小説3,000作品以上読んだ人間がオススメする青春小説20作品
皆さんこんにちは
今回は今まで読んだ青春小説の中で個人的にオススメの作品を紹介します。
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1.砂漠
本書では伊坂幸太郎の持つセンスの良いユーモアが爆発しています。
登場人物のネーミングからして顕著で、鳥類を思わせる髪型の男の名前が「鳥井」だったり、僕「北村」が「西嶋」に麻雀に誘われ集まったメンバーが「東堂」と「南」で、東西南北の苗字をそろえるためだけに麻雀のメンツが選ばれていたことが判明したり、常連の定食屋の店名が「賢犬軒(けんけんけん?)」など遊び心満載です。
そしてこの5人のいずれも存在感があり個性が光っています。
決して成功はしないけど真剣勝負で逃げずに克服しようとする「西嶋」。
麻雀では、勝負に勝つことよりも平和を意味する「ピンフ」にこだわり、やることなすこと格好悪く合コンでは浮いた存在で、周囲の嫌悪や軽蔑を振り切って果敢に這いつくばりながらも前進を続け堂々としている。
そんな女性に絶対もてそうにない西嶋のことを妙に気に入っているのが絶世の美女「東堂」。
常にクールな顔で、あらゆる男が彼女にいどみ撃沈している。
鳥井の幼馴染の「南」は穏やかな性格ながら、ちょっとした超能力者で、テーブルの上の茶碗くらいなら手を触れずにすっと動かすことができ、それを鳥井は日常の一部として受け入れている。
本書のタイトル「砂漠」にはいろいろな意味が込められているのでしょうが、ブティックで働く「鳩麦さん」は「社会」を「砂漠」に例え、「砂漠」に足を踏み出したことがない僕らにこう言います。
「学生は小さな町に守られているんだよ。町の外には一面、砂漠が広がっている。町の中にいて一生懸命、砂漠のことを考えるのが、君たちの仕事かもよ。言っておくけどね、砂漠は酷い場所だよ」
大学生時代の4年間は、人生における最大の休暇だともいわれますが、思いっきり遊ぼうと思えば思い存分遊ぶ時間はあるし、目的を持って勉強しようと思えば勉強もできるし、とにかく金を稼ごうとバイトに明け暮れることもできるし、麻雀卓を囲み無意味な時間をたっぷり過ごすことも自由だ。
そしてそれは「砂漠」にでるまでに許された最大の贅沢だ。
その中でも「最大の贅沢は人間関係における贅沢である」との本書大学長の言葉が本書の本質をついている。
ああ、なんて魅力的で贅沢な人間関係なんだろう。
2.キケン
自由な時間はあるもののお金はない。
やりたいことを何でもできる社会人一歩手前の大学時代。
圧倒的な存在感のユナ・ボマーこと上野、【機研】内のバランサー大神、らぁめんキケンの店長兼料理長の元山、人間観察力に優れた池谷と、それぞれがこの貴重でキケンな時期を自分なりに歩む姿に感銘を受けた。
状況を切り抜けることを楽しめるようになってこそ一人前。
上野・大神体制の【機研】に在籍した部員に共通する価値観は、いまの社会や組織に足りない要素と感じた。
ありきたりではなく、自分らしく、この世の中の荒波を乗り越えていきたいと思った。
3.ボックス
とにかく、とことんエンターテインメント性に拘り抜いて、小難しい隠しテーマとか文学的なギミックとかは一切入れ込まない。
スリルやスピード感重視の文章構成で、途中に中だるみが一切ない。
飽きさせず、一気に読み切らせてしまう圧倒的なストーリー展開。
かと思えば、微妙に揺れ動く登場人物たちの細やかな心情が、こちらの側にも手に取る様に伝わってくる。強烈に感情移入させられてしまう。
高校ボクシングの実際にスポットを当て、そこで奮闘する若者たちを中心に展開していく物語。
挫折。奮起。そして成功。
次々訪れる困難に果敢に立ち向かっていくその姿にハラハラドキドキ。
そして、ちょっぴりほろ苦い青春の味を想起させられたりもします。
この作品の中で躍動する若者たちの様に、こんなにも充実した青春時代をもし自分も過ごせていたなら・・・
なんて考えると、数十年前の自分が、自分自身にも確かに存在していたそうした年月を如何に無為に生きていたかということを思い知らされるような気がして、何やら彼らに対する妙な嫉妬心が湧き出て来たりさえしますw。
「理屈抜きに面白い物語」
本作こそがまさしくそれです。
夢中になれます!
