SNSを見るのがつらくなる理由
導入文
眠る前に、少しだけ確認するつもりでSNSを開く。
すると、同級生の結婚報告、元同僚の昇進、旅行の写真、楽しそうな集まりの様子が次々と流れてくる。
画面を閉じた後に残るのは、楽しさではなく、重たい気持ちだった。
「みんなは前へ進んでいるのに、自分は何をしているのだろう」
「連絡を返していない自分は、嫌われているかもしれない」
「SNSを見るのはつらい。でも、見なければ本当に一人になってしまいそう」
ひきこもり状態にある人にとって、SNSは社会とつながる大切な窓口になることがあります。
一方で、その窓口から入ってくる情報によって、自分を責めたり、過去の傷がよみがえったり、眠れなくなったりすることもあります。
SNSがつらくなるのは、使い方が下手だからでも、気にしすぎだからでもありません。
今回は、SNS特有の負担と、完全にやめる以外にもできる調整について考えます。
1.SNSでは他人の「選ばれた場面」が続けて見える
SNSに投稿されやすいのは、合格、就職、結婚、旅行、趣味の成果など、人に見せたい出来事です。
もちろん、投稿している人にも不安や失敗、何もできない日があります。
しかし、それらは画面には映らないことが多いため、見る側には、相手の人生が順調に進んでいるように感じられます。
一方、自分については、部屋から出られなかったこと、返信できなかったこと、昼夜が逆転したことまで知っています。
相手の人生の一番よく見える部分と、自分の最も苦しい部分を比べれば、つらくなるのは不思議ではありません。
ただし、今回考えたいのは比較だけではありません。
SNSには、返信、既読、通知、過去のつながり、刺激の多さなど、対面とは違う負担があります。
2.返信しなければならないように感じる
久しぶりに友人からメッセージが届く。
本当はうれしい。
けれど、今の生活を聞かれたら何と答えればよいのかわからない。
すぐに返さなければ失礼かもしれない。
時間がたつほど、今さら返信しにくくなる。
考えているうちに、通知を見ること自体が怖くなる場合があります。
相手から見れば短いメッセージでも、本人にとっては、自分の近況、関係を続ける意思、今後会えるかどうかまで答えなければならないように感じることがあります。
返信できないのは、相手を大切にしていないからとは限りません。
大切な相手だからこそ、雑に返せず、言葉が出なくなることもあります。
3.既読や反応の数が自分の評価に見える
自分が送ったメッセージに返事が来ない。
投稿に反応がつかない。
ほかの人にはコメントしているのに、自分には何もない。
そのような場面で、「嫌われたのではないか」「変なことを書いたのではないか」と不安になる人がいます。
実際には、相手が忙しい、通知に気づいていない、返信を忘れているなど、さまざまな理由が考えられます。
それでも心が疲れている時は、反応の少なさを自分の価値と結びつけやすくなります。
何度も画面を更新する。
投稿を消す。
送った文章を読み返し続ける。
こうした確認が増えるほど、SNSを開くたびに緊張するようになります。
4.昔の人間関係が突然目の前に戻ってくる
SNSでは、長く会っていない同級生や元同僚の近況が、突然表示されることがあります。
学校で傷ついた経験。
職場で否定された記憶。
参加できなかった集まり。
自分だけ呼ばれなかった出来事。
画面の中の名前や写真が、忘れかけていた感情を呼び戻すことがあります。
本人は過去にこだわろうとしているのではありません。
自分で思い出す準備をしていない時に、情報が突然入ってくることが負担なのです。
苦しくなる相手をミュートすることは、相手を憎む行為ではありません。
自分の心を守るために、見える範囲を調整する方法です。
5.良くない情報まで止められなくなる
SNSを開くと、楽しい投稿だけでなく、事故、事件、災害、病気、差別的な言葉、激しい議論なども流れてきます。
不安が強い時は、一つの情報から次の情報へと読み続け、やめるタイミングを失うことがあります。
「もっと確認しなければならない」
