5月21日 探偵の日 【SS】謎解き
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】-探偵の日
社団法人探偵協会の「探偵の日選定委員会」が制定。
1891年(明治24年)のこの日、帝國探明會という企業が朝日新聞に「詐欺師や盗人の所在を調べる。他人の行動調査を実施する。」という探偵の広告を日本で初めて掲載した。
記念日は、探偵に親しんでもらい、あらゆる問題を解決するパートナーである探偵という職業ををPRすることが目的。この日にはイベントなどが実施される。
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【SS】謎解き
小さな事務所を構えて営業している探偵事務所があった。助手もいない女性一人の探偵事務所で、探索専門探偵事務所「探専」という看板が掲げられている。探偵の名前は、調珠恵というまるで開き直った容疑者に相応しい名前だった。もともと浮気調査などは得意ではなかったので探し物専門で営業開始したのだった。
ほとんど客が来ることもなく閑古鳥が泣き続けているような事務所で、そろそろ運営資金も底をつき始めていた。たまに依頼がある案件といえば、迷子になったペット探しがほとんどで、しかも探し出せたことはほとんどなかったのだが、動物の帰巣本能により、半分くらいの依頼ではペットが自分で飼い主のところに戻って自己解決してしまっていた。なので収入も一案件あたり手付金の五千円のみが唯一の収入源となっていた。そろそろ家賃を払う月末が近づいていたが、銀行の口座にはほとんど預金もなく途方に暮れていた時、大学時代の友達がやって来た。久しぶりの再会で嬉しくなった。
「こんにちは、珠恵。元気にしてたの。大学出て探偵事務所を開くって言ってたから驚いたわよ。それにしても、看板、なにあれ」
「あら、久しぶり、恵美。えっ、看板、なんか変かな」
「探すのが仕事なのに『さがせん』なんて、最初から仕事放棄しているようなもんじゃない。名称変えたほうがいいんじゃないの」
「あ、やっぱり。ルビふった時に思いはしたんだけど。まぁ、いいかって思っちゃってそのまま。えっ、そんなこと言いに来たんじゃないでしょ、今日は何の用」
「あ、そうね。今日は仕事の依頼。探し物の仕事。実はね、最近執筆を始めたのよ、パソコン使って。でね、ワードっていうソフトを使い始めたんだけど、書いてる途中のファイルっていうのかな。迷子になっちゃったのよ。なんかパソコンが調子悪かったのかもしれないけど、いきなり画面が真っ暗になって動かなくなったのよね。仕方ないから恐る恐る電源を切って、もう一度電源を入れてみたのよ。そうしたら、復活したんだけど、書きかけのファイルがどこに行ったかわからなくなったのよ。お願い助けて。もう五十ページくらい書いたのよ〜」
「はぁ、うちはパソコン屋さんじゃないけど、まぁ、そのくらいだったら。恵美は昔っからパソコンに弱かったもんね。まぁ、私も得意なほうじゃないけど、ファイル探しくらいなら何とかなるかも。で、ファイル名とか覚えてるの。拡張子はワードだからわかるけどね」
「え、拡張子ってなに? ファイル名は、えーっと、わかりません」
「だよねー。そうだろうと思った。まぁ、いいや。じゃあ。ワードで作成したファイルを探してみるね」
珠恵は、パソコンの検索機能で、ワードファイルの拡張子を持つファイルの検索をした。該当の拡張子を持つファイルが一覧で表示された。珠恵は一番上に表示されているファイルをクリックしてその文書を開いてみた。
「恵美、このファイルじゃないかな」
「あっ、そうそう、これ。すごーい、さすがは探偵ね」
「いやいや、こんなの探偵の仕事じゃないし。このくらい自分でできるようにならないとダメだよ、執筆してるんだったら」
「そうよね。私っていつもこんな感じなのよね〜。探偵料金お支払いします」
