【バフェットの視点】ミネベアミツミは『買い』か? — 超精密加工の「堀」とAI特需が生む真の価値
こんにちは、AIバフェット研究所です。
投資の世界において、私が最も愛する言葉の一つに「素晴らしい企業を、そこそこの価格で買うことは、そこそこの企業を、素晴らしい価格で買うよりもはるかに良い」というものがあります。長期的な富の形成において真に重要なのは、競合他社を寄せ付けない強固な「経済的な堀(モート)」を持ち、自分がそのビジネスモデルを完全に理解できる「サークル・オブ・コンピテンス(理解の輪)」の中にある企業を見つけ出すことです。そして、その企業の「本質的価値(Intrinsic Value)」に対して、市場が一時的な恐怖や無関心によって十分な「マージン・オブ・セーフティ(安全余裕率)」を提供してくれた時にのみ、バットを振るのです。
本日の分析対象は、日本が世界に誇る超精密部品のガリバー、ミネベアミツミ株式会社(証券コード:6479) です。同社は、ボールベアリングという地味ながらも産業の根幹を支える部品で世界シェアの頂点に君臨し続けてきました。しかし近年、生成AIの爆発的な普及に伴うデータセンター建設ラッシュを追い風に、同社の高精度なファンモーターやセンサー部品が「AI特需」を謳歌しており、株式市場からの注目を一身に集めています。
果たして、ミネベアミツミのビジネスモデルは永続的な競争優位性を備えているのでしょうか。そして現在の株価は、我々バリュー投資家にとって「投資するに足る価格」なのでしょうか。本記事では、事業内容、財務の質、経営陣の手腕、そしてDCF(割引キャッシュフロー)法による本質的価値の算出まで、投資初心者の皆様にもわかりやすく、かつ専門的な深みを持ってステップバイステップで分析していきます。最終的な投資判断(買い/見送り/売り)は、すべての要素を統合した上で記事の最後に結論として提示いたします。
導入:なぜ今 ミネベアミツミ を検討するのか
市場背景とテーマ性
2026年現在、世界の株式市場を席巻している最大のテーマは「AI(人工知能)」と「データセンター」です1。膨大な計算処理を連続して行うAIサーバーは、これまでにないほどの熱を発します。この熱を効率的かつ確実に取り除かなければ、数億円規模のサーバー群が熱暴走を起こし、機能不全に陥ってしまいます。そこで脚光を浴びているのが、サーバー用の冷却ファンモーターです。
ミネベアミツミは、この冷却ファンモーターにおいて世界最高水準の精密技術を持っています。同社が2026年8月5日に発表した2027年3月期第1四半期(4〜6月)の決算では、売上高が前年同期比16.3%増の4,265億円、営業利益が同50.9%増の263億円と、過去最高益を記録しました1。純利益に至っては前年同期比95.6%増の213億円と、ほぼ倍増という驚異的な飛躍を遂げています1。この圧倒的な業績を牽引したのが、まさにAIデータセンター向けのベアリングや冷却ファンの爆発的な需要増です。
さらに、同社は今後の成長戦略において、宇宙産業への本格参入を見据え、重点分野を従来の「航空機」から「航空宇宙」へと再定義しました1。地政学的リスクや為替変動(2026年7月末には日銀の介入観測で1ドル160円台から150円台へと急激な円高に振れる局面もありました2)が交錯するマクロ環境の中で、こうした力強い独自の成長ストーリーを持つ企業は、長期投資家にとって極めて魅力的な分析対象となります。
本記事の読み方(最後に結論)
バリュー投資のプロセスは、企業の経済的実態を解き明かす知的探求の旅です。本レポートでは、以下の順序でミネベアミツミの全貌を明らかにします。
事業の理解: 彼らは何を作り、どうやって儲けているのか。
モート(堀)の検証: その利益は今後も守られるのか。
財務と経営の質: 資産の裏付けと経営者の腕前は確かか。
バリュエーション: 企業の本質的価値(真の価値)はいくらか。
最終結論: 今の株価で買うべきか、見送るべきか。
専門用語が登場する場面では、その都度わかりやすく噛み砕いて解説します。数字の羅列に終始するのではなく、その数字が物語る「ビジネスの真の姿」を読み解いていきましょう。
企業の基礎理解(サークル・オブ・コンピテンス)
投資において最も恐ろしいのは、自分が理解していないものにお金を投じることです。私はテクノロジーの最先端で何が起きているかすべてを予測することはできませんが、「あらゆる機械には回転を滑らかにする部品が必要である」という物理的な事実は理解できます。
