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筆耕、代筆ってこんなお仕事(と文通相手の募集)

こんにちは。お字書き道TALKSです。
このnoteでは、字にまつわるあれこれ様々をざっくばらんに記録していきます。YouTubePodcastもよろしくお願いいたします。

このお話のYouTubeラジオ版はこちら↓↓(全3話)


「筆耕」という言葉をご存じでしょうか。
簡単に言うと、文字を書く仕事、あるいはそれをする人、のこと。
一般的には創作系ではなく、いわゆる美文字を書くことを求められます。

元々は、

「筆耕硯田(ひっこうけんでん)」、筆で硯の田を耕す

という言葉から来ています。もっとも現代においては、この言葉は「文章を書いて生計を立てること、文筆家」を指すようですが、文字通り、文字を書いて生活をする者=「筆耕」という職業と考えても良さそうですね。


誤字脱字は罰金!!奈良時代の筆耕


少しだけ昔むかーしの話を。
飛鳥時代(538年頃)に、中国から仏教が伝わってきました。仏教伝来⇒漢字が普及しました。仏教の経典を写して写して写して(これが写経の始まり)・・・そうして仏教とともに漢字も日本に広まっていきました。

まだ印刷技術がないため、何か文章を伝えるためには口伝か写すしかないわけです。この頃に重宝されたのが、美文字(誰もが読みやすい文字)の書き手です。彼らは「写経生(しゃきょうしょう、しゃきょうせい)」と呼ばれ、経典をそのまま写したり、お坊さんの読経を聞き取って書くということもあったようです。

当時文字を書けるのは、貴族や官僚、僧侶や一部の知識人のみ。その中でも写経生は美文字でなければならないわけですから、かなり特別な存在だったと言えるでしょう。一般素養をはるかに超えた文字というものを身につけ、加えて端正に書く技術をものにするのは並大抵のことではないと思います。しかも、仏教の布教は国を上げての事業だったため、厳しい試験もあったのだとか。

また、誤字脱字は大問題、間違えると罰金が科せられていました。写経したものを元にまた写経もするでしょうから、確かに間違えるのは大事(おおごと)です。さらに紙も墨も今と比べればかなり希少で高価なもの。写経生たちは自らの生活をかけて重要な任務にあたっていたということですね。

余談ですが、2022/7/16〜8/21に東京青山の根津美術館で開催されていた「よめないけど、いいね!」展に、奈良時代の写経生が書いた経典の展示がありました。ほんとに1500年も前の奈良時代!?というほどきれいな状態で、しかも現代の認識と全く違わない美文字。こういったものはもう宝物同然に、大切に大切に何度も戦火をくぐり抜けて受け継がれてきたのだなあと思うとちょっと目頭が熱くなりました。

筆で硯の田を耕す、当時の写経生はまさに筆耕さんだったというわけです。


現代の筆耕のお仕事


「筆耕」と近しい言葉に「代筆」がありますが、「筆耕」との違いは報酬の有無でしょうか。「代筆」は、ただ誰かに代わって文章を書くことなので、報酬の有無を問いません。「代書」という言い方もありますね。
(そういえば、昔「ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~」という多部未華子さん主演のドラマがあったなあ・・・。何らかの事情で自分で手紙が書けない依頼者の心の内を丁寧に聞き取り、その人に成り代わって、便せんや万年筆のインクや字体までこだわって書くという話。多部未華子さんがとても可愛かった。)

現代において、筆耕のお仕事は、
・招待状のあて名
・席札の名
・賞状
・熨斗、目録
・案内の看板
などを筆文字で書くことです。

ちなみに、筆耕士や賞状技法士などの資格もありますが、これらの仕事に就くのに必ずしも必要な資格はありません。というか、書道の世界において何かしら仕事をするのに絶対に必要な資格などひとつもありません。もちろん、書道の先生をやるとしても、です。書道系の資格に国家資格にものはないので、いつでも誰でも今すぐ書道家や書道の先生になること(名乗ること)が出来ます。仕事があるかどうかは無論別の話ですが。(このあたりについては、書道関連の級・段・師範、などの話もいつかしてみたい。)