4.四畳半神話大系
文体のテンポが良くてするする読める。
最初はパラレルワールドの設定を知らずに読んでいたので、章ごとに同じようなフレーズを何度も見かけることになり、首を傾げていた。
4章目でようやく理由がわかり、さながら自分自身も4畳半の世界に迷い込んでいたんだと気付かされる。
主人公は、現状の自分に納得できていないため、過去の選択を悔いている。
あの時あのサークルに入っていれば、薔薇色の学生生活を満喫できたろうに…といった具合に。
誰でも、同じようなことを青年期に強くそう思ってきた人はいるだろう。
ところが読めばわかるように、私はどのサークルを選択しても同じ結末、関わる人間も関わり方さえ違えど同じなのだ。
悩み悩んだ末、過去の選択の結果ここにいる自分を認め、これから自分がしていくであろう選択にも、悩みつつも自分なりに歩を進めていきたい。
5.ぼくたちと駐在さんの700日戦争
映画でこの作品を観て感動し、ブログをまとめた文庫本も読んでみました。
とてもおもしろく、アッという間に読み終えてしまいましたね。
高校生VS駐在さんの笑える攻防戦の記録。
いや~笑った笑った。
いたずらの発想も面白いけど、それに対する駐在さんの返しもなかなか。
そして、主人公(著者)の立ち位置がまた良い!
これがほぼ実話って凄いなぁ。
程良いくだらなさがありつつ、良い感じのエピソードもある所なんかはこち亀っぽいです。
日常に疲れた時に読む本としてとてもオススメです。
6.サマーウォーズ
謎のAI(人口知能)の暴走による世界危機に、田舎の親戚一同が立ち向かうという設定が面白いです。
高校生の健二は、あこがれの先輩夏希にバイトを頼まれ、彼女の田舎である上田市へ。
バイトとは、90歳を迎える曽祖母を安心させるために、夏希の婚約者のふりをすることだった。
人間関係の希薄した高校生にとって、27名からなる親戚の遭遇というのは、かなりの脅威とも言えることかもしれません。
ある晩、携帯に届いた謎の数式を何気なく解読したことから端を発し、世界を巻き込む騒動に巻き込まれます。
バーチャルな世界と田舎の親戚という一見無関係な結びつきが面白く、世界を支配するインターネット内の仮想コミュニティの危機を、日本の田舎の大家族の結束で助けるというギャップ重視の奇想天外なアイデアが素晴らしいと思います。
そして、誰も困難に対して諦めず、結束を疑わず、それを仕切るのが夏希の曽祖母老婆で、アナログの電話で各関係者を励まし、彼女をを中心とする親戚の結束力と、人との繋がりの大切さをアナログパワーで描いているところが勇敢でもあり、面白いです。
主人公がとても世界を救いそうな人物ではなく、アナログパワーに触発された健二の内なる能力が開花し、2つの世界を行き来することで、ぱっとしない子が輝きを放ったところは、読んでいてわくわくしました。
のんびりした田舎の青い空と白い雲と朝顔の鉢とが綺麗で、日本の家屋の描き方も綺麗だし、読み入ってしまいました。
7.夜のピクニック
物語は80キロの道のりを歩く高校生活最後のイベントである歩行祭
それだけを聞くと、地味で華やかさに欠けるように思えます。
しかし、昼間に時間を共有することが99%の学生たちにとっての一夜は特別なんですね。
経験したことのないイベントなのに妙に親近感があって、懐かしいのはこのお話を包んでいる夜という必ずきては必ず去っていく時間の深さや不安さ、その先の大らかさによるものかと感じました。
たった一夜の出来事
