ADHDとお金の管理問題
導入文
「給料が入ったときは余裕があると思ったのに、月末になるとお金が足りない」
「必要な支払いだと分かっていたのに、期限を過ぎてしまった」
「買う予定ではなかった物を、その場の勢いで注文してしまう」
「使っていないサブスクを解約しようと思いながら、何か月も料金を払い続けている」
お金の管理で失敗を繰り返すと、本人は強く自分を責めることがあります。
家族からも、
「無駄遣いをやめればいい」
「収入の範囲で使うだけなのに」
「本当に反省しているの?」
と言われるかもしれません。
もちろん、生活を守るためには、収入と支出を把握し、支払い期限を守ることが必要です。
しかし、ADHDのある人がお金の管理で困る背景には、単なる浪費癖だけでは説明できない特性が関係している場合があります。
目の前の欲しい気持ちを止めにくい。
将来の支払いより、今の満足を強く感じる。
複数の請求や口座を整理できない。
支払うつもりでも、必要な時期に思い出せない。
家計簿を始めても、記録が続かない。
このような困りごとが重なり、お金の流れを見失うことがあります。
大切なのは、「お金にだらしない人」と決めつけることではありません。
どの場面で管理が難しくなるのかを整理し、本人の記憶や我慢だけに頼らない仕組みを作ることです。
今回は、発達障害シリーズ第41回として、「ADHDとお金の管理問題」について、ASD、学習障害、グレーゾーン、大人、女性、二次障害、合理的配慮の視点も含めて解説します。
ADHDだからお金を管理できないのか
ADHDがあるからといって、全員がお金の管理を苦手としているわけではありません。
反対に、お金の管理が苦手だからといって、ADHDと判断できるわけでもありません。
収入が少ない。
物価や生活費の負担が大きい。
家計管理を学ぶ機会がなかった。
病気や失業などで支出が増えた。
家族全体のお金を一人で管理している。
こうした事情でも、家計は苦しくなります。
ADHDに関係する可能性があるのは、不注意、衝動性、時間管理、行動の切り替えなどの特性が、支払い、買い物、記録、計画へ影響している場合です。
本人の性格だけで考えず、生活環境や収入の状況も合わせて見る必要があります。
お金の管理には多くの力が必要になる
お金を管理するためには、計算ができればよいわけではありません。
毎月の収入を把握する。
固定費がいくらあるか確認する。
支払日を覚える。
残りのお金を生活費へ分ける。
予定外の支出に備える。
買う前に必要性を考える。
使った金額を記録する。
このように、複数の判断と行動が必要です。
これらを支える働きの一つに「実行機能」があります。
実行機能とは、目的に向かって計画を立て、行動を始め、途中で調整し、最後まで続けるための力です。
ADHDのある人の中には、お金に関する知識はあっても、毎日の行動として続けることに負担を感じる人がいます。
衝動買いが起きやすい理由
ADHDの主な特性の一つに、衝動性があります。
衝動性とは、結果を十分に考える前に、言葉や行動が出やすい特性です。
買い物では、
広告を見た瞬間に欲しくなる。
限定品や残りわずかという表示に反応する。
気分が落ち込んだときに買い物をする。
店へ行く予定がなかったのに、複数の商品を買う。
といった形で現れることがあります。
本人も、お金を大切にしたくないわけではありません。
購入したあとには、
「どうして買ってしまったのだろう」
「今月は使わないと決めていたのに」
と強く後悔することがあります。
それでも、次に魅力的な商品を見た瞬間には、将来の負担より現在の欲しい気持ちを強く感じる場合があります。
キャッシュレス決済で使った実感を持ちにくい
クレジットカード、電子マネー、スマートフォン決済は、便利な支払い方法です。
一方で、現金のように財布の中身が減らないため、使った金額を実感しにくい人もいます。
少額の買い物を何度も繰り返し、請求額を見て驚く。
複数の決済方法を使い、合計支出が分からなくなる。
分割払いや後払いを利用し、翌月以降の負担が重なる。
このようなことがあります。
キャッシュレス決済そのものが悪いわけではありません。
利用履歴を自動で確認できるため、管理しやすくなる人もいます。
大切なのは、決済方法を増やしすぎず、自分が使った金額を確認できる仕組みを作ることです。