「知らないままでいる方が危険だ」
そう感じて、心が苦しくなっても画面を閉じられない場合があります。
その結果、眠る時間が遅くなる。
頭の中で言葉が回り続ける。
翌日も疲れが残る。
SNSを見ること自体よりも、睡眠や家族関係、日常生活に支障が出るほどやめにくくなっている状態には注意が必要です。
国立精神・神経医療研究センターなどの研究では、思春期の「インターネットの不適切使用」を、使用によって睡眠や学業、人間関係に支障が出る、時間を使い過ぎる、やめたくてもやめにくい状態などとして調べ、メンタルヘルス不調のリスクとの関係を示しています。
ただし、インターネットを使うこと自体が悪いという意味ではありません。(NCNP)
6.SNSを見ないと孤立しそうで怖い
SNSがつらいなら、やめればよい。
そう言われることがあります。
しかし、ひきこもり状態にある人にとって、SNSが家族以外とつながる数少ない方法になっている場合があります。
趣味の話ができる。
同じ悩みを持つ人の投稿を読める。
外出しなくても社会の動きを知れる。
直接会わなくても、自分の存在を感じてもらえる。
そのため、見ると傷つくのに、離れると孤独になるという矛盾が生まれます。
必要なのは、すべて使うか、完全にやめるかの二択ではありません。
自分に必要な機能だけ残す方法を考えることができます。
7.若年層では学校から離れても人間関係が続く
不登校になって教室から離れても、SNSでは同級生とのつながりが続きます。
文化祭、修学旅行、部活動、卒業式。
自分が参加できなかった学校生活が、写真や動画で流れてくることがあります。
友人から悪意なく送られた写真で、強く落ち込む場合もあります。
また、グループチャットで返信しないと関係が切れるのではないかと不安になり、夜中まで確認を続ける人もいます。
家族がスマートフォンを突然取り上げると、唯一のつながりまで奪われたように感じることがあります。
まずは、どの投稿や時間帯が負担なのかを一緒に確認することが大切です。
通知を切る。
苦手なグループを一時的に見ない。
信頼できる一人との連絡だけ残す。
本人の不安を聞きながら調整します。
8.中高年にもSNS特有のつらさがある
SNSの負担は若者だけの問題ではありません。
中高年のひきこもりでは、昔の友人や元同僚の現在を知ることで、長い空白期間を強く意識する場合があります。
同世代が管理職になった。
子どもが成人した。
親の介護をしながら働いている。
それに比べて、自分は高齢の親に支えられている。
8050問題への不安がある家庭では、SNSの投稿が生活費や親亡き後の問題まで思い出させることがあります。
ただし、焦りを感じた直後に就職や自立を急ぐと、負担が大きくなりすぎることもあります。
家計、住まい、医療、福祉制度など、今後の生活を一つずつ整理する方が現実的です。
9.発達障害や精神的な不調によって負担が強くなることもある
発達障害の特性がある人は、多くの情報が次々と入る画面、通知音、急な話題の変化などで疲れやすい場合があります。
文章の意図を何度も考え、冗談なのか批判なのかわからず、不安になることもあります。
うつ状態や強い不安がある時は、他人の楽しそうな投稿を見て自分を責めたり、悪い情報ばかりが気になったりすることがあります。
ただし、SNSを見るのがつらいからといって、すぐに診断名へ結びつけることはできません。
どの機能、どの相手、どの時間帯で負担が強くなるかを見ることが大切です。
10.家族ができるのは「禁止」より一緒に整理すること
家族は、本人が一日中スマートフォンを見ていると心配になります。
「SNSばかり見ているから外へ出られない」
「スマートフォンをやめれば生活が整う」
そう言いたくなることもあるでしょう。
しかし、SNSが原因のすべてとは限りません。
外へ出られない苦しさをやわらげるためにSNSを見ている場合や、孤独を感じないために使っている場合もあります。
利用時間だけを責めるのではなく、
見た後に気持ちはどうなるか。
眠る時間に影響しているか。
誰とのつながりは残したいか。
