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No.1815 イイナ、イイナ!

世の中には、「大河ドラマ」のような、スペクタクルとサスペンスに満ちたスケールと迫力のある創作ドラマがあるものですが、全く逆の、ナマのドラマもあるものです。
 
在職中の1学期末考査を控えた中学校の某クラスの授業に行った時のことです。クラスの横の廊下の教室の入り口に、男子生徒が一人正座して私を待っていました。 

「あれ?教科書を忘れたのかな?」
と思いながら近づいた私に、開口一番、
「先生、この時間は自習にして下さい!」
と言って頭を低く下げました。
 
出し抜けに何を言うのかと思いましたが、クラスのみんなの気持ちを代弁しての「劇団ひとり」だったのでしょう。誠実そうな彼の人柄が伝わります。

私は、知らんぷりして教室に入りました。みんなの気持ちを測りかねていたからです。しかし、期末考査直前とあって、少しでも時間が欲しいというみんなの気持ちは嘘ではありませんでした。

そこで、折衷案として、私が用意して来た課題をやり終えたら、残りは自習時間として活用してもよいと話したら、さっさと課題をやり終え、黙々と自学自習を始めました。
 
誰一人として話さないし、誰一人として怠らない。見ていて嬉しくなるほど自分の勉強にのめり込んでいました。T村君の正座に応えねばならぬと。

そんな話を思い出したのは、それから14年後の今年の10月某日、高校2年生の某クラスの授業に行き、教室の戸をガラリと開けたら、むくつけき(失礼!好男子)3人が横並びに正座して私を待ち構えていたからです。

その姿には、
「『許す!』と言ってくれるまで、先生を入れません。」
という不退転の覚悟のような、真剣そうな表情までうかがわれました。
「どしたん?なにが、あったん?」
と訊きたい気持ちをグッと堪えて、ここは、彼らのパフォーマンスに付き合ってやらねばと思いました。他の生徒たちは、どういう成り行きになるのかと神妙な顔つきです。

そこで、教室の入り口の廊下に私も正座して、彼ら3人に向き合いました。

「ギョッ」とした彼らに向かって、いきなり
「へへーっ!」
と深々と礼をしました。すると、すぐさま彼らが応じます。彼らの頭が上がるのと、私の頭が下がるのを同じ速さにして、数回、お辞儀の応酬を楽しみませてもらいました。

クラスから笑いが起きたところで、
「どうしたの?」
「実は、もうすぐ文化祭なのに、クラスの催しの演劇の準備が遅れていて、時間が足りません。授業の時間を分けて頂けませんか?」
とのことでした。

「なーんだ、そういうことかー、びっくりしたー!」
などと、本音を吐いてしまうほどお人好しの私ではありません。彼らの胸にグサッと突き刺さる一言を発してやりました。
「イイヨー!」

「えっ、うそー!」
と言った某女生徒の言葉を聴きもらしませんでしたが、私には、真剣な訴えが気に入りました。

すぐに全員の机と椅子が教室の前方に運ばれ、ついでに私もその一角に押し込められ、彼らの寸劇のあらましを、特設ステージで無料拝見できる運びとなりました。

細かな台本があるわけではなく、脚本家(演出家)とキャストが口頭で打ち合わせながらの作業です。意志疎通が難しいように思われ、時間がかかる作業に見えました。それでも誰も異を唱える者はなく、演出家の女子の厳しめの注文に応じながら、みんなで成功を収めようという気概が見えました。
♪イイナ、イイナ~、若いってイイナ~

そんなことを思っていたら、あっという間に50分が過ぎてしまいました。
「自分と仲間を信じて、ガンバ!」