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人はいかにして一人前になるのか・補足~広島修道大学での講義に寄せられた質問への回答~

先日中園先生のお招きをいただき、広島修道大学にて「人はいかにして一人前になるのか~実践共同体から見る社会人としての熟達とキャリア~」という講義をしてまいりました。

その際寄せられた質問へすべて回答ができなかったので、代わりにこちらに回答を記しておきたいと思います。

講義を聞かれていない人からしてみればなんのこっちゃという感じかと思いますが、大まかには「社員が育つには正規的なトレーニングや研修だけではなく、業務とは関係のない自発的な取り組みにも成長の場がある」というお話をしてきました。コミュニティ運営や人材育成などに関わる方であれば、講義に関係なくとも多少お役に立つことがあるかもしれません。


Q.中学校の時、卓球を楽しみたい人と、試合に勝ちたい人とで部活内で分断が起こってしまった。こういう場合はどちらかを排除しないといけないのでしょうか。

A.まず部活の目的が明確に決まっているならば、入部前にそのような意向を伝えてスクリーニングするべきでしょう。また、選手層もカジュアルプレイヤーも包摂するようなコミュニティなのであれば、プレイスタイルを強要しないような文化をコミュニティ内で作っておくことも大切です。ただ、それらの取り組みを実施したとしても、ある程度コミュニティ内でスキルやモティベーションに差が出ることは避けられません。このような場合、スキルや経験別にゾーンを分けつつ、折に触れてそれぞれのゾーンをブリッジするような実践を取り入れると良いでしょう。

例えば卓球を楽しみたいという人の中には、単に経験が浅くて試合はまだ怖いと感じていたり、試合に勝つ喜びを知らないだけという場合もあるでしょう。そういう人はいずれどこかで、もっと試合に出たい、勝ちたいと思うようになるかもしれません。「一人前の選手」になるのにも段階がありますから、入部した翌日から「もっと試合に向けて必死になれ」と言われてもピンとこないというのも納得できる話ではないでしょうか。人によって向上心や試合への意識が芽生える瞬間は異なります(芽生えない人もいます)。だからこそ、そういう芽生えがあった時に、「こっちに行くといいよ」とガイドしてあげられる仕組みを作っておくことが大切です。

Q.コミュニティに参加しない人たちが、疎外感を感じてさらにモティベーションを下げていくことはあるのでしょうか。


A.あると思います。より活発なグループがそうでない人たちを置き去りにしたり、そういう人たちを見て水が合わないと思って抜けていく人たちがいることも現実にはよくある話です。

ただ、意図せずそのような状態になるのは互いに不幸なので、それぞれの人たちがどのような形で関わるのが心地よいのか話し合ってみると良いかもしれません。

例えば、仕事において東京で普段顔を合わせるメンバーと一人だけ地方でリモートワークする人がいるとします。このような時にビデオ会議をすると、東京のメンバーは雑談含めて盛り上がっていますが、地方のメンバーはそれを聞いているだけということが良くあります。別に東京の人たちが地方のメンバーを仲間外れにしたいわけではありません。現地で話をしていれば自然とそうなるだけの話です。しかしビデオ会議でリアル対話の店舗に介入することは難しいので、ここで疎外感を感じてしまう、というわけです。

このような事態を防ぐために、メンバーの所在地に関わらずビデオ会議の時は全員同じ環境で打ち合わせに入るという対策をされている会社もありますし、反対に、地方のメンバー自身が自分の状況を理解して積極的に東京のメンバーにコンタクトするというケースも聞いたことがあります。

このような状況は互いの歩み寄りが重要なので、「〇〇してくれない」「〇〇すべき」などの議論ではなく、互いの認識やコミュニティのあるべき姿をもとに現実的な議論をすることが重要です。

