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小説3,000作品以上読んだ人間がオススメする名作20選⑨

皆さんこんにちは
今回は今まで読んだ小説の中で個人的にオススメの作品を紹介します。
※この記事ではamazonアソシエイト・楽天アフェリエイトリンクを利用しています。


1.ヒポクラテスの誓い

この本は、法医学を舞台にしたミステリー小説です。
研修医の栂野真琴が、単位不足を補うために法医学教室へ配属されるところから物語は始まります。
迎えるのは、超一流の解剖技術を誇る光崎教授と、少し風変わりなキャシー准教授。
いわゆる“師弟関係”の物語でありながら、死因究明を通じて「命をどう扱うべきか」というテーマを突きつけてきます。

この本の魅力は大きく二つ。
まず一つ目は、専門的な法医学の知識を物語として楽しめる点。
敗血症や気管支炎など、一見“自然死”に見える死に光崎教授が疑問を持ち、真相を探り当てていくプロセスは、単なる推理小説を超えて「学び」にもつながります。
専門用語は多いですが、ストーリーに自然に織り込まれているので、医学に詳しくない読者でも理解しやすく、スリリングに読めます。

二つ目は、登場人物の掛け合いが秀逸な点。
光崎教授の傲慢ともいえる態度に振り回されつつも、真摯に患者(遺体)と向き合おうとする真琴の姿が描かれます。このバディ感が物語の骨格となり、専門的なテーマにも関わらず親しみやすく、読み出すと止められなくなります。

特に「医療ドラマが好き」「人間の死に向き合う物語を深く味わいたい」という方におすすめしたい一冊です。

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2.ベルリンは晴れているか

舞台がドイツで敗戦国、しかも軍人じゃなくって普通の少女ということで、前の作品よりもずっと辛くて、かわいそうな状況なんだけども、まるで当時のベルリンを歩いているような気分にさせてくれるものすごく手に取るように鮮やかな文章で、あっという間に物語に引きこまれてしまいました。
物語もとっても凝っていて、1945年7月時点の終戦間もないベルリンと、主人公アウグステが生まれてから成長していく様子とナチスが誕生してドイツがどんどん酷い状況になっていく様子を書いた幕間とが交互に書かれています。

この二つの物語が最後で一つに合わさって、ミステリーとしても、あっと驚く結末が待っていました。
ユダヤ人や同性愛者、身体障害者などの差別問題についてもとても深く考えられていて、当時の迫害の様子が容赦なく書かれているので読んでいて辛いところもありましたが、「これは今も続く地続きの問題なんだ、遠い過去の異国の物語ということで、他人事のように考えていてはいけないんだ」と気づかされました。

あとがきにもの凄くたくさんの参考文献がのっていて、なるほどプロの作家さんってこれだけ調べるんだと感動と納得。
今みたいな世の中に、こんな作品が書かれて、それを読むことができてとてもよかったです。
ぜひ、ドイツ語に翻訳してドイツの人にも読んで貰いたいです。

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3.本にだって雄と雌があります

嘘か真か、はたまた法螺か皮肉か大袈裟か、判然としない描写の数々。
しかし、そこには血肉が備わり、温もりさえも感じられる。それは、とぼけた柔らかい語り口と、作中で使用される大阪弁の役割が非常に大きいと思う。
読書中、何かに似てるなぁ、と考えてみたら、親類縁者のみに通じる物語に似てるんだよね。あるエピソードを語るに際して、それが脚色されていく事は経験があると思う。赤の他人が聞けば嘘にしか聞こえなくても、親戚の中ではそれはリアルなこととして共有される。
全体的にそんなトーンで語られていくので、なんだか、とっても懐かしい気持ちになれる。

地の文、伝聞、引用文で語られる出来事に、ファンタジーとリアルの明確な線引きが存在しない。作中作の不思議な出来事を語り手である博が検証できるはずもないけど、読者に一番近いはずの博の周りにも現実とは考えにくい、事実が存在している。
しかし、それぞれにボケとツッコミ的なリズムがあり、その呼吸の中では、ファンタジーとリアルの境目なんてまるで気にならなくなる。
おっちゃんの面白おかしい逸話を聞きながら、しょうもないことで笑ってるうちに、気づけば、物語は語り手の更にその外にまで物語は広がり、環となって人生を包含していく。

