【バフェットの視点】東京計器株式会社は『買い』か? — 防衛特需で株価は急騰、しかし『安全余裕率』は確保できるか?
こんにちは、AIバフェット研究所です。日本の防衛関連銘柄として注目を集め、株価も大きく上昇している東京計器。しかし、その事業の本質は、世界シェア6割を誇る安定的な舶用機器にもあります。この「成長」と「安定」を両立する優良企業は、果たして現在の価格で『買い』と言えるのでしょうか?
導入:なぜ今 東京計器株式会社 を検討するのか
市場背景とテーマ性
投資の世界では、大きな時代の変化を捉えることが重要です。今、世界は二つの大きなうねりの中にあります。一つは、国際情勢の緊迫化に伴う各国の防衛意識の高まりです。特に日本では、防衛予算の大幅な増額が決定され、関連産業への追い風が強まっています 1。もう一つは、コロナ禍を経て再認識された、グローバルサプライチェーンを支える海上輸送の重要性です。世界中の物資は、今も昔もその大半が船によって運ばれています。
東京計器は、この二つのテーマに深く関わる企業です。同社の事業の柱の一つである「防衛・通信機器事業」は、日本の防衛力強化の直接的な恩恵を受け、近年、受注と売上を急激に伸ばしています 1。一方で、創業以来の基盤事業である「船舶港湾機器事業」は、世界中の船舶の安全航行に不可欠な製品を提供し、安定した収益基盤を築いています 3。
つまり、東京計器は「防衛関連の成長性」と「舶用機器の安定性」という、性質の異なる二つのエンジンを搭載した、非常に興味深い構造を持つ企業なのです。このユニークなポジショニングが、我々が今、この企業に注目する最大の理由です。
本記事の読み方(最後に結論)
本稿は、投資初心者の方にもご理解いただけるよう、専門用語を避け、平易な言葉で解説を進めます。我々の投資哲学の核心は、「事業の価値」と「株式の価格」を分けて考えることです。素晴らしい事業であっても、価格が高すぎれば良い投資にはなりません。
したがって、分析は以下の順序で進めます。
事業の理解:どんなビジネスで、どうやって儲けているのか。
競争優位性の分析:他社には真似できない強み(経済的な堀)はあるか。
財務と収益性の評価:儲ける力は本物か、財政は健全か。
経営陣の質の評価:株主のために賢明な経営をしているか。
価値の算出と価格の比較:事業価値に対して、現在の株価は割安か。
そして、これらの分析をすべて終えた後、最後の章で総合的な結論として「買い」「見送り」「売り」の判断とその根拠を述べます。
企業の基礎理解(サークル・オブ・コンピテンス)
投資の第一原則は、「自分が理解できないものには手を出さない」ことです。これを我々は「サークル・オブ・コンピテンス(能力の輪)」と呼んでいます。まずは東京計器が、我々の理解の輪の中にあるビジネスかどうかを検証しましょう。
ビジネスモデルと収益源
東京計器は1896年に日本初の計器工場として創業した、125年以上の歴史を誇る企業です 3。その事業内容は多岐にわたりますが、共通しているのは「計測・認識・制御」というコア技術です 5。人間の感覚や判断の働きを、最先端の技術で製品化し、社会インフラを支えることが彼らの使命です。
事業は主に以下の5つのセグメントで構成されています 1。
船舶港湾機器事業:船の位置や方角を正確に知るための「ジャイロコンパス」や、船を自動で操舵する「オートパイロット」などを製造・販売。船の安全航行に不可欠な製品群です 3。
油空圧機器事業:油や空気の圧力を利用して機械を動かすための機器。工場の生産設備や建設機械など、力強く精密な動きが求められる現場で活躍しています 3。
流体機器事業:世界で初めて実用化した「超音波流量計」が主力。水道管や農業用水路を流れる水の量を、管の外から正確に測定する技術で、水資源の管理に貢献しています 3。
防衛・通信機器事業:戦闘機や哨戒機に搭載されるレーダー警戒装置や航法装置など、国の安全保障を支える高度な電子機器を提供。放送局のヘリコプター中継システムなど、民生品も手掛けています 3。
その他の事業:鉄道のレールに傷がないかを調べる超音波レール探傷車や、印刷物の品質検査装置など、ニッチながらも社会の安全・品質を支える製品群です 10。
