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ポータブルCDプレーヤーの「1bit DAC」ー技術者たちの情熱が生んだ”音”は、30年後も愛されている



1980年から90年代のポータブルCDプレーヤーは、上位モデルになると3〜4万円を超えることも珍しくありません。現在の価値に置き換えれば、さらに高価な買い物だったと言えるでしょう。

それでも各メーカーは、「もっと良い音を届けたい」という思いから、新しい技術を次々と生み出していました。

その代表格が、「1bit DAC」です。

30年以上が過ぎた今では、スマートフォンやワイヤレスイヤホンでも当時では考えられないほど高音質な音楽を楽しめます。

それなのに、中古市場では今もなお、30年前のポータブルCDプレーヤーを探し求める人がいます。

なぜなのでしょうか。

その答えは、スペック表だけでは見えてきません。



「音の心臓部」を進化させる挑戦


DACとは、「Digital to Analog Converter」の略で、CDに記録されたデジタル信号を、私たちの耳に届くアナログ信号へ変換する部品です。

いわば、プレーヤーの「音の心臓部」。

このDACの性能が、音の印象を左右する重要な要素の一つでした。

1990年代、各メーカーはさらに音質を追求し、もっと自然な音を再現できないかと試行錯誤を重ねます。

その中で生まれたのが、1bit DACという新しい方式でした。

歪みを抑え、透明感のある音を目指したこの技術は、当時としては大きな進歩であり、「高音質モデル」の象徴でもありました。

80~90年代のポータブルCDプレーヤーでは、

* Burr-Brown製DAC
* Philips製 TDA1543 や TDA1545

これらが1bitDACの前に開発されたマルチビットDACチップです。
その後、

* SONY独自のCXDシリーズ
* MASH(Panasonic)
* 1bit DAC(SONY、Panasonicなど)

といった1bit方式が主流になっていきました。

ノイズを少しでも減らす。
電池を長持ちさせる。
持ち歩いても壊れにくくする。
小さな本体に高性能な回路を詰め込む。

そんな細かな改良が、毎年のように積み重ねられていきました。

1990年代の技術者たちは、スマートフォンも、Bluetoothも、音楽配信サービスも知らない時代を生きていました。

だからこそ、彼らが目指したのはとてもシンプルです。

「お気に入りの一枚を、最高の音で聴いてもらいたい。」

当時のポータブルCDプレーヤーは、単なる家電ではなく、日本のオーディオ技術が競い合った結晶だったのです。


現在のDACは、もはや別次元の性能


では現在はどうでしょうか。

結論から言えば、性能だけを比較すると、現在のDACは30年前を大きく上回っています。

スマートフォンやUSB DACには、高性能なDACチップが搭載され、ハイレゾ音源への対応、高いSN比、低歪み設計など、当時では想像もできなかった技術が詰め込まれています。

しかも、それらは手のひらに収まるほど小さく、省電力で動作します。

30年前の技術者が現在の製品を見たら、「ここまで進化したのか」と驚くに違いありません。


それでも昔のCDプレーヤーが選ばれる理由


ところが、不思議なことがあります。

性能では現在のDACが優れているのに、多くの人が昔のポータブルCDプレーヤーを手放しません。

私はこれまで多くのポータブルCDプレーヤーを修理してきました。

本体を開けるたびに感じるのは、「ここまで考えて設計していたのか」という驚きです。

基板の配置。

配線の取り回し。

ノイズを避けるための工夫。

限られたスペースに収められた部品。

見えない場所にまで、設計者たちのこだわりが詰まっています。

コストだけを優先するなら、ここまで手間をかける必要はありません。

しかし、当時のメーカーは違いました。

「少しでも良い音を届けたい。」

その思いが、製品全体から伝わってくるのです。

聞くための手間を楽しむ

聞きたいディスクを選ぶ。

ディスクをセットする。

再生ボタンを押す。

ディスクが静かに回り始める。

そして数秒後、イヤホンから最初の一音が流れる。

この一連の動作には、スマートフォンで画面をタップするだけで即再生する、今の便利さでは味わえない時間があります。

少し手間はかかります。

でもその手順が妙に心地よく、音楽を聴くための耳と心がスタンバイできるのです。

「音楽を聴く」という行為そのものが特別な時間になるのです。

スペックでは測れない価値


現代のDACは、性能という点では間違いなく桁違いに優れています。

しかし、ポータブルCDプレーヤーが30年以上たった今でも愛される理由は、スペックだけでは説明できません。

そこには、音を少しでも良くしようと挑戦した技術者たちの情熱があります。

そして、その情熱は、今でも再生ボタンを押した瞬間に、音とともに私たちへ伝わってきます。

昔のポータブルCDプレーヤーは、「古い機械」ではありません。

それは、一台ごとに技術者の夢や挑戦が詰め込まれた、小さなタイムカプセルなのです。

当時の「良い音」の味付けは、当時の機械でしか味わえません。

それはコク深く、味わい深いものです。

今の若い人にとっては新しい音に感じるでしょう。


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