ADHDとはどのような特性なのか

導入文

「忘れ物をしないように気をつけているのに、また忘れてしまう」

「やらなければいけないことは分かっているのに、なかなか始められない」

「話を最後まで聞こうと思っているのに、途中で別のことを考えてしまう」

「じっとしていようとしても、体を動かしたくなる」

「思いついたことをすぐに言ってしまい、あとから後悔する」

このような経験を何度も繰り返し、自分を責めている人がいるかもしれません。

周囲からは、

「注意が足りない」

「もっと落ち着いて」

「何度言えば分かるの」

「やる気がないのでは」

と言われてしまうこともあります。

しかし、その背景にはADHDの特性が関係している場合があります。

ADHDとは、注意欠如・多動症のことです。

主に、不注意、多動性、衝動性という特性が見られます。

ただし、すべての人に同じ特性が、同じ強さで現れるわけではありません。

忘れ物や時間管理の難しさが目立つ人もいます。

落ち着きのなさが目立つ人もいます。

大人しく見えても、頭の中が常に忙しい人もいます。

大切なのは、ADHDを「落ち着きがない人」「忘れっぽい人」と簡単に決めつけないことです。

本人は気をつけていないのではありません。

何度失敗しても反省しないわけでもありません。

気をつけようと努力しているのに、同じ困りごとが繰り返されることがあります。

今回は、発達障害シリーズ第31回として、「ADHDとはどのような特性なのか」について、ASD、学習障害、グレーゾーン、大人、女性、二次障害、合理的配慮の視点も含めて分かりやすく解説します。

ADHDとは何か

ADHDは、注意欠如・多動症と呼ばれる発達障害の一つです。

英語の「Attention-Deficit Hyperactivity Disorder」の頭文字を取った言葉です。

日本語では、以前「注意欠陥・多動性障害」と呼ばれることもありました。

現在は「注意欠如・多動症」という表現が使われています。

ADHDの主な特性は、

不注意

多動性

衝動性

の三つです。

不注意とは、必要なことに注意を向け続けたり、物事を整理したりすることが難しい特性です。
多動性とは、じっとしていることが難しく、体や頭の中が落ち着きにくい特性です。

