3月26日 食品サンプルの日 【SS】本物に近づく
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 食品サンプルの日
全国の飲食店の店頭を飾る食品サンプルのパイオニアとして知られるいわさきグループが制定した記念日。日付は「サン(3)プ(2)ル(6)」と読む語呂合わせからだそうだ。日本独自の文化である食品サンプルの販促効果や見た目の楽しさ、思わず注文したくなるその魅力などをより多く人に知ってもらい、将来にわたるさらなる普及と発展を目的とされた。
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【SS】本物に近づく
今では食事をするお店に行くとフェイクのサンプル料理の品々が展示されていて、お客様の食欲を刺激する様になってきた。その表現技術は日々進化し、スパゲティをフォークで掬い上げているサンプルはあまりにも有名だ。
サンプル品業界は食品に限らず生鮮の野菜や魚などにまで広がりを見せ、寡占状態になりつつある。各社独自の技術を駆使して本物により近い見た目を追求している。最近では握り寿司のキーホルダーまで登場しているが、これも食品サンプルの関心の高さを表しているのかもしれない。
そんな食品サンプル業界に就職した意欲ある若者がいた。名前を見本と書いてミモトと読む若者だ。本人はサンプルを学ぶために生まれてきたと信じているほど食品サンプルを愛していた。そんな見本は、次なるステージを目指して計画していることがあった。
「食品サンプルってあくまでも脇役だよなぁ。実際の食品の売り上げに貢献するためだけに作られるんだよな。何となく一生を脇役で終わらせるというのは心が痛いな。何とか主役にできないのかな」
そんなことを考え、突拍子もないことを見本は考えついた。そしてそれを実現すべく、協力してくれるお店を探し回った。しかし彼の考えに賛同する人は現れない。仕方なく見本は自ら調理師免許を取得し、定食屋さんを開店することを決意した。もともと料理に対してそんなに意欲的では無かった見本だったが、ある程度のメニューを揃えないと成り立たないだろうと思い、五種類のメニューを開発した。
ハンバーグ定食、ナポリタン・セット、焼きサバ定食、唐揚げ定食、麻婆豆腐定食の五種類だ、和洋中華ミックスだったが、これは見本が好きなメニューだったということに過ぎない。しかし店の開店までに見本はやらなければならないことを思い返していた。そう、食品サンプルを作って展示することだった。今回のメニューの五種類に対し食品サンプルを作るのだが、見本は工業製品のカテゴリーからの脱却に挑戦しようと考えていたのだ。
見本は大胆にも、食べられる食品サンプルを作ろうと考えていたのだ。食べられる食品サンプルの場合、リアルの食品との味の差が問題だと考えた見本は絶対に見分けがつかないくらいの味の再現に全勢力を注いだ。しかしサンプルなので、料理そのものではない。素材や保存期間などを考慮していくと限りなく本物に近づいていった。そして、最終的に完成したのは、一時間だけディスプレーできる食品サンプルになった。
見本は、作成したサンプルを食事に来た客にこっそりと提供してみた。それを食べた客は、こんなに美味しいものを食べたことがないとSNS上で話題となり、ひっきりなしに客が来る様になってしまった。見本は後に引くことができず、ひたすら食品サンプルを作り続け客に提供し続けた。それで喜んでくれるなら問題はないと見本は考えていた。しかし唯一の誤算はコストだった。実際の料理を作るのに比べると二倍のコストがかかる様になっていたのだ。当然販売価格をコストが上回る様になり、店自体の継続が困難になってしまったのだ。
よく考えてみると、店をオープンしてから一月が経過した。連日大入満員の日々を過ごしていたが、見本は気づいた。オープンしてから一度も料理を作ったことがない、ということに。日々食べられる食品サンプルは作っていたが、普通の料理を作ったことは無かったのだ。注文が無かったのだ。考えてみると食材の仕入れもしたことは無かった、客は珍しいものに反応してやってきていたのだ。決しておいしさを求めていたのではなくSNS上で自慢できる素材を求めていただけだった。
オープンから二月目に入ると客足は極端に減少してしまった。一大ブームを引き起こしたのだが、どうやら飽きられてしまったらしい。見本はこのままでは食品サンプル業界に迷惑をかけてしまうかもしれないと思い。最後の手段に出た。
『告知 オープン以来、長らく食べられる食品サンプルを提供してまいりましたが、本日をもちまして提供を終了します。今後は、同一のリアルメニューをご賞味ください。 店長』
この張り紙の後、一瞬は客足が減少したのだが、その安定した味を求めて少しずつ客足は回復していった。見本は味の改善と見た目の改善に時間を惜しむことなく注いだ。日々進化する料理を目指したのだ。そのことが客に評価され、再度注目を浴びる様になり、何とミシュランの三つ星の評価までもらうことができて、客足は鰻登りに多くなった。
その後三号店まで拡大させることができ、メニューも当時の五種類から二十種類にまで増えていた。世の中に認められたんだという思いでいっぱいになった見本は、SNS上でカミングアウトした。
「これまでお客様に提供し続けてきた料理は、全て食べられる食品サンプルでした。もちろん、味や見た目の改良惜しみなく実施してきた自信のある作品群です。その証として、ミシュランの三つ星までいただくことができました。引き続き、ご愛顧のほどよろしくお願いします」
当たり前だが、このメッセージが出された後、見本の店のSNSサイトは炎上した。さらに警察も動き出してしまった。どんなに実物に近いものを提供できていたとしても、詐欺罪に問われてしまったのだった。
見本の快進撃はここで止まった。人々を欺いた責任は重かった。食べられるサンプル食品という新たな分野を開拓したすばらしい実績ですら一瞬で吹き飛ばしてしまった。それでも償いきれず刑事責任まで問われることとなった。
了
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