【キメラ書体】公団文字、漫画書体。手書きキメラ!の話。
こんにちは。お字書き道TALKSです。
このnoteでは、字にまつわるあれこれ様々をざっくばらんに記録していきます。YouTube、Podcastもよろしくお願いいたします。
今回のお話は、皆さんご存じ、明朝体とゴシック体のお話。
この話のYouTube版はこちら↓↓(全3回)
明朝体とゴシック体
noteは残念ながらフォントを変えることが出来ないのですが。皆さん何となくこの二つの違いは肌感覚としてお分かりになるのではと思います。明朝体もゴシック体も数多く種類がありますが、一例としてはこんな感じ↓↓↓

明(14~15世紀ごろ)の時代に完成したと言われる。

▼ゴシック体
線の太さが一定で安定的。
印象としては、ニュートラルな感じ。
視認性が高い。⇒見出しなどの短文に用いられることが多い。
▼明朝体
縦線が太くて、横線が細い。起筆やハネや払いの形は筆文字のような雰囲気。横線の終わりには「ウロコ」と呼ばれる三角の出っ張りがあるのが特徴。
印象としては、少しかっちり真面目な感じ。
明朝体は可読性が高い。→長文に用いられることが多い。
公団文字
例えば、視認性が超大切な交通標識はゴシック体。このあたりは命に関わることなので国や各都道府県でそのマニュアルなどがあるそうです。
中でも高速道路標識は、時速100Kmとかで走行中にその情報を認識できなければなりません。しかしまだフォントの開発も途上だった1960年代には、その都度必要な文字をデザインして作り、なんと手書きでデザインしていたらしい・・・!のです。

当時の技術で「最も視認しやすい」ということを目標に独自デザインを練っていたとのこと。この公団文字は、ハネない/マゲない/省略、などが特徴ですが、それでも全然気にせず読めるものですね。
文字のデザインやくずし方に興味がある筆者(書道家)には大変興味深い( ..)φメモメモ。公団ゴシックを再現した「GD-高速道路ゴシックJA-OTF」というフリーフォントがあったので、入れてみました↓↓
※このフォントは、収録されていない文字も多い(変換されない)ので、実用的ではなさそう

40年以上もの間使われていた公団ゴシックですが、その後、2000年代に見直しが入り、「より視認しやすい」デジタルフォントデザインに刷新されています。
そういえば、このnoteのフォントは何体なんだろう。
ゴシック体の一種だとは思うけれど、よく見ると縦線が太くて、横線が細い。ということは、ゴシック体特長の視認性を少し削る分、長文に耐えうるようなフォントデザインを採用しているということでしょう。よく考えられてますね。
後に調べたら、noteのアカウント設定で明朝体へのフォント変更ができるようです。
漫画の吹き出し内のフォント [アンチゴチ, ゴシアンチ]
ところでところで!!
一般的に漫画の吹き出しのフォントは、明朝体とゴシック体の融合だということをご存じですか??「そんなの知ってるよ」という方は、もうここでサヨナラ・・・いや、イカナイデ・・・。
漢字はゴシック体、ひらがなやカタカナは明朝体。
なのです。
筆者はこのことを最近初めて知りまして。大層驚きました。だって、明朝体とゴシック体ってなんだか真逆にあるようなもののような気がしていたから。まさかそれが融合していて、その上、まーーったくそのことに気付かずに今まで漫画を読んできたなんて。文字に興味があるのではなかったのかよ、自分・・・。
実際の漫画を見てみましょう。
基本の吹き出しは、
漢字:ゴシック体
ひらがな/カタカナ:明朝体
吹き出しの中以外はそのデザインはさまざま。内容に合わせて変えられています。「ごくり」という擬音語は手書き、刃牙の内心の声は明朝体のみが使われていることが分かると思います。

もうひとつ事例を。吹き出し内は基本は明朝体+ゴシック体。カイジがビールを飲んだ後の「かぁ~~~っ!」というのは吹き出しですが、特別に手書き?ぽくなっています。あと、「ざわざわ」もシーンによって文字デザインが異なります。

