小説を国語で学ぶ理由とは?現役教師が答えます
茶柱 現代文でまた赤点・・・・・・こりゃまいった。
放課後の教室。
高校2年生の茶柱さんは、自分の答案を見ながら震えています。

オニギリ 茶柱さん、珍しく落ち込んでいるね?
猫村 オニギリ先生! 1年生の頃はお世話になりましたー☆

オニギリ お久しぶり。それは国語の答案!!そういえば、茶柱さんは国語が苦手だったね?
茶柱 そうなんですよ。特に『登場人物の気持ちを答えなさい』って、やつが苦手デス。
オニギリ ふむふむ。
茶柱 そもそも、国語で小説をベンキョーする意味がわからないんですよねぇ。

画像出典:さいとう・たかを『ゴルゴ13』
1.国語で小説を勉強する意味
オニギリ では、国語で小説を勉強する意味を教えましょう。
茶柱 お願いしまっす!赤点多いと、大会に出られないんで・・・・・・
オニギリ バスケ部のエースが不在ではチームも困るよね。小説を学ぶ理由は、『優れた表現を学び、自己の表現活動に活かすため』です。
茶柱 『優れた表現』・・・・・・?
オニギリ そう、『優れた表現』。小説を通し、『優れた表現』を学ぶんだよ。
茶柱 なんで『優れた表現』なんて学ぶ必要があるんですか?
オニギリ 『ありきたりな表現』では、『ありきたりな事柄』しか伝えられないから。
茶柱 先生。もう少しわかりやすく、プリーズ。

画像出典:板垣恵介『バキ』
オニギリ では、例を挙げてみよう。次の文を読んで、どう思うかな?
不満を語るのは、やめよう。
茶柱 「はい、そうスか」って感じ。
オニギリ では、次の文はどう?
努力する人は、希望を語り、
怠ける人は、不満を語る。
(作家:井上靖)

画像出典:wikipedia
茶柱 カッコイイ!なんか前向きになれそうな気がします。
オニギリ この文は次のような構造になっています。正反対の言葉を使う、優れれた表現です。

茶柱 ほえ~。
オニギリ 優れた表現だからこそ、『ありきたりな事柄』以上のことが伝わり、人を前向きにできるんだよ。
茶柱 『優れた表現』、たしかに大事そうですね!

2.例①『少年の日の思い出』
オニギリ 実際に教科書に載っている作品で説明することにしよう。『少年の日の思い出』という小説を中学で読んだかな?
茶柱 うーん、覚えてないです。
オニギリ 簡単に説明すると、次のような作品だよ。
✅「蝶集め」に夢中になっていた少年が、隣に住む『エーミール』が持つ、貴重なヤママユガの標本を握りつぶしてしまう話。
✅中学1年生の教科書で採用されていることが多い。
✅作者のヘルマン・ヘッセはノーベル文学賞受賞者である。
※作者・ヘッセが生まれたドイツでは「蝶」も「蛾」も区別しない。そのため、蛾も「蝶集め」に入る。

画像:『国語1』光村図書出版
(中学校の国語の教科書。平成27年3月6日文部科学省検定済)
茶柱 それで、その小説がどうしたんですか?
オニギリ 大人になった『少年』が、子ども時代を振り返る場面で、
今でも美しいチョウチョを見ると、おりおりあの熱情が身にしみて感じられる
という表現がある。この「熱情」という言葉に注目しよう。
茶柱 「熱情」なの?「情熱」じゃないんですか?
オニギリ いいことに気がつきました。そう、「熱情」なの。「情熱」と「熱情」から受ける印象を考えてみて。
茶柱 こんな感じデスかねー。
「情熱」・・・・・・ひたむきな。一所懸命。
「熱情」・・・・・・欲深い。ギラギラしている。
オニギリ 私もおおむね同感だよ。ちなみに、変態辞書『新明解 国語辞典 第四版』にはこう書いてあります。
「情熱」・・・・・・これはと思う仕事・目的・異性に対して、他のことを忘れて心を打ち込むこと
「熱情」・・・・・・抑えることの出来ない・情熱(熱心さ)
茶柱 なんとなく、「熱情」の方がアブナイ香りがします。「抑えることの出来ない」ってところが・・・・・・。
オニギリ すばらしい感性だ!実際、『少年』は、隣人のエーミールの部屋に勝手に入ってしまうほど蝶集めに心酔するんだよ。
オニギリ この「熱情」という表現により、蝶に対する狂気じみた欲望を読み手に伝えるわけ。

