見出し画像

10月8日 入れ歯デー 【SS】現場検証

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 入れ歯デー

東京都渋谷区代々木に事務局を置き、保険医の生活と権利を守り国民医療の向上を目指す全国保険医団体連合会(略称:保団連)が1992年(平成4年)に制定。

日付は「い(1)れ(0)ば(8)」(入れ歯)と読む語呂合わせから。市民に歯と健康の大切さ、歯科医療の重要性を知ってもらうこと、また「保険で良い歯科医療を」という運動を広めることが目的。


🌿過去投稿分の一覧はこちら👉 【今日は何の日SS】一覧目次

【SS】現場検証

 九月三十日の朝、郵便配達員から一本の通報が警察に入った。郵便を届けに行った家で人が死んでいるようだという通報があったのだ。最寄りの交番から警察官が駆けつけるとともに、証刑事と縁梨刑事も現場に向かった。

 当初は、部屋の中も荒らされた様子もないし、洗面所で倒れたまま亡くなっていたため、くも膜下出血などを引き起こして亡くなられたのではないかと見て警察も動き始めた。大抵の一軒家は洗面所やトイレが北側の位置に配置されていることが多く、温度差が大きくなる季節の変わり目の朝に血管がショックを受けたのではないかと誰しもが先入観を持っていた。しかし、鑑識の一人が違和感を感じていた。

「あれ、ご老人は入れ歯のはずだが、入れ歯を洗浄する容器が見当たりませんね。私も部分入れ歯なので使ってるんですが、見当たりませんよ。それに歯ブラシは新品のようですね」

 不思議なことに部屋の中は荒らされていないにも関わらず、入れ歯洗浄容器だけが見つからなかった。そこに遅れてやってきたのは、いつもの証刑事と縁梨刑事だった。

「証刑事、流石に今回は老人の孤独死だと思いますよ。猛暑だった夏から一気に秋めいてしまいましたからね。朝晩は冷え始めているじゃないですか」

「そうですね。でも、何か後から見つかると厄介ですから、何もないことを確認しておきましょうよ」

「証刑事は、真面目だなぁ。若いのに関心関心」

「縁梨刑事、どちらかといえばあなたが教えてくれる年齢なんですけど〜」

「あっ、こりゃまた失礼。いやー、だから出世しないんだろうなぁ」

 そんな他愛もない話をしていると鑑識が近づいてきた。
「証刑事、ご苦労様です。部屋の中は物色された形跡はありません。亡くなられたのは洗面所なので、時期的にはちょっと早いですが、ヒートショックの可能性はあります。外傷はありませんので」

「そうですか」

「ほらね、やっぱりそうですよ。事件性はありませんね」

 更に話そうとしている縁梨刑事を遮って鑑識が話を続けた。

「ただ、一点だけ気になることがあるんです。ご老人は入れ歯のようなのですが入れ歯洗浄容器が見当たらないんです。入れ歯を使っている人は必ず使っているはずなのですが。それとこれはたまたまかもしれませんが、歯ブラシは使った形跡がないので新品しかないようです」

「あー、あの変形の六角形の容器ですね。私もおばあちゃんが使っているのを見たことがあります」

「えー、そんな容器なんてどうにでもなるんじゃないですか。コップで代用するとか。きっと汚れたから捨てちゃったんじゃないですか。本人が」

「縁梨さん。早く帰りたいのはわかりますけど、もう少し、真剣に取り組みましょう」

「申し訳ありません」

「老人は、総入歯だったんでしょうか。だとすれば歯ブラシは使わないかもしれませんね」

「ええ、確かにそうですね。ただ、そうであれば、なぜ新品の歯ブラシが立ててあったのかという疑問が新たに浮かびます。最も、推理するのは我々の仕事ではなく、証刑事と縁梨刑事の範疇でしたね。出過ぎたことを言いました」

「いえいえ。とても参考になります。その通りだと思います」

 ちょっとシュンとしてしまった縁梨刑事を横目で見ながら、証刑事は司法解剖での死因の結果を待つことにした。死亡現場を確認した後、吉永金蔵の広い家の中を縁梨刑事と共に一通り見て回ることにした。

「確かに物色した後は、何もありませんね。ああ、パソコンもあるんですね。八十八歳にしてはデジタル機器も使いこなしていたんでしょうかね。あれ、でも携帯はガラケーですね。一応、電話の記録を調べておきましょうか」

「ああ、そうですね。電話の記録とSMSも合わせて確認しましょう。後はパソコンの用途の確認ですね〜。それと念の為、銀行口座と法定相続人の確認もお願いします」

 一通り部屋を確認し終わった頃、定期的に訪問してきている地域の民生委員がやってきた。事件のことは知らずに訪問してきたようだ。証刑事は事情を聞こうと思い警察手帳を見せながら近寄った。

「ご苦労様です。私は神奈川県警の証と申します。隣にいるのは縁梨刑事です」

「あのー、吉永さんのお宅で何かあったのでしょうか。私は市から依頼されている民生委員で瀬羽せわと申します。今日は訪問予定だったのでやってきたのですが、なんか黄色いテープが貼られていてびっくりしたんですけれど」

「ええ、実は吉永さんは亡くなられていたんですよ。それで通報を受けて我々が確認に来ているというわけです」

「えっ、吉永さんが亡くなられた。そんな、あんなに元気な人だったのに。寒さ暑さも平気だってこの前、そう二週間くらい前は、おっしゃっていたのに」

「そうでしたか。少し変な質問をしますがもし知っていらっしゃれば教えてください。吉永さんは、歯ブラシは使われていましたか」

「えっ、歯ブラシですか? ええ、総入歯でしたけど歯茎のマッサージもしないとなとか言いながら、入れ歯をしたまま歯磨きをされていましたよ。柔らかい毛先なので入れ歯でも大丈夫なんだと自慢されていました。入れ歯用の歯ブラシだったかもしれません。そうそう、歯磨き粉はつけないで磨くと自慢されていました。入れ歯がすり減ったら困るからと笑いながらおっしゃってましたね」

「なるほど。あとパソコンもお使いのようでしたが、何に使われていたかご存知ですか」

「ええ、パソコンを使って銀行の振り込みとか投資とかやっていらっしゃったようです。凄いですよね、あのお年で。私なんか全くチンプンカンプンですよ。ははは」

「なるほど、そうでしたか。色々とありがとうございました」

民生委員との話が終わったところに、第一発見者の郵便配達員がやって来た。まだ配達途中だったので、全ての配達を終えた後再度話を聞くために戻って来てもらったのだった。

明日に続く


🙇🏻‍♂️お知らせ
中編以上の小説執筆に注力するため、コメントへのリプライや皆様のnoteへの訪問活動を抑制しています。また、ショートショート以外の投稿も当面の間は抑制しています。申し訳ありません。


🌿【照葉の小説】今日は何の日SS集  ← 記念日からの創作SSマガジン

↓↓↓ 文書で一覧になっている目次はこちらです ↓↓↓

連載の最初の話


いつも読んでいただきありがとうございます。
「てりは」のnoteへ初めての方は、こちらのホテルへもお越しください。
🌿サイトマップ-異次元ホテル照葉


#ショートショート #創作 #小説 #フィクション #今日は何の日ショートショート #ショートストーリー #今日は何の日 #掌編小説 #超短編小説 #毎日ショートショート

いいなと思ったら応援しよう!

松浦 照葉 (てりは) よろしければチップによるご支援をお願いします。皆さんに提供できるものは「経験」と「創造」のみですが、小説やエッセイにしてあなたにお届けしたいと思っています。いただいたチップは創作活動費用として使わせていただきます。