こうして見ていくと、文字デザインが気になって漫画の内容が頭に入ってこなくなりそうです(笑)。なんて、今まで気づかず読んでいたくせに・・・。
この漫画吹き出し内の、明朝体+ゴシック体。
ひらがな/カタカナ部分の明朝体は、通常の明朝体よりも線が太めで、太細の差があまりないことがお分かりになるでしょうか。この漫画用?の太めの明朝体を「アンチック体」と言います。一方で、一般的なゴシック体は線の太さが一定なわけなので、ゴシック体に歩み寄った明朝体とも言えます。
ひらがな/カタカナは太め明朝体、漢字はゴシック体の書体を、
「アンチゴチ」または「ゴシアンチ」と言います。
※ネット検索によれば「アンチゴチ」が一般的。「ゴシアンチ」では検索に引っかかりません。現場では「ゴシアンチ」という言葉を実際に使っていたととある制作現場の方から伺いました。
漫画の吹き出しは比較的短文が多いので、すべてゴシック体に合わせれば良いではないかと思うところですが、この頃ひらがなのゴシック体の開発が追いついておらず、やむなく明朝体+ゴシック体の漫画書体ができたということのようです。
そしてそれがほとんど変わることなく現在まで定着している、というわけ。
もっとも、最近のWEB漫画などでは、吹き出し内も「アンチゴチ」を使わず、ゴシック体のみ、明朝体のみ、の漫画も多く見かけるようにもなってきています。
キメラ書体
ところで、自分を擁護するために言うわけでもないのですが、読者がこの明朝体+ゴシック体の融合体であることに「気が付かない」というのは、漫画にとって重要なことです。つまり、気が付かないほど違和感がなく、それゆえに漫画本体に集中できるということだから。当然ながら漫画はフォントデザインを見てほしいものではなく、話を楽しんで欲しいものだから。それだけ、「アンチゴチ」は良くできた書体だということです。
結果、私は書道家としてではなく、ただの読者として有難く漫画そのものを楽しませていただいていたというわけです。
ところで、この漫画書体の「アンチゴチ」。異なる風合いのものを無理やり組み合わせて作られた「キメラ書体」であると言えます。
▼キメラ
ギリシア神話の怪獣。体は山羊、頭はライオン、尾は蛇、口から火炎を吐くらしい。何か別のものを無理やり組み合わせてできたものを比喩的に「キメラ(キマイラ)」と言うことがあります。

さらに言えば、実は、漫画書体「アンチゴチ」「ゴシアンチ」以外も、多くの書体はキメラ書体です。
元々明朝体は漢字のみが存在し、そこにひらがな/カタカナを明朝体漢字の雰囲気に合うように作ったものを従属させる形で成立しています。またさらに、欧文(アルファベット等)と日本語(ひらがなカタカナ漢字)も同様に、既存の欧文書体に、それに合う日本語書体を従属させています。多くの書体は、同一デザインではないキメラ書体となっているのです。
何らかの書体を使った際、たとえばアルファベットと漢字を打ち込んでみたものの、何となく文字の印象が違ったり、サイズ感が合っていなかったりした経験があるのではないでしょうか?
そう考えると、漫画書体「アンチゴチ」は、異なる風合いのものを無理やり組み合わせているキメラ書体なのに違和感もなく読みやすい、ということは改めてすごいことだと思えますね。
日本語はそもそもキメラ的
そもそも日本語というのは、元々の日本古来の大和言葉に、漢字が中国から輸入され、後にひらがな/カタカナが開発されて、それらが融合したキメラ的なものです。
もちろん現在に至るまで、私たち日本人は話すことも書くこと(書道的以外に)も違和感なく日本語を扱っていることでしょう。しかし、こと書道の世界においては、そもそも書道がひらがなもカタカナも生まれる前からあるものなので、文字の取り扱い的にキメラであることについて今でも繊細な面があるのではないかと思います。
手書きキメラ、書道の話。
ちょっと書道展の話を挟みます。
日本の書道団体が主催する書道展には、大きく分けて、
1.漢字部門
中国の漢詩を書く。漢字のみ。
2.大字(一字書、少字数)部門
大きな紙に1~3文字くらいを書く。
3.古典かな部門
古典的なかな文字を書く。変体仮名あり。
4.調和体(近代詩文、漢字かな交じり文)部門
一般的な日本語の文章を書く。
5.篆刻部門
石に文字を掘りつけた篆刻作品。
という部門に分かれていて、審査もそれぞれの部門ごとにまずは行われます。
飛鳥時代~奈良時代頃、書道は仏教とともに中国から渡ってきました。当然最初は中国語、つまり漢字のみを書くというところから始まっています。
書道の世界において現代でさえ、日本人で日本語しか話せないとしても、漢字のみを書いて作品とするのが最も一般的と言っても良いでしょう。書道展では1の部門ですね。漢字のみのため全体のトーンがそろって作品の一貫性が出やすいと言えます。また中国古典を中心に多くの書風が確立していて、それを臨書する(書き写す)教本などもたくさん出版されています。
2の大字はまあ良いとして、次に3の古典かな。かな書道は、平安期に成立した日本独自のもので、漢字をくずしてひらがなのような風合いに書いたり、変体仮名を使ったりする書き方。これも全体の書体をひらがなのトーンに寄せているので、作品としてはまとまりやすい。こちらも様々な書風があり、主に古典などを臨書して練習をしたりします。

