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小説3,000作品以上読んだ人間がオススメする名作20選⑩

皆さんこんにちは
今回は今まで読んだ小説の中で個人的にオススメの作品を紹介します。
※この記事ではamazonアソシエイト・楽天アフェリエイトリンクを利用しています。


1.すばらしい新世界

SF小説の醍醐味は、物語という形式を用いた社会実験を疑似体験できることにあると言えます。私たちが普段は想像もつかない状況下に人間を置き、物語が展開する中で登場人物たちが葛藤し、選択を重ねる。その過程を通じて、現実では不可能な社会実験を仮想的に行うことができるのです。

「すばらしい新世界」もまた、未来社会を舞台にした壮大な思考実験と言えるでしょう。本作では、人間の本能を条件付けすることで、すべての人々が完全に幸福になった未来社会が描かれます。しかし、そこから逸脱してしまった人間たちが現れ、物語は彼らが葛藤する姿を通して、「幸福とは何か」という問いを投げかけます。作中で人々は自らの幸福を疑うことはありませんが、読者である私たちは、それが真の幸福なのかと疑問を持たざるを得ません。本能の条件付けから外れた登場人物たちが真の幸福を求めて葛藤するように、私たち読者もまた、幸福の意味が揺さぶられ、葛藤を覚えるのではないでしょうか。

1932年に出版された本作を、それから100年近く経った現代社会と照らし合わせることでも面白い考察が得られるでしょう。 現代社会では個人の自由や権利に対する意識が高まっており、「すばらしい新世界」のような完全な管理社会の実現は難しいでしょう。しかし、テクノロジーの発展によって、私たちの「選択の自由」が実は操作されているのではないか、という懸念も生まれており、本作で提示された政治とテクノロジーが結びついた管理社会に対する警鐘は、現代社会においても有効でしょう。
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2.新釈 走れメロス

"いいな。もし逃げたら、この身代わりの男にブリーフ一丁で踊ってもらうし、詭弁論部は廃部だ。それが嫌なら、友情とやらを証明してみせろ"近代文学の傑作5篇(6篇)を著者の"書きたくなった"セレクトで現代のヘタレ学生に置き換えた本書は、文体のノリの良さ。そして確かな作品達への愛情が伝わってきて2重に面白い。

表題作でもある太宰の『走れメロス』、芥川の『藪の中』、中島敦の『山月記』など、錚々たる名作に基づくオマージュ。
原作に似せ過ぎたら盗作になり、原作から変え過ぎたら改悪になる。難しい状況の中、いずれ劣らぬ読み応えのある作品に書き上げた作者の筆力が素晴らしい。
個人的には『山月記』が最高に良い。
原作では、己の力量にうぬぼれ虎となった李徴であるが、今作では天狗になる。諺の通り天狗になり、他者を見下した挙句、今度は文字通り天狗になる。
原作では李徴の心情は難解かつ簡潔な文体で描かれるのみで分かりづらい部分があったが、今作では筆が足されている。
その塩梅が絶妙であった。
これさえ読めば、作者の非凡な才能が分かるという意味で、本作は間違いなく森見登美彦の代表作と言える。
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3.復活の日

『復活の日』は、単なるSF小説ではない。ここには、科学的な知識に裏打ちされたリアルな設定と、人類の未来への深い洞察が込められている。まるで、数十年後のコロナ禍を予見していたかのようなストーリーは、読む者に強い衝撃を与える。

作品の特徴として、科学的な解説が非常に詳細で、専門知識のない読者には難解に感じる部分もある。しかし、その圧倒的なリアリティが、本書を単なるフィクションではなく、思想書のような奥深いものにしている。作者が60年以上も前に、人類がウイルスや細菌兵器の脅威にさらされる未来を警告していたことには驚くばかりだ。

小松左京は、人間の善と悪の意識、破壊と再生をテーマにし、歴史の中で繰り返される人類の愚かさを描き出している。本書では、未知のウイルスが人類を壊滅させるが、その背景には人間自身の傲慢さと戦争の影がある。これはまさに、現代の私たちが直面している現実そのものではないだろうか。