Q.1人前でないメンバーが多い時、自分一人だけでは面倒を見切れない。どうしたらいいでしょうか。

A.そもそも人が1人前になるというのには時間がかかりますから、まずは焦らないということが重要だと思います。

その上で、コミュニティとして何らかの成果を出す、チームとして機能することを目指すのであれば、個々人の得意なことや絶対に果たして役割など限定的な部分に目を向けてクリアしてくのが良いでしょう。もちろん最初から高い目標を設定することはできないので、ここでも段階的な対応が必要です。例えば、サッカーでいえばある人にはパスを回せるようになってもらい、ある人にはフリーキックをマスターしてもらう。そうしてチーム全体としてはフィールド全体で戦えるようにしていくイメージです。このような状況下では、想定外の状況への対応力はまだまだ弱いと思いますが、チームの狙い通りに行った時には成果を上げることができるでしょう。そういった小さな成功を積み上げつつ、全体としてレベルアップしていくことを検討してみましょう。

Q.MBAは学部卒業後すぐよりも、3年程度の実務経験を経てから取った方が良いでしょうか。

A.MBAは実務経験があった方が、学びが非常に深くなると同時に同級生との会話にも具体性が伴うと思います。かといって、後に回しすぎると実務での応用機会が少なくなくなってしまうので、個人的には30前後くらいで行くのがおすすめです。

MBAの学習の醍醐味の一つは越境性なのですが、これを十分に自認する程度にはまず自社のことを学ばなければ、他社の話などを相対化することができません。ただ隣の芝が青く見えるだけになってしまうとあまり効果的な学びになるとは言えないので、自分なりに一通りの業務を理解し、個人的な課題が見えてきた頃が良いと思います。

社会人向けに書いた記事があるので参考にしてください。

Q.計画された偶発性は個人的には運を引き寄せるための行動だと考えています。その行動を選択ために情報収取する段階で、どのような情報源を選んでいますか。

A.少し質問の意図を汲みかねているところはあるのですが、偶発性を引き寄せるような行動をするためにどんな情報源を重視しているか、という問いだと理解して回答します。

まず、偶発性を引き寄せるような行動の1つは、講義に則って言えば自分の行動を発信する事(世に出す)です。そのためには、どのような発表の場があるか、どのような人であれば自分の話を聞いてくれるかというのが大切です。この辺りは新規事業開発と同じで、自分のアイデアや調査結果は、誰のどんな課題の役に立つのかを考える必要があります。これを知るために、自身の研究対象になりうる人の話を聞いたり、同じような取り組みをされている人のお話を聞きに行ったりします。そういったところにはすでに同じ課題や志向を持った人のコミュニティがあったりすることもしばしばで、そういうところに顔を出すのも重要だと思います。

一方でWEBのコタツ記事やSNSの過激な意見(個人の冷静な投稿などは除く)などはあまり気にしていません。そういう一過性の、当事者不在の情報というのは結局自分とつながることは少ないと感じています。

運を引き寄せるとは、言い換えれば機会と自分の状況がマッチしていて、その状況を周囲の人が知ってくれているということです。だから周囲の人はあなたに依頼したいと考えるわけですから、自分自身が情報源となって自分の状況を発信し続けることが重要だと思います。

Q.コミュニティを通じて切磋琢磨する社員もいる一方で、そのような人ばかりではないとも思います。そういった人たちにはどうすればいいでしょうか。

A.講義で取り上げた非公式なコミュニティを通じた学習は、確かに万人に確実に適応できるものではありません。やはりコミュニティですから、一定程度当人に興味や関心があることが大切です。

他方で、いやでもすべての社員が学ばなければならないのが、業務で使う知識や技能です。これについては講義では割愛しましたが、これらもOJTや日頃の業務を通じて先輩や上司とのかかわりの中で学ぶことが多くなります。実践共同体の考え方とは、人とのかかわりの中で学んでいくということですから、ここには「公式なかかわり」としての学習の場があると言えるでしょう。

もちろん、仕事の知識を覚えていけば自然とモチベーションが上がるとは言えません。しかし、教育学者であったレオンチェフは、同期には「ただ理解されただけの動機」と「実際に有効な動機」があるとしています。これは、勉強しないといけないのはわかっている(理解されただけの動機)というものと、将来のためにはしっかり勉強しよう(実際に有効な動機)の違いです。当然後者が重要なのですが、レオンチェフは、理解されただけの動機に基づいて外形的に練習したり実践したりすることで、徐々に動機が実際に有効なものに転化していくと言っています。例えば筋トレなどはとても苦しいものですが、嫌々やっていたとしても体重は落ち、ボディラインはきれいになります。そのような成果を実感すると、心から納得して活動が継続できるということですね。