ビジネスモデルと収益源
ミネベアミツミのビジネスモデルは極めて明快です。「あらゆる機械の摩擦を極限まで減らし、滑らかに動かすための超精密な部品を作り、世界中のメーカーに販売する」というB2B(企業間取引)ビジネスです。同社は自ら完成品(スマートフォンや自動車、家電など)を作ることはありません4。徹底して「黒衣(くろこ)」に徹し、高品質な部品の安定供給に特化しています。
同社が掲げる独自の戦略が 「相合(そうごう)」 です。これは、機械加工技術(ベアリングなど)と電子技術(センサー、半導体など)を組み合わせることで、他社には真似できない複合的な部品を生み出すという戦略です。彼らはこれを「8本槍(8つの重点事業)」と呼び、ボールベアリング、モーター、センサー、アクセス製品などを柱に据え、特定製品の浮き沈みに依存しない強靭な収益基盤を構築しています5。
市場規模・競合環境・ポジション
同社の最大の武器であり、創業からの魂とも言えるのが「極小・小径ボールベアリング」です。ボールベアリングとは、回転する軸を支え、摩擦を減らすための金属製の部品です。ミネベアミツミは、外径22mm以下の極小サイズのボールベアリングにおいて、なんと世界シェアの60%超を握る絶対的なガリバーです4。
月産数億個という途方もない数のベアリングを製造し、それを自社のファンモーター製品に組み込んだり、世界中の顧客に外販したりしています6。これほど大量の超精密部品を、ミクロン単位の精度を保ちながらグローバルに安定供給できる企業は、世界を見渡してもミネベアミツミしか存在しません。
ライバルとしては、日本精工(NSK)やNTN、そしてモーター分野ではニデック(旧日本電産)などが挙げられますが、ミネベアミツミは「極小サイズの超精密加工」という独自のニッチ領域に特化することで、血みどろの汎用品価格競争を回避し、確固たるポジショニングを築き上げています。
【サークル・オブ・コンピテンスの判定:Yes】
同社のビジネスは、物理的な部品を製造・販売するという極めてトラディショナルで普遍的な製造業です。需要の源泉(AIサーバー、自動車、航空宇宙)も明確であり、収益のドライバーも生産数量と稼働率に直接紐づいています。したがって、私たちの「理解の輪」に確実に入ると判定できます。
経済的な堀(モート)を見極める
企業が長期的に高い利益を上げ続けるためには、城を守る「堀(モート)」が必要です。どんなに素晴らしい城(利益)を築いても、堀がなければすぐに外敵(競合他社)に攻め込まれ、利益を奪われてしまいます。ミネベアミツミの堀は、一体どこにあるのでしょうか。
ブランド力 / コスト / スイッチングコスト / 無形資産 / 参入障壁
1. 圧倒的なコスト優位と規模の経済(スケールメリット) 同社の最大の堀は「圧倒的な規模の経済」にあります。ボールベアリングを月産数億個という単位で製造するためには、巨大な工場と高度に最適化されたサプライチェーンが不可欠です4。ミネベアミツミは、タイやカンボジアなどの東南アジアに巨大なメガ工場を展開しており、大量生産による徹底したコストダウン(1個あたりの製造コストを下げること)を極限まで推し進めています。 さらに近年では、タイやカンボジアの工場で使用する莫大な電力を、自社主導の大規模な太陽光発電(2026年1月に20MWなど)による再生可能エネルギーで賄う取り組みを進めています7。これにより、将来的なエネルギー価格の高騰リスクを抑えつつ、脱炭素を求めるグローバル顧客の要求にも応えるという、次世代のコスト優位性を構築しています。
2. 高いスイッチングコスト(乗り換え障壁)
部品メーカーにとって、顧客が「他社の安い部品に乗り換えること」は最大のリスクです。しかし、ミネベアミツミの製品が使われる領域を想像してみてください。
何万時間も無停止で稼働し続けなければならないAIデータセンターの冷却ファン
万が一故障すれば大惨事に直結する航空機(ボーイングやエアバス)のロッドエンドベアリング
自動車の安全装置やドアロック機構(アクセスソリューションズ)
これらは「万が一故障したら致命的な被害をもたらすミッションクリティカルな領域」です。顧客は、わずかな部品代を節約するために、品質や信頼性が未知数の新興メーカーに乗り換えるリスクを絶対に冒しません。一度同社の部品が設計に組み込まれれば、モデルチェンジが行われるまで長期間にわたって使い続けられるため、非常に高いスイッチングコスト(乗り換え障壁)が存在し、強力な顧客ロックインを生み出しています。