『日本沈没』ほどのドラマ性は薄いかもしれないが、その分、ウイルスの仕組みや感染のシナリオが緻密に描かれており、知的興奮を味わえる作品でもある。昨今のエンタメ小説とは一線を画す硬派な文体と重厚なテーマが、本書をより一層際立たせている。

コロナ禍を経た今こそ、この作品を読む意味がある。戦争、感染症、環境破壊—人類が抱える根本的な問題を浮き彫りにし、「この先の未来をどう生きるべきか」を考えさせてくれる一冊だ。未来に対する心構えを持つためにも、ぜひ多くの人に読んでほしい。

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4.インフェルノ

ダン・ブラウンシリーズはわりと毎回似た展開というか、同じ作者、登場人物なのでしかたないのですが、似たようなテーマ(宗教、イタリアなど西洋が舞台、歴史が関わる)なので新鮮味は減っていくのですが、上巻は、まあ、まあ、なるほど、くらいの気持ちで読んでいましたが、下巻は急に面白くなります!
とにかく、伏線がしっかりしていて、うまくミスリードしてくるので思いっきり下巻の前半までいろいろなことに騙されていました。そのため下巻後半から、何度もそれより前を読み返すくらいです。
主人公のラングドンが記憶喪失という状態で物語が進むので、そのあたりは「デセプション・ポイント」っぽいような気もします。

ちょっとネタばれかもしれませんが、今回は宗教や歴史だけではなくSF的な内容も入っていたし、やっぱり悪人がただの悪者でなく魅力的なのがよいです。「天使と悪魔」もしかり。
ウィルスが、「え、そんなこと?」と、どうしても小説内だと派手な惨劇を想定してしまうのですが、その辺は現実的というか、逆に一般人の私でも想像できるものでした。ウィルスが広がった現状で考えると、まあ、マシでよかったのかなあと。中盤妊婦の登場人物がいましたが、これも想定内だったけれど、無事出産してよかったし、テーマがテーマなのでよけいに感慨深いラストに感じられました。ほとんどのクエスチョンにアンサーがあったのですっきりしました。
やはり彼の小説は、その舞台に行きたくさせるその描写が良いですね。
いながらにしてフィレンツェやベネチアに行った気がする。そして本当に行きたくさせる。観光本でも良い。
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5.罪悪

事実は小説より奇なりという言葉にふさわしい、15編の奇妙でそれでいて異様な物語が語られる。犯罪が日常生活の中でおきるとき、何らかの動機がありそれが解明されたとき驚くべき人間性が暴かれることがある。
「自宅で自殺したくなかったのだ。二か月前、壁を塗りかえたばかりだった。」
「彼は初の写真展をベルリンで開催した。すべて、顔のないヌード写真だった。」
「・・・握りかえすだろう。自分の夫を殺した手を。」
「頭に重大な欠陥があるようなのです。」

すべて最後の一行である。ロアルド・ダールのような「奇妙な味」もあれば、サイコパスの物語が一転ブラックユーモアな結末をむかえる話など、どれもセンテンスの短い文章で綴られた傑作短編集である。
中でも特に好きな一編は「鍵」。重要な意味をもつ鍵を犬が飲み込んでしまう黒いドタバタ喜劇で、これだけで長編の傑作ノワールが書かれてしまいそうな面白さだ。
十五編の物語はすべて長編小説を凝縮したような、濃密なミステリである。
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6.活版印刷三日月堂 星たちの栞

装丁の美しい文庫本に引かれます。
読んだことのない作家さんの作品に最初に触れるのは、その装丁。この本もその美しさに引かれました。

小江戸と呼ばれる埼玉県の川越の古びた印刷所「三日月堂」に帰ってきた弓子。祖父が死んでから閉めていた印刷所を、ちょっとしたきっかけから再開することになります。
息子の成長と巣立ちを嬉しさの中でさみしさを感じる母親、叔父から引き継いだ珈琲店で叔父の影を追い続ける店主、珈琲店で見つけた活版印刷に生徒と自分を重ねる学校司書、祖母の遺品の活字に導かれて三日月堂を訪れる結婚を控えた女性。