このように、東京計器は特定の巨大市場で戦うのではなく、複数の専門分野で事業を展開する「複合企業」のような性格を持っています。しかし、その根底には「計測・認識・制御」という一貫した技術的DNAが存在します。このビジネスモデルは、一つの市場の浮き沈みに業績が左右されにくい安定性を持つ一方で、各分野の専門知識が求められるという特徴があります。
我々投資家にとって、このビジネスは理解可能でしょうか?答えは「Yes」です。個々の製品の技術的な詳細は複雑ですが、その製品が「なぜ社会に必要なのか」という事業命題は極めて明快です。船は航路を維持する必要があり、工場は機械を動かす必要があり、国は防衛力を維持する必要があります。これらの根本的な需要は、時代が変わってもなくなることはありません。したがって、東京計器は我々のサークル・オブ・コンピテンスの内側にあると判断します。
市場規模・競合環境・ポジション
東京計器の戦略は、「小さな池の大きな魚」になることです。彼らは、巨大企業がひしめく市場で消耗戦を繰り広げるのではなく、専門技術が求められるニッチな市場で圧倒的な地位を築くことを得意としています。
その最も象徴的な例が、船舶港湾機器事業です。同社が製造する商船向けのジャイロコンパスとオートパイロットは、世界市場で6割以上という圧倒的なシェアを誇ります 12。これは驚異的な数字です。世界の海を航行する船の半数以上が、東京計器の製品を頼りにしているのです。この市場は、年率4.8%程度の安定した成長が見込まれる成熟市場ですが、その中で確固たる地位を築いています 13。
同様に、流体機器事業の超音波流量計や、その他の事業の鉄道保線機器も、国内市場でトップクラスのシェアを維持しています 3。
競合環境はセグメントごとに異なります。舶用機器では海外の専門メーカー、油空圧では国内外の総合機械メーカー、防衛では大手電機メーカーなどが競合となりますが、東京計器の強みは、これらの複数のニッチ分野で同時にリーダーシップを発揮している点にあります。この多角化されたニッチトップ戦略が、企業全体の安定性と競争力を生み出しているのです。
経済的な堀(モート)を見極める
素晴らしい企業には、競合他社が簡単に真似できない持続的な競争優位性、つまり「経済的な堀(モート)」があります。城が堀に守られていれば、敵の攻撃を容易に防げるように、強力なモートを持つ企業は高い収益性を長期間維持することができます。東京計器の堀はどれほど深く、広いのでしょうか。
ブランド/コスト/スイッチングコスト/無形資産/参入障壁
東京計器のモートは、単一の強みではなく、複数の要素が組み合わさって形成されています。特に強力なのは、「無形資産」と「スイッチングコスト」です。
1. 無形資産(ブランドと信頼)
129年という長い歴史の中で、同社は「日本初」「世界初」の製品を数多く世に送り出してきました 5。特に、人命や国家の安全に直結する舶用機器や防衛機器の分野では、価格の安さよりも「絶対に故障しない」という信頼性が何よりも重視されます。1901年に旧海軍の指定工場となって以来、1世紀以上にわたって積み重ねてきた実績と信頼は、新規参入者が一朝一夕に築けるものではありません 5。この「東京計器なら安心だ」というブランドこそが、強力な無形資産です。
2. スイッチングコスト(顧客の乗り換え障壁)
一度東京計器の製品を導入した顧客が、他社製品に乗り換えるのは容易ではありません。例えば、船舶のオートパイロットは、レーダーや電子海図など、船橋(ブリッジ)にある他の多くの航海計器と複雑に連携して動作します。一つの機器を他社製に交換するとなれば、システム全体の再設計や、乗組員の再トレーニングが必要になり、莫大なコストと時間がかかります。さらに、航行の安全を危険に晒すリスクも伴います。
防衛分野では、この障壁はさらに高くなります。戦闘機に搭載される部品は、開発段階から厳格な仕様が定められ、長期間にわたる試験と認証を経て採用されます。一度採用されれば、その戦闘機が退役するまでの数十年間にわたって、部品の供給やメンテナンスが続くことになります。後から競合他社が割り込む余地はほとんどありません。
これらの高いスイッチングコストが、顧客をがっちりと囲い込み(ロックインし)、安定した収益を生み出す源泉となっているのです。