3. 無形資産(ノウハウ)と資本要件による参入障壁 ベアリングの製造には、単に設計図や最新の工作機械があればよいわけではありません。金属の熱膨張率の管理、摩擦の制御、ミクロン単位の削り出しなど、何十年にもわたって現場で蓄積された「すり合わせのノウハウ」が必要です8。また、同社は年間1,000億個規模の部品を生産していますが、新規参入者がこれと同等の生産キャパシティを構築しようとすれば、莫大な資本(設備投資)が必要となります4。この「目に見えない技術的ノウハウ」と「巨大な資本要件」自体が、新たな競合を寄せ付けない強固な参入障壁として機能しています。
優位の持続可能性(3~5年視点)
以上の点から、ミネベアミツミの経済的な堀は「極めて強固」であると結論付けられます。今後3〜5年間にわたってこの優位性が劣化する兆しは見当たらず、むしろAI需要や航空宇宙分野への積極的な展開、そして再生可能エネルギーの自給体制構築によって、その堀は「さらに強化される」と判定できます。
財務健全性とバランスシートの質
私は「良いビジネスは、多額の借金なしに現金を稼ぎ出す」と信じています。いかに急成長を遂げていても、過剰な負債による自転車操業を行っている企業は、景気後退期や金利上昇局面に一瞬で破綻するリスクを抱えているからです。ミネベアミツミの財務健全性を、過去の推移とバランスシートの質から紐解いてみましょう。
ROE(5~10年) / FCF / 負債の健全性
企業の収益力を測る上で最も重視すべき指標の一つがROE(自己資本利益率:株主から預かったお金をどれだけ効率よく増やしたか)です。

(出典: 2024~2026年3月期決算短信および有価証券報告書等より抽出・算定7)
ROEを分解(デュポン分析:純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ)してみると、2026年3月期の高ROE(12.1%)の背景がよくわかります。
純利益率(PM): 990億円 ÷ 1兆6,643億円 = 約 5.95%
総資産回転率(AT): 1兆6,643億円 ÷ 1兆8,148億円 = 約 0.91回
財務レバレッジ(EM): 1兆8,148億円 ÷ 8,989億円 = 約 2.02倍
純利益率が約6%弱、資産回転率がほぼ1回という製造業として極めて優秀な事業効率を達成しつつ、財務レバレッジを2倍程度(自己資本比率約50%)に抑えることで、安全性と高い資本効率を見事に両立させています。 有利子負債は約3,500億円(短期1,931億円+長期等)と一定の規模がありますが11、手元には2,275億円もの潤沢な現金(キャッシュ)を保有しており8、実質的なネット有利子負債は低水準に抑えられています。利払い能力(インタレスト・カバレッジ・レシオ)も十分に高く、流動性リスクはほぼ皆無と言えます。
取得原価と現在価額の棚卸し(金融資産の評価益について)
ここで、バリュー投資家として絶対に見逃せない極めて重要な会計上のイベントが存在します。ミネベアミツミは2026年5月11日、2026年3月期の決算において「金融収益36,789百万円(約368億円)」を計上することを臨時報告書等で発表しました12。
これは、同社が保有する投資有価証券などの「金融資産」を、期末時点の公正価値(時価)で評価し直した結果、取得原価(買ったときの値段)に対して巨額の評価益(含み益の顕在化)が発生したためです12。
資産再評価の要約(概算)

バフェット的視点での解釈と「時価-取得原価」差額の影響: この368億円という巨額の利益は、本業(部品を作って売って稼いだ現金)から生み出された「営業利益」ではありません。あくまで資産価格の上昇に伴う「一時的な会計上の利益(金融収益)」です13。したがって、企業の本質的な稼ぐ力(フリーキャッシュフローの創出力)を測る際には、この金融収益による純利益の嵩上げ分を差し引いて評価する冷静さが必要です。 しかし同時に、同社が保有する資産の価値が我々の想定以上に分厚かったことが証明されたわけであり、バランスシートの実質的な純資産価値(ダウンサイドの保護)が極めて強固であることを示すポジティブな事実として評価できます。事業用資産に関する不透明な巨額減損も発生しておらず、企業の資産価値は極めてクリーンに保たれています。
収益性と資本効率