今では珍しくなった活版印刷所を舞台に、4つの物語が紡がれますが、大きな謎や活劇が繰り広げられる訳ではありません。普通の生活の中で、普通に抱える悩みがちょっとしたきっかけでほんの少し幸せになるそんな穏やかな物語です。
活版印刷による印刷物がそれぞれ素敵なアイテムとして登場しますが、押しつけがましくなく、物語にしか現れないそのアイテムがちょっとだけ「欲しい」と思ってしまうのが良い雰囲気です。
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7.螢川・泥の河

戦後の時代、大阪にある安治川と呼ばれる泥の川を舞台にそこのまわりに暮らす人々の人間模様が描かれているのが太宰治賞を取った「泥の河」です。その川には、泥のなかから沙蚕を採る老人がいたかと思えば、いろんな物が流れて来る、台風の後は、窓枠といっしょに額縁つきの油絵や木製の置物なども流れて来る、それを子供達は拾うのが楽しみだったとか。
時にはへその緒のついたままの赤ん坊の死体が流れて来たり。そこには生と死がごちゃまぜになって、戦後の川縁の情景がそのまま読者に迫ってきます.その中で川縁に大らかで仲の良い両親が経営する食堂の子、小学2年生の信夫は、新しくその川に越して来た郭舟に母と姉と暮らす喜一と、とっても仲良しになります。
この無邪気なふたりの少年、今の時代にない、見たもの聞いたものをそのまま何の余念もなく受け入れる全く清廉で純粋な可愛い少年たち、決定的に異なるのは、喜一のお母さんが娼婦であるという事。

宮本輝の大きなテーマである、残酷な「この世の不公平」は、ふたりの純粋性を砕きます。宿命的な「この世の不公平」に対するもどかしさに苛立ちながら、このふたりの天真爛漫な子供達を中心に、川縁に繰り広げられるさまざまな描写には何ともやるせない気持ちでいっぱいになり、読んだあとは、ため息がでます。
太宰賞を取った数ある作品の中でも私は一番の名作だと思います。
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8.赤ひげ診療譚

主旋律は、保本登という若い医師が、小石川養生所の赤ひげと呼ばれる老医師(といっても当時のことで実際は40代半ば)に反発しつつ、その人格と生き方、医療に対する考え方に感化され、自らも名誉栄達に関係のない医師として苦難の人生を選ぶに至るプロセスだ。

そこに、さまざまな患者の問題が絡んで、転調して行く。本書は江戸の市井を描く歴史小説であると同時に、患者たちが抱える病気や問題の謎が明らかにされるという推理小説短編集でもある。

非常に興味深いのが、この小説に描かれる問題が現代のそれらと同じであることだ。性的虐待に、子ども虐待に、不倫問題に、貧困のために精神が崩壊していく人々に、自らの不幸を孤独に背負い死んでいく老人たちに、男に翻弄されることを拒否する意志的なシングルマザーに、政治の無策に、支配層の飽食過食と貧困層の飢えなど、まさに現代社会の諸問題が描かれている。

これは江戸時代も現代も人間のやることは同じという意味ではなく、作者の山本周五郎による歴史小説という形式を活用した現代社会批判なのだ。
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9.華竜の宮

近未来を舞台とした海洋SFを謳っているがストーリーの骨子は、官僚たちのネゴシエーションという珍しい作品。

もちろんSF的設定や世界観、仮想生物たちの生き生きとした姿は
それはそれで素晴らしく、脳内にリアルに立ち上がってくる。
しかし、最初から最後まで物語を引っ張っていくのは、
組織の末端で所属組織の論理や面子に縛られながらも、
自らの倫理にも誠実であらんとする官僚たちの姿勢である。

少年少女たちは、いつでも革命家のように潔く、
キャッチーでピュアな世直しに惹かれてしまうものだ。
しかし何時の世にもきちんとした次の世を作っていくのは
一見つまらなく、歯がゆい大人たちの、膨大な事務量に裏付けされた
ネゴシエーションの積み上げなのである。

旧勢力との闘争と、早急な世直しとそのカタルシスで、
社会を語ってしまう愚に対し、本作は一見つまらない
ネゴシエーションの場面を粛々と積み上げていくことにより、
リアリティある人間社会の描写に成功している。
それが本作を重みあるものにしていると信じている。
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10.自由研究には向かない殺人

事件のスケールは大きくない、派手な仕掛けもない。本筋は解決済み捜査の地道な洗い直し。それなのにハラハラドキドキ、いま時の17歳が駆使する日常的なスマホアプリやSNS、PC機能を武器に、真犯人に迫っていくスリルとサスペンスが半端ない!