「もう、いらないわよ。このくらいのことじゃ」
「じゃあ、本当の依頼をしてもいいかな」
「ん、どういうこと」
「本当わね。主人を探して欲しくてここに来たの。実は、もう十日前から帰って来てないのよ」
「えっ、警察とか会社とか連絡してみたの」
「したわ。会社に電話して確認したら、会社は一ヶ月前に辞めてたんだって。でね、警察に行ったら、捜索願いを出してくださいと言われたから出したんだけど、失礼なことばかり言われたのよ〜」
「失礼なことってなに」
「旦那さんは自分から出て行ったんじゃないのかとか、女性関係はありませんでしたかとか、聞くのよ。でもうちの人に限ってそんなことは絶対ないわ。会社だってすっごくきつかったから辞めちゃったんだと思う。そのことが私に言えなかったんじゃないかな。申し訳ないって思って」
珠恵は『これは女と逃げたな』と直感で思った。しかし、そんなことをいきなり友達に言えるはずもなく、いくつか質問してみることにした。
「最近、ご主人の帰りはどうだった。遅い日とか、泊まりとかあった」
「えーっと、毎週、火水木は仕事が忙しいらしく会社に泊まり込んでいたわ。毎週のように。大変そうだったのよ」
「でも、ご主人は会社を辞めていたんでしょう。そのあとは」
「変わらなかったわ。きっと急に帰ってくると心配をかけると思ったんじゃないのかな。私のことを思ってくれていたのよ」
珠恵は完全にキマリだと思ったが、天然の恵美があまりにかわいそうに感じた。それでも想定していることを確実にするため質問を続けた。
「じゃあ、土日はどうだった」
「土日は取引先との接待が多いらしくて一月に三回くらいは泊まりになっていたわね。そんなに忙しくて体は大丈夫かしらと思っていたから心配していたのよ。最近まで続いていたからよっぽど私のことを気遣っていたんだと思うわ」
「はぁ、じゃあ、帰ってこない時の着替えとかどうしてたのご主人は」
「うーん、よくわかんないけど家からは持って行ってなかったから買ってたんじゃないかと思う」
「なるほどね。ご主人は、最近、株とか土地とかマンションのパンフレットとか、みていたりしてなかった?」
「そう言えば、不動産の情報を見るのは好きで、よく安い中古物件を気にしていたようだったけど」
「はい、キマリです。旦那さんは多分女を作って逃げたと思うわ。どうする、場所を突き止めてあげようか」
「ちょっとまって、あの人が女の人と家を出るなんてことありえないわ」
「そんな気持ちだから、恵美はだめなんだよ」
このあと、珠恵は見事に恵美のご主人の潜伏先を探し当てた。恵美に見せていた中古マンションのうちの一つだったので、そんなに時間をかけずに見つけることはできた。ただ、見つけた時には、ご主人と同棲していると思われる女性は部屋の中ですでに死亡していたのである。心中事件として警察では片付けられたのだが、珠恵は何か引っかかるものを感じていた。調査料金として二十万円を恵美から支払ってもらい仕事は終了したのだが。
恵美は相続処理を実施するために遺体を早く見つけてもらいたかった。しかし、夫が購入したマンションだったため、訪ねていく人もいなかった。二人の心中に見せかせて殺害したのに発見されなければ失踪届を出して長い間待つ必要があると思い、珠恵を利用することを考えたのだ。実は恵美の方が珠恵を利用したのだった。珠恵は違和感を覚えながらも友達を助けたいと言う気持ちを利用されて恵美の思惑通りの動きをしてしまったのだった。
恵美は全てが自分の描いたシナリオ通りに周りが動いてくれたことに感謝しながら、何食わぬ顔をして生活し続けている。きっといつかはその報いを受ける日が来るだろう。そして珠恵は探偵業に向いていないと判断し、廃業し今ではOLとして働いているということだった。事件が表面化することはこれ以降もなかった。
了
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