5月5日 薬の日 【SS】万能薬
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 薬の日
全国医薬品小売商業組合連合会(医薬全商連)が1987年(昭和62年)に制定。
611年(推古天皇19年)のこの日、推古天皇が大和(現:奈良県)の菟田野(うだの)へ出かけて薬になる草や木、鹿などを狩る「薬狩り(薬猟)」を催したとされる。その後、薬狩りは毎年の行事となり、この日を「薬日(くすりび)」と定めたと日本書紀に記されている。
採取した薬草には、菖蒲(しょうぶ)や蓬(よもぎ)など香りの強い植物が多く含まれており、これらをお風呂に入れて入浴すると疫病や邪気を払い、子どもの成長と健康をもたらすと考えられてきた。「端午の節句・こどもの日」であるこの日に菖蒲湯に入る習慣が現在でも残っている。
鹿の若い角を乾燥させたものを「鹿茸(ろくじょう)」といい、滋養強壮などの効能があり、貴重な生薬(漢方薬)とされている。
5月は「くらしと薬の月間」となっている。ただし、この記念日を制定した医薬全商連は2014年(平成26年)に解散している。
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【SS】万能薬
中世の街で暮らしている幸せな三人家族がいた。父親は鍛冶屋を営んでおり、裕福ではないが幸せな生活を送っていた。ある日街の中に暴走して飛び込んできた馬車がこの鍛冶屋に突っ込んでしまった。子供だったカールは遊びに行っていて難を逃れたのだが、両親は突っ込んできた馬車に轢かれてしまった。ほぼ二人とも即死状態だった。周りの住民もなす術もなく一瞬の出来事だった。
遊びに行っていたカールが帰って来た。変わり果てた両親を見て呆然とするばかりで何も出来ないまま突っ立ているだけだった。そんな時、街では周りの人たちが集まり葬儀を取り仕切ってくれたのだが、問題はカールをどうするかということだった。カールに聞いても親戚がいるかどうかは分からない。ただ、森の中に遊びに行った時に一緒に遊ぶ男の子の友達がいるということだけがわかった。街に住んでいる人たちも、一人子供が増えて養うことができるような家庭は残念ながらなかったのだ。それで、まとめ役の老人が森に行き、カールの友達の家族を訪ねて交渉したのである。
「こちらは、街の鍛冶屋の子供でカールという子のお友達の家でしょうか」
「ええ、カールは時々、遊びにきますよ。息子のポールの友達です」
「実はカールの両親が事故で亡くなってしまい、身寄りが無くなってしまったのです。そこで、もし可能ならこちらで引き取っていただけないものかというご相談に伺いました」
「え、そんな突然言われましてもねぇ、ちょっと待ってくださいね」
と言いながら、この家の主は「タダ働きをさせられる子供がいると便利だな」と考え、ニコニコしながら回答した。
「わかりました。困っているときはお互い様です。私の家も余裕はありませんが、人助けだと思って引き受けましょう」
こうしてカールは、友達のポールの家に引き取られることになった。唯一の友達であるカールと毎日遊べるのでポールは大喜びである。ところが、ポールの両親はそうではなかった。引き取られた日から、カールは重労働の日々が始まった。ポールは何度も両親に訴えたが取り合ってはくれない。カールは話すこともなくなり、日々辛い仕事をこなす毎日を送っていた。ある日、働きすぎで熱を出し寝込んでしまった。しかし、ポールの両親は薬すら与えようとせず、いつもの仕事をするように要求していた。
「カール。寝込むなんてお前にはもったいない。少しくらい熱があっても働きなさい」
「でも、体が動かないのです」
「それはお前の根性が足りないんだよ。さっさと起きて働きなさい」
カールはなんとか体を起こして仕事をこなした。こんな日々が約十年も続いた。しかしカールは捻くれることもなく綺麗な心のまま成長していった。すでに二十歳を迎えた。友達のポールも立派な青年に成長していた。
あるとき、ポールはカールの異変に気づいた。カールの体つきがどうしても女性に見えてしまうのだ。そこで思い切ってカールに聞いた。
「カール、君ってもしかして女性なのかい。これまでは男友達として接していたんだけど」
「ポール。ごめんな。やっばり感づいたか。もう二十歳だからな。俺、本当は女なんだよ。父さんが女と分かったら酷い目に遭うからと言って男として育てられたんだ。だから、言葉は男みたいなままなんだ」
「やっぱりそうか。なんだかどこか違うなと思って、最近はとても気になっていたんだよ。でもよかった、女性で」
「え、なんでだよ」
「だって、僕と結婚できるじゃないか」
この日から、ポールとカールの関係は友達から恋人に変わった。何かにつけて、ポールは両親の厳しい指示に対して楯突くようになっていった。それを見ていたカールは、ある日突然服装を女性らしいドレスに変え、化粧をしてポールと一緒にポールの両親の前に現れた。ポールは両親にカールをシンディという名前で紹介し、結婚したいと申し出た。美しい女性を見てポールの両親はとても喜び、カールに結婚式の支度を言いつけようとカールの部屋に向かった。そこには置き手紙が残されていた。
『これまでお世話していただいた御恩は一生忘れません。でも、俺はここを出ていきます。カール』
なんて恩知らずなんだと両親は憤っていたが、これからはシンディと共に親子四人の生活になるんだと思うと厄介払いができたなとも内心では思っていた。そしてこの後、森の中の家で親子四人の生活が始まったのだ。
カールことシンディはやっと女性に戻れた喜びと、虐げられた生活から脱却できたことをポールと共に喜んだ。ポールもカールが虐げられている姿を毎日見て心を痛めていたのだった。しかし子供だったため何もできずにいる自分をいつも責めていたのである。それがこうしてある日を堺に幸せな日々に変えることができたことを喜び、シンディと話をしていた。
「生きていると病気をしたり、怪我をしたりして辛いことはたくさんあるけど、そんな時に一番効く薬は、やっぱり愛ね。あなたの愛があればこれからも頑張れると思うわ」
「ああ、ぽくもそう思うよ。君の愛を感じられれば、どんなことでも耐えられそうな気がする。もうカールはいないんだ。いるのはシンディだけ。これからは二人で力を合わせてやっていこう。そしていつの日か、両親には本当のことを打ち明けよう」
「そうね。でもきっとびっくりされちゃうわよ」
運命とは残酷なものである。しかし、そこに一筋の愛の光が差し込めば、どんな薬よりもよく効く万能薬となるのだろう。愛し合う二人の子供が生まれるのもそんなに遠い将来ではないだろう。
了
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