筆耕士や賞状書士の資格を持った人の文字は、かなり、物凄く、かっちりとした楷書体で、文字の幅の揃った字を書くことが多いのですぐにそれと分かります。筆者は筆耕を特別に習ったことはありませんが、聞くところによると、定規を用いて鉛筆で薄い線などを書くなどかなり下準備が必要とのこと。ただ自分なりの美文字を書けば良いというものではないのです。相当に特徴的な文字の書き方と言えるので、筆耕の仕事に就きたい場合は資格を取ることが近道とは言えそうです。

とはいえ、こんなにもデジタルになった現代、筆耕なんて仕事があるのでしょうか。先日の友人の結婚式の招待状はLINEで来て、WEB上で完結したけど!もちろんこれまでの往復葉書の招待状の代わりとして。

つい先ほどお仕事情報サイトで検索してみましたが、なくはない。けれど、ほとんど登録制で、実際にどのくらいの仕事が回ってくるかは不明です。

一方で、このデジタル時代に手書きの手紙の価値が保たれたままの一部通信販売業では、購入お礼のお手紙やアフターフォローのお手紙の代筆なんてお仕事も見受けられました。皆さんも一度は通信販売で届いた物の中に納品書とともに直筆お手紙(と言っても印刷だけれど)が入っていたことがあるのではないでしょうか。
筆者は美文字講師業もやっておりますが、有名健康食品のお客様係の方がお客様へのお便りの字をきれいにしたいというご要望で、美文字を教えていたことがあります。

確かに、現代でも活字と肉筆に差異があることは誰もが認めるところであり、場合によっては未だそれなりの価値を持つこともあるでしょう。活字よりも何か読んでしまう、なんてことありませんか?ポストに普段は見慣れない肉筆のはがきが入っていて、「お」となったことありませんか?

もはや現代において、肉筆の手紙は、「急ぎでなく」「重要でないこと」を伝える手段と言って良いでしょう。もちろんメールアドレスもSNSアカウントも電話番号も何一つ持っていない人であれば、緊急事態をそれで伝えるなんてこともあるのかもしれませんが。まあでもあまり考えられませんね。

「わざわざ」してきたその肉筆。肉筆だけにそこには肉感があるものです。人間の生々しさ、生き物の存在感・躍動感・呼吸感、書き手の静かなる自己顕示・・・まあそんなに仰々しくはなくとも、当然ながら可読性以上の何かはそのお手紙に乗っかっているはずです。
もし「わざわざ」肉筆で何かを伝える場合、端正すぎる美文字よりも少々のくせ字の方がかえってインパクトを与えられるような気がします。くせ字で丁寧に書かれていることが伝われば、更なる「わざわざ」感が乗ります。

余談ですが、筆者は3年ほど前、1年間だけ、静岡三島の92歳のとある爺さまと月に4,5回の手紙の往復をしていました。文通です。「小生は、もう何年も朝はプチシュークリーム2個と飲むヨーグルトです」というような内容が、巻紙に草書体の筆文字で書かれていました。手紙の中で「呵呵」と笑う爺さまでした。残念ながら突然亡くなってしまいましたが。

純粋に相手の文字と何でもない内容を楽しむ。なんと無駄で悠長で美しいことでしょう。先述の通り、文通は急ぎでなく重要でないことを伝える手段ですので、どちらかが間を空ければ忽ち途絶えてしまうものです。私たちの間には、文通を継続的に取り交わす静かな合意がありました。

あぁまた、誰かと文通したい。切に。

筆耕から話がずれ過ぎました。戻しまして。
しかしながら。筆耕や代筆のみで食っていける人はほんの一握りどころかほとんどいないのではと思います。ちなみに書道作品だけを売って食っている人も本当に少数だと思います。多くの書道家は、書道講師の傍ら筆耕をしたり、作品を売ったりなどしているという感じでしょう。

