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【妄想随筆】一喜一憂と諸行無常

「人生で、大切にしている言葉ってありますか?」

彼女はそう言って、グラスを口元へ運んだ。

僕は少し考えてから笑う。

「二つあります。」

「聞いてもいいですか?」

「もちろん。」

氷が、小さく音を立てた。

「一つは、『一喜一憂』。」

彼女は少し驚いた顔をした。

「それ、座右の銘なんですか?」

「ええ。」

「珍しいですね。」

「でしょう?」

僕は苦笑いした。

「実は僕、これでずいぶん失敗してきたんです。」

嬉しいことがあると舞い上がる。

うまくいかないことがあると、必要以上に落ち込む。

人の一言で眠れなくなったり、

逆に、小さな成功で世界を変えられるような気になったり。

今思えば、感情に振り回されていたんでしょうね。

だから何かあるたびに、

「また一喜一憂だったな。」

そう自分に言い聞かせてきました。

彼女は静かに頷いた。

「だから座右の銘なんですね。」

「そうです。」

「戒めです。」


少し間が空いた。

「もう一つは?」

「諸行無常。」

彼女は少し微笑んだ。

「ずいぶん雰囲気の違う二つですね。」

「実は、僕の中ではつながっているんです。」

僕はグラスをゆっくり回した。

「形あるものは、すべて変わっていく。」

嬉しいことも。

悲しいことも。

成功も。

失敗も。

全部、ずっとそのままではいられない。

だから最近は思うんです。

一喜一憂するな、じゃない。

一喜一憂してもいい。

ただ、その感情の中に住み着かないこと。

嬉しい日は、ちゃんと喜ぶ。

悲しい日は、ちゃんと落ち込む。

でも、それはやがて形を変えていく。

諸行無常だから。

だから僕は、

この二つの言葉を、

いつも並べて持ち歩いているんです。

座右の銘

彼女は、

「それで今は?」

と聞いてきた。

僕は、ドキッとしながら、

「えっと…今は…

…一喜一憂…してます。」

と答えた…。

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