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イケメン×借り物競争

小学校の運動会でした。
次女はだいぶ前から、借り物競争をとても楽しみにしていました。

 
「借り物競争で『イケメン』が出たらね、教頭先生に『一緒に走ってください』ってお願いするんだ~。教頭先生ね、イケオジだから」

 
「あとね、『指輪をしている人』のときはねぇ、」

 
(ここで私は「あ、指輪していこうか?」と聞いた。
 ふだん指輪してないので)
 

「ううん、教頭先生にお願いするから大丈夫~。教頭先生、指輪をしているから。」
 

「それにね、『教頭先生』っていうカードが出たらね、やっぱり教頭先生と一緒に走れるでしょう?」

 
というわけで、何が出ても教頭先生と走りたい様子。

 
イケメンか~。

 
イケメンなのか~。

 
どんなイケメンなのかなぁ。


佐藤健みたいなのだったらどうしよう。

きゃっほぅ。

 
かつて、運動会がこんなに楽しみだったことがあっただろうか。
いや、ない。

むひょひょー。

さて、運動会当日。


借り物競争は、競技後半。

 
開会式から、気もそぞろなわたし。

 
教頭先生ってどのひとかな。あのひとかな、あのひとかな、と目移りするわたし。

 
徒競走や玉入れなどが終わって、いよいよ借り物競争が始まった。

 
わたし、スニーカーを履いて、借りてもらう気満々で待機。

 
だってほら、借り物競争で、だれも一緒に走ってくれない子がいたら、かわいそうだからね。すこしでも役に立ちたくて。
 

借りてもらいやすいように、小道具も仕込んだ。

これで、
『帽子をかぶっている人』
『サングラスをかけている人』
『黒い服を着ている人』
『腕時計をしている人』
に対応できる。

 
そのとき、声が聞こえた。

「帽子をかぶっている人~」


 
わたしは「はいっ!」と言って立ち上がり、
目の前にいるお子さんに手を伸ばした。

 
そのお子さんは、一瞬躊躇して、ほんのすこしだけ後ずさった。

 
「だいじょうぶ、一緒に行けるよ」
と言って微笑むわたし。

 
そのお子さんは、やや息を吸い込み、
決意したようにうなずき、
わたしの手を取って、ゴールに向かって走った。

 
わたしも、走った。
がんばって、お子さんに置いて行かれないように、走った。

 
ゴールして、お子さんの持っているカードを見た。

 
そこには・・・



 
「美人」



 
と書かれていた。




 
は、は、はぁ~~~~!?
 
帽子をかぶっている人、じゃなかったの???


心臓が止まりそうになった。
いや、そのまま止まってほしかった。


 
はずかし
 
はずかしい
 
はずかしいぃ~~~~


 
「はいっ!」って自分から行っちゃったよ。


 
保護者観覧席に戻るわたしに、
数百人の視線が突き刺さる(ような気がする)。
 
あのひと、自分で美人って言っちゃってるよ
(って言われてる気がする)。

穴があったら入りたい。
 
だれか、だれか、私のために穴を掘ってくれよ!
 
 

しばらくして、聞こえてきた。

「きょうとうせんせ~~~~」という呼び声。

 
声の主は、うちの次女ではなかったけれど。
 
教頭先生!
 
ついに見られるのですね、教頭先生!
 
どきどき
 
わくわく


 
・・・・・・・・ん?あのひと?

あのひとが教頭先生なの?
 
色あせた帽子。くたびれたジャージ。
 
校長先生よりもだいぶ年上に見える、あの・・・
50年前から学校にいます、みたいなあの方が、教頭先生。
イケオジ・・・。
次女の趣味がわからない。


 
そんなこんなで運動会は、無事終了。
 
次女はたまたま組み合わせで
足の速い子と一緒に走らなかったので、
ダントツ1位みたいに見えていて、
いろんなひとに「すごく速かったね」と言われていた。
 
「そんなことないですよ」と真剣に言う。
「ほんと、すごくないんです。たまたまです。」と心から言う。
 
謙遜しているみたいでかっこいい。
 

わたしだって、わたしだって、謙遜しながら生きている。
 

ぜったいに、「美人」で立ち上がったわけではないんだよ。

 
と言っても誰も信じてくれないか。
 
 

恥の多い生涯を送って来ました。

太宰治『人間失格』新潮文庫 p.9