もし、溢れんばかりの筆耕の仕事があったら、多少安くても、筆者はそれをずっとやっていても良いなあ。やってみたら大変すぎた!しかも時間に対して全然儲からないぞ!なんてことも起こると思いますが、でもでも、ひたすらに字を書いて過ごす、そんな生活を夢想するとよだれが出そうです。

筆者の筆耕経験談① ~願書の代筆~


さて、ここからは筆者の筆耕の経験談。筆者は筆耕の資格を持っているわけでもないので、筆耕というよりは報酬ありの代筆業と言った方が良いでしょうか。ゴーストライターですね。

筆耕・代筆の仕事を得る方法は、

  1. 筆耕を取りまとめている会社に登録する

  2. 自分で営業する

  3. ご縁で依頼をいただく

のいずれかになると思います。筆者は筆耕を売りにしているわけではないので、3のケースがすべてです。

  • お手紙の代筆

  • お子さまのお受験願書の代筆

  • 年賀状や暑中見舞いの表裏代筆

  • 喪中はがきの表裏代筆

  • 宅急便伝票の代筆

  • お免状(この時は生け花)の名入れ代筆

  • 結婚式の招待状の宛名書き代筆

  • 結婚式の席次表揮毫

  • 結婚式の席札揮毫

  • 結婚式のメニュー表揮毫

▼揮毫(きごう)
改まって書くこと。書道家が依頼を受けて文字を書くことは往々にして「揮毫する」と言います。これらはその人に成り代わって書いているわけではありません。

などなど、有り難いことにこれまで実にいろいろなお仕事をさせてもらってきました。

※ちなみに、筆耕士や賞状書士の資格を持っている、書道の師範を持っている、と言って美文字を書く人たちも、書く文字はそれぞれに結構異なるものです。美文字は1種類ではありません。美文字の中にも上手さの序列はありますし、依頼側の好みもあります。依頼する場合は、サンプルを書いてもらうと安心ですね。

思い出深い筆耕仕事は、お子さまのお受験の願書の代筆でしょうか。
とあるご縁があって、小学校の編入受験の願書の代筆をお願いしたいというご依頼を受けました。願書は1枚1000円。予備1枚を入れて2枚(それだけで2000円!)。願書は指定時間に学校に出向くしかなく、再度追加で買いに行くことはほぼ不可能。修正ペンなどの使用はもちろん不可。枠からはみ出したり2行になったりするのも好ましくない。そして志望理由など、指定の文字数を指定の空欄(罫線なし)に納めなければならないというものでした。

1文字も絶対に間違えられない。800字ほどの志望理由や、家庭の状況などを記す文章もある。もし失敗すると、願書がもう手に入らない・・・。

今思い返すと、何でそんな条件なのだろうと思います。この受験校が必要な生徒は、「文字を丁寧に間違えずに書ける親」「文章を枠内にそつなく書ける親」がいることなのだろうか・・・。

まあでもそんなことは私のシゴトとは関係がないので、カラカラの喉を感じながら、私は「一発で仕留める!」と本当に少し震えていた手を宥めながら書き始めました。もし1枚目を失敗して、2枚目になったらかえって仕上げられないと思いました。

随分力が入ってしまったようにも思いますが、何とか願書1枚ですべてを一字も間違うことなく収めることができました。間違っても汚さないようにクリアファイルに入れて、その他の片付けは放棄して寝ることにしました。こういう、達成感に包まれた心地よい疲労のときの睡眠は、人生の中で上質な時間だと思います。

後日無事に願書を引き渡し、そのまた後日、編入はたった1枠だったのに「合格できました!先生のおかげです!」とご連絡をいただきました。もちろん代筆以外のことはしていないので、私のおかげで受かったということもないと思います。まあでも多少のお力添えができたのならこれ幸い!何はともあれ、本当に良かった。本当に。

