見出し画像

小説3,000作品以上読んだ人間がオススメする名作20選⑥

皆さんこんにちは
今回は今まで読んだ小説の中で個人的にオススメの作品を紹介します。
※この記事ではamazonアソシエイト・楽天アフェリエイトリンクを利用しています。


1.ぼくには数字が風景に見える

映画レインマンで有名になった、サヴァン症候群。
ものごとを記憶する能力に長けており、何万桁の数字を記憶したり、
ひとつの言語を1週間程度で習得してしまうような、超越した能力を発揮する。
一方で、物事や会話をの「全体象」を理解するのが不得意で、
それは、特に人とのコミュニケーションにおいて障害をきたすことが多い。
人とコミュニケーションが円滑に図れない、人と自分が何かが違う、でも何が違うのかが理解できず、人に説明できない孤独感にさいなまれ、苦しむケースが多いという。

著者は人とのコミュニケーションを求め、勇気を振り絞り、自ら行動を起こし、人とつながること、人のぬくもり、その喜びを知り、
そのために自分はどうすべきなのか、自分は人とどう違うのかを理解し、周りに働きかけていく。
彼の行動力と、人に対する優しさに、心が温かくなった。
人とのつながりを求めるすべての人にとって、参考になる本だと思う。
サヴァン症の人々が抱える悩みは、本質的には多かれ少なかれ、皆が抱える悩みであり、それが際立っているケース、なのだと思う。

📚 楽天ブックスで見る

2.Ank : a mirroring ape

京都で突如起こった大暴動。チンパンジーの研究をしていた研究所で何が起こったのか。主人公の望が事件の解決と真相に迫るが、予想を遥かに超えた未曾有の大災害が加速度的に拡大していく、という話。

章ごとに行きつ戻りつする時間軸。
分かっていることと知っていること、起こっていることとこれから起こることが錯綜して、今、自分が生きているこの空間がどちらの世界線なのかが分からなくなるほどだった。
これは虚構なのか?
すぐ隣で起きている、もしくはこれから現実世界で起こりうることではないのか?
読み終わっても緊張が抜けず、頭の中にいろんな可能性が渦巻くようだった。
科学的に詳しいことが分からなくても、十分に楽しめるパニックエンターテイメント。

📚 楽天ブックスで見る

3.法廷遊戯

ユニークな珠玉の法廷ミステリー。
”無辜の制裁”をテーマにしている。
事実関係を解明し、それに基づく法律を展開していく。
感情を抑え、事象をロジックで表現しているが、思いやるきもちは伝わってくる。
ひとがひとを裁くこと、その司法制度の盲点を捉え、社会に一石を投じている様子が伺える。

法的解釈の理解が読み手によっては一部難解な事もあるかと思いますがそこはかなり配慮されているように思いますしスラスラと読み進めました
暗い過去を持つ2人が無罪判決獲得に向けて希望を抱くストーリーです
ラストの展開で2回鳥肌が立ち3回涙腺が緩みました

📚 楽天ブックスで見る

4.きいろいゾウ

背中に飛べない鳥の入れ墨がある、売れていない作家の夫、無辜歩(むこ・あゆむ)ことムコさんと、どこか頼りなげで、ふわふわしていてつかみ所がなくて、
その上、犬の声や周りの草花の声や木々の囁きや夜の大気の声まで聞こえてしまう妻、妻利愛子(つまり・あいこ)ことツマさんとの夫婦の心の繋がりを、ほつれたり、一旦はほどいてみたり、またきちんと今度はしっかりと強く結び直してゆく風景が広がる。

淡々とした田舎の時間の流れを軸に、ツマさん目線の日常、ムコさんの日記形式の独白、「きいろいゾウ」というお月様とその月のきいろい粉を全身に浴びた空を飛べるゾウと、ちょっと身体の弱い女の子の童話、その3つがゆるやかに絡み合って心の繋がりや、愛情の姿形のシルエットをぼんやりとでもしっかりと映し出してゆく。

近所に住むアレチさんの愛情、登校拒否の小学生大地君の恋情、洋子ちゃんの直情、漫才コンビつよしよわしの友情、カンユさんという名の犬の母情、
コソクというにわとり、くも、むかで、よる、大気、でっかい満月

