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【青空の下のランタン #003】何者にもなれなかった私が、もう一度歩き始めるまで

このエッセイには、私が作曲したインストルメンタルを添えています。
何者かになろうとして立ち止まった人が、
それでももう一度、自分の足で歩き始める。
そんな姿を思いながら作った曲です。
よろしければ、音楽と一緒にお読みください。

机の引き出しを整理していたとき、古い名刺が出てきた。

肩書きの下に、自分の名前が印刷されていた。

その文字を見たまま、私はしばらく手を止めた。

あのころの私は、名刺を差し出せば、自分が何者なのかを説明できた。

仕事が変われば、肩書きも変わった。

暮らす国が変われば、会う人も、話す言葉も、見える景色も変わった。

それでも心のどこかでは、ずっと同じ問いを抱えていた。

私は、何者になれるのだろう。

若いころは、歩き続けていれば、いつか答えにたどり着けると思っていた。

仕事で認められること。

何かを成し遂げること。

自分にしかできないものを持つこと。

それが見つかれば、ようやく自分の人生に名前をつけられる。

そんな気がしていた。

けれど、62歳になった私の手元に残っていたのは、
立派な肩書きではなかった。

うまくいかなかった仕事。

途中で終わった計画。

届かなかった言葉。

家族を守れるのだろうかと、眠れなかった夜。

そして、何度も書き直した白い紙だった。

「パパ、何を見てるの?」

娘が、私の手にある古い名刺をのぞき込んだ。

「昔の名刺だよ」

「そのころのパパ?」

「そうだね」

娘は名刺と今の私を見比べた。

「じゃあ、今のパパは?」

その問いに、私はすぐには答えられなかった。

今の私には、胸を張って差し出せる名刺がなかった。

何者にもなれなかった。

その言葉が、胸の中に落ちた。

重い音だった。

けれど娘は、少し考えてから言った。

「今のパパは、毎日書いてるパパでしょ」

たったそれだけだった。

けれど、その一言が、止まっていた私の足元に小さな道をつくった。

何者になったかではなく、今、何をしているのか。

どんな肩書きを持っているかではなく、誰のために机に向かっているのか。

私は、家族を守りたくて書いていた。

自分の失敗を、
誰かが同じ場所で立ち止まらないための記録に変えたくて書いていた。

まだ言葉になっていない人の経験の中から、
さな灯りを見つけたくて書いていた。

そう考えると、何者にもなれなかったのではない。

ひとつの肩書きに、自分の人生を収められなかっただけだった。

アメリカで過ごした日々もある。

カンボジアで暮らした11年もある。

仕事の中で、人と人の間に立ってきた時間もある。

家族を守れるのだろうかと、眠れなかった夜もある。

どれか一つだけを選び、これが私ですと言うことはできない。

けれど、そのすべてが、今の私の足元に続いている。

遠回りに見えた道も、途中で消えた道ではなかった。

私は古い名刺を捨てず、引き出しの奥へ戻した。

過去に戻りたいからではない。

そこまで歩いてきた自分を、もう否定したくなかったからだ。

窓の外には青空が広がっていた。

机の上のランタンは、昼なのにまだ灯っていた。

私は新しい紙を一枚取り出し、ゆっくりと書いた。

「ランタン親父」

会社の肩書きではない。

資格の名前でもない。

成功した人だけが名乗れる言葉でもない。

迷いながら歩いてきた私が、

誰かの足元に小さな灯りを置くための名前だった。

何者かになれたから、歩き始めたのではない。

何者にもなれなかった自分を連れて、もう一度歩くことにしたのだ。

道の先に、立派な答えが待っているとは限らない。

また転ぶかもしれない。

遠回りするかもしれない。

それでも、昨日より一歩だけ先へ進むことはできる。

人生後半の再出発に必要だったのは、新しい肩書きではなかった。

もう一度、自分の足を前へ出す理由だった。

その理由は、ずっと私のそばにいた。

妻と娘。

まだ出会っていない誰か。

そして、途中で置き去りにしてきた自分自身だった。

私はランタンを手に取り、相談室の扉を開けた。

青空の下に、一本の道が続いていた。

何者にもなれなかった私の道だ。

だからこそ、誰かの道と比べる必要はない。

私は今日も、この道を歩いていく。

自分の名前で。

自分の歩幅で。

もう一度、ここから。


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【青空の下のランタン #004
遠回りした道にも、置いてきた灯りがある


ランタン親父の空想散歩


私の娘は強かった

Always。
ランタン親父より。

この言葉は、案内所時代から大切にしている私たちの合言葉です。
フォローとスキ、 いつも本当にありがとうございます。
この案内所は、 私ひとりで歩く場所ではありません。
💙フィーブルも、🟢クラークくんも、🟤アンコールも、💛クリスタルも、 そして、そばで見守ってくれる家族も。
みんなで手を取り合って、 このまま進んでいきたいと思っています。
「手を取り合ってこのまま行こう。」

Always。
ランタン親父より。



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