未来永劫に続く本筋以外の、枝葉末節が非常に笑えて、印象的な台詞やエピソードに事欠かない。それがまた、物語を魅力的にしている。
本好きはもちろん、蔵書家には是非オススメ。
本が勝手に増えてしまったんよ、と言い訳するためにも(笑)

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4.侍女の物語

「自由には二種類あるのです。したいことをする自由と、されたくないことをされない自由です。」
物語の舞台は、前者の自由が全く無い替わりに後者の自由を授ける近未来社会。女性は、子どもを産む国家資源としてのみ存在を許されます。
常に監視下におかれ、ほぼ全ての人権が無い替わりに、痴漢やレイプその他の性暴力から守られる。そして出産することが最大限に祝福され讃えられる。支配体制の巧妙さに、背中がゾクゾクするほどの恐怖をおぼえます。
改めて思うのは「こんな社会にはならないと、いったいだれが断言できるのだろうか?」ということ。今でこそ、女性は社会的に自立することが可能で、選択肢も増え、誰かに生き方を強制されることも無くなりつつあります。
しかしそれも、たかだかここ数十年の話。その前は?そしていまだ女性にそういう権利が無い国も世界にはたくさんあるし‥ということを考えていくと、この物語を自分とかけ離れた世界の絵空事とは到底思えないのです。

自由であることに対して無自覚ではいけない。
途方もない絶望と、そこを経て初めて見えてくる人間への果てしない愛を描き切った物語。

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5.誓願

マーガレット・アトウッドの代表作、「侍女の物語」の34年ぶりの続編。
世界で最もハズレのない文学賞であるブッカー賞受賞作。どちらから考えても読んでおきたい作品と言えよう。
内容も期待に違わぬ快作。前作・侍女の物語は、現実世界がまだこんな歪んだ世の中になる前に、その可能性を示唆した作品だった。アーサークラーク賞受賞ということからも、当初SFとして読まれていた側面が窺われる。
対して、本作は、悪い冗談のような合衆国大統領が出現するように、前作の世界観が現実味を帯びる中での発表となった。
さすがの手練れアトウッドは、今度は閉塞感の増す世界に向けて、全体主義や人権侵害に敢然と立ち向かう勇気の物語を紡いだ。
本作単独で読んでも充分面白いが、是非是非「侍女の物語」から読み解いて欲しい。二冊合わせれば、かなりのページ数だが、その価値があることは、自信持って保証できる。

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6.アトムの心臓

本が持つ力を、改めて知る一冊でした。
主人公の筒井宣政、陽子夫妻のような人がいたこと、そしてそれが文章で残されたことがどれだけ大切なことかを感じています。
人間が持つ、何かを成し遂げようとする思いや行動は、私たちの想像をはるかに超えていくのだなあ。そしてそういった活動は、周りにいる人たちにどんどん波及して、動かしていくんだなあ。

心臓の病気に苦しんだ佳美さんですが、佳美さんの交友関係、年頃の女性の気持ちが、その時代を共に生きたかのようにみずみずしく描かれていました。丹念な取材の積み重ねがあったからこそと思います。
無名だけど人や組織、社会をささせてきた人たちが必ずいて、そういう人たちの踏ん張りに気づき、伝えていく責任を、書き手を目指す人間の一人として感じています。

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7.クラスメイトの女子、全員好きでした

「大学時代に関西アマレス会の猛者としてその名を轟かせた親父」と、祖父母とともに暮らす主人公は、父親から「勉強ができても、運動ができても、顔がかっこいいやつには勝てん」と教えられ、若いうちは我慢を続け、「女の子たちの顔や、話したこと、過ごした時間をずっと覚えとけ。それは、お前が大きくなったら、ほんまに大切な宝物になる」と教えられます。

人のダメなところが可愛くてたまらないという主人公が変態ぶりを発揮して奔走し、クラスメイトになったすべての女子に全力で恋し、それが勘違いだとわかっていても恋しくて切ない物語です。
クラスメイトの女子が全員好きでした。というとんでもなく強烈なタイトルだがユーモア溢れる文章ながらもタイトルの筋が通っていて、しかもちょっとだけ切なくて泣ける話もある。
異性だから好きになるというより性別は関係なく、出会っていく人みんなのことを好きになれればいいなと思う