それぞれが心の珠に灯している想いが少しずつあったかく、厚みを持って丸みを持って読む人を包み込む。
ぬるめの薬湯にじっくりと浸っているような雰囲気で、ずーっと内側の深いところが気持ちよく、ほぐされて表情も心情も柔和になる。

📚 楽天ブックスで見る

5.この世にたやすい仕事はない

十数年、精力を注いでいた仕事(その中身は最後になって明かされる)でバーンアウトしてしまった主人公が、5つのユニークな仕事を少しずつ体験するという連作短編。
それぞれの仕事は「みはりのしごと」「バスのアナウンスのしごと」「おかきの袋のしごと」「路地を訪ねるしごと」「大きな森の小屋での簡単なしごと」である。それぞれの短編での仕事の内容、職場の人々、主人公の思いや行動も面白いのだが、以下は通読しての感想。

最初の仕事は明らかにアヤシイ。第二の仕事は、仕事そのものはありそうだが、そこでアヤシイことが起こる。そして謎は謎として残る。一方、第四、第五の仕事でもアヤシイ事件が起こるが、それらにはどちらも合理的な説明がなされる。そう考えると、この作品は全体としては、燃え尽きて現実とうまく折り合いをつけられなくなった主人公が、非現実の世界から徐々に現実の世界へと復帰していく物語なのかもしれないと思う。

自分が全く知らなかった職種がこんなにあるとは!
あってもおかしくない、多分あるだろう。
求人情報で探した事がないジャンルで、単純に面白かったです。
やってみたい!

📚 楽天ブックスで見る

6.檸檬先生

「多様性」を扱った小説。
ただそこには、よくある嫌らしさもなければ、押し付けがましさもない。唯一残すのは、その“色”が我々の心でどう“響いた”か。その残像であり、残響のみだ。

同じ学校の先輩少女との出逢った、ある特殊な“能力”/個性を持つ主人公の“少年”「私」から見える「世界」。その情景を丁寧かつ緻密――それでいて鮮烈――な筆致でしたためていく“追体験”型の長編小説。

「追体験」と書くのは、まさにその視点からでしか物語を観ることが出来ないからだ。
しかしだからこそ、共に浸ることも出来るし、また語り得ないものを想像し考察せざるを得ないという想像力も擽られる。
「私」と共に、「私」が生きる、そして生きた時間、或いは世界を、悩み、共感して“生け”る。
確かに面白い。ただ自分自身を、僕自身の心を、感情の演算能力を、試されているようで……寧ろ処理しきれない自らの無能さに辛さも残ったりもする。

もしこの物語を通して抱えきれない想いが芽生えたのなら、友や親、或いは先生と、語り分かち合うのもいいだろう。今、もし我々が孤独なら、他ならぬ「珠川こおり」の作品に、その”応え“を求め続けていくのも無論妥当な手段だ。
その応えを何処にどう求めるかは、まさに人それぞれのそれこそ「生きる」道だ。

いずれにせよ少なくとも私にとって、「檸檬先生」が落とした色彩の雫は波紋――決して小さくない――となり、心の襞に深く染め渡った。そして今日以降その痕跡は”此処“に残り続けることになるのだろう。それは確信に近い予感だ。

📚 楽天ブックスで見る

7.上流階級 富久丸百貨店外商部

きもちがウキウキする空間が百貨店。
その外商部の奮闘記。
無機質なネット購入とは一線を画するサービスが百貨店の外商。
箱売りではなく、お客さんのきもちを理解して応えていく物売りサービス。
すでに品ぞろえをしたものからチョイスしてもらうのではなく、お客さんが求める意図にあわせて品ぞろえを作っていく。
CS(顧客満足)とは、お客さんにその場しのぎにこびへつらい謝ることではない。
お客さんがお望みのものをクリエイティブに形として提案していくもの。
お客さんが成長されていく姿を側面からサポートしていくもの。
それが百貨店、外商のウリであると力説している。

