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波乱の社会科見学〜おしりとたまごとおまんじゅう〜


小さな山奥の学校に勤務していた時のお話(その5)


社会科見学の日。
それは漫画のような1日だった。
朝起きると雨。
それは不運の序章に過ぎなかった。



その学校は児童数が少なかったため、近隣の小さな学校と合同で社会科見学を行っていた。

引率は私と校長先生、相手校の担任と校長先生の計4人。

支援学級でもないのに、ただでさえ少ない子どもに大人が4人つくのだから手厚い体制だった。


その年は2校の窓口が相手校の先生の担当だった。
私は下見には参加したものの、細かい手続きや連絡調整はほとんど任せきりだった。


まあ、児童数も少ないし、管理職も2人いる。
多少バタついてもなんとかなるだろう。

と思っていた。

しかし事件は起こった。


迎えた当日の朝。

寝ぼけ眼でLINEを開くと、
相手校の先生からの通知に目が留まった。
(今日はよろしく、とかかな。)
と思いながら開く。


そこには、

「娘が熱を出してしまい、私は休みます。資料は送ります。こちらからは校長1人で行きます。」

と書かれていた。


(えぇぇぇ!!?

ちょっと待って。

私なんも分かりませんが!?)

一気に目が覚める私。

準備の大半を任せていた自分も悪い。

だが今さら後悔しても遅い。

私は震える手で

「お大事にしてください」

と返信した。


切り替えて学校に向かった。
すると、最も学校の近くの信号機が、いつもはついているのに、黄色の点滅になっていた。

交通量の多い道である。非常に危ない。

(後で分かったのだが、近隣で停電が起きていたらしい。)

「副校長先生、なんかあそこの信号付いてなかったですよ。」
と報告すると、
副校長たちは対応のため現場へ向かい、職員室はほぼ空っぽになってしまった。


私はその光景を見ながら、

なんだか今日は波乱の幕開けだな……

と思っていた。



子どもたちが登校し、私は校長先生に相手校の先生が来られないことを伝えた。

すると校長先生は

「まあ、なんとかなるでしょう!」

という感じ。

そうだよな。
管理職2人もいるし。

私はそう自分に言い聞かせて準備を進めた。


雨のため出発式は中止になり、子どもたちは先にバスへ乗り込んだ。


そろそろ出発時刻になる。
しかし、待てど暮らせど校長先生が来ない。


どうしよう。


「先生ー、まだ出発しない?」

準備万端の子供達に
「もうちょっと待とう」
と声をかける。


そうこうしていたら、まだ出発してないのに、
相手校への到着予定時刻も過ぎそうな時間になってきた。


私が本格的に焦り始めた頃、
校長先生が小走りでやってきた。


「いやーごめんね。

出発直前にスーツのお尻に穴が開いてることに気付いちゃってさ。

ジャージで行こうかと思ったんだけど、向こうの校長がスーツなのにこっちだけジャージじゃ失礼だろ?

だから図工の先生に縫ってもらってた。」


縫ってもらってた!?

お尻を!?

図工の先生に!?

今!?

なるほど遅くなるはずである。

結局出発が20分近く遅れた。


相手校と合流すると、
あちらの校長先生は

「今日はこっちの担当が休みになっちゃったんでね。私が全部聞いてきましたんで!」

と仕切ってくれた。
見学先への連絡も慣れたものである。

「あ!到着が少し遅れそうなんですよ!はい、すみません。
雨だし道が混んでて!!」
(大嘘)

などと連絡までしてくれ、
私は完全におんぶに抱っこ状態だった。

目的地の市場では、案内の方について見学をしていた。

私は自分のクラスの子と、今日初めて会う相手校の子を同時に引き連れて市場の中を見学する。

初めは順調であった。

最後に卵屋さんの前にきた。

なんだか嫌な予感がする。

するとお店のおばちゃんが言った。


「人数少ないから全員体験できるわね」


卵のパック詰め体験である。


私は校長先生2人と目が合った。


校長先生たちは2人とも目をぱちくりさせたり、首を傾げたり首を振ったり、顔をしかめて私を見る。

(おい、大丈夫か?たまごだぞ!?)

