【掌編小説】 「ネリィランラ教」
僕の家の隣の家の井戸の中のノマはネガティブなカエルと一緒に暮らしている。
一緒に暮らしてから今年でちょうど100年である。
ネガティブなカエル
「実は井戸っていうのは、辛くて悲しい気持ちになった人間の脳天に空いた穴なんだよ。」
ノマ
「えー、そうなんだ。知らなかったよ。どうして今教えてくれたの?」
ネガティブなカエル
「カエルはフロッグだからだよ。
だから、僕は古いことを考えてみようと思うよ。」
ノマ「じゃあ私は新しいことを考えてみるね。」
ネガティブなカエル「ありがとう。本当に助かる。」
1秒後
ネガティブなカエル
「どう思う?これは、どう思う?」
ノマ「わかった!
井戸の中のカエルの中は遠くになれば動き出すのかもしれない。
だからそれまでもうしばらくの間の辛抱だと思うよ。」
遠くの山が静かになっていく。
空の雲がどんどん深くなって流れが遅くなっていく。
雲の隙間から見える星空の流れ星があの神様に直撃して粉々になっている。
赤ちゃんの鳴き声が隣の家から聞こえる。
ネリィランラの子守唄を叫びながら歌う母親の歌声が聴こえる。
僕はそれが庭の方から聞こえることに気づかなかった。
ああ恐ろしい。
恐ろしいけれど、僕はほとんど感情を失ったのでそれすらも感じていないのかもしれない。
恐ろしいというのは僕の脳天の中の客観的常識に囚われている固定概念にすぎない。
やっぱり恐ろしくない。
何も怖いものはない。
本当は怖いものなど何も無いのだ。
ネガティブなカエル
「もう夜だね。」
ノマ
「そうだね。」
ネガティブなカエル
「ぼくはとっくに動き出していたよ。」
ノマ
「知らなかったなぁ。
それは関心だ。
きみはやっぱりすごいなぁ。」
ネガティブなカエル
「きみもそろそろ動き出す頃だから行こうよ。
全日本アマチュアなんだもん選手権大会に。」
ノマ
「そうだね。
私たちはきっとネリィランラ教の信者だから大丈夫だよ。」
ネガティブなカエル
「ありがとう。
よし、じゃあ始めるよ。」
ノマ
「うれしいなぁ。」
ネガティブなカエル
「よし、じゃあ終わらせるよ。」
ノマ
「ほんとうにうれしいなぁ。」
夜はいっそう深くなる。
僕はホッとした。
もうこんな時間になってしまった。
ベッドに入った瞬間、天井に自分が映っていることに気づいた。
「あぁ、たまにはこういうのもいいなぁ。」
眠りは浅くなる。
どんどん浅くなる。
でも目は覚めない。
新しいことが起きそうだ。
夏の夜は窓を開けて眠るのが気持ちいい。
外のカエルの声が心地いい。
空が見える。
高い空が見える。
雲は深くなっていく。
まあるい空が
遠くの空が
とても気持ちいい。
コメント
・これは理屈で感情を消すことの限界を示しています。
・慰めは慰める人の心理的不安の延長であることを示しています。
・信じることの脆さと主体性を示しています。(宗教に限らない)
・過去と未来の整理は捏造になることを示しています。
・安心しようとする人間の営みそのものがむしろ不安を証してしまうことを示しています。
・ノマはくっつけると々となることから繰り返しを示しています。
井戸の沈殿物を信仰する物語でした。
思索者 マドレーヌの書斎

