第181話 新・姥捨山
むかしむかし信濃の国筑摩郡の殿様が還暦を過ぎた老人は山に棄てなけれならない、というお触れを出した。
飢饉の時に緊急避難で自発的に領民が行っていた非情な行為を追認したのである。
備蓄した余剰米を放出したり、お助け米の炊き出しや種籾の低利息貸し付けを行ってきたが、藩財政が限界に来てしまったのだ。
姥捨サービスエリアの近くに太郎という男が母親と2人で暮らしていた。
母親が六十を過ぎたので山に捨てに行ったが、忍びずに家に連れ帰り、近所に見つからなように床下に穴を掘り、隠して世話していた。
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太郎の元に殿様から呼び出しの差し紙が来る。
これまでの隣国からの難問解決の功を嘉みし苗字帯刀を差し許し村役人に登用の上、褒賞を取らせる、という誠に有難いお達しである。
太郎にとって待ちに待った千載一遇の機会である。
お城に伺候した太郎は、お白州に土下座して気力を振り絞って殿様に申し上げる。
「今まで隣国からの難問を解決したのはやつがれではなく、我が母にて御座りまする。
年寄りの智慧は国の宝でございます。
何卒、還暦となりました年寄りを捨つるお触れをお取り下げくだされたく、伏してお願い申し上げ奉りますぅ」
太郎には絶対の自信があった。
しかし、殿様の応えは太郎の目論見を大きく外れたものであった。
「触れに叛き還暦を過ぎた母親を匿いたるは誠にもって不届千万。万死に値する僻事なり。
よって死罪申し付けるものなり。
されど、今までの功に鑑み罪一等を減じ土地家財一切を収公し本百姓から下人に堕とし庄屋預かりとする」
※この辺の用語については白土三平の「カムイ伝」を参照されたい。
更に
「母親は改めて山に捨つるよう屹度申しつける」
太郎は慌てて殿様に申し上げる。
「お待ちくだされ。我が母を山に捨ててしまえば、これより後、隣国からの難問の返答はいかがいたしまするので御座いますかッ」
その時殿様少しも騒がず、懐中よりスマホを取り出し、太郎に突きつけて宣う。
「最近流行っておるAIがあるゆえ、隣国から蟻通しだろうが親子馬とか叩かぬ太鼓とか、どんな難問奇問が来ても一向にかまわんっ!
全てGro○とかC○○GPTが答えてくれるわ」
「生産性のない穀潰しの年寄りはさっさと山に捨ててしまえ」
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昭和の終わり頃、会計ソフトの導入により算盤の達人の経理事務員が要らなくなったように、人工知能に仕事を奪われる明日は、もう目の前に来ている。
知的労働者はもういらない。
残された仕事はエッセンシャルワーカーのみ、という未来はすぐそこかもしれない。
ちなみに露腸亭MkⅡはアラコキなので、この物語の舞台では山に捨てられて動物の餌となり骨も残っていない年齢だ。
しかしながら年金を受給して贅沢しなければ、のうのうと暮らしていける。
いい時代に生きていると思う。
最近旅行にいって長野自動車道を通った。
AIと長野県の地名からインスパイヤされたものであり、長野県と長野県民に対し含むところは一切無いことを念の為申し上げておく。
