パナソニックが「数千人規模のPLM」を半年でクラウド移行した話を調べてみた
PLMって聞くと、製造業の方なら「ああ、あの重たいやつね」という反応になるんじゃないかと思う。
製品ライフサイクル管理。設計データから部品表から図面から、開発にまつわるあらゆる情報を一元管理するシステム。理屈としては素晴らしい。でも現実には、長年のカスタマイズが積み重なって「触ると何が壊れるかわからない」状態になっている会社、多いんじゃないだろうか。
そんな中、2024年7月にちょっと目を引くニュースが出た。パナソニック(パナソニック株式会社)がSiemensのクラウド型PLM「Teamcenter X」を大規模に導入すると発表した。しかもこれ、シーメンス日本法人の堀田社長によると「SaaSでの数千ユーザー規模の導入は世界で初めてのケース」らしい。
数千ユーザー。世界初。半年で導入。
この3つの数字が並んだだけで、製造業の情シス担当は胃がキュッとなると思う 😅
で、何がすごいかというと、パナソニックの決断のしかた。従来オンプレミスで構築していたカスタマイズをすべて廃止し、Teamcenter Xの標準機能に合わせて業務プロセスそのものを再構築した。「システムに業務を合わせる」という、言葉にすると簡単だけど現場では猛烈に摩擦が起きるやつ。
社内で「今までのやり方でいいじゃん」「なんでExcelじゃダメなの」という声がゼロだったわけがない。PLMの導入あるあるで、新システムへの移行時に現場の設計者が抵抗感を示し、旧システムやExcelの使用を続けるケースは珍しくない。
ここで面白いのが、パナソニックのアプローチの二段構え。標準機能でカバーできない帳票類のような領域は、Siemens傘下のローコードツール「Mendix」を使ってクラウド上のアプリケーションとして開発した。Teamcenter X本体にはコードを書き足さず、データの入出力だけでつなぐ。だから本体側にバージョンアップがあっても、カスタマイズ部分が壊れるリスクが小さい。
これ、中小企業の経営者にも刺さるポイントだと思う。
大企業のPLMの話でしょ、と思うかもしれない。でも構造は同じ。うちの会社のあのシステム、10年前の担当者がゴリゴリにカスタマイズして、その人が辞めて、誰もコードを読めなくて、バージョンアップのたびにベンダーに大金を払って……という状況、規模に関係なく起きている。
パナソニックの動きの背景には「PX(Panasonic Transformation)」というグループ全体のDX戦略がある。パナソニックCIOの宮崎秀征氏は、クラウドへの移行とデジタルスレッドの採用によって市場競争力と企業価値を高めると説明している。
ただ、パナソニックのCIOがそう言えるのは、トップが「標準機能に合わせる。例外は認めない」と腹をくくったからだと思う。パナソニックHDの玉置CIOも以前の講演で、変革の足かせはITシステムだけでなく、組織やマインドセット、プロセスのレガシーだと指摘していた。
ここが一番しんどいところだと思う。
ツールの選定よりも、ベンダーとの交渉よりも、「うちのやり方を変える」と現場に言う瞬間が。
製造業の50%以上がPLMのクラウド移行を検討している、というデータもある(PTC調べ)。PLM導入の検討軸は「なぜクラウドなのか」から「いつ、どのように導入するか」に移りつつある段階。
「入れるかどうか」の時代はもう終わっていて、「どう入れるか」のフェーズに来ている。
パナソニックの事例から中小企業が持ち帰れるヒントがあるとすれば、「カスタマイズを捨てる勇気」と「足りない部分はローコードで軽く埋める」というこの二段構えの考え方なんじゃないかと思う。全部を完璧に作り込もうとすると、永遠に移行は終わらない。
Siemens全体でもクラウドのARR(年間経常収益)比率は2022年の9%から2024年には37%まで伸びている。ベンダー側もクラウドに本気で舵を切っている以上、オンプレミスに残り続けるコストは今後じわじわ上がっていく。
完璧なタイミングなんて永遠に来ない。パナソニックほどの巨大組織が半年で動けたんだから、身軽な中小企業にできないはずがない。そう思いたい 📝
