【月刊】ナマケもんユニバース:第12号(2026年8月1日発行)
巻頭言
問いを持つということ
先月号では、「バイアビリティ」という新しい視点を、本誌の中心的なテーマとして取り上げました。そして第2特集では、「小学生でもわかる バイアビリティ講座」をスタートし、難しい理論をできるだけ身近な言葉でお伝えする試みを始めました。
その反響は、私たちの予想を上回るものでした。
「これまで漠然と感じていた違和感の理由が分かった」「経営だけではなく、自分自身の生き方にも当てはまる考え方だ」といった多くのご意見をいただき、本誌が目指している方向性に確かな手応えを感じています。
一方で、同じ7月号から連載を開始した『米国から独立する日本』にも、大変大きな反響が寄せられました。
「独立」という言葉だけを見ると、日米同盟を否定する内容なのではないか、あるいは特定の政治的立場を主張するものではないかと思われる方も少なくなかったようです。しかし実際に読まれた方々からは、「これは安全保障論ではなく、国家の前提を考える本だった」「政治ではなく、思考の方法を論じた本だった」という感想が多く寄せられました。 B037米国から独立する日本本文.md
私たちは、この反応をとても興味深く受け止めています。
一見すると、「バイアビリティ経営論」と「米国から独立する日本」は、まったく異なるテーマのように見えます。片方は経営を語り、もう片方は国家の安全保障を語っています。
しかし、その根底には共通する問いがあります。
私たちは、どのような前提の上で物事を考えているのか。
企業も、人も、地域も、国家も、それぞれが当然だと思っている前提の上で意思決定をしています。その前提が変われば、導かれる結論も変わります。だからこそ、本当に重要なのは結論を急ぐことではなく、その結論を支えている前提を見つめ直すことなのです。
本誌が目指しているのも、まさにそこです。
私たちは、「これが正しい答えです」と結論を提示する雑誌ではありません。むしろ、「その答えは、どのような前提から導かれたのだろうか」と問い続ける雑誌でありたいと考えています。
今月号の第1特集では、『米国から独立する日本』を題材に、この「前提を問い直す」という考え方を解説します。書籍の内容を要約するのではなく、なぜそのような問いが生まれたのか、何を読者に考えてほしいのかという視点から、その思想の入口をご紹介します。
そして第2特集では、「小学生でもわかる バイアビリティ講座」を引き続き掲載します。社会をより深く理解するためには、難しい言葉を覚えることよりも、本質をシンプルに考えられることが大切です。子どもにも伝えられる言葉で説明できる考え方こそ、多くの人と共有できる思想になると私たちは信じています。
情報があふれる時代だからこそ、答えだけを集めるのではなく、問いを持つことがますます重要になっています。
本誌はこれからも、経営、社会、国家、そして私たち一人ひとりの暮らしを、「前提」という視点から見つめ直し、新しいものの見方を皆さまとともに育てていきたいと思います。
今月号が、そのための新たな一歩となれば幸いです。
第1特集
『米国から独立する日本』を読む
私たちは何を問いかけているのか
7月号より連載を開始した『米国から独立する日本』は、本誌が予想していた以上に大きな反響をいただきました。
最も多かった感想は、「安全保障の本だと思って読み始めたが、実際には『考え方』について書かれた本だった」というものです。
一方で、「タイトルだけを見ると内容を誤解していた」という声も少なくありませんでした。
確かに、「米国から独立する日本」というタイトルだけを見ると、外交政策や安全保障政策を主張する政治的な本のように受け取られるかもしれません。しかし、本書が本当に問いかけているのは、特定の政策ではありません。
問いかけているのは、私たちが当然だと思っている『前提』です。 B037米国から独立する日本本文.md
本特集では、書籍の内容を紹介するのではなく、「この本は何を考えるために書かれたのか」という視点から、その思想を読み解いていきます。
第1章
なぜ今、安全保障を論じるのか