サブスクを解約できない問題
サブスクとは、定められた料金を定期的に支払い、一定期間サービスを利用する契約です。
動画、音楽、アプリ、学習サービスなど、さまざまなものがあります。
一回の料金は少額でも、複数契約すると毎月の固定費が増えます。
無料期間が終わる日を忘れる。
解約しようと思っても後回しにする。
どのサービスを契約しているか分からなくなる。
解約手続きの途中で別のことへ注意が移る。
こうして、使っていないサービスへ料金を払い続ける場合があります。
契約した時点で、無料期間の終了前に通知を設定する。
サブスクの支払い方法を一つにまとめる。
毎月同じ日に契約一覧を確認する。
利用していないものは、その場で解約手続きを始める。
契約時と解約時を一つの流れとして考えることが大切です。
支払い期限を過ぎてしまう理由
お金がないから支払えない場合だけでなく、支払うお金はあるのに期限を過ぎる人もいます。
請求書を見たときは覚えている。
あとで払おうと思って机に置く。
別の用事を始める。
支払日の直前まで思い出さない。
このような流れです。
未来に行う予定を、必要な時点で思い出す力は「展望記憶」と呼ばれます。
ADHDのある人の中には、「あとで支払う」という予定を頭の中だけで保つことが難しい人がいます。
可能な支払いは自動引き落としにする。
請求書を受け取ったら、その場で支払日を登録する。
一週間前と前日に通知する。
支払い専用の場所や一覧を作る。
「覚えておく」のではなく、忘れても気づける仕組みが必要です。
家計簿が続かないのは意志が弱いからではない
家計を改善しようとして、細かな家計簿を始める人もいます。
しかし、毎日すべての支出を記録する方法は、負担が大きい場合があります。
一日書き忘れる。
レシートがたまる。
正確に入力できないと意味がないと感じる。
たまった記録を見るのが嫌になり、やめてしまう。
このようなことがあります。
家計簿は、完璧に書くことが目的ではありません。
お金の流れを把握し、生活を守るための道具です。
細かな品目まで記録せず、「食費」「日用品」「自由に使うお金」など、大きく分ける方法もあります。
自動集計できる家計簿アプリを使う。
一か月ではなく、一週間単位で使える金額を決める。
週に一度だけ確認する。
続けられる方法を選ぶことが大切です。
給料日に使いすぎてしまう問題
給料が入ると、一時的に残高が増えます。
その数字を見て、
「今月は余裕がある」
と感じることがあります。
しかし、その中には家賃、光熱費、通信費、保険料など、後から支払うお金も含まれています。
自由に使える金額と、今後必要になる金額を分けて考えられないと、月の前半に使いすぎることがあります。
対策としては、給料日にお金を分ける方法があります。
固定費を支払う口座。
日常生活で使う口座。
自由に使えるお金。
貯蓄や予備費。
最初に分けておくことで、残高すべてを使えるお金だと感じにくくなります。
先の出費を実感しにくいことがある
来月の支払い。
半年後の更新費用。
年に一度の税金や保険料。
将来のための貯蓄。
先の予定ほど、今すぐ対応する必要性を感じにくい人もいます。
期限が近づいて初めて焦り、一度に大きな金額が必要になることがあります。
一年分の支出を一覧にする。
年払いの費用を十二か月で割り、毎月取り分ける。
カレンダーに支払月を登録する。
「将来必要なお金」を、毎月の小さな行動へ変えることが役立ちます。
ASDが併存している場合
ASDは、自閉スペクトラム症と呼ばれる発達障害です。
ADHDとASDの両方の特性を持つ人もいます。
決まった物や趣味に強い関心を持ち、関連商品を集め続けることがあります。
いつもの購入手順を変えることに不安を感じる人もいます。
一方で、細かな支出記録や決まった家計管理の方法を続けることが得意な人もいます。
ADHDの衝動性によって予定外の物を買い、ASDのこだわりによって手放せないという形で、困りごとが重なる場合もあります。
診断名だけで考えず、どの場面で支出が増えやすいのかを見ることが大切です。
学習障害がお金の管理に影響する場合
学習障害はLDとも呼ばれます。
読む、書く、計算するなど、特定の学習分野に困難がある発達障害です。
請求書の文章を読み取ることに時間がかかる。