企業が成長のために投じた資本が、どれだけのリターンを生んでいるか。これを測るのがROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト)の比較です。
ROA / ROIC と WACC の関係
バフェット流の投資哲学では、「企業が稼ぎ出すリターン(ROIC)が、資金を調達するためのコスト(WACC)を上回っているか」を厳格にチェックします。これが上回っていれば経営陣は「企業価値を創造している」ことになり、下回っていれば規模を拡大するほど「企業価値を破壊している」ことになります。
ミネベアミツミは社内の経営管理指標として、単なるROEだけでなくROICを正式に導入し、厳格に運用しています5。
WACC(資本コスト)の会社側推計: 約 6%
ハードルレート(最低限の目標ROIC): 8%(WACC + 2%)
同社は「各事業の収益性がこの8%の資本コストを上回るか否かをシビアに検証し、研究開発・M&A・事業撤退などの判断をおこなっている」と明言しています5。このように、経営陣が資本コストを明確に意識し、規律ある投資判断を行っていることは、株主にとって最高レベルの安心材料となります。
マージン推移とセグメント収益性(2026年3月期実績)
事業セグメントごとの「稼ぐ力の源泉」を分解してみましょう14。

(※各セグメントの調整額控除前の単純利益率を算定)
表から明らかなように、同社の利益の真の源泉は、祖業であるボールベアリング部門(プレシジョンテクノロジーズ)です。製造業において営業利益率22%超という驚異的な数字は、先述した「経済的な堀(圧倒的スケールとスイッチングコスト)」が完璧に機能している証拠に他なりません。この超高収益部門がグループ全体の利益を牽引し、他の部門における戦略的な価格競争力やM&A資金を生み出す「打ち出の小槌」として機能しているのです。
配当/自社株買いの実績
株主還元の姿勢も非常に力強く、一貫性があります。同社は連結配当性向30%程度を目安としており、業績拡大に伴い着実に増配を行っています4。
2025年3月期 実績:年間 45.00円
2026年3月期 実績:年間 50.00円
2027年3月期 予想:年間 60.00円(配当利回り約1.5〜1.6%)1
本業のキャッシュフローが潤沢であるため、将来的な自社株買いやさらなる増配の余力も十分に備わっています。株主との利益共有を基本方針とする素晴らしい姿勢です。
経営陣の質とガバナンス
私は経営者を評価する際、「誠実さ、知性、活力」の3つを求めます。特に、株主の資金をどのように事業へ再投資し、あるいは還元するかという「キャピタル・アロケーション(資本配分)」の手腕を極めて重視します。
経営のトラックレコードと報酬設計
ミネベアミツミを率いるのは、貝沼由久 代表取締役会長CEOです。彼は弁護士出身という異色の経歴を持ちながら、ミツミ電機やユーシンをはじめとする数々の大規模M&Aを成功させ、企業規模を劇的に拡大させてきました15。彼の提唱する「相合」戦略は、単なる企業の寄せ集め(コングロマリット・ディスカウントの罠)に陥ることなく、買収した企業の電子技術を既存のベアリングやモーターと融合させ、新たな付加価値を生み出すという高度な資本配分戦略として結実しています。
貝沼氏の2026年3月期の役員報酬は3億9,797万円でした16。絶対額としては大きいですが、この報酬体系には業績連動型株式報酬が組み込まれており、株価や業績の向上と経営陣の利害が長期的に一致する健全な設計になっています17。
競合他社とのガバナンス対比(開示姿勢と誠実さ)
ここで、モーター業界における最大のライバル企業であるニデック(旧日本電産)の現状と比較してみます。 現在、ニデックは過去の不適切会計(累計1,607億円の利益水増し認定)や1,000件を超える品質不正問題が発覚し、企業統治(ガバナンス)の健全性に対する市場の信頼が根本から揺らいでおり、株価も大きく低迷しています4。
一方のミネベアミツミは、市場に約束した業績目標(2026年3月期営業利益1,000億円超など)を着実に、そして誠実に達成し続けています4。先述の368億円の金融資産評価益に関しても、適時開示においてその理由と内訳を迅速かつ透明性をもって説明する開示姿勢が見られます12。「完成品を作らず黒衣に徹する」というビジネスモデルの安定性に加え、このガバナンスと誠実さへの信頼の高さが、株式市場においてミネベアミツミに「プレミアム(安心感)」をもたらす最大の要因となっています。