アメリカで営業マンはとても評価の高い仕事だと聞いたことがあります。
この本を読んで外商は、営業のトップだと思いました。物を売りつけない、媚びない、でもノルマをこなす。
そのためには、とことん相手を想う、自分を磨く。学歴のない鮫島の成長物語。
話の展開が早く、読みやすく、会話が軽妙で一気読みでした。

📚 楽天ブックスで見る

8.未必のマクベス

シェイクスピアの戯曲の下りを交えた展開。
IT企業が関わるミステリーを加えた犯罪小説。
そしてピュアな初恋ラブストーリー。
王の物語としてパノラマが広がっていく。
さまざまなエッセンスが盛り込まれている。
香港、澳門を中心に、グローバルな展開。
ミステリアスな意味深な、あえて読みづらい表現を使っているものの、その味わいは深くなる。
すべての事象が疑心暗鬼となっていく。
シナリオは戯曲に基づくのか。
危うさの中で、旅として物語が進行していく。
主人公はそのスリルを楽しんでいるがごとく。
そんな中で、冷静な目線と冷徹な行為で、身を守る進路を決めていく。
哀しみをもって、温かく感じる。
戯曲のミステリーは最後の最後まで続く。
読後の余韻に浸る印象深い小説。

📚 楽天ブックスで見る

9.元彼の遺言状

冒頭、プロポーズをされた女主人公が、渡された婚約指輪のショボさに激怒し「内蔵を売ってこい!」とキレるシーンから始まる。
この時点で「おっ、この女イカれてやがりますね」とわかるのだが、この銭ゲバ主人公が遊ぶ金欲しさ(かどうかは知らんが)に、殺人事件とか犯人選考会とか暴力団との対決とかに怯まず立ち向かう展開は愉快痛快。

そんな感じのマンガみたいな展開が続いて、リアリティがあるとはとても言えない。
だがそれでも読み応えがあるのは、設定や展開が警察や法曹界の知識にきちんと裏付けされているからだろう。
たとえば、「住居侵入罪ですよ」と注意してくる警察官に向かって全く怯むことなく、「うるさいわね! こっちこそ任務懈怠で国家賠償請求してやるわ!」と反撃するとことか超面白いし、任務懈怠という語彙が出てくるのが「はえー」ってなる。

株式譲渡とか遺言状の有効性とか難しそうなトピックが出てくる一方、文章にもジョークがちょいちょい混ざるので、全然堅苦しくなく、笑いながら読めた。
アガサクリスティが書く相続争いのミステリに、往年の名作ドラマ「やまとなでしこ」の神野桜子を登場させ、専門知識も駆使して書いたみたいな、大人でも十分に楽しめるインテリユーモアミステリに仕上がっている。

そして私が一番驚いたのは、物語を読み終える頃には、なんだかこの女主人公がかわいく思えていたことだ。
ただの守銭奴かと思いきや、悩むこともあれば、人助けを優先することもある。
自分がわりとピンチな状況にあっても、「まっ、運が悪かっただけじゃない」と、ある女性を励ますシーンとか、なんかキュンとしたわ。
ヤンキーが雨の中の小犬を助けている姿に惚れるのと同じ。これが恋……?

📚 楽天ブックスで見る

10.かたみ歌

昭和30年~40年代のある下町を舞台にした物語7編。
いつもながら舞台背景は当時のヒットソングを盛り込んだり、
細かいところまでよく描き込まれている。

その町には「アカシア商店街」というアーケードと、覚知寺がある。
覚知寺は彼岸と此岸を繋げるといういわれがある。
そして起こる不思議な出来事。
『おんなごころ』は人間の業の深さを感じさせる怖い物語だが、
その他はどこか懐かしさや人情味を感じさせる、いわゆる「ノスタルジック・ホラー」である。
特に『栞の恋』がいい。朱川ワールド満載だ。

全編通してキーマンとなるのが、アーケードにある「古本屋の主人」。
登場人物たちは何らかの形で彼と関わる。
彼はなぜ全編を通して登場するのか。それが分かるのが最後の『枯葉の天使』。
『かたみ歌』の意味もそこで分かる。

