大人になって診断される人が増えている理由

導入文

「子どもの頃は普通に学校へ通えていたのに、社会人になってから仕事が続かなくなった」

「結婚や育児を始めてから、予定管理や家事がうまく回らなくなった」

「うつや不安で受診したところ、背景に発達障害の特性があると言われた」

「大人になって突然、発達障害になることがあるのだろうか」

近年、大人になってからASDやADHDと診断されたという話を耳にする機会が増えました。

そのため、

「発達障害の人が急に増えたのではないか」

「子どもの頃に問題がなかったのなら、発達障害ではないのでは」

「仕事がつらいことを、診断名のせいにしているだけでは」

と疑問に思う人もいるかもしれません。

しかし、大人になって発達障害と診断された人の多くが、成人してから突然特性を持ったわけではありません。

子どもの頃から特性はあったものの、家族や学校の支え、生活環境、本人の工夫によって大きな問題として見えなかった場合があります。

そして、就職、転職、一人暮らし、結婚、育児などによって自分で管理することが増えたとき、これまで隠れていた困りごとが表面化することがあります。

また、発達障害に関する社会の認知が広がり、大人が相談できる医療機関や支援先について知られるようになったことも関係しています。

今回は、発達障害シリーズ第40回として、「大人になって診断される人が増えている理由」について、ASD、ADHD、学習障害、グレーゾーン、女性、二次障害、合理的配慮の視点を含めて解説します。

発達障害は大人になって突然始まるものではない

発達障害は、生まれ持った脳の働き方や情報の受け取り方に関係する発達上の特性です。

そのため、一般的には、大人になった瞬間に突然発達障害になるわけではありません。

ただし、特性の現れ方や困りごとの強さは、年齢や環境によって変わります。

子どもの頃は家族が持ち物を準備していた。

学校では時間割や提出期限を先生が伝えてくれた。

毎日の予定がある程度決まっていた。

困ったときは友達や家族が自然に助けていた。

このような環境では、本人の苦手さが目立たない場合があります。

大人になると、自分で予定、仕事、お金、家事、人間関係などを管理する場面が増えます。
求められる役割が特性を補える範囲を超えたとき、初めて本人や周囲が困りごとに気づくことがあります。

子どもの頃に困りごとが見えなかった理由

発達障害の特性があっても、すべての子どもが学校で目立つわけではありません。

成績がよかった。

授業中は静かに座っていた。

先生の指示に従えていた。

友達もいた。

このような場合、発達障害の可能性は考えられにくかったかもしれません。

しかし、表面上できていたからといって、負担がなかったとは限りません。

忘れ物をしないために、家族が毎日確認していた。

授業についていくため、帰宅後に長時間復習していた。

会話では周囲のまねをしていた。

学校では我慢し、家へ帰ると怒ったり動けなくなったりしていた。

こうした支えや努力によって、困りごとが隠れていた場合があります。

大人になって支えが減り、役割が増えたことで、以前と同じ方法では対応できなくなることがあります。

就職によって特性が表面化することがある

学校では、一日の予定や課題がある程度決められています。

一方、職場では自分で判断することが増えます。

複数の仕事へ優先順位をつける。

曖昧な指示の意図を読み取る。

期限から逆算して仕事を進める。

上司や同僚へ適切なタイミングで相談する。

予定変更へ対応する。

雑談や人間関係にも気を配る。

こうしたことが求められます。

知識や技術はあっても、仕事の進め方や職場の暗黙のルールでつまずく人がいます。

学生時代は成績がよかったため、「仕事も問題なくできる」と本人も周囲も考えていたかもしれません。

しかし、学力と仕事の自己管理能力は同じではありません。

就職後にミス、遅刻、疲労、人間関係の悩みが増え、相談したことをきっかけに診断へつながる場合があります。

一人暮らしで管理することが増える

実家で暮らしている間は、家族が生活を支えていることがあります。

食事の時間を知らせる。

公共料金や必要な手続きを管理する。

部屋の片付けを手伝う。

忘れ物を確認する。

体調の変化に気づく。

一人暮らしを始めると、これらを自分で行う必要があります。

仕事をしながら、食事、洗濯、掃除、買い物、支払い、通院、睡眠まで管理しなければなりません。
一つひとつはできても、すべてを同時に続けることが難しい場合があります。

