9月17日 モノレール開業記念日 【SS】エスケープ
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- モノレール開業記念日
東京オリンピックが開催された1964年(昭和39年)のこの日、浜松町~羽田空港間の「東京モノレール」(東京モノレール羽田線)が開業した。
全長13.1km、約15分で運賃は大人250円・小児130円。日本初の旅客用モノレールだった。東京オリンピックの開催で、日本国内外からの羽田空港利用客の都心へのアクセスの改善を目的として建設された。東京オリンピック開会式は10月10日で、その前のこの日の開業となった。記念日は開業を記念して東京モノレール株式会社が制定した。
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【SS】エスケープ
僕は今、東京モノレールに乗って羽田に向かっている。別に飛行機に搭乗する予定はない。ただ、なんとなく、浜松町でモノレールの表示を見た時、フラッと乗ってみたくなっただけ。モノレールの海の上を走っているような感じが好きだから、小さい時はお父さんにおねだりしてよく乗せてもらったの。その時は蒲田に住んでたから、わざわざ浜松町まで戻ってモノレールに乗っていたのよ。でも、流石に帰りは京急で蒲田まで戻って家に帰っていたわ。僕は、飛田由香里、十九歳。小さい頃から自分のことを「僕」と言っていた習慣が今も残っている。だから、女の子だけど、自分のことを「僕」と呼んでしまうの。でも、全然男の子のようにヤンチャではないのよ。誤解しないでね。
実は、今日はとんでもないことをしてしまって逃げてきたの。今もまだ手が震えてる。バッグの中には金槌が入ったままだから「どこかで処分しなくちゃ」と本当は焦っているの。時々、お巡りさんの姿を見つけると思わず目を伏せて、帽子の鍔を無意識に下げてしまうわ。モノレールの中では金槌は処分できないから、とりあえず羽田に着いたら考えようかな。
いつもはモノレールに乗って、景色を楽しんでいたけど、今日はそんな気持ちにはなれない。早く遠くへ行きたいという気持ちばかりが先走っている。やっと羽田到着のアナウンスが流れ、車内の乗客は多くの荷物を確認し降りる準備に入っているよう。やがてホームに到着。乗客は我先にと雪崩のようにモノレールの改札に向かって行る。僕はできるだけ平静を保つために最後にモノレールを降り、ゆっくりと改札に向かったの。羽田には着いたけど、用事があってきた訳ではないから、やることはないわ。見回しても金槌を捨てられるような場所もない。しばらく、空港の中をブラブラして、国際空港線ターミナル行きのバスに乗ってみた。そういえば、羽田の国際線ターミナルには行ったことがないことに気づき、少しの間でも自分がやったことを忘れられるならと思って、行ってみたの。
国際線ターミナルのお土産物屋さんも一通り見て周っても、高揚しない自分の心に気づいたから、ベンチを探して一息ついたわ。どうしようと考えてもいい考えは浮かばない。なぜだか涙が頬を伝った。どうしてあんなことしてしまったんだろう。もう分からない、どうしたらいいのか。。。
💠 💠 💠
十時間前、朝五時半。由香里はアパートで彼氏である裕和の帰りを待っていた。昨日帰って来なかったため、すごく心配してはいたのだが、次第に怒りに変わっていった。連絡もなく、一体どこで夜を明かしたのかが気になって結局眠れなかった。日が昇り、明るくなった八時ごろ、アパートの前で聞き覚えのあるスクーターの音がした。由香里は、朦朧とした意識の中、一晩中待たされたという怒りだけが爆発し、急いでサンダルを履いてアパートの外に出た。そこには、バイクを止めようとしている裕和の姿があった。由香里は頭に血が昇っていた。隣の住人の玄関の脇に置かれていた金槌が目に入り、思わず手に取った。そして、迷うことなく、ヘルメットを脱ごうと顎のベルトを外そうとしている裕和にその金槌を振り下ろした。「どこに行ってたのよー」という怒号とともに。ヘルメットにヒビが入ると共に鈍い音がした。裕和はあまりにも突然殴られバランスを崩した。追いかけるように金槌を振り下ろす由香里。裕和は倒れ込みながら、コンクリートのブロック壁にヘルメットごと頭を打ち付けてしまった。そして、気を失った。
由香里はハッとして我に返った。目の前に倒れている裕和を一瞬見つめ「殺してしまった。逃げなければ」と瞬間に思った。思わず部屋に戻り、いつも使っているバッグを抱え金槌をバッグの中に押し込み、アパートを飛び出したのだ。目撃者は誰もいなかった。あんなに大好きだったはずの裕和だったにもかかわらず、自分としては犯罪者になりたくはなかったのだ。そして、由香里は、浜松町に行き、羽田行きのモノレールに飛び乗った。
その頃、倒れた裕和は意識を取り戻していた。ヘルメットの上から殴られたことで頭への損傷はなかったのだ。一瞬、何が起こったのかを整理するのに時間がかかった。ヒビの入ったヘルメットを脱いで、由香里のことを思い起こしていた。
「全く、早合点も甚だしいよな。メットを被ってなかったら確実に死んでたぞ。スマホを落としたせいで連絡できなかったから明け方まで探し回っていただけなのにな。昨日は明け方四時まで仕事が入ってると伝えておいたはずなんだけどな」
由香里のスマホのラインには未読のまま裕和のメッセージが残っていた。おそらく怒りを優先していたのだろう。裕和は一旦部屋に入り、着替えをした後羽田に向かった。いつも由香里から聞かされていたからだ。何か嬉しいことや辛いことがあった時はお父さんにねだってモノレールに乗せてもらっていたということを。
裕和は羽田について、由香里を探した。そして、国際線ターミナルからのバスから降りてくる由香里を偶然にも見つけた。
「由香里、由香里」声の限り叫んだ。
「えっ、裕和、ウソ。死んでない」
由香里は思いっきり駆け出して裕和に飛びついていた。
「よかった、生きててくれてありがとう。それから、ごめん、あんなことして」
「本当だよ、俺はスマホを落として朝まで探し回っていただけなんだけどな。まぁ、結局見つからなかったけど」
わがままで早とちりで何をするか分からない由香里だったが、裕和に取っては大切な彼女だった。これからはこまめに連絡するようにしないと本当に殺されるかもしれないと感じていることは由香里には内緒だった。
了
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