どの通知が負担か。
一緒に整理することが大切です。
家族自身も、本人のSNSを監視し続けるのではなく、相談先を持ち、心配を抱え込まないようにする必要があります。
11.SNSとの距離は自分で細かく調整できる
SNSをやめなくても、負担を減らせる場合があります。
通知を切る。
見る時間を一日二回などに決める。
眠る前には開かない。
苦しくなる相手や言葉をミュートする。
メッセージだけを使い、投稿一覧は見ない。
趣味専用のアカウントをつくる。
投稿せず、読むだけにする。
アプリを最初の画面から外す。
大切なのは、理想的な使い方を一度で決めることではありません。
一週間試して、苦しさが減ったかを確認し、自分に合う形へ変えていきます。
できなかった日があっても失敗ではありません。
12.「見た後の自分」を基準にする
利用時間が短ければ問題がなく、長ければ悪いとは単純に決められません。
短い時間でも、見た後に何時間も自分を責めるなら負担は大きいでしょう。
反対に、長く見ていても、趣味を楽しみ、人と穏やかにつながれている場合もあります。
判断の基準にしたいのは、見た後の自分です。
少し安心したか。
孤独がやわらいだか。
焦りや不安が強くなったか。
眠れなくなったか。
食事や入浴など、生活に影響したか。
自分の反応を知ることで、残したい使い方と減らしたい使い方を分けられます。
13.SNSは支援につながる入口にもなる
SNSには負担がある一方で、相談の入口として役立つ面もあります。
電話や対面で話すことが難しくても、文字なら気持ちを伝えられる人がいます。
厚生労働省は、年齢や性別を問わず利用できるSNSやチャットの相談窓口を案内しています。
必要に応じて、電話、対面支援、居場所や地域の支援へつながる仕組みもあります。(厚生労働省)
SNSを見ることで気分が強く落ち込む。
眠れない状態が続く。
食事が取れない。
自分を責める考えから離れられない。
そのような時は、一人で利用方法だけを直そうとせず、相談しても構いません。
本人が難しければ、家族から地域の保健所や精神保健福祉センターなどへ相談する方法もあります。(こころの情報サイト)
14.本人へ伝えたいこと
もしSNSを見るたびに苦しくなるなら、「気にしすぎる自分が悪い」と責めなくてよいのです。
画面の向こうには、他人の成果だけでなく、返信への緊張、昔の記憶、刺激の強い情報、孤立への怖さがあります。
SNSをやめられない自分を責める必要もありません。
それが今のあなたにとって、大切なつながりなのかもしれません。
すべてを切らなくても構いません。
今日は通知を一つ切る。
苦しくなる投稿を見えなくする。
返信を明日に延ばす。
「今は返事が難しい」と短く伝える。
自分を守りながら、必要なつながりを残してよいのです。
15.まとめ
SNSを見るのがつらくなる背景には、他人との比較だけでなく、返信への不安、既読や反応の数、過去の人間関係、刺激の強い情報、睡眠への影響、つながりを失う怖さなどがあります。
若年層では、学校から離れても同級生の生活が見え続けます。
中高年では、同世代の仕事や家庭の様子から、空白期間や8050問題への不安が強くなることがあります。
必要なのは、SNSを一律に悪いものと決めることでも、本人から取り上げることでもありません。
何がつらく、何が支えになっているのかを分けて考えることです。
通知を切る。
見る時間を変える。
必要な相手との連絡だけ残す。
苦しくなる情報を見えなくする。
文字による相談につなげる。
その調整も、自分の生活を守る大切な一歩です。
社会とのつながりは、たくさんの人と常に反応し合うことだけではありません。
安心できる一人との短いやり取りでも、読むだけの参加でも、自分に合ったつながり方を選んでよいのです。
あなたは、SNSのどのような場面で疲れや苦しさを感じますか。
反対に、SNSが支えや居場所になった経験があれば、無理のない範囲でコメントに残していただければと思います。
次回は「同世代の活躍に焦りを感じる人へ」について解説します。
