9月29日 中秋の名月 【SS】愛しすぎた人(6.月の下の推理)
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 中秋の名月
旧暦8月15日~16日の夜(八月十五夜)の月を「中秋の名月(ちゅうしゅうのめいげつ)」と呼ぶ。古くから月見をして美しい月を愛でる慣習がある。
日付は「秋分」(9月23日頃)の前後半月の期間(1ヵ月間)の中で変動する。十五夜の日は満月の日に近い日ではあるが、必ずしも両者は一致するものではなく、むしろ異なる場合の方が多い。その差は最大で2日である。
中秋の夜に雲などで月が隠れて見えないことを「無月(むげつ)」、中秋の晩に雨が降ることを「雨月(うげつ)」と呼び、月が見えないながらもなんとなくほの明るい風情を賞するものとされる。「望(ぼう・もち)」は満月を指す。また、俳諧では旧暦8月14日~15日の夜を「待宵(まつよい)」、16日~17日の夜を「十六夜(いざよい)」と称して名月の前後の月を愛でる。
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【SS】愛しすぎた人(6.月の下の推理)
証刑事は推理する時、自分の考えをまとめ上げるまで、できるだけ一人で考える様になっていた。行き詰まった時に、同僚の意見を参考にすることは多々あるのだが、まずは自分の意見を筋道たてて整理していないと他人の意見の利用も難しくなると考えているからだ。今回の事件は、色々と不思議なことが多いと思い、そこから整理をし始めた。今日は、別所が住んでいる別荘地の中で宿泊できる別荘を予約して泊まっている。別荘地の夜を確かめるためだ。もちろん縁梨刑事は別棟を予約して泊まっている。
別荘に置いてある古ぼけたスリッパには何となく抵抗があったのだが、幸いにも片付家を出る時に頂いた使い捨てのスリッパがあったので、縁梨刑事が出してくれてそれを使っていた。最近のホテルではよく見かける様になってはいるが、流石に田舎の別荘地ではまだビニールのスリッパが主流のようだ。すでに中秋の名月の日は過ぎてはいるが、少し欠けた月の姿もいいものである。証は肌寒くなったベランダに使い捨てのスリッパを履いたまま出て、ワインを月に向かって透かして眺めながら考えていた。
「大抵は固定観念が邪魔をするのよね。もう一度、最初から考え直してみましょう。そういえば、被害者が森の中に埋められたのはちょうど中秋の名月の夜だったのよね。きっといい天気だったからきれいなお月様を見ていたんでしょうね。何の因果か心が洗われる様な月光に照らし出された夜に悲劇が起こるなんて考えてもいなかったでしょう。しかも、抵抗ができない気を失った状態のまま、土の中に埋められるなんて。苦しかったことでしょう。土の重さを跳ね返すこともできずに窒息死してしまったのですものね。想像するとたまらないわ」
証刑事は、ワイングラスをベランダのテーブルの上に置いて、思わず月を仰ぎ手を合わせた。何としても早い段階で謎を解かなければと再認識したのだ。
聞き込みを実施した人たちの交友関係は縁梨刑事に依頼しておいた。それもあらかた整理できている。結構信じがたい事実も判明したのだ。親切保険所長の保科明日香は片付棚美の実の姉であり、別荘に住んでいる別所と骨董屋の古絵は同い年の幼馴染だった。そして常夏は片付左右と高校生の時の同級生でもあり、別所が退職した会社に在籍していたこともあったという繋がりが判明した。あまりにも繋がりがあり過ぎると証刑事は思った。
繋がりすぎて見落としていることが必ずあるはずだと思い、思い返していた。まず、発見場所だ。キャンプ場そばの森の中というのは見つかりやすい場所でもある。通常ならもっと森の奥に遺棄するのではないだろうか。それに、不自然なくらい落ち葉がかけられていたというのも早く見つけさせるための偽装とも取れる。原点から思考を開始するために、証刑事は縁梨にキャンプ場のオーナーのリストと清掃に参加したメンバーのリストを入手する様に依頼していた。
ラインの着信音が鳴った。縁梨からだった。慌ててベランダから室内に戻った。使い捨てのスリッパは底が薄いので小走りになると滑りやすい。危うく転びそうになった。一人なので誰にも見られていないので安心し、ペロリと舌を出しながらスマホを手に取った。入手したリストをPDFにしてメールをしたという連絡だった。流石にラインの添付では送っては来なかった。個人情報だからだ。スマホでは画面が小さくて見にくいだろうと考え、パソコンを立ち上げてリストを確認した。証刑事はリストを見ながら驚きはしたもののパズルの組み合わせが一つ解けた気がし始めていた。
メールは、もう一通届いていた。骨董屋の取引記録が記載された内容だった。それによると、今回の事件の前までに高額での絵画の取引が数回実施されていることが判明した。しかも、絵画の持ち主は別所だということもわかった。骨董屋間のネットワークが利用されていたようだ。都内にある古美術商に売られており、合計で二億円の取引にもなっていた。その内五千万が骨董品屋である古絵の口座に振り込まれていた。そして何故か常夏の口座に五百万円が振り込まれ、残りは別所の口座に振り込まれていたのだ。通常ならば売主への振り込みが最初に発生するはずだが、全てが同日付けで処理されている。どうもお金の流れが怪しいと睨んだ。そんなことを考えているとスマホが鳴った。縁梨刑事からだった。
「メールは見ましたか?」
「縁梨刑事、ありがとうございます。色々と繋がりが見えてきましたね。愛情と金銭が絡んだ事件のように感じますね」
「そうなんですよ。それで、保険会社の所長さんは元々すごい妹思いの人で、周りには妹は苦労しっぱなしだから何とかして助けてあげたいと漏らしていた様です。それで、あくまでも噂なんですが、常夏と保科はいい関係になっていたのではないかと社内で噂されていた様です。片付夫妻の噂も耳にしました。以前は二人で出かけるところをあまり見たことはなかったけど、ここ数日は出かける時はいつも一緒だと近所の人は言ってましたね。なんかちょっと引っかかりますよね」
「なるほど。片付夫妻の関係は気になりますね。わかりました。明日、被害者の住んでいた別荘に関係者を全員集めて、事件の解明をすることにしましょう」
「お、まるでミステリー小説の最終回の様な感じですね。わかりました。手配しておきます」
証刑事は、もしかすると全ては誤解から生じた事故が殺人になったのかもしれないと思った。善良な人たちは善良な人を庇おうとする人と、それを利用して優位に立ち支配しようとする人に別れるのかもしれない。その歪みの中で起きた事件ではなかったのかと考えたのである。
続く
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