外形的に行動をとってもらうには、口で解くだけでは難しい場合もあるでしょう。そのようなときは制度や評価などの仕組みの力を使うことも有効なことがあります。例えば単にやる気がないと言っても、それは気持ちの問題ではなく、給与の低さに対する不満かもしれません。あるいは一人でいるとサボってしまうけど、ほかに人がいれば手は動かすかもしれません。このように「ヒトに動いてもらう」にあたってのレバーは無数にあります。これ以上はコミュニティの議論とは離れるのでここでは割愛しますが、モティベーション論などを調べてみるとヒントになるでしょう。

Q.将来の夢がありません。就活はどうしたらいいでしょうか。

A.多くの場合、人は夢をもって就活していません。安心してください。あなたの思う「持っているべき夢」とは何でしょうか。5年後、10年後の未来でしょうか。それとも天命とも呼べるたった一つの運命的な仕事でしょうか。ちなみに私は今でも、それらは何一つとしてわからないです。

講義でも話しましたが、私たちにわかるのは今までにどんな経験をして、そこでどんな決断をしてきたかです。そこにはあなた自身のアンカーがあり、何らかの影響を与えています。朧気でも構いません。夢はなくても、何かを良いと感じたり、悪いと感じたり、心地よいと感じたり、許せないと感じることは誰にでもあります。そういう経験を振り返りながら、自分が「何にだったら前向きな感情を抱けるか」がほんの少しでも見えればそれで十分ではないかと、私は思います。そういったものを大事にしながら「今決めなければいけないこと」に対処し続ける中で、徐々に「次はこっちに行ってみよう」と思えるようになってくると思います。だからいきなり主体的な決断ができないことに不安を抱く必要はありません、何事も練習です。

今回の講義で取り上げた実践共同体の考え方では、人はそのような入口に立った後、コミュニティの人々との関わり合いを通じて自分というものを振り返ります。自分が夢中になれることや好きになれるものは、人とのかかわりの中から思いがけず生まれたりするものです。今はそれがないことを恐れず、できることを着実に進めていかれれば十分だと思います。

Q.成果を発信することで周囲からのフィードバックが得られるというお話がありましたが、うまくいかないうちはなかなかそのようにはいかないと思います。そんな時にはどのようにモティベーションを保てばいいでしょうか。

A.うまくいかないときは「うまくいかなかったんですがどうしたらいいでしょう」と自分から周囲の人へフィードバックを得に行くと良いでしょう。うまくいかなかった、というのも一つの成果です。失敗からこそ学べることもあります。せっかく「自分たちがやりたい」と思って始めた活動なのですから、失敗も楽しむくらいの心の余裕を持つといいと思います。仕事と違ってミスしたら怒られるというわけではないですからね!

Q.ソフトだけでは社会人にはなれませんか?

A.一人前になるには知識や技能であるハードと、物事への主体性や責任感などの気持ち(ソフト)が大切だというお話をしたことへの質問だと思います。まず、答えとしてはソフトだけでもなれます。むしろ、社会に出ていくにあたって、皆さんがすでに一人前のハードを身に着けていることの方が少ないです。だから、今は「やるぞ!」という気持ち(ソフト)があるだけでも素晴らしいことだと思います。

ハードは世に出て行ってから、先輩や同僚、あるいはお客様などと触れ合う中で必然的に身につくものや、あなたが主体的に学ぼうとして得るものなどさまざまにあります。これは生涯続く学びです。30までに学んだことで、65歳まで戦えるということはありません。それは昨今のAIの発達を見てもよくわかるでしょう。きっとあなたが就職してから30年後には、今とは全く違う世界になっています。

だから大切なのは、常にハードを更新し続けることです。その時「やるぞ!」という気持ちが持てる人であれば、その壁を越え続けることができるんじゃないでしょうか。