E47: 香港映画に出してあげます
学校の目の前から原宿へ行くバスが出ていて、僕はそれをよく利用した。別に山手線に乗っても行けるけれど、窓の外を眺めながら、空いているバスに座って、窓の外を見ながら考え事をしているうちに着いてしまう。
それが好きだった。
原宿から表参道方面に行き、いつも決まったカフェに入る。窓側のカウンター席に腰を下ろすと、目の前には「同潤会青山アパートメント」という、毎度眺めているだけで楽しい大好きな建物があった。(1927〜2003年)
僕はカウンター席でコーヒーを飲みながら、その同潤会から出てくる人たちを眺めたり、表参道を行き交う人たちを眺めたり、雨の日も、晴れの日も、その席で、コーヒーと本を片手に人間観察をした。
【追記 言葉足らずでした】
「同潤会青山アパートメント」は解体直前の90年代、たくさんの画廊やショップが入居するカルチャーの中心地でした。僕はその画廊やショップに出入りする人たちのファッションを眺めていたのです。
胴長短足の自分が、一体どんな服を着こなせばいいのか。
回り道をする自分が、一体どんな人生を歩めばいいのか。
行き交う人を眺めながら、いろんな考え事をした。
そのカウンター席はまだ残っているけれど、
お気に入りだった店はもう、変わってしまっている。
肝心の同潤会アパートも「表参道ヒルズ」という、おっしゃれーできれいな建物に変わってしまった。表参道ヒルズの端っこに、とってつけたように昔の面影を残してあるけど…。あんなことされても、ね。
(無常であるのはわかっている。決して、表参道ヒルズの悪口を言っているのではない。)
さて、たっぷり人間観察を楽しんだ後は、店を出て路地に入る。通称「裏原宿」と呼ばれるエリアにお気に入りの古着屋さんがあって、時々、思い切って買い物をする。
原宿にいると、時々びっくりするような美男美女に出会うことがあって、そういう人はやっぱり数メートル歩くたびに、声をかけられている。
ああ、きっとめんどくさいだろうな、なんて思いながら、そういうものに全く縁のない胴長短足の僕は、悠々と原宿の街を歩く。
お気に入りのカフェでゆっくりコーヒーを飲んで、
お気に入りの古着を小脇に抱え、
じゃんがらラーメンの全部入りを食す。
それだけで僕は幸せだった…。
芸能事務所にスカウトされるってどんな気分だろう…。
困った顔してスカウトマンから逃げ回る女の子たちを眺めながら、ぼーっとしていると、いきなり腕を掴まれた…。
「え?」
「オニイサン、イイオットコデスネ! コッチキテネ。
ハイハイ、ホンコンエイガ ニ ダシテ アゲマス!」
おまえ、誰?
なぜ、俺?
なぜ、上から?
なぜ、原宿?
なぜ、香港映画?
なるほど、原宿でスカウトされるって、こういう気分なのか…。
「なんでやねん!」
ただただ、恐ろしくて、逃げた。
でも今は、ちょっと思う。
もしあの時、逃げなかったら?
あの外国人についていったら?
今頃一体どうなってたんだろう?
♪ルールル ルルル ルールル
徹子
「源太さん、芸能生活25周年おめでとうございます。でも、そもそもあなたはどうして香港映画に?」
源太
「ありがとうございます。僕もよくわからないんですよね。若い頃、原宿で遊んでましたら、急に腕をつかまれましてね」
徹子
「まぁ!」
源太
「面白そうだからついていったら、こうなっていました…」
徹子
「人生って、どうなるかわかりませんわね」
源太
「ホントですねえ」
…んなわけ、あるかぁ!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