私も首を振ってテレパシーを送る。

(私も知りません!!予定にはないんです)

しかしおばちゃんは気付かない。

「ラッキーねぇ!」

と嬉しそうである。

しかも子どもたちはすっかりやる気になっていた。

仕方ない。

乗ってしまった船に乗るしかない。


(いや、たまごが割れたらとても面倒なんです!
ちょこまかしてるやつが割るかもしれないんです。
とても不器用な子がいるので危険です!!!
今日は担任不在なんです!!!!
どうかちゃんとパッキングして。)

と心の中で叫びながら見守る。

結局、こちらの校長先生が子どもの後ろにぴったり張り付き、

「しっかり持て!」

と声を掛けながらサポートすることになった。

全員のサポートをし終えた後、校長先生は、

「来年はたまごは無しにしよう!無し!」

疲れ切った顔でそう私に言った。



大人の冷や汗をよそに、子どもたちは満足そうだった。

まあ、なんとか割れずに済んだ。

ケガもなし。

紙が2枚入ったパックは完成したけれど。



昼食を食べ、午後の見学も終わった。

最後は街の名物のおまんじゅうを買って帰る予定だった。

そのために子どもたちはお金を持ってきていた。

しかしその日はとてつもない雨だ。

買い物学習どころではない。

そこで代表で大人が買ってくるという結論になった。

さて誰が行くかと思っていると、

「俺が行くよ」

「いや俺が」

と校長先生たちが言い始めている。

「え、いや、あの校長先生…私が…」

などとあたふたしてると


「よし、じゃあもう2人で行こう!」
「そうだな」

2人でもう決めている。

(えぇ!?2人で?!)


すると校長先生が子どもたちに向かって言った

「いいかみんな!

今日は雨で買い物はできない!

でもまんじゅうは食べたいだろ?」

子どもたちは大きく頷く。

「よし!

今から校長先生たちがみんなのまんじゅうを買ってくるから待っててくれ!」

子どもたちは拍手喝采。

校長先生たちはヒーローになった。

そしてスーツ姿の男2人は、アベンジャーズのように雨の中へ消えていった。

子どもたちが

「なんかかっこいいね」

と言う中、

私は

あぁ管理職2人にこんな雨の中をまんじゅうを買いに行かせてしまった……

と後悔していた。


しかし数分後。

2人は思ったより早く戻ってきた。

嫌な予感がした。
買いに行ったはずのものを何も持っていない気がする。


2人は無言でバスに乗り込み、こう言った。

「残念なお知らせです。」




「店が休みでした。」





えぇぇぇぇぇぇ!?



子どもたちも私もどよめいた。

豪雨の中を歩き、

校長先生2人がおまんじゅうを買いに行き、

その店が定休日だったのである。

そんなことがあっていいのか。




あった。



私は(※正確には私と休んだ先生は)下見の時に、2週間に一度の定休日を見落としていた。

平謝りするしかない。


しかし校長先生たちは

「大丈夫だよ」

と言ってくれた。


ただ子どもたちが可哀想だから、何か別の方法で食べさせてあげたいね、と話してくれた。


すると校長先生が


「ちょっと休んでる先生に連絡してみるわ」


と言い、


「おまんじゅう、定休日でした。」

と今日休みの先生に送ったようだ。


するとその先生から、


「大変です。」

と返信が来たらしい。


校長先生は画面を見ながら、



「大変なのは俺だよ!!!」


とツッコんでいた。


私は何も言えなかった。

こうして怒涛の社会科見学は終わった。



後日、また合同で行事をした時のこと。

校長先生は本当におまんじゅうを買ってきてくれた。

子どもたちは大喜びだった。

今でもあの日を思い出す。

ズボンのお尻の穴を縫い、

卵を守り、

豪雨の中をおまんじゅうのために走った校長先生たち。

小規模校だからこそ生まれた、忘れられない社会科見学だった。

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