長くて、辛くて足が痛いのに過ぎ去ると懐かしく、一分一秒が連続していたなんて思えない大切な思い出、暖かい夜です。
肯定的で懐かしい夜です。
一つの夜が学生らの気持ち、抱える問題、友情、すれ違いをノスタルジックに仕上げ、見守っていました
大人になると夜を意識することもなくなります
夜が明けて日が昇ったら仕事の時間になるただの時間稼ぎのような色も感情もない無味乾燥な時間
そうじゃないんですね
誰かと語り合っても良い、言えなかったことを言ってみようとする一夜でもいい、泣いて寂しくて暗いということの恐ろしさを知る夜があってもいいですね。
ですが、最後にはあたたかい夜を実感してほしい。
夜は味方じゃないでしょうか。
8.か「」く「」し「」ご「」と
青春の甘酸っぱくて少し苦いあの感じがつまっていて大変面白い。
五人の主人公がいて、それぞれ全く違う性格をしているから必ず一人は推しが見つかるはず。
青春時代ならではの葛藤や苦痛、それを解決して前に進んでいく彼らに読んでいるうちにどんどん惹かれていく。
五人の持つ隠し事、心を読む五人五様の能力も興味深い。
五人の持つ能力はそれぞれ不完全なところが多くてそれ故に葛藤する様はこの本の見所ではないだろうか、そして能力描写も読者を楽しませるものがあった。
ビックリマークやハテナで表される京くんの能力、1、2、3、4で表されるパラの能力、矢印で表されるエルの能力、その全て身近で誰でも知っている記号等で表されるから分かりやすくそして見たことのない表現に面白みを感じられる。
青春期の激しく不安定な心の中の動きを具現化しているような快活さが文字を見ているだけでも伝わってくる作品でした。
9.蹴りたい背中
主人公はクラスをはみ出た高校生の男女2人。
ハツ(女)は、群れあうクラスメートに冷徹な視線を向けつつ、オタクの蜷川(男)を、興味もないのにからかう。
ハツが蜷川の背中を蹴ったのは1回だけだが、蹴りたい残酷な気持ちと平常心の間をゆらゆらと揺れつつも、ハツは蜷川のペースにはまって、一緒に因縁のファッションショーに出かける・・・。
甘酸っぱい青春時代。夢イッパイキラキラ学生生活。
…という作品ではない、正反対の 青臭さ漂う感じがたまらない作品でした。
なぜ「蹴りたい」「背中」なのか、味わいながら読むのが本当に面白かったです。
自分の本当の気持ちを隠した反抗的な思春期の少女の主人公のストレートな表現は少なく、主人公の感情は分かりにくいけれど、ストーリーはストレート。
パッとしない一見クラスに1人はいる暗い感じの男の子、にな川くん。
主人公の女の子の彼に対する感情
蔑視、軽侮、興味、好奇心、エロス、挑発、嫉妬、愛情、母性、…そして「蹴りたい背中」。
読む時代で「蹴りたい」「背中」の自分の感じかたが変わっていく作品で、
手元に置いておいて、長く楽しめる作品だと思います。
10.横道世之介
まず良かったのが、九州から東京に来た大学一年生・横道世之介(よこみち よのすけ)、十八歳のキャラクター。
のんびりとしたマイペースの性格。友人と付き合う姿だとか、失敗にめげないお調子者のところだとか。世之介の言動に、心がなごみました。
登場人物のキャラってことでは、与謝野祥子(よさの しょうこ)もインパクトがあった。
当初の印象からすると、信じられないほど変わっていく彼女の変身ぶりには、びっくりしました。
話の構成という点で印象に残ったのは、突然、話が二十数年後へと飛ぶシーン。
何ヵ所かあるそのシーンでは、世之介と関わりを持った登場人物たちの未来の風景が描かれており、このシーンで彼らが世之介のことを思い出すくだりがとっても良くて‥‥。