欲も利益も評価も関係なく、ただ己の信じる心に従うピュアで真っすぐな主人公ピッパが瑞々しい!優等生タイプでもなく、どこにでもいる平凡な女の子。でも思いやりがあって、ちゃんと「ごめんなさい」が言える率直さに読者は必ず魅了されるはず。悩んだり傷ついたり、違法スレスレの向こう見ずなこともするけれど、信頼とユーモアで結ばれた相棒と家族に支えられ、真相へ一歩一歩近づいていく小さくて大きな勇気を応援せずにはいられない。身近な人物への疑心暗鬼が2転3転する過程も目が離せず、真犯人も意外で十分に展開を楽しめました。

これはミステリーであると同時に切ない友情を描いた青春譚でもありますが、事件解決と引き換えにもたらされる(よりはずっと穏やかな)友情の成り行きや人間関係の機微については、世の中こんなにピュアだっけ?と難癖をつけてしまう、年取ってピュアでなくなった自分が悲しかった。…と、年齢や世間のせいにしてる自分がさらに哀しかった…。ピュアでないことに慣れてしまい、どこかでそれを正当化していた自分が情けない。でも、そんな濁った心を主人公に洗われた気がします。ありがとう、ピッパ!
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11.メインテーマは殺人

作者本人をワトソン役にして、しかも一人称で語るのって、すごく難しいと思うのですよね。本人は作中でアガサ・クリスティを尊敬していると言っていますが、そのクリスティにしてからが、ご本人の分身としてオリヴァー夫人なるおばさん作家を登場させた数篇は、三人称という客観視点で語っているにも関わらず、お世話にも成功しているとは言い難い出来ですからね。
ところがこの本は、見事に成功しています。一人称で自分の仕事や作品について、面白おかしくも自慢たらしく語りながら、読者がうんざりし始める寸前でさっと引いて、客観的な語りに切り替える、そのタイミングが凄い! 絶妙!
しかも仕事については饒舌なのに、私生活についてはチラッとしか見せない、それでいて、そのチラッだけで奥さんの性格も二人の関係も分かって、二人に好感さえ抱かせられてしまう。その奥さんが実際に登場するのは、事件が解決した後のワンシーンのみで、名前も明かされないままだというのに、です!
全く非凡な才能の成せる術としか言いようがありませんね。
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12.灯台へ

舞台はスコットランド沖の風光明媚な島。哲学者の妻であり、8人の子の母であるラムジー夫人の語りを中心に始まる第一部から、戦争など時代の激変を経た第三部まで、登場人物の視点がめまぐるしく入れ替わりながら物語は進んでいきます。

私達はふだん、心の中で他人についてさまざまなことを考え、想像しています。しかしそれはあくまでも自分1人の捉え方で、他人からの見え方は全く違うことも多々あります。
『灯台へ』は、この認識の違いが実に鮮やかに、時にユーモアをまじえながら繊細に描かれており、100年前の作品とは思えないほどリアルで刺激的な物語となっています。
安易な共感でも批判でもなく、人間が現実に生きていれば、正解など簡単に示せるものではないのだという洞察を、私達読者に与えてくれる。それでいて根底には、まばゆいばかりの希望が見える。

ウルフの生涯は決して平穏なものではなく、嵐の中を死にもの狂いで進むかのような人生だったそうです。しかし本作を最後まで読むと、「それでも私は人間の強さや美しさを、確かに信じているのよ」という彼女の声が聞こえてくるかのようでした。
名作とは時を超えても私達の心を揺さぶるもの。そしてそれを支える翻訳者の力量の凄さにも改めて感動をおぼえました。
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13.翼の翼