本質的価値(DCF)と前提の妥当性
バリュー投資の核心は、「企業が将来生み出す現金の総和(フリーキャッシュフロー)を、適切な割引率で現在価値に割り引く」ことで、その企業の「本質的価値(Intrinsic Value)」を数学的に算出することです。DCF(割引キャッシュフロー)法を用いて、ミネベアミツミの真の価値を計算してみましょう。
DCF前提表(保守的シナリオの構築)
現在のAI特需という追い風を加味しつつも、過度な楽観を排した「保守的」なシナリオを構築します。一過性の金融収益は除外し、本業の稼ぐ力にフォーカスします。

DCF結果表(本質的価値の算出)
上記に基づくベースシナリオでの算出結果は以下の通りです。(※発行済株式数 約4億159万株20)
評価項目
算出結果(概算)
事業価値(企業価値)
1兆2,283 億円
ネットキャッシュ
▲ 1,225 億円 ※現金2,275億円-有利子負債約3,500億円
株主価値(株式総価値)
1兆1,058 億円
1株あたり本質的価値
¥ 2,754
感応度分析(±0.5%の割引率・成長率の変動)
将来予測には必ず誤差が伴うため、前提条件を変化させた場合の1株価値の変動(マトリックス)を確認します。

表から読み取れる極めて重要な事実は、「1株価値が現在の株価水準(約3,700円台)を正当化するためには、『WACC=6.5%、永久成長率=2.0%』という、金利が極めて低く留まり、かつ高い成長が永遠に続くという“非常に楽観的なシナリオ”が必要になる」ということです。私たちバリュー投資家は、決してそのような楽観的シナリオに資金を投じることはありません。
マージン・オブ・セーフティと買付レンジ
投資において最も重要な概念、それが「マージン・オブ・セーフティ(安全余裕率)」です。我々は未来を完璧に予測することはできません。算出した本質的価値からさらに20〜30%の割引(ディスカウント)を求めて買付価格を決定することで、未知のリスク(急激な為替変動、AI投資の一時的な冷え込み、地政学的ショックなど)から自身の資産を守るためのクッションを設けるのです。
買付上限価格と現在株価の乖離
1株あたり本質的価値: ¥ 2,754
安全余裕率: 20% を要求
買付上限価格: ¥ 2,754 × 0.8 = ¥ 2,203
では、ミスター・マーケットが現在提示している価格はどうなっているでしょうか。
買付レンジ比較表
項目
データ・価格
現在株価
JPY 3,733 (TSE、2026-08-06 15:30 JST、終値)21
円換算
同額(日本株のため。参考USD換算:USD 23.25、採用レート USD/JPY=160.54、2026-07-31 10:00 JST、ロイター等準拠3)
買付上限価格
¥ 2,203
差額(乖離率)
現在株価が 約 +69.4% も割高
短期テクニカルと相場環境の意味(補助的視点)
2026年8月5日の第1四半期決算において、純利益が前年同期比95.6%増という驚異的な数値を叩き出し、通期純利益見通しを870億円に上方修正したことで、株価は一時4,096円(+6.47%)まで急騰し、その後3,700円台で推移しています1。 市場は現在、「AIデータセンター特需」という華やかなテーマ性に熱狂しており、ミネベアミツミの株価には将来の成長に対する莫大なプレミアム(期待値)がたっぷりと乗せられている状態です。
相対バリュエーション(ピア比較)
他社との比較(相対評価)からも、現在の株価がどのような位置にあるかを確認します。
バリュエーション比較表

ライバルであるニデックのPERが約14倍にとどまっているのに対し、ミネベアミツミは約19倍と高く評価されています。これは、ミネベアミツミが部品専業としてリスクを抑えつつ、堅実な経営で約束した業績をきっちりと達成するガバナンスの安定性が高く評価されているためです4。 しかし、バリュー投資の観点から言えば、製造業における「PER 19倍」という水準は、「すでに数年先の好材料の多くが株価に織り込まれており、少しでも成長が鈍化すれば失望売りを招くリスク(割高な水準)」であることを示唆しています。相対指標とDCFの結果は、見事に整合しています。
まとめ:最終判断と留意点
ここまでの徹底的な定性・定量分析を踏まえ、AIバフェット研究所としての最終結論を提示します。