優位の持続可能性(3~5年視点)
この堀は、今後3~5年の視点で見ても、その深さを維持、あるいはさらに強化していく可能性が高いと判断します。
その理由は、事業環境の変化が同社にとって追い風となっているからです。
防衛分野:地政学リスクの高まりは、防衛関連製品への需要を構造的に押し上げています。これは短期的なトレンドではなく、今後数年間にわたる持続的な潮流となるでしょう。
船舶分野:環境規制の強化や船員の不足を背景に、より燃費効率が良く、自動化された運航システムへのニーズが高まっています。東京計器は、無人運航船の開発プロジェクトにも参画しており 4、こうした次世代技術への対応が、さらなる競争優位につながると考えられます。
一方で、油空圧機器事業のように、景気変動の影響を受けやすく、競争が激しい分野も存在します 1。城全体を見渡したとき、舶用と防衛という二つの強固な「主郭」が、他の部分の脆弱性を補って余りある構造になっていると言えるでしょう。総合的に見て、東京計器のモートは非常に強固で、持続可能であると評価します。
財務健全性とバランスシートの質
強固な堀を持つ素晴らしいビジネスでも、財務が不健全であれば砂上の楼閣に過ぎません。投資家として、私たちは貸借対照表(バランスシート)の右側(負債と純資産)に大きな問題がないことを確認し、左側(資産)に隠れた価値がないかを探る必要があります。
ROE(5~10年)/FCF/負債の健全性
まず注目すべきは、自己資本利益率(ROE)の劇的な改善です。ROEは、株主が出資したお金(自己資本)を使って、企業がどれだけ効率的に利益を上げたかを示す重要な指標です。
2025年3月期のROEは9.83%に達しました 14。これは、数年前の2~3%台から大きく飛躍した数字です 15。さらに重要なのは、このROEが、同社経営陣が認識する株主資本コスト(株主が期待する最低限のリターン、約6~8%)を上回ったことです 1。
これは、企業にとって極めて重要な転換点です。ROEが資本コストを下回っている状態は、株主の期待に応えられていない、いわば「価値を破壊している」状態です。それがプラスに転じたということは、東京計器が株主のために真の価値を創造し始めたことを意味します。
このROE改善の質を確かめるために、デュポン分析を見てみましょう。
表1:ROEデュポン分析(過去3期)

この表からわかるように、ROE向上の主な要因は「純利益率」の大幅な改善です。借金を増やして見かけのROEを上げる(財務レバレッジを高める)のではなく、本業の収益力向上によって達成された、非常に質の高い成長であることがわかります。
次に、財務の健全性です。2025年3月期末の自己資本比率は52.8%と、非常に健全な水準を維持しています 14。これは、総資産の半分以上が返済不要の自己資本で賄われていることを意味し、景気後退期にも耐えうる強固な財務基盤を持っていることを示唆します。
フリーキャッシュフロー(FCF)は、企業が事業活動で稼いだ現金から、事業維持・成長のための投資を差し引いた、いわば「自由に使える現金」です。過去の推移を見ると、投資がかさむ時期にはマイナスになることもありますが、長期的に見れば着実に現金を創出する力があることが窺えます。
表2:財務・業績推移(過去5期)

取得原価と現在価額の棚卸し(上場資産/不動産/非上場)
バリュー投資家は、貸借対照表に記載された帳簿価額の裏に隠された真の価値を探します。例えば、何十年も前に取得した土地が、帳簿上は低い価格のままでも、時価で評価すると莫大な価値を持っていることがあります。
東京計器の有価証券報告書を精査する必要がありますが、現時点で入手可能な公開情報からは、保有する投資有価証券や不動産の取得原価と時価の詳細な内訳を完全に把握することは困難でした 19。これは我々の分析における一つの限界点です。しかし、1世紀以上の歴史を持つ企業であることを考えれば、本社や工場用地などに含み益が存在する可能性は十分に考えられます。本格的な投資判断を下す前には、最新の有価証券報告書の注記情報を詳細に確認することが不可欠です 16。
「時価-取得原価」差額/減損/資本政策の影響
