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小説3,000作品以上読んだ人間がオススメする名作20選⑫

皆さんこんにちは
今回は今まで読んだ小説の中で個人的にオススメの作品を紹介します。
※この記事ではamazonアソシエイト・楽天アフェリエイトリンクを利用しています。


1.ジェニィ

両親に顧みられることの少ないピーターは、自分だけの猫を持つことを切望している。
そしてそれは叶えられることが無いことも知っている。
人生とはそういうものだと、8歳にして、悟っている。
ばあやの手を放して猫に駆け寄った時、彼は何かにぶつかった。
そして次に目が醒めると、ばあやはほうきで彼を家から追い出した。
驚く彼の手は、なぜか真っ白な毛皮とピンクの肉球に変っていた。
一晩で人からも猫からも苛まれ、瀕死の重傷を負ったピーターを助けたのは、少し気取り屋で、無器量で、物知りで、優しい猫、ジェニィ。
猫の仕草や仕事を教わるうちに、2匹は掛け替えのない友になる。
海を渡る大冒険の先に、彼らが手にしたものは…

猫の描写の細かさ、子供の心理を表す巧みさ、ギャリコの筆が冴え渡ります。
猫好きでも猫をよくよく見ていないと気がつかない行動の描写は、
さすが24匹の猫達のパートナーです。
そして厳つい著者近影と、スポーツライターという職歴からは想像できない
細やかで、女性的ともいえる観点から子供の内面を写し取る離れ業は、
筆者が子供の記憶を持った大人だったから成し得たことなのでしょう。

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2.月と六ペンス

読む前とは大分異なった読後感を持った。天才(月)と凡人(六ペンス)との対比の観点を中心にゴーギャンの後半生を追った作品との先入感があったが、その構造はかなり複雑である。物語の語り手はモームの分身の老作家で、ゴーギャン(作中では別名)夫妻とロンドンで知り合った頃からの回顧譚という体裁で綴られている。その意味では額面通りの進行なのだが、ゴーギャンが40才にして突然画家に転進する事を思い立った理由とか、パリを離れてからの空白期間のゴーギャンの暮らしとか、ゴーギャンの追い求めた物とかについては仄めかしに留め、ゴーギャンの後半生を描く事を通じて、作家(芸術家)モームとしての芸術観、人生観、幸福観、女性観などが縦横に披瀝されている印象を受けた。非常に充実した内容で思わず作品に惹き込まれた。

一方、明らかにモームは破格の芸術家ゴーギャンを賛美している。同じ芸術家としての羨望と言っても良い。読んでいて、本当にモームがゴーギャンの知己であったかの様な錯覚を覚えた。このゴーギャンへの賛美とモーム自身の芸術観等が重層的に語られる構造が上述の充実感を産み出していると思う。そして更に、それがゴーギャン夫妻や凡庸な画家だが当時の唯一のゴーギャンの理解者であったストループ夫妻を絡めた非情な人間模様の中で描かれている点にモームの力量を改めて感じた。物語としても非常に面白いのである。多様な味わい方が可能な魅力的な作品だと思った。

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3.ユービック

短篇『宇宙の死者』と同様の世界観を持った本作。つまり、人間が死後、或る程度の期間「半生状態」にあるという未来だ。遺体は安息所で冷凍保存され、遺族は棺を通して半生者との脳波の交換、対話が可能だ。そして、「半生期間」が終わると本当の死が訪れるが、その期間は人それぞれだ。
また、超能力者の存在が当たり前になっている未来では、反作用的に自然発生した反能力者「不活性者」達が居るが、これも短篇『超能力世界』と同じである。
しかしながら、そういった舞台設定こそ短篇等と共通しているものの、ディックは全く別物の傑作を生み出した。

金銭にだらしがなく生活に困窮している普通人の技師 ジョー・チップは、不活性者達が勤務し、超能力者達から人々をガードすることを目的とした警備会社に所属していた。
彼の雇い主のグレン・ランシターと11人の不活性者達と共に、ジョーは超能力者を引き連れた敵対組織と対決するべく月面へと向かう。
しかし、到着直後に強烈な爆破を受け、ランシターは瀕死の状態に陥る。
辛くも逃げ帰ったジョー達は、絶命する前にランシターを半生状態にしようと努めるが、脳波の動きこそ確認できるものの、彼との会話は成立しない。
そしてジョー達の周囲に異変が起き始める。
タバコ、コイン、コーヒー、車、あらゆる物が古びていく。やがて街並み自体も含め、全てが1939年に向かっていく。
異変はもう一つ。それは、映話機、広告、テレビ、それらからランシターの一方的なメッセージが届き出したのだ。
不可思議な退行現象の中、仲間が一人ずつ急速な老化で死んでいく。
ジョーは、ランシターからのメッセージに基づき、唯一この退行を止められるという「ユービック」を入手しようとする。
退行現象の原因は?
ジョー達の敵は何者なのか?
これは現実なのか?
謎、謎、謎、全てが謎だ。

