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8月20日 親父の日 【SS】教えてもらったこと

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 親父の日

大阪府大阪市都島区に本社を置き、中小企業専門のビジネス・コーチを行う株式会社トップコーチングスタジアムが制定。

日付は8月20日を「0820」として「親父(オヤジ)」と読む語呂合わせから。

同社はファミリービジネスの事業継承・組織の世代交代を賢く進めるために、コーチ型親父塾を主宰し「コーチ型親父のすすめ」を提唱している。また、事業承継を考えている会社向けに「親と子のコミュニケーション」などをテーマにコーチングを行っている。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。


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【SS】教えてもらったこと

 我が家は小さな印刷工場で生計をたてている。最近ではもっぱら大手からの下請けの仕事や商店街のチラシ作りがメインなので、生活は厳しい。僕は一応跡取りではあるのだが、家業を引き継ぐ気はない。大学を卒業する時までには、父親に正式に「継ぐ気はない」とハッキリ伝えようと思っている。

 印刷工場は曽祖父が開業した。開業した時は映画のポスターやら本の印刷など、毎月断るくらいの注文が入っていたそうだ。その後は、企業の名刺を中心に企業のパンフレット、イベント用ポスター、観光地紹介冊子、商品パッケージなどへと注文内容は変遷していったようだ。そして父親の代になりしばらくは好調が続いていたようだったが、インターネットの普及、スマホの普及、そして決定打は電子書籍の登場で一気に印刷の注文は減少し、輪をかけたように森林保護の機運も高まり「紙離れ」が進んだ。当然、印刷注文は激減の一途を辿るようになり、経営は傾いていった。そんな中、父親も「自分の代で印刷工場は終わりだな」と感じていたようだ。

 印刷業界は、2000年以降衰退の一途を辿っていた。個人に至るまでデジタルが浸透し、大量の紙の印刷の時代は終わりを告げたようだ。しかし、紙の需要が無くなったのかというとそうでもなかった。各家庭を覗いてみると、確かにタブレットで絵本を見る子供とか、スーパーのチラシをスマホで見るようになってはいるものの、以前として紙の絵本の需要も高いし、地元のスーパーの紙のチラシは見ることが多い。まだまだ、身の回りには紙の情報は溢れているのだ。これまでとちがうのは、それが必要な時に必要なだけの量で印刷され配布されているということかもしれない。新聞を定期購読する家庭も減少している現代、折込チラシの需要は減少しているかもしれないが、ポストに直接投函されるチラシは未だ数多くあるようだ。この現象を見ていても、紙に印刷する需要が激減しているとは思えない。

 僕は大学に通っているが、デジタルトランスフォーメーションを学習していると、いずれは学校の教科書もデジタルになるだろうなと思っている。いや、教科書こそ早くデジタル化すべきだと考えている。そうすることで学生はタブレットだけを携帯していれば良くなるし、便利だと思う。しかし、デジタル化が進んだとしても、印刷する要望は無くなることはないのではないかとも思い始めた。紙に印刷された本がない世界を想像できないのだ。

 大学に通い始め、家業に対する考えが揺らぎ始めていた。根底には、これまで頑張って印刷工場を支えてきた父や祖父たちに対する尊敬みたいなものがあったのかもしれない。そんな考えが、なんとか生き残るすべは無いのかということで悩むようになってしまったようだ。そろそろ、親父に話をしなければ思い、まだまとまらない頭で親父に話しかけた。

「なぁ、親父。我が家の印刷工場の今後の事だけどさ」

「ん、どうした。急に」

「親父はこの工場をどうしたいと思っているのかなぁと思ってさ」

「ははっ、なんだその持って回った言い方は。お前にこの工場を継いでもらいたいとは思っていないから安心しろ」

「てや、そうはいってもさ。働いてもらっている人たちもいるじゃないか。それにずっと頑張って守ってきた仕事だし」

「そうだな。それは確かに気がかりでもあるが、この業界で生き残れるのは少数だと思っているよ。やってみなければわからないなんていう人もいるけど、これからは、我々がやって来た印刷方法では生き残れない。そんな時代ではなくなったということだよ。デジタル時代に求められる印刷は、デジタルデータを元に少量の印刷をそれなりのコストで綺麗に印刷することなんだよ。そのためには、働き手の努力以前に、印刷機の刷新が必要だ。莫大な投資だな。我々が使ってきた印刷機は何十年も使い続けて来たけれど、デジタル印刷機はおそらく短い期間で更新が必要じゃ無いかな。ということはそれ以外での収入がないと成り立たない業界になると思うんだよ。だから、それをお前に押し付けたくはない。今いる従業員も追随できないと思うしな。何しろパソコンすら使える人がほとんどいないからな。まだ少しでも資産価値があるときに工場を売って、お前がやりたいと思うことへの資金にしてやりたいと思ってるのさ」

「そんなことまで考えていてくれたのか、親父。僕は、今大学でデジタルのことも学んでいるけど、まだ自分で解を見つけたわけじゃないし、やりたいことを見つけたわけじゃない。でも、小さい頃から印刷を見て育ってきたのは事実だから、それを生かせることがあればいいなと思ってはいるんだ」

「そうか。まぁ、お前がやりたいことを見つけてくれれば、父親としてはそれで十分だ。まぁ、強いて言えば、3Dプリンターを使った印刷には可能性があるかもしれないな。ただ、完全受注生産になるだろうから、安定した収入になるまでは大変だとは思うけどな。投資も必要ではあるけれど」

 僕の父親は、世の中のトレンドも良く観察している人だ。僕は大学で勉強しているけれど、すぐに役立つ知識は父親の方が嗅覚が鋭かったようだ。僕にはもう少し大学で学ぶ時間がある。変貌しつつある世の中を観察して自分の将来の道を決めたいと思っている。もちろん、父親にも相談してアドバイスをもらわないとね。


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