朱川作品は、まず読んでもらわないことには良さが十分に伝わらない。
文中にある「どんなものであれ、魅力というのは言葉だけで伝わるものでは
ありません」。これがすべてを語ってくれている。

11.つきのふね

ノストラダムス前夜を意識した内容ですが、不思議なくらい自分は、そんな「世紀末感」は感じなかったです。というのも、「地球滅亡」のようなトンデモ話は、1999に限らず、いつの時代にもあるからでした。

登場人物は大人びた中学生が多いというのか、普通の中学生らしい子たちじゃなく、年上の男性との付き合いから犯罪に手を染めたり、そこについていけなくなって離れてやさぐれたり、そんな女子が気になり過ぎて介入していく男子だったり、いわゆる素直で異性とのやり取りに緊張するようなタイプの子は出てきません。

登場人物の中で一番魅力的だったのは智さんという若い男性で、精神を病んでいく設定ですが、狂っているというより現実逃避なのか、何かを信じすぎて現実との境目がわからなくなっていっただけに見えました。
彼は優しくて、誰のことも否定しないで受け入れます。中学生達に対しても拒否せず、あまりに自然に関係を深めます。もともとはとても優秀なエリートコースを歩む予定だったそうですが、諸事情から外れました。
彼自身は欲も見栄もなく、ただ繊細で優しい人に見えますが、実は本人自身が自分の現実が受け入れられないことも病んだ原因かもしれません。

作品の終盤に向けて大きな事件があり盛り上がりますが、この作品の魅力は、壮大な宇宙の話をテーマにしても身近な人間関係や心理を丁寧に描き、仲違いした2人が和解するまでの道、心を病んだ人の回復など、潮の満ち引きのような自然な流れで対比を描いたことにあるのではないでしょうか。

📚 楽天ブックスで見る

12.千年鬼

人の心に生じる「鬼の芽」を摘み取っていく鬼たちが主人公の、連作短編集です。
我慢がきかなくなるほどの辛さや苦しさ、憎しみが鬼の芽となります。
この芽が弾けてしまうと「人鬼」になってしまい、非道を働けば二度と生まれ変わってこられません。

前半はさまざまな苦しみを抱えながら必死に生き、
鬼の芽を生じさせてしまいつつも摘みとられていく人の話が数話。
後半は鬼の芽を摘むことになった物語の核になる部分と、その後の話です。

読みやすい文体で書かれている作品なので優しげな雰囲気が漂いますが、
描かれている内容は哀しみが詰まっています。
人間は何百年経っても同じことで悩み苦しむ、との鬼の台詞通り、
自力ではどうにもならない状況に追い込まれていく人たちの姿が切なかった。

千年かけて必死に摘み取っていく鬼の芽。
鬼のささやかな願いは叶えられるのか。
希望と哀しさの入り混じったラストが良かったです。

📚 楽天ブックスで見る

13.i

主人公のアイはシリア系の血の流れる養子であり、恵まれた家庭で過ごしていた。しかし彼女の過剰なまでの繊細さから、自分が存在していいのかについて自問し続けていた。彼女のその自問を複素数iに例えて物語が進んでいく展開で始まったが、恋に落ちる相手ユウとの出会いで、彼女はようやく実数の平面に存在する自分を改めて確認できたのだと思った。そしてその世界で、自分の血のつながった子どもを作ろうとするアイの健気さに、彼女のアイデンティティの複雑さを見た。またこのアイとユウ、一人称と二人称という名前の設定にも、西加奈子の緻密な世界観の創造を垣間見た。
個人的には途中、イランのことについて触れられたことにおいて西加奈子の幼少期の体験や人格形成についての要素を取り入れた作品だったのかと考察した。
「世界で起こっている悲劇を想像することは出来る」
世界の悲劇に無関心でない自分でい続けることを西加奈子さんから学んだ。

📚 楽天ブックスで見る

14.森崎書店の日々

冒頭で主人公が失恋し、仕事も辞めて失意のどん底の中、転がり込んだ古書店で、暖かい人たちやゆったりとした街の空気に癒されながら、ゆっくりと再生していく
確かに“どこかで読んだような”展開ではありますが、普通の感覚から離れたような突拍子もない人物描写やあり得ない事件もなく、最後まですんなりと、気持ちよく読むことができました。