安全保障という言葉を聞くと、多くの人は軍事や外交、あるいは憲法第9条といった政治的な議論を思い浮かべます。
しかし、『米国から独立する日本』は、そのような個別の政策を論じることを目的として書かれた本ではありません。
本書が最初に問いかけているのは、
「政策の前に、前提を考えよう。」
ということです。 B037米国から独立する日本本文.md
私たちは日常生活の中でも、多くの判断を無意識の前提の上で行っています。
「明日も会社は存在する。」
「銀行に預けたお金は引き出せる。」
「電気は今日も使える。」
これらは普段、意識することはありません。しかし、もしその前提が崩れたならば、私たちの行動は大きく変わるでしょう。
国家も同じです。
国家は政策によって動いているように見えますが、その政策を支えているのは、「世界はこういうものだ」という前提です。
本書は、この見えない前提を可視化しようと試みています。 B037米国から独立する日本本文.md
第2章
この本が問いかけているもの
本書の出発点は、極めてシンプルな一つの問いです。
平和を望むことと、平和を維持することは、同じなのだろうか。
この問いは、一見すると当たり前のように思えるかもしれません。
もちろん、平和を願うことは大切です。
しかし、本書はそこからさらに一歩踏み込みます。
願うことと、実現すること。
理想と、それを支える仕組み。
この二つは同じではないのではないか、と問いかけています。
この問いは、安全保障だけの話ではありません。
企業経営でも同じです。
「会社が成長してほしい」と願うことと、「会社が長く続く仕組みを作ること」は違います。
家庭でも、地域でも、人生でも同じです。
願いだけでは成立しません。
成立させるためには、前提を設計しなければならないのです。
第3章
「独立」とは何を意味するのか
本書のタイトルにある「独立」という言葉は、最も誤解されやすい言葉かもしれません。
独立という言葉から、
「日米同盟をやめるべきだ。」
「アメリカと距離を置くべきだ。」
そのような主張を想像する人もいるでしょう。
しかし、本書が語る独立とは、そのような意味ではありません。
本書が言う独立とは、
「最終的な責任を、自ら引き受ける主体性」
のことです。
企業も同じです。
取引先と協力することは重要です。
金融機関から資金を借りることもあります。
しかし、経営の最終責任は、自らが負います。
国家も同じではないか。
本書は、そのことを問いかけています。
つまり、「独立」とは孤立ではなく、主体性なのです。 B037米国から独立する日本本文.md
第4章
国家もバイアビリティで考える
ここまで読まれた方の中には、
「これはバイアビリティ経営論と似ている。」
そう感じられた方もいらっしゃるでしょう。
実は、その通りです。
本誌ではこれまで、
「成長することよりも、無理なく成立し続けること。」
という考え方を、企業経営の視点から紹介してきました。
『米国から独立する日本』も、本質的には同じ問いを扱っています。
国家は、
どのような前提で成立しているのか。
その前提は、これからも成立し続けるのか。
もし成立しないのであれば、何を見直さなければならないのか。
これは、安全保障論である以前に、「持続可能性」の議論です。
企業にも寿命があります。
地域にも寿命があります。
国家にもまた、成立し続けるための条件があります。
本誌が提唱するバイアビリティとは、その条件を考えるための思想です。
だからこそ、本誌では経営だけではなく、社会や教育、そして国家というテーマへも、この考え方を広げています。
『米国から独立する日本』は、安全保障を語るための本ではありません。
国家という存在を、バイアビリティという視点から考えるための本なのです。
そして本誌はこれからも、この「前提を問い直す」という姿勢を大切にしながら、経営、社会、国家、そして私たち一人ひとりの生き方について考え続けていきます。
第2特集
小学生でもわかるバイアビリティ講座
第2回
なぜ「続くこと」が大切なの?
みなさんは、「すごい!」と思ったことがありますか?
