7月25日 日本住宅公団発足記念日 【SS】新しい時代
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 日本住宅公団発足記念日
1955年(昭和30年)のこの日、日本住宅公団(現:都市再生機構)が発足した。
日本住宅公団は住宅に困窮する勤労者のために集団住宅および宅地の供給をおこなっていた。公団住宅で初めて「2DK」や「3DK」など「DK」(ダイニングキッチン)の表示が使われ、「ステンレス輝くキッチンセット」のキャッチコピーが評判となった。公団住宅の人気は高く、発足当初は供給戸数が少なく家賃も高かったため、一握りの人しか入居できず、当時の庶民には憧れの存在であった。
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【SS】新しい時代
夕日が眩しいくらいに輝いている。夏になり日が長くなったので仕事が終わってもまだ明るい。そんなある日、仕事の汗を銭湯でさっぱりするのが日課となっている若者がいた。
「おーい、一郎。一緒に銭湯へでも行こうか」
「そうだな、今準備してくるから、ちょっと待っててくれ。そうそう、そういえば、今度何だかでっかい住宅ができるらしいぞ。駅からは少し離れているけど洋風な感じの住宅なんだってよ」
「へー、どうせ、収入がある奴らの住まいなんだろ。俺たち貧乏人には手が届かないよなぁ」
話をしているのは、安アパートで隣同士に住んでいる、二十八歳になる一郎と幸助だ。この二人は近所の印刷工場で働いている同期だった。田舎から上京して東京に住んでいるのだが、目まぐるしく変化する都会の生活環境に収入が追いつかず、羨ましがることすらなくなって諦めばかりになっていた。
銭湯も早めにいくと割と空いている。近所のお年寄りが数人いるだけだ。後一時間もしたら、夕食を終えた家族連れが押し寄せてくることだろう。一郎と幸助は仕事が定時で終わる日には夕方早めに銭湯に通うようにしていた。
「さっきの話だけどな、一郎。今度できる住宅はなんでも五階建てで何棟も建つらしいぞ。しかも、風呂もついてるんだってよ」
「へぇ、家に風呂もあるのか。そりゃあ、便利だな。俺たちもそんなところに住めたらいいけど無理だろうな」
「それがさ、今度できる住宅は、募集があって抽選で当たれば入れるらしいぞ。まぁ、今のアパートよりは高いんだろうけど。結婚したら、そんな最新設備の住まいに住みたいよなぁ」
賃貸アパートから始まった住宅の提供は、徐々に庶民への供給を目的とし、公共的には市営や県営団地のように所得制限を設けた住宅支援とは別に、住宅供給を目的とし公団が誕生していた。一戸建てや鉄筋コンクリートの集合住宅を次々と開発し提供を始めていった。大量に資材を調達することで、一軒あたりの建築コストを抑え、極力多くの人が購入や借用できる価格を目指し住宅公団は活動を広げていった。そんな日本における住宅供給の改革の始まりから六十年以上が経過した今では、民間の不動産会社も多く住宅を供給するようになり、人々の目は次第に住宅公団が提供する住宅よりも一般の会社が提供する住宅を多く見るようになっている。
賃金の上昇に伴い、住環境も大きく変化してきた。戸建て住宅の屋根には太陽光発電パネルが設置されるのが多く見られるようになり、マンションはオール電化を謳うマンションや、ガスでもエコを強調する物件が多くなっている。環境に対する強い関心という追い風を受けて自動車も電気化が進み、非常時には自宅への給電まで担えるようになってきた。今や住宅と電気は切っても切り離せない関係となり、お互いの依存関係は強くなる一方だ。
今後を考えた場合、未来の住宅の供給を考慮すると現在の建物との混在環境を実現しつつ、自然から得られるエネルギーで賄える住宅が開発されていくことだろう。今は、電気・ガス・水道という生活インフラは行政に頼っているのが現状であるが、近い将来、マンションの屋上や窓、戸建て住宅の屋根や窓で太陽光から発電された電気とタワーマンションに吹き付ける風を利用した風力発電などを融合した個別発電での供給体制ができるかもしれない。同様に、水道もゲリラ豪雨が多くなった時代において、短時間で貯水槽に水を溜め、小型化された浄水器で飲料用に変換することもできるようになるのかもしれない。生活インフラが自給自足できるようになれば、住宅の選択肢はもっと増えるだろう。
一郎と幸助にもその後変化が訪れていた。幸助が結婚すると決まった時、幸助はどうやら賃貸の公団住宅への申し込みを行ったようだ。
「おい、幸助。新居の抽選はどうなったんだ」
「ああ、公団住宅に申し込んだんだけどな。当たったんだよ。なんかすごい倍率だったけど、新婚だと当選確率が高いらしいぞ。一郎、お前も結婚が決まったら申し込めよ。あっ、それまでは我が家の風呂に入りにきてもいいぞ」
「うわー、そうか。すごいな。ついに幸助も公団に入れるようになったんだな。そうかぁ、ちょっと前までは諦めていたけど、俺たちでも住めるんだな。よし、絶対お前が引っ越したら、しょっちゅう押しかけて、いろいろと勉強させてもらうぞ」
「おぅ、いいぞ。ただ、新婚だから少しは遠慮しろよ」
「あぁ、そうだった。じゃあ、一週間に一度くらいの訪問で許してやるかな」
二人の間では、こんな会話が繰り広げられ、幸助は新しい公団住宅の3LDKの部屋が当選し、新しいキッチンで料理をする愛妻を想像していたに違いない。にやけた顔を見て一郎は羨ましそうな顔をしながら、次は俺の番だと思っていた。
了
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