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パトロール

 この時期になると彼女はいつも「パトロールに行こう」とせがむ。それは、昼間だけでなく夜も。本当のパトロールのように。近所のこともあれば、電車やバスに乗って行くこともある。小一時間その地に止まる。
 パトロール。それは、桜パトロール。桜が咲き始めから、葉桜になるまでの間、いつでもパトロールになる。
 特に彼女が好きなのは、花筏になった見頃も終わりの桜だ。「パトロール、花筏」となんどもせがんでくる。一緒に散歩するのは楽しいから、こっちもパトロール、パトロールと小躍りしながら一緒に出掛けて行く。
 花冷えの日も、太陽が照って夏日になりかけの日も。二人で並んで歩けば楽しい。それだけで楽しい。桜の力を感じる。
 それが、今年はできなかった。
 彼女は自宅療養となっていた。手術の予後が悪く安静を言い渡されていた。「なんでいけないんだろう。パトロール」と嘆く彼女を宥める言葉が見つからない。
 千鳥ヶ淵、上野公園、不忍池、江戸川橋。慣れ親しんだ桜の名所の写真を何枚見せても満足しない。もう桜を部屋に持ってこよう。いくつもの花屋を周り、まだ咲いている桜の枝木を探した。やっと帰る値段の枝木を見つけて持ち込んだ。二人だけの桜だ。
 「パトロールじゃなくて、逮捕だね」
 彼女は満足そうに微笑んだ。

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