金額や支払日を読み違える。
複数の数字を比べることが難しい。
家計簿へ文字や数字を記入することに負担がある。
このような困りごとがあります。
本人の注意不足だけでなく、情報の受け取り方が合っていない可能性があります。
読み上げ機能。
音声入力。
大きく分かりやすい表示。
自動計算。
色や音による通知。
本人が使いやすい方法を選ぶことが必要です。
グレーゾーンでもお金の問題に悩む
診断基準をすべて満たしていなくても、お金の管理に悩む人はいます。
いわゆるグレーゾーンです。
グレーゾーンは正式な診断名ではありません。
診断がないため、
「自分はただ浪費家なだけ」
「支援を求めるほどではない」
と思う人もいます。
しかし、支払い忘れや衝動買いで生活に影響が出ているなら、診断名の有無にかかわらず対策を使ってよいのです。
お金の管理方法は、誰かに認められてから使うものではありません。
大人の発達障害とお金の責任
大人になると、家賃、公共料金、税金、保険、ローン、契約など、自分で管理するお金が増えます。
仕事では問題なく見えても、自宅では請求書を開けられない人がいます。
お金の問題を知られることが恥ずかしく、支払いが遅れても相談できない場合もあります。
困りごとが深くなる前に、
未払いがあるか。
毎月の固定費はいくらか。
借入れや後払いがいくつあるか。
サブスクを何件契約しているか。
現在の状況を一つずつ整理することが大切です。
一度にすべて解決しようとすると動けなくなるため、生活に欠かせない支払いから優先します。
女性のADHDと見えにくい家計負担
女性のADHDでは、自分の支出だけでなく、家族全体のお金を管理する役割を求められることがあります。
食費。
日用品。
子どもの学校費用。
医療費。
家族の予定。
仕事と家事を両立しながら、複数の支払いを管理することは大きな負担です。
家計がうまく回らないことを、
「主婦なのに」
「母親なのに」
と責められ、自信を失う人もいます。
家計管理を一人へ集中させず、家族で分担することが大切です。
支払い担当、記録担当、確認担当など、役割を分ける方法もあります。
家族ができる支援
家族は、本人のお金の使い方に不安を感じることがあります。
生活費がなくなる。
借入れが増える。
必要な支払いを忘れる。
同じ失敗が続くと、家族が通帳やカードをすべて取り上げたくなることもあるかもしれません。
しかし、本人の意思を無視して管理を奪うと、自立や信頼関係を損なう可能性があります。
まずは本人と一緒に、
何に困っているのか。
どこまで自分で管理したいのか。
何を確認してほしいのか。
どの支出に上限が必要か。
を話し合います。
生活費用と自由に使えるお金を分ける。
一定額以上の買い物は相談する。
月に一度だけ一緒に明細を見る。
本人の尊厳を守りながら、必要な部分を支えることが大切です。
子どもの頃からできる金融教育
子どものお金の使い方を支えるときは、失敗させないことだけを目標にしないことが大切です。
限られたお金の中で選ぶ経験も必要です。
一か月分を一度に渡すと難しい場合は、一週間ごとに分ける。
使った金額を表やアプリで見えるようにする。
欲しい物は一度リストへ入れる。
高い物は、何週間分のお小遣いに当たるか一緒に考える。
失敗したときも強く責めるだけでなく、次に使える方法を考えます。
学校でも、契約、キャッシュレス決済、定期購入、借入れなどを、生活に結びつけて学ぶことが大切です。
職場でできる合理的配慮
合理的配慮とは、障害のある人が働きやすくなるよう、環境や方法を個別に調整することです。
職場で金銭に関する業務を担当する場合は、
経費申請の期限を具体的に伝える。
精算手順を文章や図で示す。
領収書を保管する場所を決める。
申請前に確認できるチェック表を用意する。
重要な金額はダブルチェックする。
一人だけに現金や数字の管理を集中させない。
といった方法があります。
これは本人を信用しないためではありません。
誰にとってもミスが起こりにくい業務の仕組みを作るためのものです。
お金の問題が二次障害につながることもある
お金の問題は、人に相談しにくい悩みです。
支払いが遅れた。
借入れが増えた。
家族に隠して買い物をした。
その経験から、強い罪悪感や不安を抱えることがあります。