目頭が熱くなって、もう、たまらなかったです。
生き疲れて、ちょっと心がもつれたときに読んでいます。
自分の人生でも、どこかで世之介と出会っているような気がして、振り返ってしまいます。
しかし、どこにでもいそうで、どこにもいないのが、世之介の魅力なのかもしれません。
11.武士道シックスティーン
とても熱いです。何のために勝つのか。何故勝ちたいのか。
また、剣道は野球やサッカーと違い、一人対一人なので、その団体戦もまったく意味の違うものとなります。
たいていスポーツ一家ではその特定のスポーツを子供は物心ついてすぐ始めるものですが、やはり早い時期に始めればそれだけ上達は速いでしょう。
上手くなれば勝つ。勝つのが楽しいからやる。
小学生、中学生の頃は特に何も考えずただがむしゃらにやりますが、高校生になるとまた違ってくるのだと思います。
自分で選んだとは到底言えないはずのその道。迷うことは必然です。
迷ったその先の決断こそが、価値のあるものなのではないでしょうか。
二人の少女が迷い、成長する様はとても良いものです。
12.くちびるに歌を
合唱部の活動の中で、仲村ナズナ、桑原サトル、長谷川コトミ、向井ケイスケといった中学生たちが、家族を捨てた父親への嫌悪、自閉症の兄の桎梏と愛、リベンジポルノの心配、恋心に向き合って、コンクール課題曲「手紙~拝啓 十五の君へ~」のように迷いと不安の中を成長していく様子が温かい筆致で描かれています。
彼らはもちろん、柏木先生、部長の辻エリ、部員の三田村リクも元々の性格とその変化が読み取れますし、葛藤を抱えながらも優しい桑原サトルの母には心を打たれます。
他のメンバー、福永ヨウコ、横峰カオルや産休の松山ハルコ先生も個性ある人たちとしてはっきり描き出されています。
彼らの抱える問題が何処にでもある普遍的な問題であることから誰もが興味を持てると思いますが、この群像劇を色鮮やかにしているのが、舞台となっている五島とそこの方言という特殊性です。
地方性を持ち込んだことで普遍的な問題を一般論に浮かび上がらせず、「私の問題」と感じさせてくれている気がします。
こんな青春をこれから迎える若い人にも良し。
自分は既に通り過ぎてしまい、渦中にある次の世代を見ている人にも良し。誰にもお薦めしたい作品です。
13.偉大なる、しゅららぼん
基本的には青春SFギャグ小説。
人知れずサイキック能力を持ち、ひっそりと城に住む一族がいた。
そのサイキック能力を私欲のために使い、滋賀県で権力をほしいままにしているのが日出一族であり、視点人物「涼介」が能力ありとして本家に迎え入れられるところから本編がスタートする。
だが、日出のサイキック能力には、致命的な副作用があったのだ。
そして、不幸にもライバル一族さえいたのだ。
このまた副作用が冗談のようなものなのだ。
一族を揺るがす大事件が起きるあたりから急展開。
なんといっても物語の収束が完璧だ。
物語の初めと終わりでは、事件が終わってほとんど元に戻っている。
でも決して同じ世界ではない。何かが取り戻され、何かが失われている。
世界というのはそういうものだ。決してただ単に元に戻るなんてことはない。
そして、描かれないラストシーン。描く必要のないラストシーン。
滋賀の情景がとても浮かび、滋賀の魅力を大いに感じました。
実際この作品を読み、滋賀に行きましたが、滋賀は本当に素晴らしいと改めて認識しました。
14.一瞬の風になれ
理屈なんて関係ない!とにかく走るんだよ!!
