掌編小説「売り物ですから」
18時の時報と共に、今日の仕事は片付いた。
今日は残業もなく、と言っても近頃は残業をしていると怒られる。
雄太は、身支度を整えると、帰る道とは反対の方角へ歩き始めた。
来週は付き合っている彼女の誕生日だ。欲しいものを聞いてはみたがうまくはぐらかされた。自分に見合うプレゼントを選ぶ資金もセンスもないと思っているのであろうか。間違いではないのだが……。
(こんなところに、こんなにこじゃれたお店があったんだ。俺ひとりなら絶対に見つからない店だ)
少し歩いていくと、会社の同僚おすすめの雑貨屋がみつかった。
木製の少し重めのドアを開けると、ドアベルが心地よく音を奏で出迎えてくれた。店内はさほど広くないが、雰囲気のある雑貨がセンス良くディスプレイされていた。
(ここなら、あいつが気に入るものをみつけることができるかも?)
運よく、店内にはだれもおらず貸し切り状態だった。レジ奥にいた店主らしい年配のご婦人がにっこりと微笑んだ。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「いや。ちょっとみせてもらっても?」
「はい。では、ごゆっくりと。何かあったら声をかけてくださいね」
雄太が店内をゆっくりと見回していると、どこからか視線を感じた。
なんと愛くるしいキジトラがこっちを向いてじっと座っているではないか。
(この店の看板猫かな?まだ、子猫かな?)
大の猫好きの雄太はそのネコにさわってみたくなって一歩近づいた。
その時だった。
「それ、売り物ですから」
先ほどのご婦人が声をかけてきた。
「えっ?売り物」
(この店は、生きたネコも売っているのか……)
訝し気に雄太はそのネコをもう一度みつめた。
婦人はふぅっと小さく息を吐いて呟いた。
「よくできているでしょ? みんな本物と間違えるのよ」
そう言われて、もう一度みつめた。ふわふわのフエルトでできたネコだった。深いグリーンの瞳が雄太をからかうようにキラッと光った。
雄太は迷わず、そのネコを連れ帰ることにした。彼女へのプレゼントはまた後日選べばいい。
今日は本物そっくりのネコと「運命の出会い」をした。
それだけで十分だった。

いつもお世話になっている甘野さんの「アマノ文筆クラブ」
に初めてお題で挑戦してみました。
今回のお題は ”売り物ですから”
色々と挑戦して、筆力を上げたい・・・
2025年の秋です。
~お読みいただきありがとうございました~
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