塾の先生から説明された受験校をわざと知らないふりをして聞きだしたり、自分の子どもを褒められて嬉しいのに否定したり、他人を蹴落とすため自分の情報は提供せず適当にやり過ごしたりと、巧みな言葉選びで本音は見せない円佳の腹黒さが怖く感じた。

本音が隠されているから、子どものためと思いながらも、自分の価値や存在意義のために子どもを利用しているように感じられてしまう。友人の貴子のように本音をさらけ出してしまえばもっと子どものことを考えた選択ができるのにと思った。
また、自分の子どもの翼には学校の価値は偏差値だけではなく校風や友人や部活だと言っておきながら、自分の見栄のために勉強を強いる円佳と、母親の期待に応えようと一生懸命頑張る翼の健気な様子が切なかった。

本当は受験をやめた方がよいと思っても、今までかけてきたお金や時間や労力を考えると引き返せない心理のことをコンコルド効果といい、中学受験はその心理とも戦わないといけないほど過酷であることがよく分かる内容だった。
家族で本音をぶつけ合い、励ましながら、子どもの繊細な気持ちに寄り添って中学受験に挑む展開は読み応えがあって最後まで楽しめたし、読後感もよかった。
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14.死神の精度

「死神」を題材にした小説。
この作品の死神は死期の迫った人間の前に降り立ち生死を決めていく。
7日間調査して死ぬべきかどうかを判断するのだが、本作の主人公・千葉(死神)はかなり適当に生死を決める。
人の死に対して全く関心のない彼はCDショップの視聴機でミュージックを聴くのが至上の幸福。ラジオから流れるミュージック、喫茶店のミュージックなど音楽に眼がない死神。そんな千葉が出会った6つの物語と男女が描かれた小説である。

本作は「死神の精度」「死神と藤田」「吹雪に死神」「恋愛で死神」「旅路を死神」「死神対老女」というふうに6つの短編になっている。短編と言ってもどの話にも死神・千葉が登場しているのが特徴。
ストーリーごとに登場人物やシチュエーションが異なっており、
極道同士の抗争のまっただ中だったり吹雪で閉ざされた洋館で起きる惨劇だったりと、死神は時と場所を選ばない。
千葉の担当する人間はみな死期が近いが、その人の悩みや境遇などを聞くことで「可」か「見送り」かを判断する。
「可」だったらそのまま死に、「見送り」だったらそのまま生きることができる。生死を決める7日間は無情にも死神と人間との最後の交流の時なんです。

この本の最大の魅力は主人公の千葉です。
物事に動じないクールな印象に反して世間に疎くて人の気持ちが理解できないでいる。
しかし6つの話の6人に出会いそれぞれの心情に接していく内に、
人間とはなにか、死とはなにかを考え始める。もちろん読み手の私も考えさせるものでした。
また、テンポのイイ文体と死神ゆえの世間に対する純粋な疑問を述べるシーンは特筆すべきものがあります。

伊坂幸太郎は今まで社会にハズれた人物を描いてきたが本作はその最たる作品だと思います。
とにかくCDショップに入ってしまう死神のユーモラスな描写がとっても親近感が湧く素敵な作品。
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15.御馳走帖

『御馳走帖』というタイトルではあるが、美食・飽食の話ではない。ご自身を“くいしんぼう”と仰っているが、その通りと思う。人にご馳走するのがお好きなようで、あれこれ算段されている様子はとても微笑ましい。けれど、食に関して人からあれやこれや言われるのはお好きではないらしく、ぶつぶつ仰っているのも愉快。食べ物だけでなく、飲み物(お酒)・喫み物(煙草)も御馳走のようで、同好の士としてはこちらの話題も大変楽しめた。

「うまいから、うまいのではなく、うまい、まづいは別としてうまいのである。」 この一文には参った。食べたいものを食べたい分だけ食べる。調理やら素材やら薀蓄やら、そんなもので御馳走を語らない。食べること、食べる場が好きな方なのでしょう。
記憶力のよい方のようで御馳走の周辺の描写―食卓の風景、ご家族との会話など―が、まるでその場にいるように感じられる。また、句読点の按配が心地よく、とても読みやすい。毎日寝床に就くのが楽しみだった。