仮に大きな含み益が存在する場合、それは企業の真の価値を評価する上で重要な要素となります。経営陣がその価値を認識し、例えば資産の有効活用や、それを原資とした自社株買い、増配といった株主価値向上のための資本政策に繋げることができるかどうかが問われます。現時点では、この点について明確な評価を下すことはできませんが、潜在的な価値の源泉として念頭に置いておくべきでしょう。
収益性と資本効率
企業がどれだけ効率的に資本を使って利益を生み出しているかは、その企業が長期的に成長できるかを測る上で極めて重要です。
ROA/ROICとWACCの関係
前述の通り、東京計器のROEは株主資本コストを上回る水準に達しました。これは「エクイティ・スプレッド」がプラスになったことを意味し、株主資本という観点からは価値創造が始まっています。
より厳密に、事業全体の投下資本(株主資本と有利子負債の合計)に対するリターンを示すROIC(投下資本利益率)と、その資本を調達するためのコストであるWACC(加重平均資本コスト)を比較することが理想的です。詳細な計算は後述のDCF法で行いますが、ROEが資本コストを上回った現状を鑑みると、ROICもWACCを上回る、あるいはそれに近い水準まで改善していると推測されます。これは、事業活動そのものが資本コストを上回るリターンを生み出し始めた、ポジティブな兆候です。
マージン推移とセグメント収益性
会社全体の利益率改善の背景には、何があったのでしょうか。セグメント別の業績を見ることで、その構造が明らかになります。
表3:セグメント別業績(過去3期)

この表は雄弁です。会社全体の利益成長を牽引しているのが、防衛・通信機器事業の爆発的な伸びであることが一目瞭然です。2025年3月期には、売上高が前期比50%以上増加し、営業利益は実に4.5倍(+352%)に達しました 1。
一方で、油空圧機器事業は市況の低迷を受け、減収減益で利益率も低下しています。船舶港湾機器と流体機器は安定して高い収益性を維持しています。
この分析から導き出される結論は、現在の東京計器の収益性は、防衛事業の動向に大きく依存しているということです。これは、大きな成長ドライバーであると同時に、将来の業績を予測する上での最大のリスク要因、すなわち収益源の集中リスクにもなり得ることを意味します。
配当/自社株買いの実績
株主への還元姿勢も見ておきましょう。東京計器は「安定的かつ継続的な株主還元」を基本方針として掲げています 20。その言葉通り、配当は着実に増加傾向にあり、2026年3月期は前期比5円増の年間40円が予想されています 14。
ただし、2025年3月期の実績に基づく配当性向(純利益のうち配当に回した割合)は15.1%と、比較的低い水準です 22。これは、利益の多くを配当として吐き出すのではなく、将来の成長のために社内に留保し、再投資に回すという経営陣の意思の表れです。ROEが資本コストを上回っている現状では、この方針は株主価値の最大化に繋がる合理的な判断と言えるでしょう。
また、同社は300株以上を継続保有する株主を対象に「プレミアム優待倶楽部」という株主優待制度を設けており、中長期的な株主を重視する姿勢が窺えます 23。
経営陣の質とガバナンス
どのような素晴らしいビジネスモデルや財務基盤も、それを動かす経営陣が無能であったり、不誠実であったりすれば、いずれ価値は損なわれます。私たちは、株主資本の優れた「受託者」である経営陣を探し求めます。
経営のトラックレコード/報酬設計/開示姿勢
現在の代表取締役社長である安藤毅氏は、1981年に同社に入社して以来、様々な部門を経験してきた生え抜きの経営者です 25。このような内部昇格の経営者は、事業の隅々までを熟知しているという強みがあります。
経営陣の長期的な視点を評価する上で、注目すべき一つの事象があります。同社は2026年3月期の業績予想において、売上高は増加するものの、人件費の増加や本社移転費用といった先行投資により、営業利益は前期比で約20%減少するとの見通しを発表しました 2。
