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12月2日 奴隷制度廃止国際デー 【SS】野心・逃げ道

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 奴隷制度廃止国際デー

国連が制定した国際デーの一つ。英語表記は「International Day for the Abolition of Slavery」。

1949年(昭和24年)のこの日、国連総会で「人身売買および他人の売春からの搾取の禁止に関する条約」が採択された。

世界人権宣言の第4条には「何人も奴隷にされ、または苦役に服することはない。奴隷制度および奴隷売買は、いかなる形においても禁止する」とあり、これを踏まえて、あらゆる形での奴隷制度の廃止を願って組織犯罪防止条約を初め人身売買に関する条約が策定されている。


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【SS】野心・逃げ道

 海の国の戦闘部隊が、山の国の鉄壁の近くまでやってきた。海の国の王様は、見たこともない壁に一瞬、逡巡はしたが、兵士の数も大したことがない国だという情報を信じて、体制が整ったところで総攻撃を実施する準備に入った。おりしもいい天気に恵まれた冬の日だった。山々にはうっすらと雪が積もり始めている。海の国の兵士たちは意外にも薄着である。早期決戦を挑まなければ寒さで体力を奪われてしまう可能性もあった。

 海の国の王様は、数日で決着をつけるつもりだったので、あまり気にはしていなかった。投石機も十台も準備している。これで城壁は破壊できるはずだった。王様は号令を出した。

「皆の者。相手は弱小国だ。臆せず、目の前の壁を乗り越えて山の国を落としてしまえ。褒美は皆の望むままに叶えようぞ。いざ、全軍突撃〜」

「ウオォー」

 雄叫びと共に、海の国の兵士たちは山の国の鉄の壁に向かって、地響きを鳴らしながら一目散に突進した。そして、それを援護するように投石機が石を投げ始めた。しかし、その結果は惨憺たるものだった。投げた石は、壁を越えることはできず、鉄の壁の上に突き刺さっている鉄格子に阻まれ、投石した石がそのまま味方の方へ転がり落ちてきたのだ。しかも石が当たった部分の鉄格子は変形することもなく、無傷だ。海の国の王様は、何が起こったのか理解できないまま、青銅の剣を持った兵士に総攻撃するように命じた。

「兵士たちよ。報酬はお前たちの働き次第だ。山の国の王様の首を持ち帰ったものは、自由と一生使いきれない財宝を与えるぞ。突撃せよー」

「ウオォー」 

 この号令を山の国の王様も聞いていた。こんなことで命を落とすことに憂いを感じた山の国の王様は、突進してくる海の国の兵士に対し、呼びかけた。

「海の国の勇敢な兵士たちよ。私は山の国の王である。お前たちは、家族を人質に取られているのだろう。悲しいことだ。お前たちの判断が間違っているとは私には言えないが、山の国にくる覚悟があるのなら受け入れるぞ。海の国を我が配下とできた暁には、お前たちの自由を約束しよう。もし、応じる意思があるものは、我が領地の境である黒い壁をよじ登ることを放棄せよ。よじ登るとお前たちの命の蝋燭は尽きてしまうぞ」

 山の国の王様は奴隷の兵士を哀れに思い、なんとか救いたいと思い、声をかけた。しかし、家族を人質に取られている奴隷たちは選択の余地はなかった。そのまま、鉄の壁を目指して突進してきたのだ。

 山の国の王様は、涙を流しながら、命令した。鉄壁の内側の溝の油に火を付けろと。言った瞬間に、王様は後ろを向いた。優しすぎる王様は、直視する勇気はなかったのだ。海の国の兵士たちが、鉄壁のところに到着する頃には、鉄壁は真っ赤になるほど熱くなっていた。しかし、そのことを知らない海の国の兵士は我先にと鉄壁に登ろうとしたのである。

「うわー、熱い熱い、手が、手が、燃えてしまうー」

 その光景を見ながら山の王は泣いた。なぜ、こんな戦いを挑むのか、そして自分は何を守っているのかと思ったのだ。しかし、人間として自由を与えてやれるのは自分しかいないのだと思い直し、犠牲になって死んでいった兵士たちを思いながらも、門戸を開き続けた。海の国の奴隷の兵士の一部に変化が見え始めた。

「海の国の王にしたがっていても、我々の奴隷という立場変わらない。この際、山の王に忠誠を尽くした方がいいのではないか」

「しかし、そんなことをしたら、家族が海の王に殺されてしまうよ」

「そうかもしれない。しかし、そんなことをしたら海の王も死ぬことになるとなれば、状況は変わるかもしれない。このままだと我々には、生きている希望すら見出せない。だから、今、賭けてみたくなったんだ。山の王に」

 この一言で流れは変わった。山の国は、寝返った奴隷兵士を快く受け入れた。そして、勝利した際には、家族を取り戻すことも約束してくれた。戦況は一変した。楽観視していた、海の国の王は窮地に立たされ、近隣の王国に支援を依頼する手紙を送った。しかし、山の国との戦いの情報を入手していた近隣の国たちは手紙が届いていことにして、知らなかったという態度をとった。戦況は一気に逆転した。海の国の奴隷兵士は全てが山の国の庇護に入った。そして、海の国の兵士たちを牽制するために退路を絶つ位置に移動し、国に戻れないようにしたのだ。

 山の国の王は、できる限り人の命を大切にしたかった。寝返ってくれた兵士たちに、決して自分からは仕掛けないように通達した。それだけ、人命というものを大切にしていたのだ。それが奴隷だろうが貴族だろうが関係ないと王様は考えていたのだ。そして、その考えは、奴隷の身分の兵士たちに伝わった。自分たちの生きる場所はここしかないと決断した瞬間だった。

 海の国の王様は旗色が悪くなり、山の国の王様に使者を送った。自分たちの国と王様という身分を守りたかったのだ。しかし、山の国の王様は、人の上に立つものには厳しかった。やってきた使者に対し「交渉する余地はない。無条件降伏するか、自害されよ」とメッセージを託した。

 人の上に立つということは、信頼という心の中の思いで成り立っているものなのだ。それを家族という人質で思い通りにしようという戦略は脆いということを証明した戦いだった。この後、山の国に入った海の国の兵士たちは、家族と共に終生幸せに暮らしたということだ。

 時が流れ過去の記憶が人々から消えてしまった。愚かな王により、また同じ過ちを犯そうとしている国が現れ、国同士の戦いが再燃しているらしい。受け継がれた山の国の王は、今もなお信念を曲げずに人命を最優先して戦いに挑むことだろう。


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