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お題 : ゆっくりと

#シロクマ文芸部
#恋愛短編小説

ゆっくりと、春の風が街をほどいていく。
冬のあいだ固く閉じていた桜の蕾も、少しずつ息をしはじめていた。

駅前のベンチに座りながら、私はその蕾を見上げている。
指先にはまだ、少し冷たい空気が残っていた。

「待たせた?」

背後から声がして振り向くと、彼が立っていた。
少し息を弾ませて、肩にかけた鞄を直しながら笑っている。

「ううん。今来たところ」

そう答えながら、私は自分でも不思議だった。
昔の私は、誰かを待つ時間が苦手だった。
置いていかれる気がして、胸がざわついてしまうから。

けれど、彼を待つ時間だけは違った。
むしろ、その静かな時間が好きだった。

「寒くない?」

彼はそう言って、缶コーヒーを一本差し出す。
私はコーヒーが飲めないくせに、その温かさが嬉しくて受け取った。

「ありがとう」

指先に伝わるぬくもり。
春の空気の中で、それはとても優しい温度だった。

「もうすぐ咲くね」

彼が空を見上げる。
桜の枝が、夕暮れの光に透けていた。

「うん」

言葉はそれだけなのに、胸の奥が静かに満たされていく。

恋というものは、もっと派手で、もっと激しいものだと思っていた。
胸が苦しくなるほど好きで、泣いたり笑ったり、嵐みたいなものだと。

でも彼といると、違った。

川の流れのように、
春の光のように、
ただ穏やかに、続いていく。

「ねえ」

彼が不意に言った。

「もしさ、桜が満開になったら」

「うん?」

「その時、ちゃんと告白するよ」

思わず笑ってしまった。

「今じゃないの?」

「今だと、なんか…まだ冬の続きみたいだから」

彼らしい理由だった。

私は少し考えてから、言った。

「じゃあ、咲くまで待つ」

「待ってくれる?」

「うん。ゆっくりでいいよ」

そう言うと、彼は安心したように笑った。

風がまた、そっと吹く。
枝の先で、小さな蕾が揺れた。

きっと桜は、もうすぐ咲く。
そしてその頃、私たちの恋もきっと——

ゆっくりと、
ゆっくりと、
花をひらく。

[完]

ʕ•ᴥ•ʔ小牧幸助部長様、提出致しま~す•*¨*•.¸♬︎

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