優しく穏やかで、読者の心に寄り添ってくれるような内容だと思います。
それでいてそっと背中を押してくれるような前向きさもあって、「色々あるけど明日からがんばろうかな」という気持ちになりました。
原作も映画もぜひおススメしたいです。また、舞台となっている神保町の雰囲気や様子がよく伝わってきて、神保町の知識のない私にとっては、敷居の高いイメージがぐっと身近になりました。

📚 楽天ブックスで見る

15.ノラや

家の庭に訪れた子猫が柄杓の柄にじゃれる様から始まりますが、ここからもう猫への、ノラへの愛が溢れています。
百けん先生は、ノラがご飯を食べるようす、寝ている様子、しっぽの形、あくびや伸びまで、些細な様子を観察し、日々のノラとのやりとりを記していますが、その眼差しはそれはそれは温かく、おかしくて、読みながら何とも言えない優しい気分になります。

ノラがいなくなり、最初の最初のうちは朝も夕もノラを思い出して泣きくれる百けん先生の姿が可愛らしくて「ふふ」と笑ってしまう余裕がありますが、少しするともういけない。
百けん先生の悲しみにこちらもとっぷり浸かってしまい、一緒になって「ノラや、ノラや」と泣き続けることに。明日は帰ってくるかしら? あと少ししたら戻ってくるかしら? そんな思いでページをくり進め、読み終わったあとも『ノラや』の世界から抜けることができずに「ノラや、ノラや」と涙が止まりませんでした。

タイトルから最後の1行まで、愛がつまっています。
胸にぎゅっと抱きしめたくなるような、とても素敵な本です。

📚 楽天ブックスで見る

16.革命前夜

バブル真っ盛りの日本に背を向け、周囲の反対を押し切り、あえて世界のきらわれ者の東ドイツに留学する若きピアニスト眞山柊史。
留学したドレスデンの音楽大学には、天才的な音楽家の卵たちがごろごろしている。
魅力的な若い才能が、ぶつかりあい、絡み合いながら成長していく。
しかし、その舞台は崩壊寸前の東ドイツ。音楽以外に関心のない柊史であっても、街をあるけば民主化を求める若者のデモに遭遇するし、「西側への移住申請」をしたばかりに音楽家としての未来を奪われた演奏家とも出会っていく。
このあたりの描き方がすばらしい。

柊史のぶつかったこと、触れたことの範囲で、じわじわと息苦しい東ドイツの暮らしが見えてくる。
シュタージ(国家保安省=秘密警察)が支配する国家・社会の、恐ろしさと憂鬱。それは住民同士・国民同士が監視し合う、密告者だらけの社会という、究極の悪夢のような姿を見せてくる。
ほんと、ドイツ人ってなんでこんなに極端なんでしょうね。ナチスも恐ろしかったが、シュタージも恐ろしい。
その不気味な恐ろしさを、俯瞰で上から説明するのではなく、柊史の体験として少しづつ見せていく手法が、にくらしいほどうまい。

しかし主題は、あくまでも柊史たちの音楽修行。作者は筆を尽くして彼らの音楽を描写します。
演奏場面の描写には、音の洪水にまきこまれるような迫力があります。
音楽を、ことばの力だけで伝えようとする作家の熱意と技術には、敬服するしかありません。
若きピアニストの目でみたベルリンの壁崩壊に、乾杯。
願わくば二度と、「相互監視社会」がドイツによみがえることがありませんように。

📚 楽天ブックスで見る

17.騙し絵の牙

この本は、出版業界の人のみならず、すべての「本を愛する人」に届いて欲しい一冊です。

今の出版業界は明るい話題は少なく、どこに行っても「売上が厳しくて」が枕詞になっています。言葉にすることでその事実は余計虚しくなるだけなのに、皆がそう言わざるを得ないほどの状況です。
主人公の速水も、そんな状況の中で、担当している雑誌廃刊の危機に立たされて、様々なことに翻弄されながら何とか雑誌を守ろうとします。

