ゆうキャラ劇場「帰るたび、少し泣いてしまう」
実家に帰省したあと、自宅に戻る途中で、必ず立ち寄る場所がある。
駅前にある、小さなタコ焼き屋。
昔からずっと同じ場所で、同級生の母親が一人でやっている店や。
「こんにちは」
「あらぁ、美咲ちゃんやん!えらい美人になってー。で、何歳なった?」
(半年前と同じセリフやん)
美咲「梨紗ちゃんと同級生やで」
おばちゃん「29やな」
美咲「ちがうで、30やで」
おばちゃん「えぇ!?もうそんななるん!?この前まで制服やったやん!」
美咲「それ何年前の記憶やねん(笑)」
いつもと同じやりとり。
変わらない声と、変わらない空気。
それが少しだけ、心をゆるめてくれる。
おばちゃん「ほな聞くけど、最後にドキドキしたんいつ?」
(えっ、真面目に答える?ちょっとボケる?)
美咲「私がまだ高校生やった時かな」
おばちゃん「なんや、初耳やな」
美咲「この店でバイトしててさ」
おばちゃん「なんや、山田くんがええんか?」
美咲「……(誰やねん)」
おばちゃん「ほら、毎日来てたやん。ソース抜きでマヨだけの子」
美咲「情報クセ強すぎて分からん(笑)」
おばちゃん「絶対ちょっと意識してたやろ」
美咲「してへんしてへん!」
おばちゃん「ほな続きは?」
美咲「……タコ入れ忘れた時あったやん。そのときな、ドキドキしたんよ」
おばちゃん「それ30点や」
美咲「え、まだオチ言うてへん!」
おばちゃん「見えたわ」
美咲「ほんまはな、怖なって正直に言うたんよ。タコ入れ忘れましたって」
おばちゃん「そやったなぁ」
美咲「めっちゃ怒られると思ったのに」
おばちゃん「あんたアホやなぁ〜言うて笑っただけやったな」
美咲「それが一番びっくりしたわ」
おばちゃん「ミスなんか誰でもするねん。でもな、ちゃんと言える方が大事や」
美咲「……あの時、ちょっと泣きそうやった」
おばちゃん「知ってるわ。顔ぐしゃぐしゃやったもん」
美咲「そこまでちゃうわ(笑)」
おばちゃん「でもな、あの時からやで。あんた、ちゃんとしてきたん」
美咲「そうなん?」
おばちゃん「この子は大丈夫やって思った日やな」
少しだけ、昔の空気が重なる。
笑ってるのに、どこか胸の奥があったかい。
おばちゃん「ほな、いつものな」
タコ焼きの香りが、変わらずそこにある。
美咲「この味や」
何回も食べてるのに、
ここで食べると少しだけ違って感じる。
おばちゃん「変わらんやろ?」
美咲「うん。変わらんな」
おばちゃん「変えへんようにしてるねん。帰ってきた時にここやって思えるように」
美咲「……そっか」
おばちゃん「ほな、また帰ってきぃ」
美咲「うん」
短い会話なのに、
なんか心の奥がほどけていく。
美咲「そろそろ帰るわ」
おばちゃん「気ぃつけてな。次はええ報告持ってきぃや」
美咲「それは保証できへん(笑)」
店を出る。
さっきまで笑ってたのに、
外の空気に触れた瞬間、少しだけ静かになる。
駅へ向かう帰り道。
ふと気づく。
あの店では、いつも昔の自分に戻れてしまう。
ちゃんとしてなくてもええ自分。
頑張ってない自分。
そのままの自分。
それでも受け入れてくれる場所が、ちゃんとある。
それだけで、なんか十分やなって思う。
気づいたら、少しだけ涙がにじんでいた。
寂しいわけでも、悲しいわけでもない。
ただ、
「帰れる場所があるって、思ってたよりずっと強いことなんやな」
そう思っただけやった。
美咲「……また来よ」
小さくつぶやいて、駅へ向かった。
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