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M&Aの買収価格、金利が上がったのに「相場5倍」のままだと買い手が損する件

事業承継やシナジー狙いで、初めて他社の買収を検討している。仲介会社から届いた資料に、こう書いてある。「御社が狙う先のEBITDAは1億円。相場は5倍ですから、企業価値は5億円ですね」。耳に心地よくて、わかりやすい。でも、ふと思うわけです。その「5倍」って、いつの相場なんだろう、と。

中小企業のM&Aで使われる倍率は、業種によって幅はありますが、おおむねEBITDAの3倍から5倍あたり。中小企業庁の委託調査では全国平均がだいたい5倍台というデータも出ています。仲介の担当者が「相場の5倍」と言うのは、ここから来ています。問題は、この倍率が出てきた頃の金利と、今の金利が、もう別物だということです。

日銀の政策金利は、2025年の暮れに0.75%まで引き上げられました。30年ぶりの水準です。市場の多くは、その先の利上げも織り込み始めている。ゼロ金利が当たり前だった頃に染みついた「相場5倍」を、金利のある世界にそのまま持ち込んでいいのか。ここが、今いちばん見落とされやすいところだと感じています。

なぜ金利が買収価格に効いてくるのか。ここでWACC(加重平均資本コスト)が出てきます。会社が銀行借入と株主のお金、その両方をどれくらいのコストで集めているか、を平均した数字です。DCF法という評価では、買う会社が将来生み出すお金を、このWACCで「割り引いて」今の価値に直します。

肝はここ。WACCの中には、借入金利と、株主が期待する利回りの両方が入っている。そして株主が期待する利回りは、リスクフリーレート、つまり国債の金利を出発点に積み上げます。だから政策金利や長期金利が上がると、借入コストも、株主の期待利回りも、両方つられて上がる。WACCは丸ごと押し上げられるわけです。

そして割引率が上がると、将来のお金の「今の価値」は小さくなる。あるシミュレーションでは、割引率が10%か50%かで、同じキャッシュフローでも企業価値が10億円と2億円に分かれてしまう。極端な例ですが、割引率という数字が評価をどれだけ動かすか、という怖さは伝わると思います。

これって、金利ではなく「前提の固着」の問題ですよね 💡

つまりこういうことなんです。「相場5倍」という倍率は、空から降ってきた絶対値ではない。低い金利、低いWACCという前提の上に、ぎりぎり成り立っていた数字です。前提が動いたのに、結論の倍率だけ昔のまま握りしめる。これが、金利上昇期のいちばん危ない高値づかみのかたちだと思っています。

逆に言えば、ここを自分で点検できる経営者は強い。「相場ですから」と言われたときに、「その相場、今の金利を入れて計算し直しましたか?」と一言返せる。それだけで、交渉のテーブルでの景色がまるで変わります。

まず、自分の会社のWACCを一回だけ手で出してみる ☕

ステップ1:自社の今の借入金利と、借入と自己資本のだいたいの比率を書き出してみてください。売上5億円規模の会社で、借入コスト2%、株主の期待利回り11%、資本構成が株主6割・借入4割なら、WACCはざっくり7%台。この「自分の数字」を一度持っておくだけで、相手の提示が高いか安いかの物差しができます。

ステップ2:買収を検討している先の利益が「何年で回収できるか」を、今の金利前提で見直してみる。倍率5倍は5年で回収する計算ですが、金利が乗った分だけ、現実の回収はもっとかかります。回収年数が体感より延びる感覚を、数字で掴んでおく。

ステップ3:仲介や金融機関の試算が出てきたら、「割引率はいくつで計算していますか」と必ず聞く。答えられない、あるいは昔のままの低い数字なら、その評価は前提が古い可能性があります。

完璧なWACCを出す必要はありません。一級の精度より、前提を疑える目のほうがずっと価値があります。金利が動いた今は、買い手にとってむしろチャンスです。前提を点検できる人だけが、適正なラインで、いい会社を手に入れられる。あなたの会社を、その側に置いてください 🙌

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ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

「ものづくりDX参謀」のhandyは、 中小企業診断士として経営の壁打ち相手も務めています。 新事業企画、投資判断、組織づくり—— 答えを出す前の「考える伴走」もご相談ください。

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