元キーエンス営業が起業を決意した理由と迷い

導入:安定と挑戦の間で揺れた日々

私はキーエンスで営業として働き、全国1位を獲得した経験を持つ。給与は安定し、社内評価も高い。周囲から見れば、わざわざリスクを背負って環境を変える理由はないように見えていただろう。家族や友人からも「辞めるなんてもったいない」「そのまま出世すればいいじゃないか」と何度も言われた。

しかし、心の奥底では小さな違和感が膨らみ続けていた。「今、自分が追いかけている数字は誰のためのものなのか」。結果を出せば会社は喜び、上司も評価してくれる。だが、その数字が本当に顧客の未来を良くしているのか、自分のやりたいことに直結しているのかと考えると、答えははっきりしなかった。


迷いを決定づけた出来事

ある日、大手メーカーへの商談で、私が提案した計測機器が採用されることになった。その機器は顧客の業務効率を大幅に改善し、作業時間を数十時間単位で削減できるものだった。私は、これで現場が楽になり、生産性も上がり、働く人の負担が減ると確信していた。

納品後、顧客から「助かったよ、これでかなり楽になる」という一言を期待していたが、実際には形式的な挨拶程度で終わった。そして社内に戻ると、上司や同僚の反応は「これで来期の数字が読めるな」「大型案件が取れたからランキングも安泰だな」というものだった。

もちろん数字は営業にとって最重要だ。しかし、その瞬間、私ははっきりと感じた。「数字は大事だけど、それだけを追いかける営業人生は空っぽになる」。この感覚が、私の心の奥にあった違和感を一気に表面化させた。


起業準備の日々

この出来事を境に、私は本気で「数字と価値の両方を追える営業」を実現したいと思うようになった。すぐに辞表を出すことはせず、夜や休日を使って営業支援事業の構想を練り始めた。

知人から紹介された小規模な案件を手伝い、商談設計や営業資料作成、現場同行を通じてノウハウを蓄積していった。小さな案件でも、成果を出せば感謝されるし、その喜びは売上ランキングの数字とは違う充実感をくれた。

同時に、生活資金と起業資金を少しずつ積み上げた。口座に数字が増えていくたびに、「これで独立できる日が近づく」という実感が増し、日々の営業活動にも新しい目的意識が芽生えていった。


独立初日:高揚と不安の入り混じる朝

そしてついに、辞表を提出した日が来た。紙を上司に手渡した瞬間、心が一気に軽くなると同時に、これからの責任の重さがずしりと乗しかかってきた。社内での肩書きや安定は、その瞬間すべてなくなった。

翌朝、いつものように早起きして机に向かった。しかし、目の前には顧客リストもなければ既存の案件もない。営業活動のゼロからのスタート。PCを開きながら「さて、どうやって案件を取ろうか」と考え込む自分がいた。

高揚感と同じくらい、不安もあった。それでも、自分が決めた道を進むしかない。あの日の商談で感じた虚しさをもう二度と味わいたくなかったし、「数字と価値の両立」を実現する営業支援会社を必ず作り上げると心に誓っていた。


現在に至るまで

この決意から数年、私はアレグリアという営業支援・営業代行会社を立ち上げ、SaaS、ホテル、医療、人材、製造業など幅広い業界の営業支援を手掛けてきた。

キーエンス時代に鍛えられた数字へのこだわりと、独立を決意させた「価値を届ける営業」という軸。その両方を融合させた支援モデルが、今のアレグリアの強みになっている。

安定を手放してでも挑戦した理由。それは、自分の営業人生を、数字だけではなく意味と価値で満たしたかったからだ。そして今、その決断が正しかったと胸を張って言える。