そんな言葉が、ピッタリ合いそうな小説でした。
陸上を舞台にした小説ですが、陸上についてまったく知らなくても楽しめます。
友情や、挫折や、成功、恋や、衝突や、ライバルや葛藤や…そんな諸々が全部詰まった一冊。
走る事を軸に、色んな出来事が主人公を襲いますが結局最後に主人公が行き着くのは「走る事の楽しさ」
陸上に打ち込んでいくうちに、主人公が「とにかく、走るのが楽しいんだ!ずっと走っていたい!」と、いう思いが溢れ出す一冊。
この気持ちは、主人公や走ることに限らず、誰にだって持つ向き合っているものにも当てはまると思います。
読んで、いっちょやってみるかー!と、いうやる気を出したい時に是非オススメしたい一冊です。
15.4TEEN
14歳の男子四人組が、一年間に出会った8つの物語を中心にして、構成されている本書「4TEEN」は、瑞々しく、大切な<いま>がありました。
誰しもが通る14歳という年齢には(14歳という年齢に限らずですが)、
様々な壁があります。
特に今の現代には多種多様な壁が。
そんな中で、4人の少年は、友であり、それぞれがなにかに悩み、傷つき、恋をし、一年間で少しずつですが、たしかに輝く<いま>を積み重ねて、成長していきます。
別に<いま>が輝くでもなく、どっちかといえば<きのう>も<あした>も重荷でしかなく、引きずりながら。
そんな自分の過去の姿に、この4人組の姿を読んで、大切な当時の<いま>を無視していたんだなと、いまさらになって気付きました。
「4TEEN」を過ぎ、そこで得た<いま>がある。
私の人生があとどれほどなのかはわかりませんが、どんな<いま>も意味があると思い、4人の少年の姿から見えた残像を、しっかりと自分の目に焼き付けて、一生懸命生きていきたい。
16.グミ・チョコレート・パイン
ここに出てくるやつらは、人付き合いは不器用、気が付くとクラスで孤立してしまうタイプ。
でも本や映画の教養はずば抜けていて、その点自分は何かをなし得る特別な人間で、ほかの有象無象とは違うと思っている。
そう青春の文学青年が陥りやすいナルシシズム。
とにかく100%青春。こんなのを読んだ夜には、何か行動したくなるにきまってる!にきび面、カッコワルイ、異性のことで頭ピンク色、頭でっかち、でも自転車こいで街に出て、世界を変えたい(そんなん不可能なのに)いやできるかも、と本気で思ってしまう。
誰もが経験してきた、汗臭くって、どんくさくて、そのくせプライドだけは人一倍高かった10代。
好きな娘の事を考えると居ても立ってもいられなくて、枕を抱きしめて畳の部屋をゴロゴロ転がったあの頃。
のほほん脱力系ミュージシャン、大槻ケンヂが、そんなあの頃の夢と不安と切なさを描いた最高の一冊。
大人より、今を生きてる少年少女に是非とも読んでもらいたい!
17.オオルリ流星群
伊与原さんらしい天文学の知識をふんだんに散りばめた大人の青春群像劇とも言える作品。
45歳になって様々な人生を歩んで来た高校の同級生たちがひょんな事から「あの時」の様に一つの目標に向かって協力していくのですが、ただただ突き進むのではなく大人らしく心にいろいろな葛藤を抱えながら物語が進んでいく。
ストーリーテラーとなる主人公が2人いるのですが、同じ場面を別視点で描くのではなく時間はずーっと進行している中での主人公の転換が読み進めるうえで非常に気持ちがいい。
そして読み終わってから、是非序章を読み返して欲しい。グッと
18.本と鍵の季節
暗号解読をしながらそれを越える大きな謎を解いたり、店長の不可解な行動の意図を明かしながら次に起こることを予測したり、一筋縄ではいかない重層的な謎解きになっていて引き込まれます。
主人公と松倉が共に探偵役ですが、素直に人の言うことを深く聞き取る主人公と、性悪説ベースで常に裏を読む松倉の性格の違いから、それぞれの気づく不審点や推理の方向が異なり、謎解きの進む様子が一本調子にならないのも魅力です。
また、二人の洒脱な会話や、松倉にちょっとアウトローなところがあるのもアクセントになっています。