衝動性とは、考える前に行動したり発言したりしやすい特性です。

ただし、ADHDの人に三つの特性がすべて同じように現れるとは限りません。

不注意が目立つ人もいます。

多動性や衝動性が目立つ人もいます。

両方が見られる人もいます。

また、年齢や生活環境によって、困りごとの見え方が変わることもあります。

ADHDは努力不足やしつけの問題ではない

ADHDのある人は、失敗するたびに「もっと気をつけて」と言われることがあります。

もちろん、注意することや工夫することは必要です。

しかし、注意する気持ちだけで、すべての困りごとを防げるとは限りません。

例えば、家を出る前に、

鍵を持った。

財布を持った。

スマートフォンを持った。

提出物を持った。

と確認したはずなのに、別のことに気を取られ、机の上に提出物を置いたまま出てしまうことがあります。

本人は忘れてもいいと思っているわけではありません。

忘れたあとには強く落ち込み、次は絶対に気をつけようと思っている場合もあります。

それでも、同じことが起こることがあります。

このような困りごとを、本人の性格や親のしつけだけで説明することはできません。

本人を責め続けるよりも、忘れにくい仕組みを作ることが大切です。

不注意とはどのような特性か

不注意という言葉から、「ぼんやりしている」「集中力がない」と考える人もいると思います。

しかし、ADHDの不注意は、単に何も考えていない状態とは限りません。

むしろ、いろいろな情報が同時に入ってきて、どこに注意を向ければよいか分からなくなることがあります。

例えば、学校の授業中に先生の話を聞いていても、廊下を歩く音、外を走る車、友達の動き、机の上の物などが気になることがあります。

職場でも、電話の音、周囲の会話、メールの通知、人の出入りが気になり、目の前の仕事に集中しにくくなることがあります。

不注意の特性としては、

忘れ物やなくし物が多い

話を聞いている途中で別のことを考える

仕事や宿題の細かいミスが増える

予定や締め切りを忘れる

物の整理が苦手

複数の指示を覚えておくことが難しい

作業の途中で別のことを始める

といったことがあります。
本人の意識が低いのではなく、注意を整理し続けることに難しさがある場合があります。

集中できないのではなく、集中を調整しにくい

ADHDの人は、集中力がないと言われることがあります。

しかし、いつも集中できないとは限りません。

興味のあることには、長時間集中できる人もいます。

好きなゲームを続ける。

興味のあることを何時間も調べる。

作業に夢中になり、食事や休憩を忘れる。

このような状態になることがあります。

一つのことに強く集中し、周囲のことが入りにくくなる状態は、一般に「過集中」と呼ばれることがあります。

ADHDの特性は、集中できないというより、集中する対象や強さを自分で調整しにくいと考えると分かりやすいかもしれません。

やるべきことには集中できないのに、興味のあることから離れられない。

そのため、周囲からは「好きなことならできるのに、嫌なことから逃げている」と誤解されることがあります。

しかし本人も、必要なことを始められず困っている場合があります。

多動性とはどのような特性か

多動性とは、じっとしていることが難しく、体や頭の中が落ち着きにくい特性です。

子どもの場合は、

席を立つ

走り回る

手足を動かす

話し続ける

静かに遊ぶことが難しい

といった形で見えやすいことがあります。

しかし、大人になると、目立つ動きが少なくなる人もいます。

その代わり、

会議中に足を動かし続ける

手元の物を触る

座っていても体を動かしたくなる

休みの日でもゆっくりできない

次々と予定を入れてしまう

頭の中で考えが止まらない

といった形で現れることがあります。

外からは落ち着いて見えても、本人の頭の中では複数の考えが次々と浮かんでいる場合があります。

多動性は、体の動きだけで判断できるものではありません。

衝動性とはどのような特性か

衝動性とは、結果を十分に考える前に行動したり、発言したりしやすい特性です。

例えば、

相手が話し終わる前に答える

会話に割り込む

思いついたことをすぐに言う

順番を待つことが苦手

欲しい物をその場で買う

感情が強くなったときに言いすぎる

といったことがあります。

本人は相手を軽く見ているわけではありません。
忘れないうちに話さなければと思い、言葉が先に出ることがあります。

また、感情が急に強くなり、落ち着いてから「言わなければよかった」と後悔することもあります。

その経験が繰り返されると、人間関係への自信を失ってしまうことがあります。

「口に出す前に一度メモする」

「すぐに返事をせず、少し考える」

「感情が強いときはその場を離れる」

など、自分に合った方法を作ることが大切です。

ADHDの困りごとは場面によって変わる

同じ人でも、環境によって困りごとの強さは変わります。