少し暗めなムードで進行する本作。
ディックの作品中でも極上に面白いSFミステリーだ。

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4.夏の災厄

パンデミックの話です。
しかし映画とかでありがちなスクランブル交差点の真ん中で血を吹き上げたり、逃げ惑う人々が階段で将棋倒しになったりとかいうようないかにも的なシーンはありません。
あとドラマの主人公のようなかっこいいヒーローも登場しません。

その時々の都合で好き勝手言う人々や、法律や規則に縛られながらも自分たちの仕事を全うしようとする人々を描いた一言で言うなら”ちゃんとした本”です。
でもその”ちゃんとした”リアルさが頁をめくる手を止めさせません。

20年以上も前に書かれた本ですが、まるで現代社会の危機を預言していたかのような、それとも人間の本質なんて今も昔も変わらないだけなのか。
今なら先を競うようにデマや暴言や薄っぺらな同情がSNSで飛び交うのが目に浮かぶようです。

所詮人間なんて生物としての武器を放棄して欲望のために生きることを選んだ脆い生き物なので、
せめて溢れる情報は自分の頭で精査して健康は大切にして行きたいと思いました。

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5.デューン 砂の惑星

砂の惑星として知られる惑星アラキス。
そしてこの惑星でしか採取することができないメランジと呼ばれる香料。宇宙唯一無二の特産品であり、真の抗老化作用を持つがため、ひとつまみのメランジで家が一軒買えるほどの価値がある。
このメランジの存在が、この惑星における生きとしすべてのものに大きな影響を与えている。
それは、巨大な砂蟲をはじめ、フレメンと呼ばれるこの惑星の原住民ともいえる者たちに限らず、本作の主人公ポール・アトレイデスにも・・。
本作の舞台は、人間が考えることを機械に委ね機械の奴隷となったのち、機械という道具を失い、自らの精神を発達させる道を人間が選ぶこととなった世界。
よって、本作は、15歳の少年ポールの人間の精神的成長を描く物語ともいえます。
まず最初に「ものを学ぶすべ」を学んだポール。
それにより、あらゆる経験からものごとが学べると知ったポールが惑星アラキスで必要な知識を短期間で収めていきます。彼の精神的成長の速さには、周囲の大人たちも驚かされます。
未来を垣間見ることができるようになる少年ポールはフレメンたちが言う救世主なのか。

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6.震える牛

大型ショッピングセンターの拡販路線を背景に、ローコスト化による食の問題。
本当に確かなものが提供されているのか。
これに限らず、食に関する事件が紙面で表面化し社会を震撼させることが起こっています。
企業が紙面に広告を支出し口封じのマスコミ対策がなされる。
政治から圧力が加わって口封じされていく。
警察も口封じされていく。
それが現代社会の問題であると、口封じされるムラ社会構造に一石を投じています。
不具合があれば公明正大にリコール等を公表し法令順守する企業。
その反面、見えないように改ざんを重ねたりする隠ぺい体質な企業もあります。
国民は国民を守るために、確かな目で社会を見極めていくことが求められています。

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7.都市と星

深く内省していく主人公と、爆発的に広がっていく舞台とストーリー、その基盤となる世界観が見事だなと思う。
最初は閉鎖的に管理された未来都市と、そこから脱出を夢見る反抗的な少年の話かと思った。主人公が到達する第二の都市<リス>はアーミッシュを連想させる対称的なコミュニティで、二つの都市の成り立ちや比較を通して、主人公がある呪縛に気づく。ここまでが前半で、なんとなくこじんまりとした印象だった。
しかし物語は急展開する。主人公は、より広い世界、そしてより大きな存在と接触する機会を得るのだ。宇宙史の中での地球人の位置と、自分の役割・存在意義を知ることになる。後半はある意味、重苦しい物語だ。
主人公は全編にわたって、次々と入れ替わる<導き手>によって事実や真実の道へと至る。<導き手>はクラークであり、主人公は読者自身なのだ。クラークは作品の中に入り込んでまで、我々をどこかに導き、何かを知らせ、覚醒を促しているに違いない。それはクラークの信念であり、テーマである。そう確信するような作品だ。