「仕事はできるのに、生活が崩れていく」という状態から、発達障害の特性に気づく人もいます。

結婚や育児をきっかけに気づく人もいる

結婚すると、自分だけでなく相手との予定や生活習慣を調整する必要があります。

育児が始まると、さらに多くのことを同時に管理しなければなりません。

子どもの食事。

着替え。

送迎。

学校や保育園の連絡。

提出物。

通院。

仕事。

家事。

予定どおりに進まないことも増えます。

一人で生活していたときは、自分の方法やペースで何とか対応できていても、家族の予定が加わることで限界を感じる人がいます。

子どもが発達障害と診断され、その特徴を調べる中で、親自身が「自分にも同じような特性がある」と気づくこともあります。

ASDが大人になって分かる場合

ASDは、自閉スペクトラム症と呼ばれる発達障害です。

人とのやりとり、暗黙のルール、こだわり、予定変更、感覚の受け取り方などに特性があります。

子どもの頃は、同じ趣味を持つ友達がいたり、学校生活の流れが決まっていたりすることで、大きな問題にならない場合があります。

社会人になると、相手の立場を考えた報告、雑談、職場ごとの暗黙の了解などが増えます。

言葉どおりに受け取ったことで誤解される。

会議や飲み会のあとに強く疲れる。

急な予定変更で混乱する。

仕事の内容より、人間関係で消耗する。

こうした困りごとから、成人後にASDの特性が分かることがあります。

ADHDが大人になって分かる場合

ADHDは、注意欠如・多動症と呼ばれる発達障害です。

主な特性には、不注意、多動性、衝動性があります。

子どもの頃は、親や先生が予定や持ち物を管理してくれたため、困りごとが目立たない場合があります。

大人になると、

締め切りを管理する。

複数の仕事を進める。

請求書や契約を管理する。

時間どおりに行動する。

感情的な発言を抑える。

といった自己管理が求められます。

その結果、忘れ物、遅刻、ミス、片付け、時間管理などの悩みが深くなり、診断へつながることがあります。

学習障害が大人まで気づかれないこともある

学習障害はLDとも呼ばれます。
読む、書く、計算するなど、特定の学習分野に困難がある発達障害です。

子どもの頃は、本人の努力や家族の支援によって何とか学習できていた人もいます。

大人になると、長い資料を短時間で読む、報告書を書く、数字を正確に扱うなど、仕事で求められる量や速さが増えます。

読むことに時間がかかる。

漢字や文章を書くことへ強い負担がある。

数字の転記や計算でミスが起こる。

こうした困りごとが、単なる不注意や仕事の能力不足として扱われることがあります。

実際には、ADHDやASDだけでなく、学習障害が関係している場合もあります。

女性の発達障害が成人後に分かりやすい理由

女性の発達障害では、特性が見逃されやすい場合があります。

多動性が目立たず、静かに座っている。

周囲の人の話し方や振る舞いをまねる。

人間関係を壊さないよう、強く気をつかう。

忘れ物やミスを防ぐために、何度も確認する。

このように、困りごとを隠しながら生活する人がいます。

自分の特性が目立たないように周囲へ合わせることは、「カモフラージュ」や「マスキング」と呼ばれることがあります。

外からは問題なく見えても、本人は強く疲れていることがあります。

就職、結婚、育児などで負担が増え、それまでの方法では隠しきれなくなったとき、初めて相談へつながる場合があります。

社会の理解が広がったことも理由の一つ

以前は、発達障害という言葉自体が現在ほど広く知られていませんでした。

落ち着きがない子。

変わった人。

忘れっぽい人。

仕事が続かない人。

このように、性格や努力の問題として扱われることもありました。

現在は、発達障害に関する情報をインターネットや書籍、報道などで知る機会が増えました。

本人が自分の困りごとを説明する言葉を知り、医療機関や相談窓口へつながりやすくなったことも、大人の診断が増えているように見える理由の一つです。