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8.くらのかみ

当主が病気でもう先は長くない、相続の相談のため山深い田舎の旧家に集められた親戚たち。そこにいた子供は5人だったはずなのにいつの間にか6人になっている。その家にはお蔵さまと呼ばれる座敷童子の伝説があり、増えた1人がそうじゃないのかと子供たちは思います。けれど記憶をたどってもどの子がそうなのか思い出せない・・。大人たちもまるで最初から6人いたかのように何の疑いも感じていない様子。
そこに起きたのが、大人たちの食事に毒セリが混入する事件。数人が救急車で運ばれる事態になります。誰かが意図的に入れたものか?それとも?親族の1人は「これは行者様の祟りだ・・」とつぶやきます。

ホラーとしてはマイルド、本格というほどミステリ寄りではないので、怖さや謎解きを求める人には期待はずれかもしれません。が、迷路のように入り組んだ広大な田舎屋敷、落ちたら抜け出せない沼、開かない厨子のある蔵座敷、破壊されたお地蔵様、昔、金目当てに殺された行者の祟り伝説、生まれた子は死んでしまう本家の一族・・などなど土着的ホラー・ミステリが好きな人ならたまらない要素が満載です。民話的な雰囲気と不穏な事件がうまくマッチした不思議な作品に仕上がっています。
幼いなりに一生懸命に対処しようとした子供たちは大人の世界を垣間見て少し大人になりました。子供の時に読んでいたらきっと夢中になったでしょう。
なんといっても雰囲気がすごく好きです。昔、子供の頃の夏休みに父方の田舎で過ごした日々がよみがえってきました。もう一度読み返そうかな。

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9.ニューロマンサー

ゲーム『サイバーパンク2077』が好きで、その源流と聞いてこの本を手に取った。
あまりにも濃い世界観とその描写に圧倒されっぱなしだった。
汚くてゴミゴミした街、適正者だけが行くことのできる電脳世界、超巨大財閥が牛耳る楽園とその裏側の汚れた事情、…これを文章で表現できる作者に驚愕した。本当にすごい。
裏路地の小便と香水の匂い、埃を被ったガラス管のネオンの文字、電脳世界に潜った時の滑らかなマトリックス…。とにかく五感がフル稼働する文章で「匂い」がガツンとくる。完璧にサイバーパンク2077の世界だったし、むしろよくこの小説をゲームで再現できたなと。

『積み重なったテクノロジーの残骸が積み重なって腐葉土となりメトロポリスの片隅で花が咲いているかも』…と主人公が想像するシーン(144P)など、無機質なものが輪廻する概念まであるのかとカッコよすぎて思わずメモしてしまった。
しかもこれがPCがようやく普及し始めた──メモリがKBだった─1984年に書かれたというのだから驚くしかない。

ただ本当に文章がわかりにくい。めっちゃ読みにくい。後半になるほど何回読んでも何が起きているのかわからないシーンが連続する。
でも読み終えてみるとこの文章じゃないとダメなんではないかと思えてくる不思議。麻薬的というか、この本にしかない唯一無二のリズム感があって、この本でしか摂取できない栄養がぎゅうぎゅうに詰まってる感じ。

もし原文にない説明を足したり曖昧さを整理してしまったら、それは翻訳ではなく“妙訳”や"翻案”になってしまうし、専門用語など説明されないまま読者がいきなり放り込まれるクールさこそサイバーパンクの代表作品の『ニューロマンサー』に相応しいんじゃなかろうか。