なにぶん書かれた時代が時代だけに、明るく楽しい御馳走帖とはいかない。配給の麦酒を苦心して手に入れたり、食べたいものをひとつひとつ挙げながらひもじい思いに耐えたり。昭和十九年に食べたいものを書き出した(78品目+追加6品目)「餓鬼道肴蔬目録」には思わず涙した。
いま食べたい・飲みたいもの、風景や会話とともに思い出となっている食べ物・飲み物、すなわち自分の心を満たしてくれるもの、それが御馳走だ。
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16.しゃべれども しゃべれども

二つ目の落語家今昔亭三つ葉の語りでつづられる小説で、彼の心情を細かく描き、それでいてくどくなく読みやすく話が展開します。
どもって弱気なテニスコーチ、感情のない無口な美女、謎の関西弁の小学生、喋れない解説者と、なぜだかそんな人たちが彼の元にやってくる。
彼らは皆、話すこと話せないことで問題を抱えているという。何をどうしてそうなったのか、落語しかできない三つ葉は彼らに落語を教えることになる。

三つ葉が落語家として、真打ちになるために修行をしている様子も描きながら、問題を抱えた四人の生き様と成長を描きます。
全てがうまく行くわけはないけど、学校でのいじめと戦う小学生を中心にして話はどんどん進んで行きます。
最後には気持ちよく、それぞれの成長を見送る気分にさせられました。

文体は優しく、それでいてきめ細かく色々な所に視線を発しており、また、落語の作品をうまく紹介しながら、落語の世界もかいま見ることができます。
落語にちょっと興味があったので、そこから購入してみたのですが、落語に興味がなくても楽しく優しくなれる作品でした。
主人公が素直に自分を見つめて、相手も見つめるから、読み手も素直に受け止められる。そうして、彼らに込められた作者の思いを受け取った気分になれました。
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17.亡国のイージス

物語は、主要な登場人物の生い立ちを丁寧に描く90ページに及ぶ「序章」から始まる。上・下巻あわせて膨大なボリュームになるが、読み手にそれを負担にさせないだけの物語の内容がある。
起承転結のはっきりとした構成をもち、次々と手を替え品を替えしては、物語に気持ちいいテンポを奏でている。
アメリカ外交に及び腰である日本、自立してない亡国「日本」を憂い著者は、登場人物を借り「亡国の盾」を著したのであろう。
同著者の著作「Twelve.Y.O」の流れを汲む本作では、対米問題にとどまらず朝鮮問題にも鋭い目を向けている。朝鮮問題は、恒久的な問題ではなく、目の前に突きつけられた解決すべき問題であるはずだ。
現在の日本は、北朝鮮政策に関しては、拉致問題に徹底終始し、それを隠れ蓑にして他の外交努力をいっさいしていないように感じられる。
日本には、そんな亡国になってほしくないから、著者は叫ぶのであってその声は厳しい。
テーマは、深く重いものを背負いつつも、物語は個性豊かな登場人物が活き活きと描かれ、愚直とまで言い切れる潔癖さを以て自らの使命を果たす。
その様は、読み手に深い感慨と感動をもたらすこと間違いない。
ことが終わってみると、アメリカはいつもの高みの見物。多数の犠牲が生まれても何事もなかったかのような日常への回帰は、悲しい。
いろいろな意味で、思考させられる好感の持てる作品です。
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18.さくら

最初は、ごく平凡な家族の物語なのかな?と思った。
ところがどうして、読み進むに従って、物語の質と密度が変化してくる。
それは例えば、ラヴェルのボレロの様に、囁く様に始まった曲が、連続的にクレッシェンドして、最後は総動員のクライマックスに達する様に似ている。