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8.少年H

戦争中の日本を描いた作品といえば、戦争の悲惨さを描く作品が多いものです。火垂るの墓やはだしのゲンがその代表で、戦争を繰り返さぬよう、子供たちや次の世代へその悲惨さを伝えていくことはとても重要なことだと思います。
本書はそうした作品とは違い、戦争中、普通の町の人はどんな暮らしをし、何を思っていたのかを少年の目線で描いた本ですが、悲惨な戦争体験を伝えることと同じほどそれは重要なことだと思うのです。

戦争は突然始まるのではなく、だんだんと周りの様子が変わっていくのだということ。視野を広く持ち、世界に目を向けることの大切さ。現代の私たちからすれば異常ともいえるあの時代ですが、当時の人にとってはそれが「日常」であり、戦争が日常であるとはどういうことなのか。
そういったことが本書を読めばありありと掴めるような気がします。
子供の頃にこの本を読み、初めて戦争というものを肌で感じ、等身大の理解ができたと思っています。これは当時の「日常」がリアルに描かれているからでしょう。

まぁそんなかたいことを抜きにしても本書はとにかく面白いです。好奇心旺盛でしたたかな少年Hの目に映る戦争という日常。自分は神戸が故郷のようなものなので、なじみの土地が次々と出てくるのも楽しかったです。
登場人物たちを見ているといまの私たちとあまり変わらないように感じます。いつの時代も人は笑い、悩み、成長していくものなのですね。

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9.虎よ、虎よ!

人類が宇宙に旅立つ時代。ジョウントという瞬間移動能力を誰もが使えるようになった時代。
ジョウントを使用した窃盗や殺人といった犯罪が世界中で頻発、やがては星間戦争に発展するまでに至った。
主人公ガリバー・フォイルはノーマッド号で1人救援を待っていたが偶然通りかかった輸送船ヴォーガはノーマッド号を無視してどこかへ向かってしまう。フォイルは自分を見捨てたヴォーガへ復讐の炎を燃やし、いつか必ず滅ぼしてやると誓う。
途中、小惑星地帯で奇妙な文明人に顔へタトゥーを施されて本当の虎のような紋様となったフォイル。
ヴォーガの船主プレスタインを殺そうとして失敗するも、復讐の怒りは消えず関わった女たちを道具のように利用しながら復讐達成のためにあらゆる手段を尽くす。
ジョウントをはじめ、激高すると顔に浮き上がる虎のタトゥー、テレパシー能力を持つ女性、場面場面で突如現れる燃える男、老人の顔をした少年科学者、歯に仕組まれた加速装置、世界を破滅にいたらす物質パイア、そして共感覚、と作者の持つすべてのアイデアをごった煮にして休む間もなく読者に驚きと興奮を与えてくる。
些細な矛盾点や破綻した部分など吹き飛ばすように情報とガジェットとイメージの洪水があふれかえり読者を最後まで離さない。

ただの野獣のような主人公の復讐嘆が、ここまで強烈なエネルギィに満ちた展開に昇華できたのは作者ベスタ―の非凡なSFストーリーテラーとしての手腕によるものだ。
古い作品だが古典SFとして今も読み継がれるのはそれだけSFの面白さが詰まっているからだろう。
ガリバーフォイルは最後の最後まで復讐を果たすためだけにもがき続ける。顔に忌々しい虎の紋様を湧きあがらせながら。

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10.青い城

独身で誰にも愛された記憶がなく、家族の間でも肩身の狭いヒロイン・ヴァランシー。
抑圧された、陰鬱な日々を送っていた彼女に起こったある事件。
それによる変貌ぶりで、人生がどんどんひらけていく様が読んでいて気持ちいいです。
赤毛のアンを読んでた小学生のころは、いまいちピンとこなかったのですが、
「将来を悲観する独身女性」の描写の鬼気迫ること!
こまごまとした心情がとても生き生きと描かれています。
ユーモアがあって、皮肉屋で、ロマンチック…くるくる変わるヒロインの心情も魅力的。

そして自然描写が最高に美しいです。
ヴァランシーがマスコウカ地方の自然に大感激するシーン、
アンがプリンス・エドワード島の美しさに魅了されてるシーンが重なって
私も感動したなあ、と思い出しました。
詩的な言葉たちで綴られた美しい情景や色彩にうっとり。文章なのに絵画のようです。
はじめは鬱々としてますが、最後はほんとうに大団円!
「ちょっと都合よすぎだよ!」とは思うくらいですがスカッとしますよ。