静かな部屋では集中できても、音の多い教室や職場では集中できないことがあります。

一つずつ指示されればできても、一度に五つの指示を出されると抜けてしまうことがあります。

興味のある仕事では力を発揮できても、単調な作業では注意を保ちにくいことがあります。

これは、都合よく態度を変えているわけではありません。

環境や課題との相性によって、特性の現れ方が変わる場合があります。

だからこそ、ADHDの人への支援では「本人をもっと注意させる」だけでなく、集中しやすい環境や忘れにくい仕組みを考える必要があります。

子どものADHDで見られやすい困りごと

子どものADHDでは、学校や家庭で特性が目立つことがあります。

例えば、

授業中に席を離れる

先生の話を最後まで聞けない

忘れ物が多い

宿題を提出できない

順番を待てない

友達との会話に割り込む

片付けが苦手

興味のあることに夢中になりすぎる

といったことがあります。

周囲からは「落ち着きがない」「ふざけている」と見られることがあります。

しかし、本人も失敗したくて失敗しているわけではありません。

注意されることが増えると、「どうせ自分は怒られる」と感じるようになることもあります。

できなかったことだけを指摘するのではなく、できる形に分けることが大切です。

例えば、「部屋を全部片付けて」ではなく、「まず机の上の紙を箱に入れよう」と一つずつ伝える方法があります。

大人のADHDはどのように現れるのか

大人のADHDでは、子どもの頃とは違う形で困りごとが現れることがあります。

例えば、

仕事の締め切りを忘れる

会議の予定を間違える

書類や鍵をなくす

仕事の優先順位がつけられない
家事を途中でやめてしまう

時間の見積もりが苦手

衝動的に買い物をする

話しすぎたあとに後悔する

といったことがあります。

子どもの頃は家族や先生が予定を管理してくれていた人もいます。

しかし、大人になると仕事、家事、金銭、予定、人間関係を自分で管理する場面が増えます。

そのため、就職、結婚、育児などをきっかけに困りごとが目立つことがあります。

大人になって突然ADHDになったのではなく、求められる自己管理が増えたことで特性に気づく場合があるのです。

女性のADHDが見逃されやすい理由

女性のADHDでは、多動性が目立たず、不注意の困りごとが中心になる場合があります。

授業中に走り回ることはない。

周囲に合わせて静かにしている。

成績も大きく崩れていない。

このような場合、困りごとが見逃されることがあります。

しかし実際には、

忘れ物をしないように何度も確認する

提出物をぎりぎりまで始められない

部屋や持ち物を整理できない

会話を聞きながら別のことを考える

家事や育児の同時進行で混乱する

人前では取り繕い、家で動けなくなる

といった困りごとを抱えている場合があります。

「だらしない女性」「家事が苦手な人」と性格の問題にされ、自分を責め続ける人もいます。

外から落ち着いて見えるからといって、困っていないとは限りません。

ASDとADHDの違いと併存

ASDとADHDは、どちらも発達障害ですが、主な特性は異なります。

ASDでは、人とのやりとり、暗黙のルール、こだわり、予定変更、感覚の特徴などで困ることがあります。

ADHDでは、不注意、多動性、衝動性などが主な特性です。

ただし、ASDとADHDの両方の特性を持つ人もいます。

例えば、予定変更が苦手なのに、自分でも予定を忘れてしまう。

決まった手順で進めたいのに、注意がそれて途中で別のことを始める。

人との会話の流れが分かりにくい上に、思いついたことをすぐに話してしまう。

このように、困りごとが複雑になることがあります。

「ASDかADHDか」と一つに決めることだけではなく、どの特性で困っているのかを見ることが大切です。

学習障害との関係

学習障害は、LDとも呼ばれます。

読む、書く、計算するなど、特定の学習分野に困難がある発達障害です。
ADHDと学習障害が併存している人もいます。

例えば、文章を読むことに時間がかかる上に、途中で注意がそれて内容が入らない。

書くことが苦手な上に、課題の提出を忘れる。

計算が苦手な上に、数字を見落としてしまう。

このようなことがあります。

周囲からは「勉強に集中していない」と見えるかもしれません。

しかし、注意の特性と学習の困難が重なっている場合があります。

読み上げ、音声入力、短い課題、時間の調整、提出物の見える化など、複数の支援が必要になることがあります。

ADHDグレーゾーンでも困りごとはある

診断基準をすべて満たしていなくても、ADHDに近い困りごとを抱える人がいます。

いわゆるグレーゾーンです。

グレーゾーンは正式な診断名ではありません。

しかし、困りごとがないという意味ではありません。

忘れ物が多い。

予定管理が苦手。

片付けられない。

仕事を始めるまでに時間がかかる。

衝動的に話して後悔する。