問題は、4の調和体(団体によって近代詩文と呼んだり、漢字かな交じり文と呼んだりします)。この部門では、普通の日本語の詩や短歌・俳句などの文章を書きます。
日本語文部門を「調和体」なんて呼び方をするのは、「(漢字とひらがな・カタカナを)調和させたい体」だからかな、なんて思います。
漢字から日本独自の文字、ひらがなを作ったは良いものの、漢字とひらがなはそもそも雰囲気が違う。そりゃあ当然です、現在普通の日本語楷書として書かれるものは、漢字は楷書、ひらがなは草書なのだから。書き方のトーンとしては両極にあるようなものを無理やり一緒にして使っているのだから。言わば、手書きキメラ。
それでも、日本語文の書も目指さないと・・・何とか漢字と「調和」させたい・・・と書人たちは頑張ってきました(私もそのひとり)。しかし日本語書道は、もちろん優れた作品を残す書家はたくさん現れましたものの、各書道団体の枠を出るものは未だ生まれていないと言っても良いかもしれません。
例えば先程のかな文字のようなジャンル確立や、〇〇体と呼ばれるような他の人も扱えて広く認知される書体への昇華は未だ誰一人として成し遂げてないのです。(もっとも、書道の世界は超古典主義なので、比較的新しい分野である日本語文の書の部門は開拓者がそもそもあまり多くありません。)
そんな書き文字の日本語文、作品ではないけれど、1980年代の丸文字(YouTube丸文字編・全4回。見てね🥰)って、本当に書体として成立しているなあとつくづく思ったりもします。
それにしても、日本語の「漢字+ひらがな+カタカナ」というのは、デザインを一にすることが難しいのだなあということです。もっとも、普通に書いたりする分には、漢字ばかりでは書くのが大変そうだし、ひらがなだけでは意味が取りづらそうだし、日本語、便利なんですけどね。
フォントの世界の調和体
漫画の吹き出し、明朝体+ゴシック体の話にまで話を戻せば、風合いの異なる書体を気付かれないほどまでに調和に成功しているわけですから、フォントの世界ではキメラでも正解を見つけていると言っても良いかもしれません。
だがしかし、手書き文字(書道)の分野においてはまだ正解がない・・・ただ、例えば㈱昭和書体さんから発行されている手書き筆文字フォントなどは、フォントだけれど元は手書き文字ということで、橋渡し的存在と言えるかもしれません。
手書き筆文字フォントの作り方は、明朝体などのように、別々のデザインの「漢字」と「ひらがな/カタカナ」をくっつけているキメラ状態でもなく、同一デザインで開発をされています。
漢字とひらがな/カタカナをデザイン的に上手く調和させ、それを広く一般の人にも使えるようにフォント化する。もしかするとこのことは、手書き書体(書風)を広めようとするときの最良の方法なのかも…?なんて思ったりもします。もちろん、キメラ的な日本語の文字たちを上手く調和させることに成功できたのなら、ですけれども。
昭和書体全集買いました。
— 88:70/イラストレーター/デザイナー (@8870_since2015) September 7, 2022
この値段で良いの!?というお得なセールしてました。
筆文字フォントは仕事ですごく使うし、気軽に鬼滅の刃ごっこ出来ます。https://t.co/45Qtdj1MZI pic.twitter.com/SuPdrliKT6
次回フォントのホントの話
いかがでしたでしょうか。今回フォントのことを書くに際し、フォントのプロ(映画字幕などを作る会社にお勤めの方)にお話を伺いました。
フォントフォントと使いまくっているこの言葉。この記事においては一般的な意味合いとして、フォント=文字デザインという意味で使っています。しかし、実は昔は現在の意味とは異なる意味で使われていたのだとか。最も、プロの世界では、現在もフォント=文字デザインという意味では使っていないそうです。
そんなわけで次回は、フォントとタイプフェイスの話。「銀河鉄道の夜」のジョバンニの文字拾いなどを取り上げながら、お話したいと思います。
それでは!
※毎週木曜19時更新
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