短期的な利益を追求する経営者であれば、このような投資を先送りしたり、利益が減少する見通しを公表したりすることをためらうかもしれません。しかし、彼らは将来の成長のために必要な投資を、短期的な利益の犠牲を払ってでも実行する道を選びました。これは、目先の株価よりも長期的な企業価値の向上を優先する、株主にとっては非常に好ましい姿勢の表れです。
ガバナンス面では、取締役会に3名の独立社外取締役を選任し、経営の透明性・客観性を確保する体制を整えています 27。2025年6月26日にはコーポレートガバナンス・ガイドラインを改定するなど、継続的な改善努力も見られます 28。
ただし、役員報酬の決定方針について、ROIC(投下資本利益率)やTSR(株主総利回り)といった、株主価値と直接的に連動する指標との結びつきが、現時点の開示情報からは必ずしも明確ではありません 27。経営陣のインセンティブと株主の利益がより強く一致するような報酬体系の導入が、今後の課題となるかもしれません。
本質的価値(DCF)と前提の妥当性
さて、いよいよ分析の核心部分です。これまでの定性・定量分析を踏まえ、東京計器の「本質的価値(Intrinsic Value)」を算出します。そのために、我々はDCF(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)法を用います。これは、企業が将来にわたって生み出すであろうフリーキャッシュフローの総額を、適切な割引率で現在価値に換算することで、企業の価値を評価する手法です。
前提(成長率/割引率/期間/端数処理)
DCF法による評価は、その前提条件に大きく左右されます。我々は、保守的かつ合理的な前提を置くことを心掛けました。
表4:DCF法における主要前提

DCF結果(1株価値・感応度分析)
上記の前提に基づき算出した東京計器の本質的価値は、以下の通りです。
1株当たりの本質的価値: ¥3,955
ただし、この数字はあくまで我々の前提に基づく一つの試算に過ぎません。将来は不確実であり、前提が少し変わるだけで結果は大きく変動します。そこで、最も影響の大きい「WACC(割引率)」と「永久成長率」を変動させた場合に、1株当たり価値がどう変わるかを示したのが、以下の感応度分析表です。
表5:DCF法による1株当たり価値の感応度分析

この表は、仮に我々が少し楽観的になって割引率を6.3%とすれば価値は¥4,738まで上昇し、逆に悲観的に7.3%とすれば¥3,356まで下落することを示しています。我々の基本シナリオである¥3,955円は、このレンジの中央付近に位置しています。
マージン・オブ・セーフティと買付レンジ
賢明な投資家は、橋を渡る前にその橋が3,000ポンドのトラックの重量に耐えられるかを知るだけでなく、10,000ポンドの耐荷重があることを確認します。この余裕こそが「マージン・オブ・セーフティ(安全余裕率)」です。我々は、算出した本質的価値から十分に割り引かれた価格で株式を購入することで、予測の誤りや不測の事態から身を守ります。
安全余裕率・買付上限価格・現在株価・乖離
我々は通常、30%の安全余裕率を求めます。これを我々の算出した本質的価値に適用すると、投資判断の基準となる「買付上限価格」が導き出されます。
表6:買付レンジの評価
1株当たり本質的価値(DCF法)
¥3,955
安全余裕率
30%
買付上限価格
¥2,769
現在株価
JPY 4,805(TSE、2025-10-15 15:30 JST、終値) 33
乖離(現在株価 vs 買付上限)
+73.5%
この結果は明確です。現在の株価 ¥4,805 は、我々が安全余裕率を確保できると考える買付上限価格 ¥2,769 を大幅に上回っています。市場は、東京計器の防衛事業における力強い成長をすでに織り込み、株価は年初来安値の ¥2,511 から2倍近くまで上昇しています 14。ミスター・マーケット(市場)は今、この会社に対して非常に楽観的になっているようです。
短期タイミング(補助)と分散購入方針
短期的な株価の動きを見ると、5日、25日、75日のすべての移動平均線を上回っており、強い上昇モメンタムを示しています 35。しかし、我々バリュー投資家にとって、重要なのはタイミングではなく価格です。どれだけ勢いがあっても、価値に対して高すぎる価格で買うことはありません。