学校や職場では何とか対応しているが、帰宅後に疲れ切る。

このような困りごとがあっても、診断がないことで「自分はただだらしないだけ」と感じる人がいます。

診断名の有無だけでなく、実際の生活で何に困っているのかを見ることが大切です。

ADHDと二次障害

ADHDの特性が理解されない状態が続くと、二次障害につながることがあります。

二次障害とは、発達障害そのものではなく、失敗体験や強いストレスが積み重なって起こる心身の不調です。

例えば、

うつ状態

強い不安

不眠

適応障害

不登校

出勤困難

自己肯定感の低下

などがあります。

忘れ物を繰り返し、何度も怒られる。

話に割り込み、友達から嫌がられる。

締め切りを守れず、職場で信用を失う。

その経験が重なると、「自分は何をしてもだめだ」と感じることがあります。

失敗の数を減らす工夫と同時に、本人の自尊心を傷つけない関わりが大切です。

家族ができること

家族は、忘れ物や片付け、時間管理の難しさに毎日向き合うことがあります。

何度伝えても同じことが起こると、家族も疲れてしまいます。

だからといって、家族だけで抱え込む必要はありません。

大切なのは、注意する回数を増やすことより、仕組みを作ることです。

持ち物の置き場所を決める。
玄関にチェック表を置く。

予定を見える場所に書く。

指示は一度に一つずつ伝える。

タイマーを使う。

できたことを具体的に伝える。

このような工夫があります。

本人と家族が一緒に、続けられる方法を探すことが大切です。

学校でできる合理的配慮

学校で考えられる合理的配慮には、

座席を集中しやすい場所にする

指示を短く一つずつ伝える

口頭だけでなく文字でも示す

提出物や持ち物を見える化する

課題を小さく分ける

途中で短い休憩を入れる

忘れ物を人前で責めない

相談できる先生を決める

などがあります。

合理的配慮とは、障害のある人が学びやすくなるように、環境や方法を調整することです。

本人だけを変えようとするのではなく、学びやすい仕組みを整えることが大切です。

職場でできる合理的配慮

職場でも、工夫によって働きやすさが変わることがあります。

例えば、

業務の優先順位を明確にする

締め切りを文章で伝える

一度に多くの指示を出さない

タスク管理表を共有する

定期的に進み具合を確認する

集中しやすい席を用意する

通知や電話の少ない時間を作る

大切な物の置き場所を決める

といった方法があります。

これは本人を甘やかすためのものではありません。

ミスを減らし、本人の力を発揮しやすくするための工夫です。

分かりやすい指示やタスク管理は、ADHDの人だけでなく、職場全体にも役立ちます。

当事者に伝えたいこと

ADHDの特性があると、同じ失敗を繰り返す自分を責めてしまうことがあります。

なぜ忘れてしまうのだろう。

なぜ始められないのだろう。

なぜ普通に片付けられないのだろう。

自分はだらしない人間なのではないか。

そう感じることもあると思います。

でも、困りごとがあることと、あなたの人間性は別です。

気をつけるだけでは難しいことには、仕組みを使ってもいいのです。

メモを何枚使ってもいい。

アラームを何度設定してもいい。

家族や職場に確認をお願いしてもいい。

物の置き場所に目印をつけてもいい。

自分に合った方法を使うことは、逃げではありません。

生活を安定させるための大切な工夫です。

まとめ

ADHDとは、不注意、多動性、衝動性を主な特性とする発達障害です。

忘れ物が多い。
話を聞き続けることが難しい。

物事の優先順位をつけにくい。

じっとしていることがつらい。

思いついたことをすぐに話す。

このような困りごとが見られることがあります。

しかし、その現れ方は一人ひとり違います。

子どもでは体の動きが目立ちやすく、大人では時間管理、仕事、家事、金銭管理などの困りごととして見えることがあります。

女性の場合は多動性が目立たず、不注意による困りごとが見逃される場合があります。

ASDや学習障害が併存することで、困りごとが複雑になることもあります。

グレーゾーンの人も、診断名がないまま生活上の困難を抱えることがあります。

大切なのは、ADHDを努力不足やしつけの問題だけで考えないことです。

本人を何度も注意するだけでは、同じ失敗が繰り返されることがあります。

メモ、チェックリスト、タイマー、予定表、タスク管理、具体的な指示など、環境や仕組みを整えることが必要です。

発達障害への理解とは、できないことを責めることではありません。

どんな方法ならできるのかを、本人と周囲が一緒に考えることです。

困りごとがあっても、その人自身の価値が下がるわけではありません。

自分に合う仕組みや支援を使いながら、安心して暮らし、学び、働ける社会を作ること。

それが、共生社会への一歩になります。

次回は「忘れ物が多いのは努力不足なのか」について解説します。

いいなと思ったら応援しよう!