月13日(月) 『勝ち残るより、生き残る就活 まとめ「まとめ」
10月14日(火) 『「危険な国」メキシコに生きる。』 序章「なぜ「危険の構造」を知る必要があるのか」
10月15日(水) 『ナマケもん戦略』入門書 第4章「戦略論の時代 ― 競争と成長の思考枠組み」
10月16日(木) 【週刊】『メキシコ犯罪NEWS』 第12回「犯罪ニュース1週間のまとめ」
10月17日(金) 『やさしい全体主義』 第3章「やさしさが義務になる」
10月18日(土) 『ブラックなホワイト社会』 第6章「承認の再構築から未来の制度へ」
10月19日(日) 【週刊】ナマケもんマガジンPodcast 第5回「未定」
10月20日(月) 『勝ち残るより、生き残るキャリア』 序章「人気絶頂の罠」
10月21日(火) 『「危険な国」メキシコに生きる。』 第1章「メキシコの危険の現実」
10月22日(水) 『ナマケもん戦略』入門書 第5章「ポーターの競争戦略を問い直す」
10月23日(木) 【週刊】『メキシコ犯罪NEWS』 第13回「犯罪ニュース1週間のまとめ」
10月24日(金) 『やさしい全体主義』 第4章「テクノロジーが作る従順な個体」
10月25日(土) 『制度敗戦Ⅰ ―日本的価値観がひらく未来』 序章「序章」
10月26日(日) 【週刊】ナマケもんマガジンPodcast 第6回「未定」
10月27日(月) 『勝ち残るより、生き残るキャリア』 第1章「巨人が築いた幻想と資本主義の罠」
10月28日(火) 『「危険な国」メキシコに生きる。』 第2章「カルテルの歴史と進化」
10月29日(水) 『ナマケもん戦略』入門書 第6章「アンゾフの成長マトリクスを問い直す」
10月30日(木) 【週刊】『メキシコ犯罪NEWS』 第14回「犯罪ニュース1週間のまとめ」
10月31日(金) 『やさしい全体主義』 第5章「「正しさ」の市場価値化」

2025年11月

<個別配信>

11月01日(土) 【月刊】『ナマケもんマガジン』 第3号「未定」
11月01日(土) 『制度敗戦Ⅰ ―日本的価値観がひらく未来』 第1章「高度成長と制度的枠組みの形成」
11月02日(日) 【週刊】ナマケもんマガジンPodcast 第7回「未定」
11月02日(日) 【月刊】『メキシコ政治経済NEWSまとめ』 第3回「政治経済ニュース10月分のまとめ」
11月03日(月) 『勝ち残るより、生き残るキャリア』 第2章「人気企業の光と影 ― ケース分析」
11月03日(月) 【月刊】『メキシコ犯罪NEWSまとめ』 第3回「犯罪ニュース10月分のまとめ」
11月04日(火) 『「危険な国」メキシコに生きる。』 第3章「主要カルテルのプロフィール」
11月05日(水) 『ナマケもん戦略』入門書 第7章「BCGマトリクスとポートフォリオ経営を問い直す」
11月06日(木) 【週刊】『メキシコ犯罪NEWS』 第15回「犯罪ニュース1週間のまとめ」
11月07日(金) 『やさしい全体主義』 第6章「やさしい全体主義が壊すもの」
11月08日(土) 『制度敗戦Ⅰ ―日本的価値観がひらく未来』 第2章「金融自由化の衝撃と制度の転換点」
11月09日(日) 【週刊】ナマケもんマガジンPodcast 第8回「未定」
11月10日(月) 『勝ち残るより、生き残るキャリア』 第3章「絶滅の巨人 ― 巨人化がもたらす必然的な没落」
11月11日(火) 『「危険な国」メキシコに生きる。』 第4章「政治・制度・汚職の構造」
11月12日(水) 『ナマケもん戦略』入門書 第8章「戦略論の再定義 ― 意味で選ばれる企業へ」
11月13日(木) 【週刊】『メキシコ犯罪NEWS』 第16回「犯罪ニュース1週間のまとめ」
11月14日(金) 『やさしい全体主義』 第7章「抵抗のための視点」
11月15日(土) 『制度敗戦Ⅰ ―日本的価値観がひらく未来』 第3章「ドイツの選択と比較視点」
11月16日(日) 【週刊】ナマケもんマガジンPodcast 第9回「未定」
11月17日(月) 『勝ち残るより、生き残るキャリア』 第4章「勝ち残りから生き残りへ」
11月18日(火) 『「危険な国」メキシコに生きる。』 第5章「アメリカ需要という外部要因」
11月19日(水) 『ナマケもん戦略』入門書 第9章「知識経営・学習する組織を問い直す」
11月20日(木) 【週刊】『メキシコ犯罪NEWS』 第17回「犯罪ニュース1週間のまとめ」
11月21日(金) 『やさしい全体主義』 第8章「変化の条件」
11月22日(土) 『制度敗戦Ⅰ ―日本的価値観がひらく未来』 第4章「日本の金融自由化と制度的敗戦」
11月23日(日) 【週刊】ナマケもんマガジンPodcast 第10回「未定」
11月24日(月) 『勝ち残るより、生き残るキャリア』 終章「自分に合った企業を探す ― 巨人に依存しない方法」
11月25日(火) 『「危険な国」メキシコに生きる。』 第6章「文化生態学・風土論で読むメキシコの社会」
11月26日(水) 『ナマケもん戦略』入門書 第10章「サステナビリティ・パーパス経営の再定義」
11月27日(木) 【週刊】『メキシコ犯罪NEWS』 第18回「犯罪ニュース1週間のまとめ」
11月28日(金) 『やさしい全体主義』 第9章「人間らしさを守るために」
11月29日(土) 『制度敗戦Ⅰ ―日本的価値観がひらく未来』 第5章「賃金と生産性の協調 ─ 協約と共同決定の可能性」
11月30日(日) 【週刊】ナマケもんマガジンPodcast 第11回「未定」

※ すべての配信は メキシコ時間 に基づきます。ご了承ください。


編集後記

本号の編集の核は、「入門から実践へ」を誌面全体で体感できる配置にありました。特集で戦略の骨格を示し「移動の逆説」で日常のスピード神話を相対化し、二つの完結連載がそれぞれの総括を通じて次の連載群へ道をつなぐ。この流れが、読者のみなさんの思考に“段差”ではなく“傾斜”として残るよう意識しました。

10月は三つの新連載がスタートします。『やさしい全体主義』は「正しさ」と「配慮」が装置化する瞬間を可視化し、『「危険な国」メキシコに生きる』は統計の行間にある生活の知を描きます。月末開始の『制度敗戦Ⅰ』は、価値観と制度の関係を“終わり”ではなく“再生”として読み替える試みです。並行して『ナマケもん戦略 入門書』は、入門から実務への橋を一歩ずつ架けていきます。

創刊から二号目。まだ小さく、しかし確かに深く。そんな手触りを大切に、これからも「消耗しない」編集を続けます。感想やご質問は大歓迎です。みなさんの現場で生まれた気づきが、次号の企画を育てます。

それでは、次号は11月1日配信の『ナマケもんマガジン』第3号で。引き続き、どうぞよろしくお願いします。


最後まで読んでいただいた読者の皆様に捧げる特別付録です

『擬似敗戦』のテーマ曲。

『ブラックなホワイト社会』のテーマ曲

『やさしい全体主義』のテーマ曲



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