診断される人が増えたからといって、最近になって発達障害そのものが突然生まれたという意味ではありません。

これまで見過ごされていた人が、理解や支援につながるようになった面もあります。

うつや不安をきっかけに診断されることがある

大人の発達障害では、最初から発達障害を疑って受診するとは限りません。

眠れない。

仕事へ行けない。

気分が落ち込む。
人と関わることが怖い。

強い不安が続く。

こうした不調をきっかけに医療機関を受診し、その背景として発達障害の特性が分かる場合があります。

発達障害そのものではなく、理解されない経験や強いストレスが積み重なって起こる心身の不調を、二次障害と呼ぶことがあります。

うつ状態、不安、不眠、適応障害、出勤困難などにつながる場合があります。

発達障害への対応だけでなく、現在起きている心身の不調への治療や休息も大切です。

大人の発達障害はどのように診断されるのか

大人の発達障害は、一つの質問や簡単なチェックだけで診断されるものではありません。

現在の困りごと。

子どもの頃の様子。

学校や家庭での行動。

仕事や生活への影響。

ほかの心身の状態。

こうした情報を総合的に確認します。

本人の記憶だけではなく、可能な範囲で家族から話を聞いたり、通知表など過去の資料を参考にしたりする場合もあります。

ただし、幼少期の資料が残っていない人や、家族へ確認できない人もいます。

診断の方法は医療機関や本人の状況によって異なります。

インターネット上の自己診断だけで決めつけず、生活に強い支障がある場合は、専門の医療機関や相談機関へ相談することが大切です。

発達障害と似た状態もある

集中できない。

忘れ物が増える。

人との会話がつらい。

仕事が進まない。

こうした状態は、発達障害だけで起こるとは限りません。

睡眠不足。

過労。

強いストレス。

不安や気分の落ち込み。

身体的な不調。

これらによっても、似た困りごとが出ることがあります。

とくに、以前は問題なくできていたことが急にできなくなった場合は、発達障害だけで説明しないことが大切です。

医療機関では、ほかの原因がないかも含めて考えます。

グレーゾーンで悩む人もいる

発達障害の診断基準をすべて満たさなくても、特性による困りごとを抱えている人がいます。

いわゆるグレーゾーンです。

グレーゾーンは正式な診断名ではありません。

診断がつかなかったことで、

「自分は甘えているだけなのでは」

「支援を求めてはいけないのでは」

と悩む人もいます。

しかし、診断名がなくても、困りごとは存在します。

予定を見える形にする。

指示を文章で受け取る。

静かな環境を使う。
タスクを小さく分ける。

こうした工夫は、診断の有無にかかわらず利用できます。

診断を受ける意味は人によって違う

診断を受けて、自分の困りごとの理由が分かり、安心する人がいます。

「努力不足ではなかった」と感じる人もいます。

必要な治療、福祉サービス、就労支援、職場での配慮につながる場合もあります。

一方で、診断名を受け入れるまでに時間がかかる人もいます。

これまでの人生を思い返し、

「もっと早く分かっていれば」

と悲しさや怒りを感じることもあります。

診断は、その人のすべてを説明するものではありません。

また、過去の失敗をすべて特性のせいにするためのものでもありません。

自分の得意と苦手を整理し、これからの生活を安定させるために活用することが大切です。

診断後に必要な合理的配慮

合理的配慮とは、障害のある人が学び、働き、生活しやすくなるよう、環境や方法を個別に調整することです。

職場では、

指示を口頭だけでなく文章でも伝える。

業務の優先順位を明確にする。

締め切りを具体的な日時で示す。

中断の少ない場所や時間を検討する。

定期的な確認時間を設ける。

感覚刺激の少ない環境を検討する。

といった方法があります。

学習障害がある場合は、読み上げ、音声入力、テンプレート、計算ツールなどが役立つこともあります。

配慮は、診断名だけで一律に決めるものではありません。

本人の実際の困りごとと、職場や学校の状況を話し合いながら考える必要があります。