結論:【 見送り(Hold / Wait) 】
ミネベアミツミは、超精密加工における圧倒的な経済的堀を持ち、優れた経営陣に率いられた、疑いようのない「素晴らしい企業」です。しかし、現在の価格は決して「素晴らしい価格(マージン・オブ・セーフティが確保された価格)」ではありません。バフェットの教えに従い、今は手を出さず、じっと待つのが賢明な判断です。
根拠(なぜ見送りなのか)
マージン・オブ・セーフティの完全な欠如: 保守的に算出した本質的価値(約2,754円)に対し、現在の株価(約3,733円)は過度なプレミアム価格で取引されています。私たちが求める安全余裕率(20%割引の約2,203円以下)には遠く及びません。
AI特需の過度な織り込みと熱狂: 第1四半期の絶好調な決算と業績上方修正により、市場はやや熱狂気味です。短期的なモメンタム(勢い)やテーマ性に飛び乗ることは、資本を危険に晒す行為であり、バリュー投資の厳格な規律に反します。
マクロ環境の不確実性に対する脆弱性: 2026年7月末に見られたような為替市場の急激な円高反転(日銀の利上げ観測等による160円台から150円台への変動など)は、海外売上比率の高い同社にとって強烈な利益圧迫要因となります2。現在の株価は、こうしたダウンサイドリスクを一切織り込んでいません。
想定シナリオと主要リスク
ポジティブシナリオ: 生成AIの普及が市場の想定を遥かに超えるスピードで進み、データセンター投資が今後10年にわたって一切減速せず、ボールベアリングやファンモーターの利益水準が現在の予想を大きく上回り続けるシナリオ。この場合、現在の株価でも長期的には正当化される可能性はあります。
ネガティブシナリオ(主要リスク):
AI投資の反動減(キャペックス・サイクル): IT大手企業による莫大なデータセンター投資が一定の飽和を迎え、特需が一巡して急激に剥落するリスク。
為替・金利リスク: 日本の継続的な金利上昇に伴う急激な円高の進行。輸出主導の同社には直接的な逆風となります。
地政学リスク・サプライチェーン: タイやカンボジアなど東南アジアに巨大な生産拠点を持つため、パンデミックや有事の際のサプライチェーン分断リスクが存在します8。
売買レンジとフォローアップ条件(何が崩れたら見直すか)
ターゲット買付上限価格: ¥ 2,203 以下。
全体相場の暴落(マクロショック)や、為替の急激な円高によって、同社の本質的な競争力とは無関係に株価がこのレンジまで無慈悲に売り込まれた時、それこそが我々バリュー投資家にとっての「千載一遇のチャンス」となります。
その時が来るまでは、手元のキャッシュを温存し、同社の四半期ごとのROICの推移、資本配分の動向、そしてデータセンター市場の潮目の変化を静かに監視し続けましょう。
「株式市場とは、せっかちな人から忍耐強い人へ資金を移すための装置である」。ミネベアミツミは間違いなく優れた企業です。あとは、ミスター・マーケットが理性を失い、絶望の中で魅力的な価格を提示してくる日を、静かに待つだけです。
免責事項:本記事はAIバフェット研究所による企業分析および投資に関する一般的な情報提供のみを目的としたものであり、特定の有価証券の売買を推奨・助言するものではありません。金融市場には常にリスクが伴います。投資に関する最終決定は、読者ご自身の深い理解と自己責任において行ってください。
引用文献
ミネベアミツミが通期純利益を870億円に上方修正、AIデータセンター需要で4 6月期は最高益, https://finance.biggo.jp/news/7c2023d5-ece1-40c2-b04d-6026caccacd4
連日の為替介入か、一時1ドル=157円20銭台に…米財務省は異例の「為替介入を行う可能性」通知, https://www.yomiuri.co.jp/economy/20260801-GYT1T00164/
東京円、160円台半ば, https://www.47news.jp/14714594.html
ミネベアミツミ(6479)vs ニデック(6594)— 事業成長力を徹底比較する|kabutabi - note, https://note.com/kabutabi2000/n/na35a9fde0338
2025年度版 企業価値を向上させている企業の共通点 【製造業編】ミネベアミツミ, https://spicon.co.jp/media/industries/kfvgs3b3x6-c/