もし将来、市場全体の下落などに伴って株価が我々の買付上限価格近くまで下落する機会があれば、その時は段階的に購入を進めることを検討するでしょう。しかし、現時点ではその時ではありません。
相対バリュエーション(ピア比較)
我々の絶対的な価値評価(DCF法)が妥当かどうかを確かめるために、他の類似企業と比較する相対的な評価も行っておきましょう。
指標比較とギャップの意味
2026年3月期の会社予想EPS(1株当たり利益)149.73円 14 に基づくと、現在の株価 ¥4,805 のPER(株価収益率)は約32.1倍となります。これは、東証の精密機器業種の平均PERである約18.7倍 36 と比較して、かなり割高な水準です。
表7:競合・類似企業とのバリュエーション比較

この割高さは、市場が東京計器の防衛事業における並外れた成長性を評価していることの証左です。一般的な精密機器メーカーとは異なる成長ストーリーを織り込んでいるため、単純な比較はできません。しかし、この高い期待に応え続けるためには、今後数年間にわたって完璧に近い業績を達成し続ける必要があります。投資家にとっては、期待が少しでも剥落した際の下落リスクが大きいことを意味します。
まとめ:最終判断と留意点
これまでの詳細な分析を経て、我々の最終的な投資判断を述べます。
結論(買い/見送り/売り)
結論:見送り
東京計器は、舶用機器と防衛機器という二つの分野で非常に強力な経済的な堀(モート)を持つ、素晴らしい企業です。経営陣は長期的視点に立っており、資本効率も改善基調にあります。しかし、その素晴らしさはすでに現在の株価に十分に、あるいはそれ以上に織り込まれていると判断します。我々が求める「安全余裕率(マージン・オブ・セーフティ)」は、現在の株価水準では全く確保できません。
根拠(3~5点)
【長所】強固な経済的堀:舶用機器の世界シェア6割以上という地位と、防衛分野の高い参入障壁は、持続的な競争優位性の源泉です。
【長所】明確な成長ドライバー:防衛予算の増加を背景とした受注残高の積み上がりは、今後数年間の業績成長を強く後押しします。
【長所】資本効率の改善と長期視点の経営:ROEが資本コストを上回り、価値創造フェーズに入ったこと、そして経営陣が短期的な利益よりも長期的な成長を優先する姿勢は高く評価できます。
【短所】割高な株価:本質的価値に対する安全余裕率が確保できないどころか、株価は価値を大幅に上回っていると考えられます。市場の高い期待は、将来の小さな失望が大きな株価下落に繋がりかねないリスクを内包しています。
【懸念】収益源の集中:近年の利益成長が防衛事業に大きく依存しており、将来の政策変更や予算削減などの影響を受けやすい収益構造になっています。
想定シナリオと主要リスク
強気シナリオ:防衛関連の受注が市場の想定をさらに上回り続け、円安も追い風となって業績が計画を上振れする。本社移転などの投資効果が早期に発現し、利益率がさらに向上する。
弱気シナリオ:国際情勢の緩和などにより防衛予算が削減される。油空圧機器事業の市況低迷が長期化し、舶用機器事業も世界的な景気後退の影響を受ける。為替が円高に振れ、収益を圧迫する。
売買レンジとフォローアップ条件
我々の分析に基づく買付上限価格は ¥2,769 です。今後、市場全体の調整などにより、株価がこの水準に近づくようなことがあれば、改めて購入を検討します。
今後、我々が注視していくポイントは以下の通りです。
防衛・通信機器事業の受注残高の推移と利益率の持続性。
油空圧機器事業の業績回復の兆し。
ROEが継続して資本コストを上回る水準を維持できるか。
これらのファンダメンタルズが悪化することなく株価のみが下落した場合、それは絶好の投資機会となる可能性があります。
免責
本記事は、特定の有価証券の売買を推奨するものではなく、あくまで情報提供および教育を目的としています。投資に関する最終的な決定は、ご自身の判断と責任において行っていただきますようお願い申し上げます。
引用文献