10.ふくわらい

これほどまでにプロレスラーの想いを、表現した作品が今までに存在したか?
主人公は数奇な体験を経て、様々な出会いの中で自分自身を見つけて行く。
主人公の定を取り巻く、"自分"をさらけ出す者たちが、西加奈子の文字を…言葉を…繋いだ文章となり、I編集の「活字プロレス」を作り上げている。
これは決してプロレスの本ではなく、作中に登場する守口廃尊が実在するレスラーでもない。
ないにも関わらず、プロレスファン歴40年のキャリアをも凌駕する文章に心奪われる。
西加奈子の世界と言えば"大阪弁"なのだが、今回は一切登場する事なく、西加奈子を表現している。
賛否両論あるが、何も驚く事はない。
西加奈子は西加奈子の文字の、言葉のプロレスを見事にスウィングさせている。
ラストの開放感は、それはそれは素晴らしく、興奮のあまり言葉が後を絶たなかった。

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11.残月記

冒頭の「そして月がふりかえる」で描かれる、恐怖や絶望。
ふりかかる「月による」運命に、なすすべもなく翻弄される主人公。
佳作ではあるものの、理不尽極まりないこの冒頭作品を読んで、本書を読了しようとする意欲を持続するのは甚だ困難であろう。
しかし、この冒頭作品読了という行為こそが、著者と読者をつなぐ「月による運命」というルールの共有作業と同義であり、作品全体の序章であることを申し添えたい。
このルールは「月景石」でより確かなものとなり、クライマックス「残月記」を唯一無二の傑作へと誘う。
本書を珠玉の名作『残月記』として読了したいのであれば、圧巻の第三編「残月記」だけを読んでは、決してならない。

どの異世界も、現実の世界からほんのちょっとズレたところに存在するかのようにリアルだ。
現実よりもむしろ過酷でふわふわしたところが一切ない。歯を食いしばって読み進めなくてはならないシーンもあるくらいだ。希望がない。
そんな果てしない暗闇に、一筋の美しい光。その切ないほどに美しいきらめきを手繰るように読み進んだ。
ページが少なくなるほどに輝きがスパークするような、読了するのがもったいないと感じる一冊だった。

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12.チェレンコフの眠り

ドヤ顔アザラシが描かれた可愛い表紙、「猫のまたぐらよりも暑い夏の日の午後」という書き出し、ギャグ漫画みたいなあらすじ。なるほどドタバタ動物珍道ファンタジーね、と思って読んだらどっこい超絶ダイハードディストピアで面食らった。
動物好きやペットと暮らしてる人が読むと結構なダメージ受けるんじゃなかろうか。カオスな設定とコントじみた会話劇が麻酔薬の役割を果たしているので「鬱小説」ではないけど、所謂「ハートフルボッコ」モノではあると思います。
私は冒頭の銃撃戦だけで号泣した。幸せな誕生パーティーからの皆殺しって辛すぎるよ。

ストーリーは始終陰鬱で、登場する人間はどいつもこいつも悪辣欲張りセット。こいつらが「普通の人」扱いで、ヒョーにゴルフカートのキーをドッキリプレゼントしちゃうゾ☆と考えてたチェレンコフ達が「極悪人」カテゴリにいる世界おぞましくない?(チェレンコフも相当やばい男だけどさ)
合間に入るサブカル消費や環境汚染への問題提起めいたパートは説教臭く感じられてちょっと怠かったけど、これ現実に起こっている事なんですよね。
アザラシのフラットな視点から炙り出される人間社会の「矛盾」と「綺麗事」のあくどさにゾワリ。

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13.ハンチバック

頭の中の思いの丈をつらつらと書き連ねる形式でとても読みやすかったです。障害者視点の「日常」を追体験させてくれる表現力・文章力に衝撃を受けました。VRで体験したみたいでした。
特に「障害者」と「エロ」を並列に描く表現はとてもインパクトがありました。常に痰を吸引し転ぶことも声を出すことも命懸けの主人公と、妄想の中のセックスの動的な性のエネルギーには大きなギャップがあり、それに想いを馳せる主人公には心を揺さぶられます。
ストーリー展開も単なる日常系や感動系では全然なく怒涛の展開で良かったです。特に「恥」の感情の描写がすごかったです。障害を悲観するわけでも達観するわけでもなく、一人の人間として呪ったり嫉妬したりそれを裏アカでつぶやいたり、とても共感します。それを終始コミカルに描いていて素晴らしいです。
また、筆者も主人公と同じ病気と知り、どこからどこまでが現実でファンタジー?というクラクラ感を常に味わえるところも面白いと思いました。短い文章の中に映画一本分の感情がつまっています。

