赤いワンピースの少女〜メイ #1
神様は諦めてはいなかった。まだまだ、人間の「やさしさ」には期待できるはずだ。私たちが創造した人類という種は、愚かな行為も繰り返しはするが、きっと全人類の心の中には、きっと「やさしさ」が息づいているはずなのだ。神様は、そう信じていた。これまで数百年に渡り繰り返しメッセージを出し続け、時には苦難を投げかけてきたが、人類は少しずつ、愚かな行為を悟るようになり徐々に平和な生活ができる国々が増えてきていた。一方、一つの国の中を見てみるとまだまだ犯罪の発生は後を絶っていない。どうしても「自分」という個人のみのことを考えてしまい他人を傷つけてしまう人間のなんと多いことか。神様は嘆いていた。どんなに罪を犯した人間でも、心の奥底には「やさしさ」を持っているに違いないと。それで、天国に導かれていく前の少女を神様の使いとして幾度となく人間界に代理として降臨させ、悪事をしている人間の心の中を浄化しようと試みてきた。しかし、これまで試みた少女たちは生前に持っていた気持ちを抑えることができず、ことごとく神様の意に反し、悪事を働いた人間の命を表面だけで判断して奪い去っていたのだ。何度も何度も同じことを繰り返しているが、人間は、生まれそして死に、転生する、そうやって進化していくものだ。だから、神様はいつの時代でも、少女に心を癒やす行為を託し続けていた。
今回神様が選んだ少女は、十七歳の日本人だった。生前は、上流家庭に生まれ優しい両親のもとで育っていた。しかし、生まれつきの病弱な体質から17年間という生涯のほとんど全てに匹敵する時間を病院の個室のベッドで過ごした経験の持ち主だった。最後は合併症を引き起こし肺炎が悪化して亡くなってしまった。十八歳の誕生日まであと少しと言う時に息を引き取ったのだ。両親の悲しみは相当なもので、父親は仕事が手につかず母親も無気力になっていた。そんな様子をこの少女は空の上から見て涙していたのである。少女は生まれた時から体が弱いことがわかっていたため、両親は鎖のように強く生き抜く命であってほしいと想いを込め、名前を「命鎖」と付けた。それからは、ずっと「メイ」の愛称で呼ばれて育っていったのである。
メイは病院のベッドにいる時でも明るさを忘れない子だった。自分より年下で入院している子供たちを可愛がり、共に笑い、共に泣き、時には見送ると言った時間を過ごしていた。通常の子供とは違う経験をして育っていたのである。心の純真さを最後まで失わずに真っ直ぐに人生を生き抜いた少女だった。まるで、天使のような心を持っている少女だったのだ。
神様は、寿命が尽きてやってきたメイと会って、清らかな心を強く感じ、自分の代理として人間界に行ってもらおうと考えていたのだ。一方で戦争が始まっていることを神様は憂えてはいたが、そちらは戦争の悲惨さを知っている子の方がいいだろうと思い、メイは日本の中で日々怒っている悪い心の持ち主の浄化に関わってもらおうと考えた。以前は、複数の国での対応を一人の少女に依頼してしまったことが、その時の少女に混乱を招いたかもしれないと反省をしていたのだ。最近は、日本でも悲しい事件が増加している。少しでも悲しい事件や傷ましい事件が減ることを神様は期待した。
神様はまさに天国への道を進もうとしている少女「メイ」を呼び止めた。
「メイ、ちょっとこちらに来なさい」
「はい、神様、ご用ですか。私はこれから天国に行かなければなりませんが」
「うむ。天国への旅は少し延期しよう」
「えっ、どういうことですか。私は天国に召してもらえないのですか」
「いやいや、そうではない。今回のようにメイが死んだときは両親も深く悲しむものということを見たであろう」
「はい、私も悲しくなりました。両親とは別れたくありませんでしたから」
「うむ、そうだな。同じように悲しんでいる人はたくさんいるのだ。同時に一方では悪いことをしている人もたくさんいる。私は、そんな人たちを一人でも多く救いたいと思っている。もちろん、死んでしまった人を蘇らせることはできないが、生きている人の心に安らぎを与え、その後の生き方を変えてあげることはできると思っている。そこで、メイにお願いしたいのだ。私の代わりに、しばらく人間界に戻って癒さなければならない人を見つけて助けてあげてほしいのだ。もちろん、罰を与えなければならない人もいるかもしれない。どうだ、頼まれてくれるかい」
「分かりました。どれほどのことができるか分かりませんが、お手伝いしたいと思います」
「よく言ってくれた、ありがとう。それでは、メイには私からの贈り物として、二つの力をささげることにする。右手には、人々の心や傷を癒す力を与え、左手には、人々の命を奪い取ってしまう力を与える。これは神の力なので、人間には見えない。なので、肘から先の右手は眩しく、左手は漆黒の闇のように人間には見えることになる。そして、重要なことは、右手より左手を使った行為が多くなった瞬間にメイに与えた力は消えてなくなる。そのことをしっかりと頭に入れて、これから直面することに対応して多くの人間を救ってあげてほしい」
「神様、分かりました。精一杯頑張ってみます。これまで生きていた時間を振り返りながら」
「よし、では行ってきなさい」
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