「偏食」でも「拒食」でもない「食べられない子」に私が続けた小さな工夫【食べられなくなっていく日々⑤】
前回④で書いた通り、
栄養療法という方向からは
迷路の出口を見つけられなかった私は
次の手として
この問題をメンタルクリニックへ
持ち込むことにした。
漢方薬という選択
担当の先生に、食事量が減っていることを相談すると
「ストレスや不安からくる
喉のつかえ感に効く薬だけど
食欲にも効くかも」
と言って
半夏厚朴湯という漢方を処方してくれた。
漢方なら副作用も少ないだろう
という安心感もあり
すぐに飲み始めた。
私は同時に
密かな「暗示作戦」も決行した。
薬を飲ませるたびに
「これを飲んだら
ごはんに対する不安も少し減るよ」
と、毎回欠かさず言い続けた。
息子は薬を嫌がることなく飲んでくれた。
それだけは
ありがたかった。
でも、正直に言うと
効果は感じられなかった。
食事への消極的な様子は変わらず
「ごはん、いらない」
と断ることはむしろ増えていった。
「食べられない」は
漢方薬では変わらなかった。
ARFIDという言葉との出会い
食事量が減り続ける息子を見て
私はもう一度
メンタルクリニックで相談した。
そのとき先生の口から出た言葉が
「ARFIDの可能性があります」
だった。
ARFID(回避・制限性食物摂取症)
食べる量が極端に少なかったり、特定の味・食感・においを受け付けないことで、必要な栄養やエネルギーが摂れなくなる摂食障害の一種
それまで来る日も来る日も
同じような状況の食べられない人や
克服した人の情報はないか
ネットで検索しまくった。
「摂食障害」
「拒食症」
「食べない子」
「偏食」
思いつく限りの言葉で調べても
どれもしっくりこなかった。
息子は
「痩せたい」と思って
食べないわけではない。
好き嫌いが
極端に多いわけでもない。
ただ、食べられない。
その状態を表す言葉だけが
ずっと見つからなかった。
ARFIDという言葉を知って
調べていくうちに
ASDとの深い関連についても知った。
そしてようやく
息子の「食べられない」の輪郭が
見えてきた。
息子の場合は、こんなことが重なっていた。
感覚過敏で、料理の匂いが混ざると気持ち悪くなる。
過去に無理に食べて吐き気を感じた経験が、食べることへの恐怖になっていた。
「残したくない」「捨てたくない」という強いこだわりがある。
残すくらいなら、最初から食べない。
そういうことだった。
息子は食べることを
拒否していたわけではない。
食べることへの恐怖と
残すことへの罪悪感。
その間で動けなくなっていた。
そう考えると
それまでの息子の行動が
少しだけ理解できた気がした。
アリピプラゾール事件
ARFIDの可能性があるということで
アリピプラゾールが処方された。
その日の夜、さっそく飲ませた。
その夜中だった。
息子が何度も目を覚ます。
泣く。
トイレへ駆け込む。
吐きそうなのに吐けない。
嗚咽だけが続く。
結局その夜、4〜5回吐いた。
吐くものもなく
胃液のようなものだけが出ていた。
朝一番で調剤薬局へ電話した。
状況を説明すると、
「これ以上は飲ませず
病院が開いたら先生に確認してください」
と言われた。
開院時間になるのを待って
すぐ病院へ電話した。
先生の返事は一言だった。
「すぐに中止してください。」
また一つ、息子にトラウマが増えた。
そして私にも。
次の診察は一か月後。
できることは何もなく
ただ様子を見るしかないのか…
私はより不安になった。
薬でも変わらなかった。
というか、飲めなかった。
1ヶ月、指を咥えて
ただ待ってはいられない。
些細なことでも施策しよう、
ひと口でも多く食べてもらおう、
と躍起になった。
その結果
「朝は何も食べられない」
「給食は一口も食べられない」
「1食目が17時すぎ」
状態だった息子は、
少しずつ変わり始めた。
私がやったのは、特別な治療ではない。
食卓の並べ方。
声のかけ方。
おやつの選び方。
照明。
外食の仕方。
どれも小さなことばかりだった。
でも、その小さな工夫の積み重ねが
少しずつ息子の「食べられる」
を増やしてくれたように思う。
ここから先は、その中で実際に効果を感じた工夫を書いていく。
もちろん、
これが正解だとは思っていない。
ARFIDの重症度は人それぞれで、
経管栄養が必要なお子さんもいる。
だから、これは
「ARFIDの可能性を示唆された
我が家の息子の場合」の記録だ。
それでも、あの日の私のように
「何をしても食べてくれない」
と途方に暮れている誰かの
引き出しの一つになれたら、うれしい。
食卓を変えたら、
食べる量が変わった
最初に変えたのは、
食事そのものではなく食卓だった。
ここから先は
¥ 300
よろしければ応援よろしくお願いします。いただいたチップは、煩悩の母の「ヤケ酒」ならぬ「ヤケ菓子」代として使わせていただきます。