茶柱 おぉ、スゴイですね!
オニギリ 「熱情」という言葉を知ることで、自身の表現の幅が広がる。
「熱情」のように、(多くの人にとって)理解はできるが、自分では使わない言葉の集まりを【理解語彙】と言います。
茶柱 リカイゴイ、ですか。
オニギリ 一方、実際に話したり書いたりする語群を【使用語彙】と言います。
【理解語彙】理解はできるが自分では使わない語群
【使用語彙】表現するとき実際に使う語群
オニギリ 一般的に、【使用語彙】は【理解語彙】の3分の1程度の量であると言われています(使用する言葉の数は、理解している言葉の数より少ない)。

オニギリ 小説から言葉を学び、自分の【使用語彙】を広げることで、より豊かな表現が可能となるんだよ。

茶柱 ベンキョーになりまぁす☆あっ、先生も奥さんに「熱情」を抱いて、結婚したんですか??
オニギリ ・・・・・・。

3.例②『字のないはがき』
オニギリ 次に、『字のないはがき』の例を挙げよう。この作品を、簡単に説明すると・・・・・・
✅戦時中の話。
✅著者・向田邦子の小さな妹が疎開することになる。
✅字が書けない妹のために、父が用意したのは大量のはがき。「元気なときは大きな〇を書くように」と指示をする。
✅大きな○がついたはがきは、すぐに小さな○になり、やがて×になってしまう。(パワポにする)
中学2年生の教科書で採用されていることが多い。
小説ではなく、随筆といわれることもある。
オニギリ こんな感じ。
茶柱 ふむふむ。
オニギリ この作品のテーマは、簡単にいえば『普段は罵声や拳骨を浴びせてくる厳しい父も、本当は家族を愛していた』ということ。
茶柱 感動の話ですねー。
オニギリ でも、『厳しい父も、本当は家族を愛していた』なんて【説明】は、一言もないんだ。
茶柱 なんでセツメイしないんですか?
オニギリ 【説明】より効果的な表現があるから。
茶柱 えっ。どんな表現なんです?
オニギリ 次の文は、疎開先から娘(小さな妹)が帰ってくるときの場面です。
茶の間に座っていた父は、はだしで表へ飛び出した。防火用水桶の前で、やせた妹の肩を抱き、声を上げて泣いた。
オニギリ 『はだしで表へ飛び出す』という体面も何も考えない行動から、次のことが伝わってくるんじゃないかな。
✅待ちきれない
✅心配で仕方なかった
✅娘のことを愛してやまない
茶柱 たしかに!”はだし”っていうところから、ひたむきな感じが伝わってきます。
オニギリ これは、【説明】と対極の【描写】という表現なんだ。『父』の行動を具体的に書くことで、その人柄を表現しているんだよ。
オニギリ 突然だけど、とある【ラーメンのおいしさ】を伝えたいとき、茶柱さんならどうやって表現する?
茶柱 「めっちゃおいしいラーメン」
オニギリ では、【描写】で【ラーメンのおいしさ】を表現する例を見てみよう。
普段は滅多にスープを飲み干さない鉄平も今日ばかりは一滴残さず平らげてしまった。
白石一文『1億円のさようなら』(文庫版)p611

オニギリ どうですか?
茶柱 そのラーメン、めっちゃ食べたくなります!!
オニギリ 読み手に、その場面をありありと想像させる。これが【描写】の力です。
茶柱 キャー、【描写】ってすごい!
オニギリ 他にも簡単な例を挙げましょう。
【説明】うちの夫はだらしない。
【描写】うちの夫が口を開けて寝ていた。
【説明】彼女はとても怒っていた。
【描写】彼女はひったくるように僕から鞄を奪い、襖をぴしゃりと閉めて出て行った。
オニギリ 【描写】は、小説に多くあります。小説から【描写】を学ぶことで、自分の表現の幅が広げられますよ。

※注意
ここでの【描写】は【行動描写】のことです。
また、【説明】と【描写】の違いは、あいまいで難しいです。
私は、おおざっぱに、
【説明】→抽象的
【描写】→具体的
と区別しています。
4.テストの点数
茶柱 よし!!これで赤点突破間違いなしですね!!
オニギリ 残念な話ですが、私が教えた【優れた表現】についてテストで問う人は少数派だと思います。
茶柱 なんですって!?
オニギリ さらに、他にも【国語を勉強する意味】は多くありますから・・・・・・簡単にはテストの点は上がらないかもしれませんね。
茶柱 わ~お・・・・・・。
オニギリ でも、間違いなく実生活で役立ちます。ある意味、テストの点数より大事です。
茶柱 はーい、国語の勉強頑張ります!!

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