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14.となり町戦争

日常生活が何も変わらない中、自分の住む町ととなり町が戦争をしていることを知らされる。それも町の広報誌によって。
戦争とは破壊行為であるが、有史以来人類は戦争により進歩を遂げてきた。20世紀前半の大恐慌も、日本の戦後の不況も戦争によって復興した。
だから、この小説にあるように、自治体レベルの戦争であっても、市町村合併による行財政効率化の促進、地場中小企業の振興、住民の帰属意識の強化など、その効果は様々な面で見られる。

この小説の奇妙さと辛らつさは、戦争を公共事業と見なすという大胆な発想により、町役場(政治)の愚かさと、戦争の本当の恐ろしさと、偽りの平和といったものを描き出している。我々は日本の平和を甘受し、世界が平和であるかの錯覚の中にいる。今この時も、世界では戦争が勃発し、繰り返されている。そうした戦争に対して何もしないことが、戦争に加担していることでもある。我々人間は大きな矛盾の中に生きている。電気をふんだんに使い、車を乗り回し、飽食に明け暮れる一方で、原発に反対する。この大きな矛盾。

小説の最後に智希は言う。
『戦争と日常とを切り離して考えてしまうのは、とても危険なことだと僕は思う。今の自分のこの一歩が、はたしてどちらに向かっているのかを自覚しないまま生きることになるからね。』

小難しいことは書かれておらず、文中の仕掛けも分かりやすくて読みやすい。設定の奇抜さもさることながら、その設定を通して描かれたテーマが秀逸だった。
本の読み方に正解はないが、これは戦争の非現実性という現実を感じることができれば良いのではないだろうか。

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15.罪の轍

幼児期の虐待、生い立ち、生活環境が犯罪者を作る大きな要因となる
ことは、もはや、社会全体の問題として認知されていると思う。
そのテーマ性を主題に、東京オリンピック前後の昭和を舞台に、知能障害
のある青年が誘拐殺人を犯し、警察と対峙する様子が描かれている。
なかなか自供しない犯人をどのように落とすのか? その刑事魂と
昭和という時代での警察捜査、証拠固め、物証の困難さ、さらに、
それぞれの人物の動きに、ラストまでグイグイと引っ張られた。

大変面白かったが、読了後は、しばし考えてしまった。
犯罪者を作るのは、誰なのか?
社会が生み出す不公平とその不条理、それが犯罪の種と成りえる
が、どうする事も出来ないジレンマとやるせなさ!!
エンターテインメントの枠を超えた傑作だと思う。

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16.落日燃ゆ

完全に広田弘毅という人物の生涯にのめり込んでしまった。
貧しい読書体験ながら、私が読んだ本の中でも屈指の名著として多くの方にぜひお勧めしたい。
広田弘毅という人物の魅力はもちろん、それを描き切った城山三郎という作家の実力のすごさをまざまざと見せつけられた気がする。
城山氏がテーマとして追求する「組織と個人」についても、様々なことを考えさせられた。
東京裁判で、文官として唯一の絞首刑に処された広田弘毅。
一切の弁明を拒み、従容として死に臨む姿は、その生き様と同じく、泰然としている。
広田が死に臨む前に、心配の種を残すまいと、自ら死を選ぶ相思相愛の妻・静子の生き様も深く心に残った。
首相や外務大臣として、国の平和を願い、誠実な生き方を貫いた広田。
男の生き方の一つの目標として、自身の心の中で末永く生き続けていくに違いない。

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17.ムーン・パレス

「キャッチャー・イン・ザ・ライ」が孤独にさいなまれながらも自己否定を続ける少年の物語ならば、こちらは失っても失っても何かを掴み取っていくそんな青年の成長の話。

師であり唯一の近親でも会った叔父の喪失に始まり、祖父であり親友でもあった老人の喪失、そして最後に行き着いた父親の喪失、と次々と大切な人々を失う。
しかし、主人公マーコは失い、傷つきながらも少しずつ何かを掴み取っていく。