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11.熟柿

物語の始まりは、誰の身にも起こり得る日常の「一瞬の裂け目」です。激しい雨の夜の轢き逃げ事件。そこから主人公・かおりの17年に及ぶ、名もなき潜伏と献身の日々が始まります。
かおりが味わう「我が子に会えない絶望」と、それでも息子を想い、生命保険のためだけに孤独に働き続ける直向きな姿勢には、胸が締め付けられる思いでした。一歩間違えれば自分もその境遇に置かれるかもしれないという、拭いきれない恐怖。そのリアリティが物語の緊張感をいや増しています。
そして最後に訪れる、あの「熟柿」の情景。
タイトルの本当の意味を理解した瞬間、言葉を失うほど「はっと」させられました。17年という、気が遠くなるような歳月を経てようやく「時が満ちた」のだと。これまでの彼女の不幸と孤独が、この瞬間のためにあったのだと思えるほどの、静かですが力強い救いがありました。
「報われた」――。読み終えた後、自然とそう呟いていました。
大切な家族がいるすべての人に、そして、いま何かをじっと耐え忍んでいるすべての人に読んでほしい、魂を揺さぶる傑作です。

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12.ガープの世界

『ガープの世界』の中で、主人公ガープは「人生は二流のメロドラマ」であると言いますが、この作品はそれを体現しています。誇張された暴力とセックス、そして死。作品中ではめまぐるしく常に何かが起こっており、読者を飽きさせません。

この作品はハチャメチャなことが起こるという「ポストモダン」の小説でありながら、ディキンズのような伝統的な語りのスタイルを継承しています。その意味では、じっくりと深みのある小説を読みたいけど、退屈な作品は嫌だという方にぴったりです。

小説家である主人公ガープが書いた作品に対して、彼の編集者はこう言います。
「いいかね、もちろん、これはすごくよく書けているよ . . . でもね、なぜかメロドラマなんだ、度がすぎるんだよ」
これは『ガープの世界』にも当てはまります。
深みがあるけれど、不条理が日常的に起こり、現実的ではない。
その編集者に対して、ガープは答えます。
「人生は . . . なぜか、度がすぎるものですよ。人生が二流のメロドラマなんです」
これがジョン・アーヴィングによる人生の定義であり、彼の世界観をもっともよく表した言葉だと思います。

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13.クビキリサイクル

主人公と「天才」と呼ばれる人物たちが集まった屋敷で起こる殺人事件がメイン。トリック自体はなんてことないものだが、ガッカリすることはなくむしろ気持ちいいくらいの反則ぶり。そして事件解決からさらに二転三転する結末は極上のエンターテイメント。ここまでやるか。
マンガ的アニメ的キャラクターも魅力的。マンガ好きの自分は特に現実離れした人物たちが好感を持てる。なのに話は軽くならない。
キャラものであり、ミステリーもあるが、やはり特筆すべきは言葉遊び。ぼく、玖渚友、哀川潤。徹底的に作られたキャラクターが織り成す会話劇。どこまでが本当でどこからが嘘か、それとも全て戯言か。信じてたものに裏切られるおもしろさがある。

この物語において、犯人や犯行動機を予想することに意味はない。しないほうがいい。事件以外のところも含めて、ただただ最後まで驚かされながら読んでほしい作品。

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14.舟を編む

かつて辞書にはお世話になった世代だ。
しかし、実際にこの本を読むまで、あの薄い紙の中に、小さな宇宙が詰まっていたとは考えたことも無かった。
しかもどんなに使い込んでもあの一見柔な紙は破れることがなかった。

本の中で何度も繰り返されたメッセージがある。
それは、人は言葉無しに自分の思いを伝えられない。という余りに当たり前すぎて日常から抜け落ちていた事実である。
思いを乗せて運ぶ言葉を扱う辞書はそれだけに大切である。

辞書編纂は大海に笹舟でこぎ出していくようなチャレンジなのだ、と編纂者たちは気を引き締め、たとえ一語たりとも疎かにしない。かれらの熱意は読者を共感者としなければならない。
編纂者たちが自らに課した戒めである。
読了して、やはり読んで好かったと思わずにいられなかった。
変人と受け止められている主人公の性格設定が好ましく、彼を取り巻く人々にも好感が持てた。