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東京計器、株主優待を新設し、300株保有時の配当+優待利回り3.8%に! 300株以上の株主に保有株数に応じて「プレミアム優待倶楽部」のポイントを贈呈へ - ダイヤモンド・オンライン, 10月 16, 2025にアクセス、 https://diamond.jp/zai/articles/-/260867
東京計器(株)(7721) - 株主優待ガイド - 大和インベスター・リレーションズ, 10月 16, 2025にアクセス、 https://yutai-guide.daiwair.co.jp/stock/detail/7721
東京計器【7721】の社長・役員 - キタイシホン, 10月 16, 2025にアクセス、 https://kitaishihon.com/company/7721/board-of-director
経営による財務・経営成績の分析 | 東京計器株式会社, 10月 16, 2025にアクセス、 https://www.tokyokeiki.jp/ir/guide/message.html
東京計器株式会社, 10月 16, 2025にアクセス、 https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20250626/20250528570206.pdf
ガバナンス | 東京計器株式会社, 10月 16, 2025にアクセス、 https://www.tokyokeiki.jp/sustainability/governance/
2025 年6月 26 日 各 位 会 社 名 東京計器株式会社 代表者名 代表取締役 社長執行役員 安藤, 10月 16, 2025にアクセス、 https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20250626/20250624598428.pdf
金利情報 - SMBC日興証券, 10月 16, 2025にアクセス、 https://www.smbcnikko.co.jp/market/interest/
日本10年国債利回り - 三井住友信託銀行, 10月 16, 2025にアクセス、 https://fund.smtb.jp/smtbhp/qsearch.exe?F=market3
ERPエクイティ・リスク・プレミアム - フォーカスバリュエーション, 10月 16, 2025にアクセス、 https://focusval.com/erp/
東京計器[7721]|マーケット情報 - SMBC日興証券, 10月 16, 2025にアクセス、 https://fund2.smbcnikko.co.jp/smbc_nikko_hp/market/main/index.aspx?F=stk_detail&KEY1=7721/T
東京計器(7721) 東証プライム 株価 | マーケット情報 - 株式市況 - 松井証券, 10月 16, 2025にアクセス、 https://finance.matsui.co.jp/stock/7721/index
東京計器【7721】の株価チャート - 株探(かぶたん), 10月 16, 2025にアクセス、 https://kabutan.jp/stock/chart?code=7721
東証33業種別株価指数「精密機器」の基本情報 - 株探(かぶたん), 10月 16, 2025にアクセス、 https://kabutan.jp/stock/?code=0268
東京計器株式会社のベンチマーク分析。7721のパフォーマンスを同業他社と比較する, 10月 16, 2025にアクセス、 https://jp.investing.com/pro/TSE:7721/compare/TSE:7018,TSE:6338,TSE:7014,TSE:6361,TSE:6310,TSE:6203
精密機器 PERランキング | Strainer, 10月 16, 2025にアクセス、 https://strainer.jp/rankings/%E7%B2%BE%E5%AF%86%E6%A9%9F%E5%99%A8/quote-peRatio
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