人生において青春時代はもっとも輝かしいときといわれるが、その期待の半面無残な青春を送った人々も多いと思う。
あるいは毎日の仕事に疲れ果て、自分が何を残してきたのか疑問に思うこともあるかもしれない。
だが、この本はそうして猜疑心と喪失感にさいなまれた人生を送っても、そのなかには何かをつかみ取れる、すべてを失ってもまだ何か残っているという感じを読者に与えてくれる。

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18.地下室の手記

地下室にこもった男がぶちまける手記という形をとった、19世紀のひきこもり文学。
ドストを読んでいていつも驚くのは、この弁舌、人の心の描き方。
ここまで激烈でなくても、主人公のような心情におちいったことのある人間は、けっして少なくないだろう。
ニーチェや太宰と同じ系統の、非常に感染力の高い本だと思う。

主人公ネクラーソフ(名前までが冗談めいている)は、激烈な自尊心と、同じくらい激しい自己卑下の心を持ち、世界と相容れない理由を必死に弁明しようとする。
世界が悪いのか、自分が悪いのか、それともどちらでもないのか。
この、誰でも一度はぶつかる壁に、本書はひとつの思考の結末を提示している。
世界は悪い、自分も醜悪、だからひきこもる。
人間は矛盾に満ちている、という話。
2+2=4の世界に怒りをぶつけ、醜悪さを露呈したがるその心。
「自分が茶を飲めるならば、世界など破滅してもかまわない」という、ある意味極論の名言が印象的な本。
ドストの作品の転換点と言われる本書は、ドストの歴史の中の位置づけから見てもおもしろいが、単体のひきこもり文学としても、じゅうぶんに読む価値がある。

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19.スワロウテイル人工少女販売処

<種のアポトーシス>なる病を隔離するための人工島には二十八万人の人間が居住しており、外界からは海路空路陸路ともに隔絶されている。
ナノマシンによって生成された食糧と、人口の半数以上を占める人工妖精が労働の一翼を担ったり、人間男性の(島の反対側では女性の)配偶者を務める。
島内の福祉は行き届き、生活水準は高く、飢えも貧困も皆無。
実質経済では零落して久しい日本国はナノマシンの動力源になる電力を支配することで、人工島=自治領の手綱を握っているが、経済的には自治領のもたらす研究成果に依存する構図となっている。
そんなねじれた成り立ちによる自治領の中では様々な主義主張や、島内の自治、警備をめぐる勢力が入り乱れて、陰に日向に対立を続けている。
 
本書を読んで驚いたのは、そうした混迷を描くに際して著者が据えた視座の温かさ・優しさです。
主人公である人工妖精揚羽を取り巻く環境は身を切るようにタフなものでありますが、厳しい環境にあっても、あらゆる勢力のあらゆる人間・妖精に対して、共感を目指した豊かな視線が投射されています。
結果、取り巻く世界の厳しさと、そうした世界を眺め渡す無辺の優しさが拮抗した、見事な舵取りで物語は展開されています。
とりもなおさず、世界を見渡す目線の高さ・温度は主人公である揚羽やそのマスターたる鏡子に共通したもので、P496の鏡子のセリフに、それはもっとも如実に顕れているように思います。

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20.営繕かるかや怪異譚

余白のある怖さ。
言葉を募らず、ただただ、淡々と語られる住人たちの恐怖のお話。
お化けは祓わなければならない。
取り除かなければならない。
そう思ってた私にはとても新しい視点をくれた物語でした。
怪異は、残留した思念。そういう自然現象のようなもの。
窓を開けて風通しをよくするように、滞るものを流していく。ソレと生きていく。
災害も、怪異も、隣り合う脅威。
在るだけで害。
在るだけで、善人にも悪人にも無差別に侵食していく。
それでも怪異が、元は感情があった人間だと思うと切ないですね。

言葉多くに語られるわけではないので、物足りなさを感じる人もいるかもしれないけど、読後に残る寂寥感はとても心を締め付けてくる。
営繕かるかやの尾端さんの優しい仕事が、妙に心を擽りました。
怪異と共存していくっておぞましいはずなのに、不思議と嫌なものに感じない物語でした。

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おわりに

いかがでしたでしょうか?
どの本もオススメなので良ければご一読ください。

その他書籍も紹介しております。
宜しければご覧ください。


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