下宿先の春日のアパートは昭和の匂いが満載だ。下駄箱、上がり框、共同炊事場、なによりも真っ直ぐのびた廊下の色が懐かしい。 
ギシギシ音のする廊下の左右にドアーがあり総ての部屋が本で満たされている。
古びた社屋の編集部にも同じ匂いが漂う。
正に辞書編纂はこの環境でなくてはならない。
主人公と仲間たちの熱意無くしては、そして多くの人々のパワーを得なければ、言葉の舟を作り上げることは不可能だったろう。
重い内容を、コミカルにときに爽やかに描いた作者に拍手したい。

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15.フォルトゥナの瞳

人の「死」が視えた時、あなたなら、どうしますか?

主人公はある日、他人の死の運命が見えるようになる
その力に対し終盤まで悩む「主人公の葛藤」
自分の命と引き換えに変えられる一部の運命に対し死ぬ人達の周りにいる人の悲しみや辛さ、その人の未来を考え、自分の命を引き換えにするのか?
視ないものとし、自分のために生きていくのか?
ここに多くの人が持っている、時に善であり時に悪の思考の、時に単純であり時に深い思考が表されている。
ここに人間の持つ思考のアンバランスさが表されていて読み応えがあります。
そして、ラストは今までの葛藤や人のもつ思考のアンバランスさが何だったのか?
というほどあっさりとした思考と行動。
覚悟が決まる瞬間も行動の瞬間も淡白。
しかし、この淡白さが「生々しい」
現実世界でも人は悩んだ時期が何だったのかというほど覚悟や結論の時、その行動の時は振り切ったかのように、あっさりしている。
最後が物足りないと言う読者も多くいると思いますが、この淡白さに人の生々しさを感じます。
また、最後に明かされるヒロインの心情も「人のアンバランスさ」を表しており、
生々しく、考えさせられるものがありました。

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16.帰ってきたヒトラー

「過去に目を閉ざすものは将来に向かって盲目である」とはドイツの政治家ヴァイツゼッカーの言ですが、現実のドイツは過去に目を見開いているとは言えません。現代でもヒトラー礼賛や鍵十字などはタブー視され、くさいものに蓋をするかのようにナチスを絶対悪としています。
しかしこの本は、読者にヒトラーの魅力を見せつけることでその「蓋」をこじ開け、思考させます。読み進めていくうちに読者は、議論の余地なく「絶対悪」であるべきナチス、ヒトラーにある種の親近感を覚えるでしょう。そうして、神格化される民主主義が抱える爆弾を認識し、正にナチスによる悲劇が他人事ではないことに気付き、揺さぶられます。
個人的ハイライトは、同僚の女性がヒトラーに手渡す一枚の写真に対する両者の問答です。この話の核が詰まっていると感じます。
何はともあれ、このような本が出てきてナチスに向かい合うことは素晴らしいことだと思います。我々日本人にとっては特に様々な思考ができる、良本です。

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17.ネバーランド

舞台は伝統ある男子校(進学校)、そしてその敷地内にあり、もうすぐ県の文化財に指定されるかもしれないほどの歴史を持つ学生寮『松籟館』。冬休みにこの松籟館に居残った4人の少年が胸に抱える過去と現在の苦しみ、そしてその苦しみの告白、他の3人の助けでどのようにして苦しみから解放されるかにスポットを当てています。
この居残り4人が、みんないい味出しています。進学校らしく、少しインテリっぽいところはありますが、みんな青春真っ只中って感じで、すごく共感できます。
この本を読めば、今高校生の方は、青春を謳歌する彼らと自分とを比べることで、自分自身を見つめなおすことができるでしょう。すでに高校を卒業してしまった方は、懐かしい思い出に浸れることでしょう。そしてこれから高校生になる方は、未来の自分の姿を想像し、心躍らすことができるでしょう。
こんな高校生たちと、まさしく彼らの『家』である学生寮は、きっとどこを探しても存在しないでしょう。でもだからこそ、この小説が輝いて見えるのだと思います。

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18.青の炎

私がこの作品で感じたのは、人の心の美しさだ。

主人公が1件目の殺人を犯したのは、純粋に母と妹のためだった。
愛する家族を守るためとはいえ、殺人は許されることではないし、実際問題発覚する可能性も高い。
ただ、彼の眼にはそんなことは入ってこなかったのだろう。それは愚かなことではあるが、その愚かしいまでの純粋さが、私には美しく感じられた。