この作品は、物語の展開が、後半に進む程、緊迫した内容になっている。
本文中の言葉を借りると、ストレートばかりだったボールが、段々と悪送球に変わってくる。

その内容は、人間の生または性の、根源的な部分に忠実だ。
人と人との係累の対象は、気持ち、あるいは、本能の趣くままに忠実であれば良いのだろうか?
それらを見守るのは、犬のさくらだが、当初、生まれて間もないさくらが、結末部分では老犬になっている。
物語は、この様な長きに渡る時間的営みを、緻密に描く。

多くの問題提起がなされる。
しかも、ストレートな感性を伴って。

考えさせられる部分は多い。
物語は一人称で綴られるが、主人公は、家族全員だ。
さくらの眼には、この家族は、どんな風に映ったのだろうか?
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19.闇の左手

この物語は読者を選ぶ。読み切った後に通俗的なカタルシスはない。しかし深く長い余韻を残す壮大な筆業である。
長大な冒険小説であるが、その冒険は書かれた言葉以上に精神的なものであり、書かれているとおりに政治的なものであり、書かれたエピソードの数の割にページをめくらせない。
ファンタジイとしての読み方をすれば、その空想世界の濃密なリアリティが、凡百のファンタジイにない陰鬱さや残酷さをまとって、その中核にある思考へと読者を容易に近づかせない。

そのSFとしての道具立ては、なまじなSF読みにとっては平凡であり、SFを敬遠する読み手には陳腐であり、巨大な世界観が断片的にしか明かされないことで多くの読み手に失望を与えかねない。

しかし、誰にもできなかった方法で、人間の、互いに疑い、憎み、苦しみ、許し、尊び、通じ合い、悲しみ、そして未来への一歩を踏み出す勇気を絞り出す姿を描き出した。いや、読後に思い返せば、この長編にはそれしか書かれていない。

20代の頃なら最後まで読めなかっただろう。名作の誉れ高いこの作品を、今まで読まずに取っておいてよかったと、あれこれ苦労はあったがそうして歳を取るのも悪くないものだと、読後に独り祝杯を挙げたのである。未読で往年のSF読みのあなた、そろそろいいかもしれませんよ。
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20.渚にて 人類最後の日

核戦争による放射能汚染で、地球が滅亡するまでの数ヶ月間を描いた小説。
放射能汚染からもっとも遠いオーストラリアを舞台に、じわじわと南下してくる放射能や北半球で失った家族を思いながら、残された時間を過ごす人々の話です。
物語の大半は牧場仕事や庭造り、釣り等をする人々の日常ですが、中盤以降に描かれる誰もいない北半球の風景が非常に印象的です。
滅亡の数ヶ月前には石炭資源を節約している人々が、いよいよ直前になるとそれらを景気よく使い始めるなど、SF作家の箱庭実験のような側面もありますね。

主要人物の多くが軍関係者、または彼らに感化される人物のせいか、死期を迎える彼らの行動はみな誠実で潔いです。
ホームズ夫妻のやり取りなど、必ずしも聡明ではない場面もありますが、誰一人として晩節を汚す者がいない、静かで美しい黄昏時の物語です。
実際に死や絶望を目前にした人間の中には、みっともなくあがいたり、それまで積み上げてきた一切合切を捨てて愚行に走る者もいると思うのですが。
けれどそういった醜悪な人間性が排除されているからこそ、この静謐で牧歌的な世界観が完成されているように思います。
或いは作中の人々の鬱屈や攻撃性はすべて昇華され、後半の自動車レースの話に集約されているのかもしれません。自分はこのレース編の主人公が小気味良くてかなり好きでした。

自分は時間と気力がある時は一気に本を読み進めるタイプなのですが、本書は読み終えるまでかなり日数がかかりました。
序盤から中盤までの日常描写が正直退屈で
けれど、その退屈で凡庸に思える日常が、作中人物にとっては一番心穏やかで平和な時期なんですよね。
それが、ある意味現実に通じていてリアルでした。
退屈でつい粗末にしてしまう時間や人間関係が、後から思えばかけがえのない貴重なものだったりするので。
今目の前にあるうちはちゃんと大事にしようと、そんなことを思いました。

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おわりに

いかがでしたでしょうか?
どの本もオススメなので良ければご一読ください。
その他書籍も紹介しております。
宜しければご覧ください。



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