今は会社の就職・転職時の履歴書もWEB提出が圧倒的に増えていると思いますが、未だ手書きが重んじられるケースもあるようです。お受験は未だ手書きが一般的という稀有な例と言っても良いかもしれません。(徐々に変わってきているかもしれませんが。)

手書きは読みづらい可能性もあるし、無意識にそれで何かしらを判断してしまう可能性が0ではないのでむしろ打ち文字限定!ということがあっても良いかと思います。何らかの書類ごとに手書きでないといけないという理由は見当たらない気がします(デパ地下の熨斗を書く係など、従業員の手書き文字が業務に直結する仕事以外は)。

あ、手書きで仕事をもらっている私が言うことではありませんが。


筆者の筆耕経験談② ~はがきの宛名書き~


現在も、毎年夏には暑中お見舞い、年末には年賀状の宛名書きは定期的にお仕事があります。宛名書きの裏話(?)を少し。

もう何年も継続してやらせてもらっているケースが多いので、やり取りには双方信頼関係がありますが、初回の場合は様々に確認やお願い事が必要です。

例えば。
・住所は省略可能か(はがきは紙面が小さいので、ある程度省略した方が見栄えも良いし、郵便屋さんにもやさしい。)
・会社の肩書はどこまで書くか(「ファイナンシャルシステムマネージングサービス事業部 ヴァイスプレジデント」とかなっている場合が本当にあったりするわけで。)
・差出人はハンコなどがないか(かなり小さな文字になるし、ハンコの方が紙面にメリハリがついて見栄えが良い。)
・書き損じ用に依頼枚数の10%ほど多めにはがきの準備をしていただきたい(依頼枚数ピッタリというときもあったな・・・。)
・可能であれば、ざらざらした紙質のはがきにしていただきたい(あまり言わないけれど。つるつるの紙面に筆で書くのは本当に難しいのです。)

ちなみに、郵便番号は漢数字ではなくアラビア数字で書きます。この時私はペンを使うことが多いです。アラビア数字は筆書きに適していないので、ペンに持ち替えてびしっと入れます。

★宛名書きの順序
①手を洗ってよく乾燥させる。(汚れ、水分厳禁)
②作業机を片付けて拭く。飲み物は別の場所で。
③依頼の住所録(お名刺そのままの場合も多い)を整理する。
④書く。(ちなみに住所からではなく、名前から書く。墨やインクに触れて汚してしまわぬよう)
⑤書いたものの墨やインクに触れて汚してしまわぬよう乾かす。書いたものを重ねない。
⑥書きあがったら広げて写真を撮っておく。(翌年の依頼時のため)
⑦依頼者の確認を取って、切手のないはがきの場合は切手を貼って投函。(本当に時間的余裕があって可能であれば依頼者のご自宅の近くの郵便局まで行ったりします。消印がその方が良いかなと思って。頼まれてないけど)

100枚ほどあると、書いている最中に様々なことのチューニングが進んできて、そのうちにランナーズハイならぬ、ライターズハイがおとずれたりします。書いている最中の心模様は、般若心経などの写経に似ています。良かったり、良くなかったり(自分の中で)しながら、なるべく一定のトーンが保てるように書き進めていきます。

神経も使うのでそれなりに消耗するお仕事ではありますが、出来上がりの枚数も積み上がり、分かりやすい達成感のあるお仕事と言えます。創作系の揮毫ものだと、どうしてももっと良くできるかもしれないという欲が尽きないので・・・。

書きあがったものが乾いたのを確認して、片付け終わったら、ビールでお疲れ様会です。100枚あったら一日では終わらないけれど。一日ごとに乾杯。


奈良時代から続く息の長いお仕事、筆耕。
こんなにデジタルが進んだ時代でも、未だ重宝されるのは少し不思議なほどです。しかしただただ字を書くことを愛する筆者としては本当に楽しく有難いお仕事です。

以上、筆耕・代筆のお話でした。

ではまた!


※毎週木曜19時更新

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