家族や周囲が知っておきたいこと

大人になって診断された人に対して、

「今までできていたのだから大丈夫」

「診断名を言い訳にしている」

と考える人もいるかもしれません。

しかし、今までできていたように見えても、本人が強い努力や支えによって何とか続けていた場合があります。

診断を受けたから急に弱くなったのではありません。

これまで言葉にできなかった困りごとが、ようやく整理された可能性があります。

一方で、家族や職場がすべてを受け入れなければならないという意味でもありません。

本人と周囲の双方が無理をしすぎない方法を、一緒に考えることが大切です。

視覚障害当事者として感じる診断や理解の意味

私は生まれつき視覚障害があります。
障害が分かっていることで、必要な情報の受け取り方や移動方法を周囲と相談できます。

一方で、障害名だけで私の得意や苦手のすべてが決まるわけではありません。

発達障害も同じだと思います。

診断名は本人を一つの型へ当てはめるためではなく、困りごとを整理し、必要な支援を考えるために使われることが大切です。

当事者に伝えたいこと

大人になって診断された人は、これまでの人生を振り返り、複雑な気持ちになることがあると思います。

なぜ自分だけできなかったのか。

なぜもっと早く気づいてもらえなかったのか。

これまでの失敗は何だったのか。

そう考えることもあるでしょう。

でも、診断を受けたことで、これまでの努力がなかったことになるわけではありません。

むしろ、支援や説明がない中で、自分なりに工夫しながら生きてきた時間があります。

これからは、すべてを一人で補わなくてもよいのです。

自分に合う道具を使う。

苦手な場面を周囲へ伝える。

できる方法を相談する。

休息や治療を優先する。

診断を、過去の自分を責めるためではなく、これからの生活を整えるために使ってよいのです。

まとめ

大人になって発達障害と診断される人が増えているように見える理由は、一つではありません。

子どもの頃は、家族や学校の支えによって困りごとが隠れていた。

就職や一人暮らしで、自己管理することが増えた。

結婚や育児によって、複数の予定や役割を抱えるようになった。

女性の発達障害が、周囲へ合わせる努力によって見逃されていた。

発達障害への社会的な認知が広がり、大人も相談しやすくなった。

うつ、不安、不眠などの二次障害をきっかけに、背景の発達特性が分かった。

こうした理由があります。

大人になって診断されたからといって、成人後に突然発達障害になったとは限りません。

以前から特性はあったものの、環境や支えによって目立たなかった可能性があります。

ASDでは、人間関係や暗黙のルールが増えることで困りごとが表面化することがあります。

ADHDでは、予定、時間、仕事、生活を自分で管理する場面が増えることで、特性に気づくことがあります。

学習障害では、仕事で求められる読み書きや計算の量が増え、初めて強い困難として現れる場合があります。
グレーゾーンの人も、診断名がないからといって、支援や工夫を求めてはいけないわけではありません。

診断は、その人を決めつけるためのものではありません。

困りごとの背景を整理し、必要な治療、支援、合理的配慮につなげるための一つの手がかりです。

発達障害への理解とは、

「今までできていたのだから努力すればよい」

と責めることでも、

「診断があるから何もできない」

と可能性を狭めることでもありません。

その人がこれまで何に困り、どんな工夫で補い、現在どのような支援を必要としているのかを見ることです。

大人になってからでも、自分に合う生き方や働き方を探すことはできます。

診断の有無にかかわらず、一人ひとりが必要な支援につながり、安心して暮らせる社会を作ること。

それが、共生社会への一歩になります。

次回は、精神障害シリーズの当事者編「外出するだけで疲れてしまう理由」について解説します。

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