そんな中で印象的だったのは、社内政治に巻き込まれながら苦悩する速水に、同期の小山内が「雑誌を潰したくないって気持ちは理解できるけれど、社内政治のことは忘れろ。本質とズレてる」「本は読者のものだ」といった言葉です。この当然なことを、一体どれだけの人がわかって本を作り、届けようとしているのだろうか、と痛感してしまいました。

出版業界の人たちは、その多くの人が「本が好きな読者」でもあります。もはやライバルは同業他社ではなく、すべてのエンターテイメントです。もしかしたら、すべてのエンターテイメントですらライバルではなく、手を取り合って新しいものを作る仲間なのかもしれません。

📚 楽天ブックスで見る

18.三島由紀夫レター教室

三島由紀夫という人はやっぱりすごい人ですね。
感覚が新しいと思います。ユーモアって時代時代でうつりゆくものだと思うのですが、三島はあらゆる時代に受け入れられるユーモアを作り出すことができる人だと思います。話もかなりとっぴなのですが、そこがなぜか笑いを誘ってしまいます。登場人物の名前だけでもまず楽しめると思います。

5人の登場人物の手紙のやり取りだけで物語を進め、手紙を読むだけで読者は彼らの人間関係や過去の出来事を把握することができる。
また、彼らの書く手紙がおしゃれ。手紙の中では、三島ならではの洒落のきいた日本語が随所に使われている。
直接的に実用に供する内容になっているとは思いませんが、おしゃれな手紙を書きたい方がいれば、彼らの手紙中のレトリックを参考にして、自分なりの工夫を入れつつ友人に手紙(メール)を書いてみるのもいいのでは?
実際に彼らのような感じでメールや手紙を交換している人達がいたら素敵でしょうね。

📚 楽天ブックスで見る

19.死者の奢り・飼育

タイトルである「死者の奢り」「飼育」はもちろん、それ以外の四篇も見事に引きこまれました。憤り、悲しみ、絶望、空虚といった複雑な人間の感情がそれぞれ見事に織り込まれており、人間のちょっとした仕草や表情や情景に対してたくみな比喩を用いています。
例えば「汗」ひとつを表すにしてもとてもねちっこいし、いやらしい。身体に関する描写は嫌というほど細かく頭にまとわりついてくる感じです。
そしてそれぞれの読後にスッキリといった気持ちはとてもじゃないけどおきない。じわじわと内面深くに響いてくる。

全体を通じて、戦争やアメリカ兵に翻弄されるストーリーが主体ですが、それは著者自身の体験であり、同時に何かしら屈辱を感じさせる重たい雰囲気は、今ではうかがえない敗戦にうちひしがれた社会とそこに生きる人々を見事に体現しているものと思われます。

📚 楽天ブックスで見る

20.R帝国

即ち、この書物は世界中の国々、そして世界中の戦争の事実を描いたノンフィクションなのではなかろうか。こんな事を書くと、wwwのついた無数の「ただの陰謀論」と云う声が涌いてくるかとも思う。
が、しかし私はそうは考えない者のひとりである。作者は支配者にこう言わせている、人は信じたいものを信じ、思い込みたいように思い込む、と。支配者は限りなく傲慢だが、それ以外の大多数もまた限りなく卑怯に描かれる。それは私達人間の真実でもあろう。
今の日本に、敢えて戦争を起こす必然性は無いと考えるが、近未来のディストピアを思うと空恐ろしい。本文末尾とあとがきの間に、たった2行であるけれども、ブラックユーモアとも真剣な挑発ともとれる記述がある。
もしやこの著作は、否、読者は完全に侮られているのではと、つい考え込む。未だ覚醒せざる人々の蒙を啓く可能性と、覚醒せし者を更なる絶望へと導く可能性との両義性を秘めた書物である。
しかし著者は呻くように言う、曰く、希望を置き去りにしてはならないのだ。

📚 楽天ブックスで見る

おわりに

いかがでしたでしょうか?
どの本もオススメなので良ければご一読ください。

その他書籍も紹介しております。
宜しければご覧ください。


いいなと思ったら応援しよう!

わたしの恩返し 皆様のお力をお貸し頂けると幸いです。