とても速く走る人。
テストで100点を取る人。
大きなお店。
有名な会社。
テレビで紹介される人気のお店。
どれも「すごい」と思いますよね。
でも、ここで一つ質問があります。
その「すごい」は、ずっと続くでしょうか。
たまたま一回だけ100点を取ることはできます。
一日だけ、とてもたくさん売れるお店もあります。
一年間だけ急に人気になる会社もあります。
でも、それが一年後も、五年後も、十年後も続くとは限りません。
そこで大切になるのが、「バイアビリティ」という考え方です。
バイアビリティとは、
「無理をしないで、続いていくこと。」
です。
たとえば、運動会のかけっこを考えてみましょう。
スタートしてすぐに全力で走ると、とても速く進めます。
でも、そのあと疲れてしまって最後まで走れなかったらどうでしょう。
反対に、自分の力を考えながら最後まで走り切る人は、ゴールできます。
どちらが本当に強いでしょうか。
バイアビリティは、
「最後まで続けられる力」
を大切にします。
これは会社でも同じです。
たくさんお金をもうけても、次の年に会社がなくなってしまったら困ります。
学校でも同じです。
一日だけがんばっても、毎日学校へ行けなければ勉強は続きません。
私たちの体も同じです。
毎日寝ないでがんばることはできません。
ちゃんと食べて、ちゃんと眠って、少しずつ続けるから元気でいられるのです。
だから、バイアビリティでは、
「もっと」よりも、「続く」を大切にします。
もっと速く。
もっと大きく。
もっと強く。
もちろん、それも悪いことではありません。
でも、そのために体をこわしたり、お金がなくなったり、友達とけんかばかりしてしまったら、本当に幸せでしょうか。
だから私たちは、
「それは続けられるかな?」
という質問をします。
この質問は、とても不思議です。
会社にも使えます。
学校にも使えます。
スポーツにも使えます。
家族にも使えます。
そして、自分自身にも使えます。
バイアビリティは、
「もっと、もっと。」
ではなく、
「どうすれば、ずっと続けられるかな。」
と考える、新しいものの見方なのです。
今月のことば
「すごい」よりも、
「続く」がもっとすごい。
連載
進歩とは何か。
第5回
「進歩」は本当に前へ進んでいるのか
私たちは、子どもの頃から「進歩」という言葉を前向きなものとして教えられてきました。
科学は進歩する。
技術は進歩する。
経済は成長する。
社会は発展する。
昨日より今日、今日より明日が豊かになること。それが進歩であると、多くの人は疑うことなく受け入れています。
しかし、本当にそうなのでしょうか。
もし進歩が「前へ進むこと」だけを意味するのであれば、私たちの社会は、これほど多くの不安を抱えることはなかったはずです。
便利なものは増えました。
情報は瞬時に世界中へ届きます。
医療は発達し、生活は豊かになりました。
それでも、人々は以前より忙しくなり、将来への不安は消えません。
これは、進歩そのものを否定する話ではありません。
私たちが問い直したいのは、「何をもって進歩と呼ぶのか」ということです。
例えば、自動車は馬車より速く走ります。
飛行機は徒歩よりもはるかに遠くへ行くことができます。
これは間違いなく技術の進歩です。
しかし、その技術を維持するために、社会全体が無理を続けなければならないとしたらどうでしょう。
より速く。
より大きく。
より多く。
その結果として、人も企業も国家も疲弊してしまうのであれば、それは本当に進歩と言えるのでしょうか。
私たちは、いつの間にか「変化すること」と「進歩すること」を同じ意味で使うようになりました。
しかし、この二つは本来、別のものです。
変化には、良い変化もあれば悪い変化もあります。
進歩とは、その変化が人や社会をより良い方向へ導くことで初めて成立する概念です。
そして、本誌が提唱するバイアビリティという考え方は、ここに新しい視点を加えます。
それは、「その変化は、続いていくのだろうか」という問いです。
どれほど優れた制度であっても、長く維持できなければ社会には定着しません。
どれほど革新的な技術であっても、人々が使い続けられなければ文化にはなりません。
どれほど高い成長率を実現しても、それが一時的なもので終わるなら、社会全体としては不安定さを残すことになります。
つまり、本当の進歩とは、単に前へ進むことではありません。
無理なく、より良い状態が続いていくこと。
そこに初めて、進歩という言葉の本当の意味があるのではないでしょうか。
私たちは、これからも新しい技術を生み出し、新しい社会を築いていくでしょう。
しかし、そのたびに忘れてはならない問いがあります。
「その進歩は、未来へ続いていくのだろうか。」
この問いを持ち続けることこそが、これからの時代に求められる新しい知性なのだと、本誌は考えています。