殺した後の描写も生々しい。人を殺してしまったという罪悪感と、発覚するのではないかという恐怖が彼を苦しめる。
そこで描かれているのも、また心だ。どんなに冷静ぶっていても、自然に出てしまう、感情。その姿が美しい。

2件目の殺人は、ためらいながら実行する。なぜなら1件目と違い、殺すのは憎んでいる相手ではなく、かつての親友だからだ。ただ、家族を守るため、そして1件目ですでに殺人という一線を超えてしまっているため、実行に至ってしまう。

結局すべては露見してしまうが、発覚した後の彼は、初めて自分を客観的に見ることができるようになっていた。そして、自分の行いを後悔しつつも、家族を守るため、最後の手段に出る。

彼の中の純粋な”青の炎”が勢いよく燃え盛り、そしてゆらゆらと揺らぎながらも、最終的には落ち着いた炎になって静かに消えていく。人の心をこれほど純粋かつ情熱的に描いた作品は他にないのではないだろうか。

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19.昨夜のカレー、明日のパン

登場人物たちの心の奥底にはいつも、大切な人を亡くした悲しみが横たわっています。
悲しみは消えないけれど、楽しかった思い出もまた消えることはありません。

主人公、テツコは、25歳で逝った夫の思い出を、ときおり大切な宝石を取り出すように眺め、ゆっくりと死を受け入れています。
そしてギフもまた同様に、妻と息子の死をゆっくりと受け入れながら、
ゆるゆると日常を生きている。
悲しいだけじゃなくて、テツコとギフの日常が、読んでいて、とても心地よいのです。
決して、悲嘆にくれず、マイペース。
死はとても悲しいことですが、悲しみと共生していくのも悪くないな。
そう思える作品集でした。

短編すべてに、テツコとギフの世界がいろんな登場人物たちの視点で展開されているのですが、ギフの妻の話、『夕子』は泣けました。
だけど、たいていの話は、クスッと笑えるものばかりです。
疲れている人、そして悲しみを乗り越えられなくてつらい人におすすめです。

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20.きよしこ

この作品は「吃音という試練を与えられた少年が、親の都合で繰り返す引っ越しにより、そこでの色んな人達との出会いを通して、大人へと成長し、吃音とともに生きていき、自立していく」という物語です。

実際、私の母親が吃音を持っていて、小さい頃から間近で見てきている分、きよし君の「伝えたくても伝えられない」という、その悲しみや悔しさがよけいに分かります。

ただ救いに思えたのは、きよし君には心配してくれて、なんとかしようとしてくれる家族の存在があった事です。
親身な家族の存在のおかげで、作品自体の雰囲気も、暗さや悲しさが幾分抑えられて、温かみが増していると思います。

きよし君の成長をたどっていく短編集として読めるこの作品ですが、その一つ一つの短編全てが素晴らしいです。
とにかく、物語の吸引力がとても強く、ぐっとこの作品に引き込まれるんです。
続きが気になり、きよし君の歩む道をもっともっと見てみたいと思い、あっという間に読み進めてしまいます。
その中でも特に、一番最後の「東京」編に、作者が伝えたかった事、全てが凝縮されていると思います。

悲しくて悔しくてもどかしい思いをいっぱい抱え、それでも、たくさんの人と出会い、嬉しい事、楽しい事も経験し、色んな事を学んで大人へと近づいていく主人公のきよし君。
そんな彼が物語の最後、自分を信じて、自分の力で、大きな一歩を踏み出そうとするシーンが忘れられません。
きよし君の成長の過程をずっと見守ってきた分、ラストの感動の大きさは計り知れないです。

タイトルにもある「きよしこ」は、主人公のきよしが小さい頃から心のより所にしていた、架空の存在です。
だけどその「きよしこ」は、まぎれもない、きよし自身だったのです。
それがラストで分かります。
読後は爽やかで、深い余韻が残りました。

この作品は「吃音」をテーマにしていますが、吃音に関わらず、人間は誰しも、苦しみやコンプレックスを背負って生きているのだと思います。(もちろん、自分も含めて)
この本は、そんな苦しみやコンプレックスを抱える自分を認めて生きる事。その上で、殻に入るのではなく、外の世界に一歩を踏み出していく大切さ、勇気を与えてくれます。
自分にとって生涯の愛読書です。

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おわりに

いかがでしたでしょうか?
どの本もオススメなので良ければご一読ください。

その他書籍も紹介しております。
宜しければご覧ください。

   

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