請求書を見ることが怖くなり、さらに確認を避ける人もいます。
失敗体験や叱責が重なることで、気分の落ち込み、不眠、出勤困難、自己肯定感の低下などの二次障害につながる場合があります。
二次障害とは、発達障害そのものではなく、強いストレスや理解されない経験などが積み重なって起こる心身の不調です。
責任を考えることは必要ですが、本人の人格まで否定しても問題は解決しません。
深刻になる前に相談することが大切
支払いができない。
複数の借入れがある。
契約内容を把握できない。
生活費まで使ってしまう。
このような状態になった場合は、一人や家族だけで抱え込まないことが大切です。
自治体の相談窓口、消費生活相談、医療機関、福祉関係者、公的なお金の相談窓口などへつながる方法があります。
本人を叱ることより、まず家賃、電気、ガス、食費など、生活を維持するために必要な支払いを確認します。
問題が小さいうちに相談することは、責任から逃げることではありません。
生活を立て直すための行動です。
視覚障害当事者として感じるお金の見える化
私は視覚障害があり、紙の請求書や現金の残りを目で確認することができません。
そのため、スマートフォンの読み上げ、銀行アプリ、音声など、自分が確認できる方法を使うことが大切です。
ADHDと視覚障害は異なります。
ただ、一般的な管理方法が本人に合わなければ、どれだけ努力しても続きにくいという点には共通する部分があります。
大切なのは、周囲と同じ方法を使うことではありません。
本人が収入、支出、残高、支払日を確認できる方法を作ることです。
当事者に伝えたいこと
お金の管理で失敗すると、自分を責めたくなると思います。
また使いすぎた。
支払いを忘れた。
家族に迷惑をかけた。
自分は無責任な人間なのではないか。
そう感じることもあるでしょう。
でも、お金を管理できない場面があることと、あなたの人間性は同じではありません。
もちろん、支払いには向き合う必要があります。
ただ、反省だけで変わらないなら、方法を変えてよいのです。
支払いを自動化する。
使う口座を減らす。
自由に使える金額を週単位にする。
一定額以上の買い物は翌日まで待つ。
一人で難しい部分は確認を頼む。
仕組みや支援を使うことは、経済的な自立をあきらめることではありません。
自分の生活を守るための工夫です。
まとめ
ADHDとお金の管理問題には、さまざまな特性が関係する場合があります。
目の前の欲しい気持ちを止めにくい。
使った金額を実感しにくい。
支払いを後回しにする。
必要な時期に予定を思い出せない。
複数の口座や契約を整理しにくい。
家計簿や記録を続けられない。
こうした困りごとです。
しかし、ADHDの人が全員、お金を管理できないわけではありません。
また、金銭問題があるだけでADHDと判断することもできません。
ASDが併存している場合は、特定の物への強い関心や、決まった管理方法へのこだわりが関係することがあります。
学習障害がある場合は、請求書の読み取りや数字の処理そのものに負担があるかもしれません。
グレーゾーンの人も、診断名の有無にかかわらず、必要な工夫を使ってよいのです。
大切なのは、「無駄遣いをやめなさい」と繰り返すことだけではありません。
給料日にお金を分ける。
固定費を自動で支払う。
使う決済方法を絞る。
自由に使える金額を週単位にする。
買い物までに待つ時間を作る。
サブスクを定期的に確認する。
収入と支出を見える形にする。
このような仕組みによって、管理しやすさは変わります。
家族による支援も、本人の意思を無視してお金を取り上げることではありません。
本人が自分で決められる部分を残しながら、難しい部分を一緒に確認することが大切です。
合理的配慮や支援は、本人の責任をなくすものではありません。
本人が生活を守り、自分で選択し、責任を果たしやすくするための環境調整です。
発達障害への理解とは、お金の問題をすべて特性のせいにすることでも、本人をだらしない人と決めつけることでもありません。
問題が起きる流れを整理し、本人が続けられる管理方法を一緒に作ることです。
一人ひとりが必要な支援を使いながら、安心して生活を維持できる社会を広げること。
それが、共生社会への一歩になります。
次回は「ADHDの人が疲れやすい理由」について解説します。