7月の連載記事紹介
下記のリンクから各週に公開した連載の内容をNoteでの文章、Spotify、 Apple Podcast の音声、そしてYouTubeの動画として振り返ることができます。
8月のNOTE配信予定
各連載は毎週・毎月の定期配信を基本としつつ、最新の情勢や読者ニーズに合わせて柔軟に展開していきます。
※ すべての配信は メキシコ時間 に基づきます。ご了承ください。
編集後記
思想は、一冊では完成しない。
8月号をお届けします。
今月号では、第1特集として『米国から独立する日本』を取り上げました。
タイトルだけを見ると、安全保障や外交を論じた書籍のように思われるかもしれません。しかし、本誌でお伝えしたかったのは、個々の政策や結論ではなく、「どのような前提で物事を考えるのか」という視点です。
7月号では「バイアビリティ」という考え方をご紹介し、「成長することよりも、無理なく成立し続けること」という価値観をお伝えしました。そして今月号では、その考え方が企業だけではなく、国家や社会、さらには私たち一人ひとりの判断にもつながっていることを感じていただけたなら幸いです。
本誌は毎月、さまざまなテーマを取り上げています。しかし、それぞれが独立した読み物ではありません。一つひとつの記事や連載は、すべて「バイアビリティ」という一つの思想へとつながっています。
私たちは、社会の出来事を解説する雑誌を目指しているのではありません。
また、正解を提示する雑誌を目指しているわけでもありません。
読者の皆さまとともに、「当たり前」とされている前提を見つめ直し、新しいものの見方を育てていく。そのような思想誌でありたいと考えています。
思想は、一冊の本で完成するものではありません。
一度読んで終わるものでもありません。
日々の出来事に触れ、新しい経験を重ね、そのたびに問い直され、少しずつ深まっていくものです。
だからこそ、本誌もまた、毎月少しずつ積み重ねながら歩んでいきたいと思います。
来月号も、新たな視点と問いをお届けします。
またお会いしましょう。
NAMAKEMON|ディスコグラフィー
Spotify, Apple Music, YouTube Musicなどの音楽配信サイトで「ナマケもんSONGS」が続々配信されています。ぜひ一度、聞いてみてください。
Small Deep & Resilient (ちいさく、深く、しなやかに)
これまでにNoteにて発表してきた連載の内容からインスパイアされた全12曲。Namakemon 初のアルバム。
Black in White Society (ブラックなホワイト社会)
連載「ブラックなホワイト社会」の各章をモチーフに作成した全8曲。連載の各章本文と合わせて、お楽しみください。
Black in White Society (The Ethics of Existence)
「ブラックなホワイト社会」の各章を英語の語り調(このジャンルはSpoken Word と呼ばれているようです)で表現してます。
ブラックなホワイト社会 (Spoken Groove)
英語版のBlack in White Society (The Ethics of Existence)を日本語で表現したバージョンです。日本では Spoken Wordという音楽ジャンルが、まだ、あまり知られていないようです。このアルバムが日本における Spoken Word その名も 「Spoken Groove」 として広がる、きっかけとなることを夢みています。
Pseudo Defeat 擬似敗戦 Side A
連載「擬似敗戦」の各章をモチーフに日本語版 Spoken Word すなわち Spoken Groove として表現しました。
Pseudo Defeat 擬似敗戦 Side B
Pseudo Defeat 擬似敗戦 Side A の歌詞を、そのまま、ジャズファンク・テイストの J-Pop 調(名付けてJ-Fank)で表現。
Institutional Defeat I (制度敗戦Ⅰ)
連載「制度敗戦I」の各章の世界をFankで楽しむ。
絶滅の巨人 The Extinction of Titans
NAMAKEMONお馴染みのFankが、AOR風、Afro Cuban風、Latin Jazz風に変態。NOTE連載「絶滅の巨人」の各章を音楽に変換。
究極の生存戦略 ― ナマケモノが問いかける進化の意味 THE ULTIMATE SURVIVAL STRAATEGY
月刊ナマケもんユニバース(旧月刊ナマケもんマガジン)の創刊号から2月号まで、6ヶ月間連載のコラムの各月(各章)ごとのモチーフを音楽にしました。
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