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4月29日 畳の日 【SS】価値あるカーペット

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 畳の日

京都府京都市南区に本部を置き、畳産業振興のための戦略的なPR事業の企画及び推進などを行う「全国畳産業振興会」が制定。

日付は、い草の緑色から制定当時「みどりの日」であった4月29日を、また、「環境衛生週間」(9月24日~10月1日)の始まりの日であり「清掃の日」である9月24日も記念日とした。畳の持つ住宅材としての素晴らしさや、敷物としての優れた点をアピールすることが目的。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。


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【SS】価値あるカーペット

 日本の文化が生み出した畳。農耕民族だった我々の祖先は稲を収穫したあとのワラが使えるのではないかと考えた。畳の始まりである。畳といえばイグサというのが常識ではあるが、起源を辿ればワラを編んだものが畳の始まりとされているようだ。もっとも我々が知っている畳としては平安時代に始まったようである。最初は高貴な方を迎えるための敷物で冷たい木の床に敷いて使ったり、布団の下に敷くために使ったりしていたということである。いずれにしても冷たさを防ぐことが一つの目的だったようだ。中国から入ってきた文化が多い日本ではあるが、畳は日本で生まれたものである。日本の気候によくあった素材として使われ始め、江戸時代になってやっと一般の家にも普及していったようである。そんな、普及期に一人の外国人が日本にやってきた。時は鎖国時代だったため長崎の出島に上陸したデルバルというペルシャ人だった。

 デルバルは、ペルシャ絨毯を持って日本に上陸していた。何とか絨毯を高値で取引して長い旅で使ってしまった費用の回収と自分自身の利益を確保したいと目論んでいた。日本という見知らぬ国までやってきたのはいいが、不安で仕方がない。言葉は通じないし、変な格好をした日本人を見ると怖くてたまらない。自分の髪の毛もあんなふうにされたらたまらないと思い、出島での活動が始まった。

 デルバルは出島の中で絨毯の宣伝をしていた。宣伝の際に、絨毯に乗れば空を飛べるかもしれないぞという話まで付け足していた。出島ではテーブルと椅子を当たり前のように利用している店もある。これならいけそうだと思ったのである。最初は絨毯を売るわけではなく、日本という場所を知るために食事をしようと店に入ってみた。板の間に椅子とテーブルが置いてある店もあるのだが、何だか足元が板とは違いフワッとする感じの床があることに気づいたのである。何とも不思議な感触である。もちろん、靴を脱がされているせいもあるかもしれない。しかし、どうにも気になって仕方がない。店の女将を呼びつけ、通訳越しに聞いてみた。

「これは何という敷物なんだ。今までにみたことがない。表面はツルツルしているように見えるが規則正しく、布が周りに貼ってあるのが不可思議だ。これは一体何なんだ」

「これは畳というもので日本で生まれた敷物でございます」

「タタミ、不思議な名前ですね。部屋中に敷き詰めるのですね。何だか効率が悪いですよね。必要なところだけ敷けばいいのに」

「おほほ、面白いことを。部屋の床と敷物が一体となっているのですよ。こうすることでどこにでも座ったり寝転んだりすることができるのですよ。あっ、そういえばちょうど今日は離れの一室で畳の張り替えをしております。よろしければご覧になられますか」

「それはぜひ見てみたいな。そもそも張り替えとは何だ」

「百聞は一見にしかず。ご案内いたします」

 そうして、デルバルは通訳とともに、離れの方にやってきた。離れの部屋の前にある中庭で、職人が畳の張り替えをしていた。不思議な光景だった。デルバルにはちょっと薄めのマットレスに布のようなものを貼り付けて周囲を別の布で補強しているように見えたのである。そして内心では「ペルシャ絨毯の方がはるかに手間がかかってるな。タタミには模様すらないじゃないか」と思っていた。その時畳職人の兵吉が話し始めた。

「そこの外人さんよ。物珍しそうに見てるけど、何か言いたそうなことがある雰囲気だな。畳が珍しいのかい。畳ってのはよう。ここでは欠かせないものなんだぜ。おまえさんたちの国にはねえだろうな。この美しい四季を感じられる江戸では必需品なんだよな。湿気がある時は吸い取って乾燥したら吐き出してくれるんだぜ。素晴らしいだろう。それができるのはこのイグサっていう植物のおかげなんだ。ほら、これだよ」

 そういって兵吉は得意げにイグサをデルバルに見せた。デルバルは不思議そうにこんな草から敷物ができるのかというような顔で繁々と見ていた。そんな折、外は何やら騒々しくなっている。どうやら曲者が入り込んだらしい騒ぎだ。叫び散らしている声が聞こえてくる。

「絨毯とやらを売り込んでいる奴はどこにいる。そんなものに乗って空を飛べるわけがなかろう。大ボラを吹きおって、わしが成敗してくれる。姿を見せろ。切り捨ててくれる」

 どうやら絨毯に乗って空を飛べるかもしれないという話が歪曲して伝わったようだ。しかし、この剣幕なら本当に切り掛かってくるかもしれない。兵吉は嫌な予感を感じ、デルバルに自分のそばに来るよう手招きして、畳を敷き詰めている最中の部屋の中へと移動した。外で騒いでいた侍はどうやらこの屋敷にデルバルがいることを知ったようで、喚きながら中庭まで入り込んできた。デルバルは何も武器を持っていないし、絶体絶命の危機である。

 デルバルが部屋の中にいることを悟った狼藉者は、草履のままヒラリと縁側に上がり、腰の刀に手をかけ、鞘から今にも抜かんとしながら駆け寄ってくる。平吉は言葉の通じないデルバルの手を引き掛け軸のある部屋の奥へと駆け出した。咄嗟に、通訳に「屋敷の裏で会おう」とだけ言い残した。奥には逃げ道はない、八方塞がりになっており、デルバルは一瞬でそのことを悟り怯んだ。

 デルバルの足が止まったその時、狼藉者は畳を蹴り勢いをつけ飛び上がりざまに刀を抜いた。平吉は見計らったように身を低くして畳の縁を思い切り平手で叩き、畳を宙に浮かせて踊らせた。その畳は、ちょうど狼藉者が飛び上がり着地せんとする場所だった。空中ではどうにも制御できるはずもなく、舞い上がった畳の硬い縁で喉元を思いっきり打ち付け、もんどり打って倒れた。一瞬息ができなくなったはずだ。その怯んだ隙に、兵吉はデルバルの手を力強くグイッと引っ張り、掛け軸をめくりあげて隠し扉を押し開け、二人でその中に消えた。すかさず平吉は内側からかんぬきをかけ、入ってこられないようにした。一安心である。これで屋敷の裏へ抜けられる。

 デルバルはまるで狐に包まれたような顔をしている。狼藉者は番所から駆けつけてきた役人に取り押さえられていた。店のものに確認をした通訳は店の裏へと周り、平吉たちと合流した。デルバルが何が起こったか説明してほしいというので平吉は簡単に説明した。

「あっしは甲賀出身の忍者でした。さっき使ったのは畳返しの術という忍者なら誰でも使える技ですよ。な〜んて言えればいいんでしょうが、実は畳替えをしていた部屋は忍者屋敷を真似て作ったカラクリ部屋だったのさ。あっしがこしらえた部屋だから使い方は熟知しているからね。あっしの間合いは素晴らしかったでしょう」

 自慢げに話す兵吉を見ながら、護身にも使えるタタミをすっかり気に入ってしまったデルバルだった。


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