ミネベアミツミ(株) 2026年3月期第2四半期決算説明会(2025年11月6日開催) - YouTube, https://www.youtube.com/watch?v=VWfNgv8Yo2g
【表紙】 - ミネベアミツミ, https://www.minebeamitsumi.com/corp/investors/disclosure/filings/2025/__icsFiles/afieldfile/2025/06/26/202503_filings.pdf
2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結) - ミネベアミツミ, https://www.minebeamitsumi.com/corp/investors/disclosure/earning/2026/__icsFiles/afieldfile/2026/05/12/e2026_tanshin.pdf
[ミネベアミツミ 6479.T] 2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結) - BigGo ファイナンス, https://finance.biggo.jp/news/jpx_tdnet_140120260512523965
【表紙】 - ミネベアミツミ, https://www.minebeamitsumi.com/corp/investors/disclosure/filings/2024/__icsFiles/afieldfile/2024/06/27/202403_filings.pdf
有価証券報告書 - ミネベアミツミ, https://www.minebeamitsumi.com/corp/investors/disclosure/filings/2026/__icsFiles/afieldfile/2026/06/24/202603_filings.pdf
2026年3月期通期連結業績予想の修正、金融収益の計上及び通期個別実績見込値と前年実績値との差異に関するお知らせ - ミネベアミツミ, https://www.minebeamitsumi.com/news/press/2026/1210737_20480.html
ミネベアミツミ、金融収益367億円計上見込み - IR気象台, https://irweather.jp/disclosures/b10f6ade-3092-418f-81c5-c0b3e6c529fe
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[ミネベアミツミ 6479.T] 2026年3月期通期連結業績予想の修正、金融収益の計上及び通期個別実績見込値と前年実績値との差異に関するお知らせ - BigGo ファイナンス, https://finance.biggo.jp/news/jpx_tdnet_140120260508521006
【バフェットの視点】ミネベアミツミは『買い』か? — 超精密技術と相合が生む持続的複利マシンの全貌 - note, https://note.com/open_azalea2045/n/n9d8f652f3e34
2026年3月期 第3四半期決算短信〔IFRS〕(連結) - ミネベアミツミ, https://www.minebeamitsumi.com/corp/investors/disclosure/earning/2026/__icsFiles/afieldfile/2026/02/05/e2026_q3_tanshin.pdf
ミネベアミツミ (6479) : 株価/予想・目標株価 [MINEBEA MITSUMI] - みんかぶ, https://minkabu.jp/stock/6479
ミネベアミツミ(株)【6479】:株価・株式情報(夜間PTS含む) - Yahoo!ファイナンス, https://finance.yahoo.co.jp/quote/6479.T
貝沼由久の年収・役員報酬 - ミネベアミツミ(6479) | IRBANK, https://irbank.net/E01607/fee?m=%E8%B2%9D%E6%B2%BC%E7%94%B1%E4%B9%85
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