5話目の「昔話を聞かせておくれよ」は松倉の家族が抱え、松倉が解きあぐねた謎に主人公とともに再挑戦し、ここでも「本」を手掛かりに新たな「鍵」を見出すものです。だからこの本のタイトルが「本と鍵の季節」なのでしょうか。
5話目の続編あるいは解決編とも言える「友よ知るなかれ」が書き下ろしで加えられています。
ちょっとひねくれていたり、思いのほか真っ直ぐだったりの松倉の謎めいた言動はここから来ていたのかと納得しながらも、「あと1頁足りないぞ」と読者に叫ばせる造り方が憎い。
推理物としての謎解きの面白さもさることながら、主人公と松倉の二人の性格の違いとぶつかり合い、そこに生まれる一風変わった友情が、この本を人間の話にしています。
「謎解き証明」だけでは飽き足りずに加えて「ドラマ」を求める人にお薦めしたい。
19.八月の御所グラウンド
生者と死者が交差する物語です。
大学4回生の主人公は、ひょんなことから八月の御所グラウンドで開催される草野球の大会(リーグ戦)に駆り出されることに相成りました。
人数を揃えるために、いく人かの助っ人が登場して話を過去現在あるいは未来と拡大しています。
助っ人の背景が、メインで描かれる物語とあいまって、徐々に興味が湧いてきます。
そして本作は終わり方が最高に素晴らしい。
最後の一行を読み終えた時の、少し物足りないような、しかしこの先を書くのも野暮ったいような、そんな考えが頭を逡巡する刹那、ちょうど良い!! と満足感が湧き上がってくる。
20.ぼくは勉強ができない
この小説は、主人公と近い高校生くらいの時期に読んでも、あまり楽しめないと思う。
恐らく、この小説の時田秀美という主人公の事を理解するには、ある程度距離を置いて見ないとダメなのだと思う。
近くで見ると、この主人公は眩し過ぎて、かえってその姿を捉え難い。
だから同世代にとっては、この主人公に対しては共感では無く反発を感じてしまう。
実際時田少年は、不良とまでは言わずとも、かなり不真面目な学生だ。
サッカー部、女子にモテる、高校生なのに酒を飲む…最近の言い方をするなら、陽キャ、パリピと言ったところか。
特に、ある種の人間ーいわゆるオタク、陰キャ、非リア充ーにとっては、不俱戴天の敵とすら言える。
しかし、そんな陽キャでパリピな時田少年の心の底の悲しみや苦しみを、この小説ではさり気なく、だが克明に描いている。
彼は「片親」で「貧乏」で「勉強ができない」。
だけど自分は「女にモテる」と、彼自身は開き直る。
だが、本人すら半ば気付いていない所で、「片親」「貧乏」「勉強ができない」というコンプレックスは、彼の人格形成に強く影響している。
そうでなければ、作中で繰り返し「片親」で「貧乏」で「勉強ができない」事に触れる必要も無い。
だからこそ彼は、自分の弱みから目を背けるために、自分の強みである「女にモテる」事に拘っているように思える。
一見リア充な時田の、精神的な弱さ・未熟さ・不安定さを感じ取る事が出来れば、後はもう彼の心の動きに素直に共感し、この小説の醍醐味を存分に味わう事が出来るだろう。
大事なのは、主人公の行為や考え方を「肯定」するのでは無く、ただ「共感」する事だ。
ぶっちゃけ高校生なのに飲酒なんて言語道断だし、勉強も出来ないより出来た方が絶対に良い。
しかし、そういった「良くない態度」の根底にある主人公の心境について考える事は、決して無駄では無い。
そして、そうするためには、ある程度心に余裕が無いと難しい。
だからこの小説は、大人になって、学生時代が懐かしい思い出となった世代の方が楽しめる。
そういう訳なので、もし高校生くらいの歳でこの小説を読んで、つまらなかった、不快だったと感じたら、今その感じ方を無理に改める必要は無い。
ただ、こういう小説があったという事を、頭の片隅にでも留めておいて欲しい。
そして、十年か二十年後くらいに、ふとこの小説を思い出した時に、もう一度読み返してみて欲しい。
きっと新たな発見があると思うから。
おわりに
いかがでしたでしょうか?
どの本もオススメなので良ければご一読ください。
その他書籍も紹介しております。
宜しければご覧ください。
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